競争力重視にシフトする欧州日欧連携の深化へ
日本のEUホライズン・ヨーロッパ準参加(2)

2026年7月2日

日本は2025年12月に、EUの研究開発支援枠組み「ホライズン・ヨーロッパ(HE)」への準参加の実質合意を発表した。今後正式に準参加することにより、日本に拠点を有する企業・機関が国際協力型研究の助成の対象となるほか、個別の公募プロジェクトにおいて、加盟国に近い立場でより深く関与できるようになる。前編では、「ホライズン・ヨーロッパ」の制度概要、準参加による日本企業のメリットを解説した。後編となる本稿では、今後の見通しや日本の企業・機関が参画に向けて受けられるサポートについて解説する。

欧州スタートアップなどの探索・協業に向け、「第3の柱」の機関の活用を

前編で述べたとおり(前編「何が変わる」参照)、日本が準参加する対象は第2の柱となる。しかし、第3の柱(イノベーティブ・ヨーロッパ)は、欧州大のイノベーション・エコシステムの発展・強化を掲げ、域内研究や創業支援、スタートアップとして成長していくための環境整備を図るものであり、そこから生み出された技術やスタートアップに対し、日本企業・機関としてアプローチすることに制約があるわけではない。以下では、「第3の柱」に関連する2つの機関である欧州イノベーションカウンシル(EIC)と欧州イノベーション・技術機構(EIT)について概観し、ジェトロとしての取り組みを紹介する。

EICは、2021年にHEの開始に合わせ、研究イノベーション総局(DG-RTD)の傘下に設立された。研究やスタートアップなどへの助成・投資を通じ、革新的技術の特定と商用化、スタートアップの成長を図る専門機関だ。革新的な研究の概念・技術検証を図る「パスファインダー」、技術の商用化実証などを支援する「トランジション」、創業後のスタートアップや優れた技術を有する中小企業などの規模拡大を目指す「アクセラレーター」、ビジネス機会提供や市場参入支援などの事業拡大フェーズ向けの「ビジネス加速化プログラム」、戦略分野のスタートアップに一定規模の投資を行う「欧州戦略技術プラットフォーム(STEP)スケールアップ」と、技術・企業の発展段階に応じたプログラムを有する。支援は、資金ギャップを最適なかたちで埋めることができるよう、助成と投資を組み合わせて実施できることが特徴だ。テーマを特に定めないオープン型助成、テーマを提示し解決を図るチャレンジ型助成に加え、「アクセラレーター」以降のフェーズでは、支援スタートアップへの企業の投資を促す25%未満の出資も実施する。

EICは自身を「欧州最大のディープテック支援機関」としており、これまで支援をしてきたスタートアップ(EIC Beneficiaries)は3,000社を超える(注1)。ジェトロでは特に「ビジネス加速化プログラム」のチームと連携し、大企業と支援スタートアップとの協業深化を図るEICの「コーポレート・パートナーシップ・プログラム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を、国際協業連携ビジネスプラットフォーム「J-Bridge」(注2)の一環として、2025年度より日本企業向けに提供している。

次にEITは、産業界・研究機関・高等教育機関の連携促進を通じた欧州の競争力強化を目的に2008年に設立された機関で、活動は産業分野別の知識・イノベーションコミュニティ(KIC)が担う。2010年に、気候変動・持続可能エネルギー・デジタル化に関するKICが発足し、その後段階的に拡大した。2026年3月時点で、ブダペストにある本部に加え、9分野のKIC(表1参照)、およびEU域外のイノベーション・エコシステムとの接続を担うEIT Global Platformの合計10の機関が設立されている。

表:欧州イノベーション・技術機構(EIT)でのKIC一覧
分野別機関名 対応する世界課題 設立年
クライメートKIC 気候変動 2010年
28デジタル デジタル化 2010年
イノエナジー 持続可能なエネルギー 2010年
EITヘルス 健康イノベーション 2015年
EITローマテリアルズ 原材料 2015年
EITフード 未来の食料 2016年
EITマニュファクチャリング 高付加価値製造業 2019年
EITアーバンモビリティ スマートシティ・交通 2019年
EITカルチャー&クリエーティビティ 文化・創造性 2023年

出所:EITウェブサイトからジェトロ作成

それぞれのKICは、教育・起業家育成、イノベーション事業組成、ビジネス創出などの事業実施のため、欧州各地の研究機関・大学・支援機関・投資家などと広範なネットワークを有している。例えば、脱炭素分野のKICであるイノエナジー(InnoEnergy)は、世界200社以上のクリーンテック関連ベンチャーキャピタル(VC)と連携し、160社以上のスタートアップをポートフォリオに持つ。ジェトロは、これら欧州横断のイノベーション・エコシステムへの日本企業などの参入支援のため、2025年9月、GX推進機構とともにイノエナジーとの間で三者協力覚書を締結し、その他複数のKICとも協力関係を構築している。

2028年以降も見据えた日欧の協業促進を

2028年以降、EUの研究イノベーション政策は「第10次研究イノベーション枠組みプログラム(FP10、2028~2034年)」へと移行する。欧州委員会が2025年7月に発表した次期中期予算計画案(MFF、2028~2034年)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます2025年7月22日付ビジネス短信参照)によると、FP10では欧州競争力ファンドの予算も加え、現在の935億ユーロから1,750億ユーロへと予算を倍増する。また、生産性・競争力強化に向け、防衛・軍民両用技術の研究も対象とされたほか、スタートアップ支援を担うEICの予算も大幅に増額し、よりリスクの高い破壊的イノベーション創出を強化するとした。

この背景にあるのは近年の地政学的リスクの高まりや産業構造の変化などを背景とした、EUの自律性確保、研究イノベーションおよび産業競争力の強化に対する危機感だ。2024年9月に公表された「欧州の競争力の未来」報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(通称ドラギ・レポート、2024年9月19日付ビジネス短信参照)では、産業競争力の抜本強化のためには、現状米中に劣後しているイノベーション創出力の大幅な強化、脱炭素経済と産業競争力の両立、サプライチェーン上の特定国への過度の依存関係の低減の3つの行動が必要とされた。このイノベーション創出力強化の中核となるのがFP10となる。

日EUの関係では、2025年7月の第30回定期首脳協議の共同声明付帯文書として、「日EU競争力アライアンスPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.02MB)」が採択された(2025年7月29日付ビジネス短信参照)。これは、共通の価値観を有する国・地域として、経済安保、サプライチェーン強靭(きょうじん)性、脱炭素・循環経済、防衛産業、宇宙、バイオ、イノベーション創出などの主要な分野において日EU共同で競争力を戦略的に強化し、国際的な議論を主導することを目指したものだ。予算が大きく増額される見通しのFP10において、日本がHEに準参加することによって、日本企業がEUの豊かなイノベーション・エコシステムとともに、産業競争力の向上につながる中核技術を開発する幅も広がることが見込まれる。

  • 本稿に記載のジェトロ事業に関するお問い合わせ:
    E-mail: ldn_invest@jetro.go.jp(ロンドン事務所イノベーション担当部署)

注1:
EIC幹部に対するインタビュー(2025年10月)に基づく。 本文に戻る
注2:
日本企業と海外スタートアップなどによる国際的なオープンイノベーション創出のためのビジネスプラットフォーム。詳細はJ-Bridgeウェブサイトを参照。 本文に戻る

日本のEUホライズン・ヨーロッパ準参加

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(1)何が変わる

執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所 EMEA地域イノベーション戦略担当ダイレクター
蒲田 亮平(がまだ りょうへい)
2005年、ジェトロ入構。日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)事務局次席代表、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・バンコク事務所広域調査員、イノベーション部総括課長代理などを経て、2023年から現職。