特定開発拠点に進出する企業に即時償却など税制インセンティブを付与
(メキシコ)
調査部米州課
2025年05月27日
メキシコ政府は5月22日、夕刻の官報で政令を公布し、州政府が提案し連邦政府の省庁間委員会が認定した、特定開発拠点に新たに進出する企業に対する税制インセンティブを発表した。同開発拠点は、クラウディア・シェインバウム政権が掲げる官民投資による経済開発計画「プラン・メキシコ」(2025年1月17日記事、2025年4月11日記事参照)の中で、「福祉経済開発拠点(Polos de Desarrollo Económico para el Bienestar:PODECOBI)」として盛り込まれていた。同じプラン・メキシコにより2025年1月21日付官報で公布された政令に基づく、特定地域に限定されない投資計画に対するインセンティブ(注1)とほぼ同じ内容となっている。具体的には、次の2種類が付与される。
- 新規固定資産投資に対する即時償却(政令第3条)
- 従業員研修などの費用に関する追加所得控除(政令第4条)
1.について、1月21日付官報公布政令に基づく地域限定のないインセンティブでは、業種および資産の種類と取得年に応じて35~91%の償却率の制限があり、未償却残高が残るのに対し、PODECOBIはオフィス家具や内燃機関車両など対象外の資産を除き、全ての固定資産が100%即時償却の対象となる。現政権の期限である2030年9月末までに取得された資産が対象とされ、当該年、または翌年の納税額算定の際に適用される。即時償却の適用で損金が益金を上回る場合は、繰越欠損金として翌年度以降に適用可能。2.については、わずかな違い(注2)はあるが、地域限定なしのインセンティブとほぼ同じだ。従業員の研修費用に加え、特許取得や実用新案登録に要する費用、特定産業のサプライチェーン参画のために必要な規格・認証(自動車産業におけるIATF16949など)の取得費用も対象となる(注3)。この追加所得控除は、当該費用が発生した年の課税所得計算にしか利用できず、次年度以降に持ち越すことはできない。
マキラドーラオペレーションは実施不可
現政権下の拠点開発としては、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール前政権が開始した海軍省管轄のテワンテペック地峡の開発拠点(2023年7月4日記事参照)があるが、同省はさらに2カ所の開発入札を近日中に実施する予定。PODECOBIは、経済省が議長を務める省庁間委員会(注4)が開発拠点を承認した上で宣言し、州政府が工業団地など拠点の開発事業者の入札を行うことになっている。5月22日の記者会見におけるマルセロ・エブラル経済相の発表によると、省庁間委員会は既に13州の14拠点(注5)を承認している。なお、各拠点で対象となる経済活動が宣言されるが、自動車産業など主要な製造業は対象になるものとみられる。
PODECOBIのインセンティブと連邦政府の他のインセンティブを同時に享受することはできない(政令第6条)。したがって、前述の地域限定なしのインセンティブと同時に適用はできないほか、所得税法第181~182条に基づくマキラドーラオペレーション(保税受託加工、注6)についても、PODECOBIにおいては実施できない。
(注1)特定地域には限定されないが、投資計画を大蔵公債省の歳入担当次官が議長を務める省庁間委員会に提出し、承認を受ける必要がある。
(注2)地域限定なしのインセンティブでは、過去3年間の費用の平均と比較して増加した分の25%を追加で損金算入できるのに対し、PODECOBIの場合は新規進出を条件としているため、操業1年目は費用全額に対する25%、操業2年目は1年目と比較して増加した分、操業3年目は過去2年間の平均と比較して増加した分に対する25%が追加所得控除できるという違いがある。操業4年目以降は、過去3年間の平均からの増加分が25%の追加所得控除の対象となるため、地域限定なしのインセンティブと同じになる。
(注3)研修費用の場合は社会保険庁(IMSS)に登録された社員が対象となり、公共教育省(SEP)との間で企業内実務研修生を受け入れる協定を締結する必要あり。特許や実用新案の登録を目指す研究開発投資については同投資計画、規格や認証の取得についても行動計画などの裏付け書類が必要。
(注4)政令の第10条および2025年5月22日付官報公布経済省令の第3条によると、経済省の商工担当次官が議長を務め、大蔵公債相の歳入次官、エネルギー省の企画・エネルギー移行担当次官、農地・領土・都市開発省の農地・都市・住居整備担当次官、環境天然資源省の持続的開発・循環経済担当次官が委員を務める。議決権を持たないが、電力庁(CFE)、国家水資源庁(CONAGUA)、地域経済開発・拠点再配置諮問委員会(CADERR)の代表も参加する。
(注5)カンペチェ州セイバプラヤ、チワワ州フアレス、ドゥランゴ州ドゥランゴ、メキシコ州ネツァルコヨトル、グアナファト州セラヤ、イダルゴ州トゥーラ、イダルゴ州フェリペ・アンヘレス国際空港(AIFA)、プエブラ州シウダ・モデロ、シナロア州トポロバンポ、タマウリパス州アルタミラ、トラスカラ州ウアマントラ、ベラクルス州トゥクスパン、ミチョアカン州モレリア、キンタナロー州チェツゥマルの14拠点。記者会見では承認済みと発表されたが、5月23日時点ではまだ開発拠点としての宣言が正式に官報公示されていない。
(注6)外国居住者に所有権がある原材料・部品をメキシコ国内に一時輸入し、保税で加工を加えた上で外国に輸出する保税受託加工オペレーション。製品の所有権がメキシコ側にないため、メキシコ側の法人所得税の課税ベースが受託加工費のみになるほか、人件費の損金算入枠の拡大(2014年1月7日記事参照)などの税制メリットがある。
(中畑貴雄)
(メキシコ)
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