業界再編や市場規範化などに注目
中国自動車業界の「内巻」(後編)

2025年7月25日

前編の「過当競争解消の取り組みを開始」では、「内巻」と称される過酷な競争の中で、中国自動車工業協会(CAAM)などがその解消に向けて取り組んでおり、工業情報化部が賛同し、必要な措置を取るとしたことなどを紹介した。後編では、こうした業界団体や政府の方向性を踏まえた注目点を紹介する。業界再編の動向や市場規範化の進展などだ。

注目される業界再編や市場規範化の動き

業界団体や政府で「内巻」の解消に向けた方向性を打ち出した。今後の注目点としては、第1に、「2025中国自動車重慶フォーラム」でも言及があったが、中国自動車メーカーの合併や再編が進むかという点だ。2010年代に中国で鉄鋼業、石炭業などの過剰生産能力が問題視され、その後に合併や再編が進められた。例えば、2016年には国有鉄鋼大手の宝鋼集団と武漢鋼鉄集団が経営統合して、中国最大の鉄鋼メーカーの宝武鋼鉄集団が誕生した。

2025年2月、中国兵器装備集団と東風集団が他の中央国有企業と経営統合に向けた準備を進めていると発表し、注目を集めた。それぞれ、4大自動車メーカー(注1)の2社の重慶長安汽車と東風汽車の親会社だ。その後、複数メディアは両社が経営統合するとの見方を報じたが、経営統合は当面見送られているようだ(2025年6月19日付ビジネス短信参照)。重慶長安汽車は6月5日、国務院の認可を受け、親会社の中国兵器装備集団から分離されると発表した。同社は独立した中央国有企業として再編される。政府の意向が反映されるこうした大手国有企業の動向には注意が必要だ。それ以外に、異業種から参入した新興の電気自動車(EV)メーカーの動向も注目される。中国新聞社の6月10日の報道によると、小鵬汽車の何小鵬董事長は2025年初め、中国の新エネルギー車(NEV)企業間の競争は、3年の淘汰(とうた)競争と、その後3~5年の第2段階の競争を経て、最終的に残るのは7社以下だろう、より悲観的に5社以下とみる友人もいると述べた。その際、何董事長は、10年前には400社の自動車メーカーがあったが、現在は40社程度になったとも指摘し、進んできた業界再編がさらに加速するとの見通しを示していた。

第2に、独占禁止法や不正競争防止法などにのっとり、急拡大した市場の規範化を図る政府の取り組みが加速するかどうかだ。アリババ集団やテンセントなどが急速な拡大を遂げた2020~2021年ごろには、これらプラットフォーマーに罰金徴収などが行われた。当局は企業結合の事前申請がなかったことや、「二者択一」の強要行為などを理由として挙げた(2021年4月22日付ビジネス短信参照)。自動車メーカーに対して通常は力が弱いとされる自動車部品メーカーの権益保護の観点からも、過当競争の問題が指摘される中で、政府のこうした取り組みが加速することも想定される。

国家市場監督管理総局は2024年1月18日、ジャガー・ランドローバー(JLR)、アウディ、フォルクスワーゲン(VW)、BMW、メルセデス・ベンツの5社の中国関連法人に、独占禁止法の違反リスクがあり、コンプライアンスを強化し、自ら調査して是正するよう促す通知を送付した。同年7月23日には、是正状況を聴取し、しっかりとその是正措置を徹底し、公平競争の秩序を守るよう求めたとしている。2022年以来、多くの自動車販売代理店が国家市場監督管理総局に対して、自動車ブランド大手からの経営上のプレッシャーが高まっていると報告しており、自動車大手が販売代理店に不合理な制限を課し、独占禁止法に違反している疑いが持たれたことへの対応だった。

国家発展改革委員会は2025年5月20日の記者会見でも、自動車業界に限定した話ではないが、その市場の監督・管理を強化し、市場競争のエコシステムを浄化するとした。法にのっとって不正競争と価格違法行為を取り締まり、模倣品の製造・販売を断固として取り締まるなどとした。

2025年6月1日からは「中小企業代金支払保障条例(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を改正して施行し、中国の主要完成車メーカー各社が相次いで支払期限を60日以内とする対応方針を表明した(2025年6月16日付ビジネス短信参照)。同条例は、大企業から中小企業への支払いを納品から60日以内とすることなどを定めていた。こうした動きも、「内巻」を受け、キャッシュフロー確保を図る自動車メーカーがその優越的地位を利用し、下請けメーカーへの代金支払いを長期化させたり、遅延させたりしていた状況の改善を目指すものだ。

習近平国家主席が議長を務める中国共産党中央財経委員会の会議が7月1日に開催され、重点や課題に焦点を当て、法や規則にのっとって企業の低価格・無秩序競争を管理するべきと強調された。自動車産業を含めた「内巻」の解消があらためて共産党・政府の重要な関心事となっていることが確認された(注2)。

工業情報化部は7月9日、主要自動車企業による支払期限の約束履行に関する問題(建議)を申し立てるオンライン窓口を開設した。この窓口では、主要自動車企業が60日以内の支払期限の約束を履行しないとか、正当な理由なく検査証明や検収合格証明を出さずに支払期限を延ばすなどしているケースについて、申し立てを受け付けている。同部は関係部門と協調してその解決に取り組むとした。また、今後は業界団体を指導して自動車業界の決済・支払いに関する規範を研究・策定、モデル契約を推進し、自動車企業のサプライヤーに対する支払いプロセスをさらに標準化していくと表明した。

さらに、第14期全国人民代表大会常務委員会第16回会議で6月27日に可決された「不正競争防止法(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」が改正され、10月15日から施行される。第15条で大企業の優越的地位乱用の禁止を明文化した(2025年7月4日付ビジネス短信参照)。大企業が資金や技術、取引ルート、業界影響力などで優越的地位にあることを乱用し、中小企業に対して不合理な支払期限や、支払い方法、違約責任などの取引条件を強要することや、支払いを遅延させることなどを禁じている。法律での明文化を受け、自動車メーカーと下請けメーカーの取引でも、これらの点はより意識されることになるだろう。

低価格路線の変更は困難伴う

第3に、自動車の販売価格がどう推移するかだ。価格引き下げについては、前述の業界の提案や政府の見解を踏まえて、各社が抑制的な対応を検討する側面はあると思われる。CAAM以外に、自動車販売代理店の業界団体の中華全国工商業連合会汽車経銷商商会が6月3日、「『内巻』式競争に反対し、自動車販売代理業の質の高い発展を促進する提案」を発表した(参考参照)。良好で健全で公平な市場競争秩序を維持し、自動車販売代理業を含む自動車産業の質の高い発展を推進するためとしている。その中で、頻繁に販売方針や製品価格を調整することは販売代理店の販売を困難にし、消費者のブランドイメージにも悪影響を及ぼすため、避けるべきと呼び掛けた。

また、ブルームバーグ通信の6月5日報道によると、関係者の情報として、工業情報化部と国家市場監督管理総局、国家発展改革委員会が比亜迪(BYD)や、浙江吉利控股集団、小米科技など十数社の幹部を招集し、北京で会合を開催した。当局が各社に自主規制を求め、コストを下回る価格での販売や過度な値下げを控えるよう求めたという。政府当局の危機感が感じられる。

前述の中小企業の権益保護に向けた動きも、自動車メーカーのキャッシュフローに影響を及ぼし、その価格設定の際に考慮する一因となる可能性もある。

参考:「『内巻』式競争に反対し、自動車販売代理業の質の高い発展を促進する提案」の5項目

  1. 業界全体が、中国の自動車産業の質の高い発展の実現に注力し、公正な競争の原則を厳格に順守し、「価格戦争」を主な形式とする「内巻」式競争を断固として防ぐ。
  2. ブランドイメージに注意する。頻繁に販売方針や製品価格を調整することは、販売代理店の販売を困難にし、消費者のブランドイメージにも悪影響を及ぼすため、避ける。
  3. 販売代理店の生存環境を改善する。販売に基づく生産を堅持し、企業の年間生産目標と販売代理店の販売目標を合理的に設定し、販売代理店への在庫転嫁を行わず、販売代理店に車両購入を強制せず、販売代理店の在庫レベルを適切に削減する。仕入価格と販売価格の逆転問題を是正し、利益を適時に販売代理店に還元し、販売代理店の資金回収サイクルを短縮し、試乗車の台数を合理的に決定し、販売代理店の流動資金圧力を軽減する。
  4. ビジネスポリシーを最適化する。販売代理店評価指標を合理的に策定し、罰金徴収は慎重に行い、販売代理店に関連指標タスクの完了を強制する手段として評価を使用しない。
  5. ネットワークからの撤退メカニズムを改善する。ネットワークチャネルの最適化を名目に、販売代理店をネットワークからの撤退、その店舗の閉鎖に追い込むべきではなく、真にネットワークからの撤退、店舗閉鎖が必要な販売代理店には、相応の補償を与える。

出所:中華全国工商業連合会汽車経銷商商会「『内巻』式競争に反対し、自動車販売代理業の質の高い発展を促進する提案」からジェトロ作成

一方、各社が生き残りをかけた市場競争を展開する中で、その先行きは見通しづらい。中国の不動産業の低迷などで逆資産効果が働いているとされ、若年層の雇用不安も懸念される。また、介護保険制度が試行段階にあることなどから、老後不安も聞かれる中で、消費者の財布のひもが固くなっているとされる。業界団体や政府の見解はあるものの、低価格路線の変更は容易ではないと思われる。

第4に、世界最大の輸出国となった中国からの自動車輸出がどう推移するかだ。CAAMによると、2024年の中国の自動車輸出台数は前年比19.3%増の585万9,000台だった。2025年1~6月では前年同期比10.4%増の308万台となっている(注3)。国内市場で供給過剰感がある中で、近年、自動車輸出は増加している。

前述のとおり、輸出は慎重に進めるべきとの国内での発言はあるものの、国内競争が厳しく、過剰感がある中で、海外市場獲得を狙う各社がその動きを緩めることは考えにくい。CAAMによると、2024年の自動車輸出台数のうち、NEVの占める構成比は21.9%だったが、2025年1~6月には34.4%にまで上昇している。世界で脱炭素に向けた取り組みが展開される中、今後成長するNEV市場に向けて、各社が輸出ドライブをかけていこうとしていることがうかがえる。

ただし、中国のNEV輸出が増加していることを受け、米国やカナダ、EUが追加関税措置を講じるなどの動きもある。NEVのこうした地域への輸出は影響を受けており、今後もその影響は続くとみられる。

中国内外の各種情勢を踏まえながら、中国の自動車業界の「内巻」の解消が進むか、今後の動向が注目される。


注1:
残り2社は、中国第一汽車と上海汽車。
注2:
7月16日に開催された李強首相が主宰する国務院常務会議でも、新エネルギー車業界の競争秩序の規範化に取り組むことを決めた。コスト調査や価格モニタリングを強化することや、重点自動車メーカーに期限どおりの支払い履行を促すことなどを挙げた。
注3:
こちらには中古車が含まれないため、貿易データベース(Global Trade Atlasを利用)を基に、中国の税関統計の乗用車全体(HS8703)の輸出台数をみると、2024年が前年比24.8%増の672万台、2025年1~5月が前年同期比12.7%増の285万台となった。

中国自動車業界の「内巻」

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執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課 主査
宗金 建志(むねかね けんじ)
1999年、ジェトロ入構。調査部中国北アジア課、企画部企画課海外地域戦略班(北東アジア)、北京事務所などでの業務に従事。2025年5月から現職。