第2次トランプ政権下の新潮流を読み解くトランプ政権下での雇用情勢の推移
経済政策の本丸、雇用政策の現在地
2026年3月13日
2025年を通じ、米国経済はマクロ的には堅調さを維持してきたものの、「雇用増なき成長」といわれる状態にあり、労働市場は減速している。トランプ政権による製造業の国内回帰のための数々の政策は本来的には米国人の雇用を維持・増加させることを主眼としたものだ。本稿では、トランプ政権下での1年間の雇用情勢の推移を確認するとともに、政策が雇用や賃金といった要素にどのような影響を与えてきたのかをあらためて検証していく。
雇用は全体としては減速傾向
トランプ政権が2025年4月に相互関税を発表して以降、労働市場は大きく減速している。米労働省が発表する雇用統計では、非農業部門新規雇用者数(NFP)は、2024年平均の16万8,000人から3万2,000人(2025年5~12月の平均)へと月平均で約13万人低下した(注1)。失業率も11月には4.5%と、2025年1月のドナルド・トランプ大統領就任時から0.5ポイント上昇した(図1)。
注:2025年10月の失業率はデータなし。
出所:米国労働省
また、求職者1人当たりの求人数(求人/求職倍率)も、2024年の1.15から2025年11月には0.92まで低下し、マクロ的には既に人余りの状態にある。こうした労働需給の緩和を受けて賃金の伸びも低下傾向にあり、物価高の影響も相まって、前月比でみた実質賃金は伸び悩んでいる(図2)。
注:2025年10月、11月はデータなし。
出所:米労働省
米国の実質GDP成長率は底堅く推移(注2)してきたにもかかわらず、このように賃金の上昇や雇用の増加にはつながっておらず、米国経済の過去のサイクル(注3)とは異なる「雇用増なき成長」となっている。
関税・移民政策は当初期待された効果を労働市場にもたらすことができるのか
減速のスピード感こそ見方が分かれている(注4)ものの、関税コストの増加および転嫁の遅れといった要素や、関税政策の先行き不透明感などによる新規採用の抑制などを背景に、労働需要が減速していること自体は疑いない。
しかし、こうした短期的な影響とは別に、トランプ政権の経済政策の本丸ともいえる関税・移民規制政策などは、いわゆるニュー・ライト(注5)と呼ばれる層による過去の政権による経済政策への批判(注6)に基づいたものでもある。これらの政策は「学位を持たない者であっても十分な賃金が得られる雇用の数を増やす」ことに本来は力点がある。こうした本来の趣旨との関係では、現在の政策はどのように評価できるだろうか。
まず、トランプ政権が特に重視している製造業の状況を確認していく。労働省の出生地別雇用データ
を見ると、米国生まれと外国生まれの労働者の全職種に占める製造業職のシェアは、前者の4.6%に対して後者は6.4%と高い。しかし、これで移民が米国人の雇用と競合していることを示せるかは微妙なところだ。そもそも製造業は慢性的に求職者不足が顕著な業種の1つだ。全米製造業者協会(NAM)のレポート
(3.6MB)では、2033年までに190万人分のポジションが埋まらない可能性が指摘されている。その要因に挙げられているのが企業と求職者との間のスキルギャップと製造業への求職者不足だ。スキルギャップの面では、筆者が在米日系企業からヒアリングする中でも、「仮に現在日本から輸入している部品を米国内で生産しようとした場合には、トレーニングの準備・実施などに5年程度の時間が必要になる」といったコメントなど(注7)、思うような人材を集めるのに苦慮している声を耳にすることが多い。また、求職者数の不足に関しても、ジェトロが毎年行っている「海外進出日系企業実態調査(北米編)」で、人材不足が経営上の課題の上位を占め続けている状況だ。
日系企業を含め、こうした米国内における人材確保の困難さなどを背景に、製造業の現場では移民労働力が広く活用されてきた。また、より労働力の質・量の確保が容易なメキシコなどに米国向け製品の製造拠点を設ける動きも進み、これが2000年頃から2010年頃までの米国における製造業雇用の急速な減少の一因となってきたことは事実だ。しかし、これは移民労働力が米国人労働者を駆逐したという単純な構図ではなく、米国において、職業訓練を含めたスキル習得へのアクセス手段が決定的に欠けていたことも大きな要因だ。関税政策によって仮に米国内に製造拠点が回帰したとしても、あるいは移民政策によって移民労働力が減少したとしても、こうしたスキル習得へのアクセスの問題を改善しない限り、製造業における米国人雇用の増加は容易には見込めないだろう。
賃金に関しては移民労働力との直接的な相関は見出しにくい。雇用統計を基に、製造業における過去10年間の賃金の動向を見ると、比較的移民の流入が低水準で推移していた第1次トランプ政権時を含む2015~2022年の期間中、約8割にあたる80カ月で全体の伸びを下回る水準となっている。その後2023年後半以降からは、労働組合などによる賃金交渉の進展なども受け、移民の急速な増加がみられる中にあっても、賃金の伸びが全ての月で全体の伸びを上回っている。製造業が常に人手不足に苦しんできたという要因を考えれば、ごく自然なことかもしれない。
次に、労働力に占める移民の割合が高いとされ、特に不法移民の就労率が高い(注8)建設業についてみてみよう。建設業も製造業と状況は類似しており、トランプ政権発足以前から人手不足が深刻だ。住宅建設業協会(HBI)のレポート
(4.2MB)では、年間72万3,000人の追加労働力が必要と試算されている。さらに、移民政策の影響などもあり、2025年8月時点で過去12カ月の間に2万6,100人の雇用が純減となった。人手不足から戸建て住宅の建設が遅れて年間108億ドルの経済的損失が発生したという。このようにトランプ政権下での移民政策は、元々の労働力不足に拍車をかけるだけの結果となっている。建設業では25.5%が移民労働力で占められていることから、強硬な移民政策が続けば、労働需給の逼迫は急速に深刻化する可能性がある。また、賃金に関しては、トランプ政権発足以降も全職種の平均値とほぼ同程度の伸びを維持しているが、これは特段移民の減少が影響しているわけではない。移民労働力が急速に流入していた2023、2024年でさえ全ての月において全職種の平均値を上回る伸びを示している状況で、少なくともマクロ的には不法移民により建設業の賃金が低下してきた証拠は確認できない。
このように、移民・関税政策だけでは本来意図されている政策目的を達成することは困難であり、キャリアアップを含む労働環境の改善や、スキルギャップの解消、労働力の必要業種への誘導といった措置が別途必要となってきそうだ。この点について、トランプ政権は、労働力育成施策を別途推進している。これについては別稿で詳しく述べることとしたい。
- 注1:
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ただし、NFPの低下は労働供給の減少にも大きく寄与している。トランプ政権下では、不法移民に対する就労許可の剝奪(はくだつ)や、入国管理措置の強化、不法移民の摘発などさまざまな取り組みが実施されており、こうした措置により、外国生まれの労働者は減少している。
- 注2:
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2026年第2四半期の実質GDP成長率は前期比年率3.8%、第3四半期は同4.3%となっている。また、GDP全体から政府支出、輸出入、在庫投資を除いた民間国内最終需要の伸びも第2四半期は同2.9%、第3四半期は同3.0%と、高所得者層の消費や人工知能(AI)投資に支えられて底堅く推移している。
- 注3:
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過去のサイクルでは、成長が雇用増や賃金の上昇を促し、これが幅広い層における消費につながり、さらなる雇用の増加をもたらすという好循環を生み出してきた。
- 注4:
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エコノミストの見方は大きく分かれる。1つは、求人数や賃金の伸びの低下をはじめとする労働需要の弱さに着目し、これを経済の先行き不透明感などによってもたらされたものとして捉え、労働市場の減速が比較的早いペースで進んでいるとする見方。もう1つは、移民政策による労働供給の減少やAI導入などの新技術導入の影響、連邦支出の削減・解雇など、労働市場の減速は主として構造要因など景気循環以外の要素によってもたらされており、基調としてみた場合には、労働市場は緩やかな減速にとどまっているという見方。
- 注5:
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従来の保守的な思想とは異なり、反グローバリズムなどを特徴とする近年の米国保守思想。
- 注6:
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Oren Cass著、”The New Conservatives”では、新自由主義的な考え方の下に行われてきた「消費の最大化を目的とする経済政策」は、経済のパイを拡大することのみを目標とし、グローバル企業など一部の企業のみに有利に働くとする。一方、製造業をはじめとする業種では賃金の停滞、労働力の流出、不安定な家族の増加、地域社会の崩壊といった現象を生み出し続けている、と批判している。
- 注7:
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2025年9月、化学関連の在米日系企業に対するヒアリングに基づく
- 注8:
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ニューヨーク移民センターのレポート
では、不法移民の約2割が建設業に従事しているとされる。
- 執筆者紹介
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ジェトロ ニューヨーク事務所 調査担当ディレクター
加藤 翔一(かとう しょういち) - 2009年、内閣府入府。骨太の方針の策定や世界経済の分析、子育て支援に従事したほか、内閣官房や農林水産省、消費者庁などに出向し、地方活性化に向けた施策等を担当。2023年7月から現職。






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