中国EV・車載電池企業のグローバル戦略急拡大する中国EV関連企業のハンガリー進出
2024年12月17日
近年、中国の電気自動車(EV)やバッテリーのメーカーが欧州市場への進出を進める中、ハンガリーへの投資も急速に拡大している。ハンガリーは、EU市場へのアクセスの容易さや比較的安価な製造コストから、魅力的な進出先とされている。ハンガリー政府が同分野に投資する企業の進出を歓迎していることも相まって、中国のEV、バッテリーメーカーが次々と拠点を設立している。
急拡大する中国企業の進出
ハンガリー投資促進庁(HIPA)によると、2020年以降、EV分野を中心とした中国企業によるハンガリーへの投資プロジェクト(合計38件)の総額は160億ユーロを超え、国内で約3万人の新規雇用を創出している。
ハンガリーに製造拠点を設立、または設立を発表した主な中国のEV関連企業(投資規模の大きい順)は次のとおり。
1. 比亜迪(BYD)
同社は2017年に欧州への進出の一環として、ハンガリー北部のコマーロム市に電動バスの組立工場を稼働させた。年間約400台の電動バスを生産可能で、300人の地元労働者を雇用している。
2023年6月にシーヤールトー・ぺーテル外務貿易相が中国を訪問した際、同社バッテリー事業部門がハンガリーのブダペスト北東部にあるフォートにバッテリー工場を設立する計画を発表した。他のバッテリーメーカーとは異なり、ハンガリーでバッテリーセルの製造は行わず、バッテリーパックの組立工場を設立する予定だ。ハンガリー政府は約10億フォリント〔約4億円、1フォリント=約0.4円(11月8日ハンガリー国立銀行為替レート)〕の財政支援を行う。
BYDは2023年12月22日、ハンガリー南部のセゲド市に欧州初のEV完成車生産工場を設立することを正式に発表した(2024年1月4日付ビジネス短信参照)。詳細は明らかになっていないものの、ハンガリーへの対内直接投資史上で最大規模の投資の1つとなり、数千人の新たな雇用を創出するとされている。生産開始は2025年後半を予定している。
2. 寧徳時代新能源科技(CATL)
同社は2022年8月、ハンガリー東部のデブレツェン市に73億4,000万ユーロを投じて、EV用バッテリー工場を建設すると発表した(2022年8月18日付ビジネス短信参照)。同プロジェクトは9,000人の新規雇用を創出する予定で、中国国外でドイツに次ぐ2番目の規模を誇るバッテリー製造拠点となる。同社は、メルセデス・ベンツやBMW、ステランティス、フォルクスワーゲン(VW)など、ハンガリーで生産する主要自動車メーカーのサプライヤーだ。
デブレツェンの工場は2025年に量産を開始する予定で、年間100ギガワット時(GWh)の生産能力にまで拡大する計画が発表されている。
3. EVEエナジー(恵州億緯鋰能)
同社は2023年5月、デブレツェン市にEV用バッテリー工場を建設することを発表した。同社にとって欧州初の製造拠点となり、10億ユーロ超の投資で1,000人以上の新たな雇用を創出する計画だ。同工場は2026年までに稼働開始予定で、主に同市に建設中のBMW工場のニーズに対応する。28GWhの生産能力を持ち、ハンガリー政府から3,750万ユーロの財政支援がなされる。
4.サンオーダ(欣旺達電子)
VWやルノー・日産グループ、東風自動車などへのサプライヤーである同社は2023年7月末、ハンガリーに車載バッテリー工場を建設することを発表した(2023年8月1日付ビジネス短信参照)。同社にとって欧州初の製造拠点となるこの工場は、ハンガリー北東部のニーレジハーザ市に建設され、当初の投資額は930億フォリントで、長期的には5,800億フォリントに拡大し、数千人の雇用を創出する見込みだ。生産能力や製造されるバッテリーセルの種類については、まだ発表されていない。工場の着工は2024年で、2025年末の生産開始を予定している。
上記の中国バッテリーメーカーのほかに、EV関連製品のサプライヤーもハンガリーに進出、あるいは進出計画を発表している(詳細は表1、表2を参照)。
企業グループ名 (ハンガリー現地法人名) |
所在地 | 取り扱い製品 |
発表 年月 |
現地法人設立年 | 投資額 | 雇用創出人数 |
---|---|---|---|---|---|---|
BYD (BYD Electric Bus & Truck Hungary) | コマーロム | 電動バス OEM | 2016年1月 | 2005年 | 2,000万ユーロ | 300 |
BYD (BYD Auto Hungary) | セゲド | EV OEM | 2023年12月 | 2023年 | n.a. | n.a. |
CATL (Contemporary Amperex Technology Hungary) | デブレツェン | バッテリー(モジュール、セル) | 2022年8月 | 2022年 | 73.4億ユーロ | 9000 |
EVEエナジー (Eve Power Hungary) | デブレツェン | バッテリー(セル) | 2023年5月 | 2022年 | 10億ユーロ | 1000+ |
BYD | フォート | バッテリーパック(組み立て) | 2023年6月 | n.a. | 100億フォリント | 100 |
サンオーダ (Hungary Sunwoda) | ニーレジハーザ | バッテリー(セル) | 2023年7月 | 2023年 | 930億フォリント | 1000 |
NIO (NIO Power Europe) | ビアトルバージ | バッテリー交換ステーション | 2022年7月 | 2022年 | 1,500万ユーロ | n.a. |
セムコープ (Semcorp Hungary) | デブレツェン | セパレーターフィルム(LiBSF) | 2020年11月 | 2020年 | 1億8,400万ユーロ | 440 |
シンセン・コダリ (Kedali Hungary) | ゲドロー | サムスンEV用アルミニウム構造部品、バッテリー部品、コネクターおよびその他部品 | 2020年12月 | 2020年 | 4,000万ユーロ | 330 |
バオロン (PEX Automotive, Baolong Holdings) | デブレツェン | 自動車センサー、eモビリティー、インテリジェント自動車関連製品生産 | 2022年2月 |
2012年 2018年 |
1,500万ユーロ | 35 |
浙江華商 (Halms Hungary) | デブレツェン | エンジンハウジング、ギアボックス、インバーターケースなどのEV関連部品 | 2022年9月 | 2021年 | 4,300万ユーロ | 300 |
ホワヨウ・コバルト(Huayou Cobalt) | アーチ | バッテリー正極材 | 2023年6月 | n.a. | 13億ユーロ | 900 |
出所:ハンガリー投資促進庁、ハンガリー政府、当該企業の発表、ハンガリー企業登記簿などからジェトロ作成
企業グループ名 (ハンガリー現地法人名) |
所在地 | 取り扱い製品 |
発表 年月 |
現地法人設立年 | 投資額 | 雇用創出人数 |
---|---|---|---|---|---|---|
アモイ・イントレテック (Intretech Hungary、Insut Hungary) | ブダペストおよびカプバール | 自動車および電気電子産業向け部品、その他プラスチック製品 | — |
2017年 2020年 |
2,875万ユーロ | 200 |
ジョージアン・ショウショウ・リニア・モーション (J-STAR MOTION) | カポシュバール | モーター、リニアアクチュエータ、調節可能な家具部品などの直線運動製品 | 2023年5月 | 2022年 | 6,000万ユーロ | 200 |
ファイライオンバッテリー | n.a. | 情報なし | — | 2023年 | n.a. | n.a. |
セッコウ・ハンコー・テクノロジー(Hangke Technology) | n.a. | 情報なし | — | 2023年 | n.a. | n.a. |
無錫リッチインテリジェント機器(Rich Equipment) | n.a. | 情報なし | — | 2023年 | n.a. | n.a. |
キャメルグループ (Hybern Energy) | n.a. | 情報なし | — | 2024年 | n.a. | n.a. |
出所:ハンガリー投資促進庁、ハンガリー政府、当該企業からの発表、ハンガリー企業登記簿などからジェトロ作成
EVバッテリー製造大国を目指すハンガリー
過去数年間で、東アジアの主要なEVバッテリーメーカーやそれらの部材サプライヤーが欧州の製造拠点として、ハンガリーを選択した。ハンガリー政府は中国企業の投資に対して歓迎の姿勢を示し、強力に支援している。
ハンガリー政府は、ハンガリーを西側および東側の資本と技術の「結節点」と位置づけている。特に、伝統的に強みを有するドイツの自動車メーカーと、高度な技術力を有する中国や韓国のバッテリーメーカーが結びつくとしている。
政府の目標の1つは、中国、米国、ドイツに次ぐ世界第4位のバッテリー製造大国としての、ハンガリーの地位を確立することにある。製造能力を250GWhに引き上げることで、欧州市場の需要の35%を満たす想定だ。これらの政策の下、EVバッテリー産業(バッテリー部材や自動車用部品なども含む)に関連する工場の設立に対して、ハンガリー政府は財政面を中心に多大な支援をしている。
中国のEV企業は、ハンガリー政府の投資優遇措置に加えて、EV購入を奨励する政府補助金の恩恵も受けている。ハンガリー企業は2024年2月から、EUの復興レジリエンス・ファシリティー(RRF)を原資としたEV購入の補助金を受けられるようになった(2024年1月16日付ビジネス短信参照)。2024年10月17日に政府が発表したデータによると、EV購入補助金を利用して企業が最も多く購入したブランドは中国のBYDだった。また、2024年10月上旬の「エネルギー投資フォーラム2024」で、ラントッシュ・チャバ・エネルギー相は、政府が同補助金支援を一般家庭にも拡大する可能性について言及した。
さらに、政府は、2024年11月から公共の充電ステーション設置のために、総額280億フォリントの補助金を支出する予定だ。
一方、今回のEUの中国製EVに対する相殺関税措置の導入(2024年11月6日付ビジネス短信参照)は、中国メーカーの欧州市場参入戦略にも影響を与える可能性がある。今後の動向が注目されるが、ハンガリー政府は同措置に対して反対の声を上げている。
急拡大したEVバッテリー生産、2023年末に減少に転じる
ハンガリーでのバッテリー製造セクターの生産額と、製造業全体に占める同生産額の割合は、この数年で急激に増加した(図1参照)。同セクターは2010年代後半に勃興し、特に韓国や日本を中心とした東アジア企業からの投資によって拡大し、ここ数年は中国が牽引している。
2023年の「バッテリーおよび蓄電池の製造」「欧州共同体経済活動統計分類(通称、NACEコード:27.20)」の生産額は3兆2,349億フォリントに達した。このセクターは近年著しい成長を遂げており、2023年にはハンガリーの製造業全体の生産額の約6.0%、同輸出額の約7.8%を占めている。

出所:ハンガリー中央統計局のデータからジェトロ作成
直近5年間でハンガリーのバッテリー製造業は著しい成長を遂げたが、ドイツなどの主要市場でEV補助金が段階的に廃止されたことなどに起因する需要減少により、2023年末にはその勢いが低下した。(図2参照)。

出所:ハンガリー中央統計局のデータからジェトロ作成
なお、ハンガリーはEU加盟国の中で初めて、エレクトロモビリティー推進のためのEUレベルの新たな行動計画を策定している。
原材料調達やリサイクルでバリューチェーン強化図る
現在、ハンガリーはバッテリー生産能力では最前線にあるが、バリューチェーンを構築する上で、バッテリーの加工や原材料のリサイクルはまだ進んでいない。こうした中、ハンガリー政府はバッテリーのリサイクルの分野で中国企業と交渉を進めており、さらなる投資が期待されている。2024年9月5日に北京を訪問したナジ・マールトン国家経済相は、複数のバッテリーリサイクル企業の幹部と会談し、大規模なバッテリーリサイクル工場の設立可能性について協議した。2023年8月に施行したEUのバッテリー規則(2023年8月21日付ビジネス短信参照、2023年11月付調査レポート参照)では、メーカーによる使用済みポータブルバッテリーの回収率の達成義務として、2023年末までに45%、2027年末までに63%、2030年末までに73%を掲げ、回収したバッテリー原材料の再資源化を含む使用済みバッテリーの管理を生産者に求めている。
一方、原材料について、ハンガリー政府は2024年9月、三元系リチウムイオン電池の主原料の1つコバルトの主要供給国のコンゴ民主共和国と協定を締結した(2024年10月4日付ビジネス短信参照)。
国内販売市場で勢い増す中国製EV
2023年のハンガリーのバッテリー式電気自動車(BEV)販売台数では、テスラが市場をリードしているが、2023年から中国メーカー、特にBYDの存在感が明確に現れ始め、その数は急速に増加している。これは、2023年10月にBYDがハンガリーの自動車販売代理店Duna Autó、Wallis Motorと販売契約を締結したことが要因だ。2024年1月にはシラー(Schiller)とも同様の契約を結び、中国企業のBEVやハイブリッド車(HEV)がハンガリー市場にさらに広がると予想されている。最新のデータによると、BYDの販売台数は2024年の最初の7カ月間で既にテスラの次を走っている。

- 執筆者紹介
-
ジェトロ・ブダペスト事務所
バラジ・ラウラ - 2000年よりジェトロ・ブダペスト事務所に勤務、ハンガリー国内の市場調査を担当。英語、数学の修士号のほか、日本語検定1級、経済貿易大学の学士を有する。