競争力重視にシフトする欧州何が変わる
日本のEUホライズン・ヨーロッパ準参加(1)

2026年6月19日

日本は2025年12月、EUの研究開発支援枠組み「ホライズン・ヨーロッパ」への準参加の実質合意を発表した。今後、正式に準参加することで、日本に拠点を有する企業・機関は国際協力型研究の助成対象となる。個別の公募プロジェクトでは、加盟国に近い立場でより深い関与できる。これにより、日本企業・機関のEU研究開発への関与の在り方が大きく変わる見込みだ。前編となる本稿では、「ホライズン・ヨーロッパ」の制度概要と、準参加による日本企業のメリットを解説する。なお、本稿は正式署名前の2026年5月時点の情報に基づく。

ホライズン・ヨーロッパの3つの柱

ホライズン・ヨーロッパ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(Horizon Europe、HE)」は、EUの第9次研究イノベーション枠組みプログラム(FP9、2021~2027年)の名称だ。予算総額935億ユーロ(注1)を投じる、世界最大規模の国際協力型研究・イノベーション助成プログラムだ(注2)

HEのプログラムは、(1)卓越した科学、(2)世界の課題・欧州の産業競争力、(3)イノベーティブ・ヨーロッパの3つの柱で構成される(図1参照)。

図1:ホライズン・ヨーロッパの3つの柱
第1の柱は、卓越した科学。・欧州研究会議(ERC):最先端研究へのポスドク研究者向け助成。・マリーキュリーアクションズ:博士課程・ポスドクの研究者キャリア開発支援。・研究インフラ(RI):大規模研究インフラ・データ基盤の整備。第2の柱は、世界の課題・欧州の産業競争力。・6つのクラスター:次の分類で国際協力型研究を実施。1 健康。2 文化・創造性・包摂的な社会。3 社会のための市民の安全。4 デジタル・産業・宇宙。5 気候・エネルギー・モビリティー。6 食料・バイオエコノミー・天然資源・農業・環境。・共同研究センター(JRC):EU政策担当者向け科学的助言機関(シンクタンク)。第3の柱は、イノベーティブ・ヨーロッパ。・欧州イノベーションカウンシル(EIC):欧州最大のスタートアップ支援・投資機関。・欧州イノベーションエコシステム(EIE);欧州の優れたエコシステムの基盤強化プログラム。・欧州イノベーション技術機構(EIT):分野別にイノベーション能力強化を図る機関。

出所:日欧産業協力センター、研究開発戦略センター(CRDS)などを基にジェトロ作成

第1の柱は、EU域内に拠点を置く研究者・研究機関に対する支援で、最先端研究を行う若手研究者に対する助成や、研究者のキャリア開発支援などを行う。日本の研究者・研究機関も、EU域内の機関での研究活動や、EUでの研究グループ設立に向けた助成金を申請できる。

第2の柱では、EU政策および持続可能な開発目標(SDGs)を支える技術やソリューションを推進する、6つの社会的課題群(クラスター)を設定している(表1参照)。これらの分野における国際協力型研究への助成などを通じ、EUの技術力・産業競争力の強化や一国では解決できないグローバル課題の解決を図る。応募主体は、EU加盟国企業・機関を含む国際コンソーシアムとすることが、多くの公募で指定されている。7年間で525億ユーロの予算が投じられ、技術成熟度(TRL)の低い基礎・応用研究段階から、社会実装に向けた実証段階まで、多様な公募が設けられていることが特徴だ。日本の準参加の対象となる柱であり、詳細や応募方法は後述する。

第3の柱は、スタートアップの形成・スケールアップを含む、欧州域内のイノベーション・エコシステムの構築強化を図る柱だ。欧州イノベーションカウンシル(EIC)や欧州イノベーション・技術機構(EIT)などの活動、およびそれら機関による研究者・スタートアップなどの支援が含まれる。

準参加でEU域内企業・機関に近い条件で共同研究に参画可能に

HEは国際協力を重視しており、例えば第2の柱では、個別の公募要件によるものの、多くの場合は非EU加盟国の企業・機関も自己資金を投じるかたちで参加できる。それに対し、非EU加盟国が一定の条件の下、研究助成を含めEU加盟27カ国に近い立場でプロジェクト参加できるのが「準参加」という仕組みだ。準参加国は、2026年4月時点で以下の22カ国となっている(欧州委員会ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(表2参照)。2025年12月に日本の準参加国入りの実質合意が発表され(2025年12月26日付ビジネス短信参照)、正式な署名に向けた準備が進められている。EUはさらに、2026年2月にはインド(1月にFTA交渉を妥結)との間で、同年3月にはオーストラリアとの間でも準参加に向けた協議を開始している。

表2:ホライズン・ヨーロッパの準参加国(2026年4月時点)
カテゴリー 準参加国(associated countries)
(1)欧州自由貿易連合(EFTA)・欧州経済領域(EEA)加盟国 アイスランド、ノルウェー、スイス
(2)EU加盟候補国・潜在的加盟候補国 アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ジョージア、コソボ、モルドバ、モンテネグロ、北マケドニア、セルビア、トルコ、ウクライナ
(3)欧州近隣政策(ENP)対象国 アルメニア、エジプト、イスラエル、チュニジア
(4)経済、政治、研究・イノベーション体制に関する基準を満たす第三国・地域 カナダ、フェロー諸島、ニュージーランド、英国、韓国
準参加に向けた交渉中 日本、オーストラリア、インド

出所:欧州委員会・研究・イノベーション総局ウェブサイト

欧州からの準参加国の多くは、全ての柱への参加が認められているが、日本の準参加はカナダや韓国と同様、第2の柱「世界の課題・欧州の産業競争力」のみが対象となる。署名後、日本の企業・機関は第2の柱には準参加国として参加できるようになり、その他のプログラムには従来同様、第三国の立場で参加できる。2026年中に協定書に署名が行われるとの想定の下、日本の機関は既に2026年1月から、EUの2026年予算にひも付く公募に応募可能となっている。

日本の準参加によるメリット

(一財)日欧産業協力センター外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、2021年~2026年4月の間に、日本から175機関が140のプロジェクトに参加した。175機関の内訳は、大学が57%、研究機関が23%、企業が20%だった。テーマ別では、第1の柱で研究者のキャリア開発支援を行うマリーキュリーアクションズ関連が68%を占め、第2の柱の6つのクラスターへの参加は24%にとどまった。これまで、第2の柱の公募案件に第三国のパートナーとして参加する場合、補助金の助成を受けられないなど、資金や役割に制約があった。今回の準参加により、日本に拠点がある企業・機関であっても、例えばプロジェクトを主導・調整する「プロジェクトコーディネーター」の役割を担うことが可能になる。また、契約締結や助成金の申請・受給も可能となるなど、プロジェクトの中核的な役割を担い、加盟国に近い立場で研究開発により深く関与できるようになる。

また、EU加盟国・準参加国のみが対象となる公募にも参画可能になり、第三国としての参加に比べ、参画できる公募の幅が広がる。さらに、EUなどの最先端研究ネットワークへの参画、EUのルール形成への関与、EUの政策を早期に織り込むかたちでの市場参入準備などのメリットが期待できる。前述のとおり、日本が準参加する第2の柱は、基礎研究から応用研究、社会実装まで幅広くカバーしている。このため、類似した構想や技術を持つEU加盟国および準参加国の企業・機関とともに、研究の初期段階から国際標準化・実用化に向け取り組むことができる。また、欧州の知財権を準参加国へ譲渡・ライセンス供与することが可能になる。これにより、日本の企業・機関が参画するプロジェクトの研究成果を日本国内へ移転し、ビジネス活用をより円滑に進めることができる。

国際コンソーシアムによる応募が要件に

第2の柱の研究開発公募の多くは、異なるEU加盟国・準参加国から3機関・企業以上(うち1つ以上はEU加盟国内)の参画が応募要件となっている。そのため、公募に参画するには国際コンソーシアムの形成が必要となる。 公募(Call)の構造は以下のとおり。現在の公募に関わるものとしては、まず2025~2027年の中期計画にあたる「戦略計画(Strategic Plan)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」がある。横断で取り組むミッションエリアや戦略的方向性、インパクトを起こす分野を規定する。戦略計画に沿った2026~2027年の公募計画である「ワークプログラム(Work Programme)」では、戦略計画の期待されるインパクトに対応した目標(Destination)を定め、各目標の下で、公募(Call)が設定されている(図2参照)。

図2:研究開発公募の基本構造
1.戦略計画(Strategic Plan):中期計画(現行は2025~2027年版)。横断で取り組むミッションエリア、戦略的方向性とインパクトを起こす分野を規定。2.ワークプログラム(Work Programme):公募計画(現行は2026年~2027年版)。戦略計画に沿った目標(Destination)を定め、その中で個別の公募を行う。3.目標(Destination):インパクトを起こすべき分野に沿った目標を設定。各公募(Call)を行う根拠となる。4.公募(Call):コンソーシアム形式で公募申請。期待される成果、範囲、予算額などが詳細に明記。

出所:日欧産業協力センター、研究開発戦略センター(CRDS)などを基にジェトロ作成

公募の種類は、研究段階によって大きく2つに分かれる(注3)。研究・イノベーション・アクション(RIA)は基礎研究から応用研究段階、イノベーション・アクション(IA)は応用研究以降の段階を対象とする。EU域内または準参加国の法人として参画する場合、RIAでは助成対象となる必要経費(表3参照)の100%、IAでは70%の補助を受けられる。RIA、IAのいずれの公募の場合も、国際コンソーシアムによる申請が必須要件となる。

表3:助成対象経費(ーは記載なし)
経費
人件費 プロジェクト従事者の給与・社会保険負担金など
購入費 機器・資材・サービス購入・レンタル費、旅費・宿泊費、消耗品費、翻訳・出版費など
外部委託費 プロジェクトに必要な実際に発生した外部委託費
その他直接経費
間接経費 外部委託費を除く直接経費の25%の定率助成

出所:モデル助成契約書、Horizon Europeウェブサイトを基にジェトロ作成

自社に合致する公募の探し方

個別の公募案件(Call)は、EU補助金・公募ポータルでの個別検索か、各クラスターのワークプログラムを参照することで確認できる。以下では、一覧性の高いワークプログラムから自社の研究の方向性に合致する公募を探す方法を紹介する。

  1. 各クラスターのワークプログラムの目次から、目標(Destination)ごとの公募案件名を確認。
  2. 各ワークプログラムの冒頭部分にまとめて記載されている概要(Overview)部分から、公募アクションの種類(先述のRIA ・IAなどの分類)、予算額、公募期間などの基本条件を確認(図3参照)。
  3. 各公募の要領から、参画条件、プロジェクト終了時点で期待される技術成熟度(TRL)、期待される具体的成果などを確認(図4参照)。
図3:概要(Overview)部分の見方
実際のワークプログラムの概要(Overview)部分のスクリーンショット上に、各項目の解説を示している。(1)公募アクションの種類。本事例ではIA(イノベーション・アクション)。(2)予算総額(百万ユーロ)。(3)1件あたり予算額(百万ユーロ)。(4)助成予定のプロジェクト数。本事例では4件。(5)公募期間。(6)目標(Destination)分類。(7)公募案件名(以下リストが続く)。

注:ここではクラスター4(デジタル・産業・宇宙)を例に取る。
出所:欧州委員会「ワークプログラム2026-2027」を基にジェトロ作成

図4:各公募の見方
各公募の要領部分のスクリーンショット上に、各項目の解説を示している。(1)公募タイトル:デジタル化・AIを通じた化学品・革新的先端素材の発見・開発の加速。(2)応募要領。(3)参画条件。この事例では中国関連企業を除外。(4)プロジェクト終了時点で期待される技術成熟度。(5)期待される具体的成果イメージ。

注:ここではクラスター4(デジタル・産業・宇宙)を例に取る。
出所:欧州委員会「ワークプログラム2026-2027」を基にジェトロ作成

なおHEでは、個別公募などのプログラムに参加する企業・大学・研究者に対し、ガイダンスや具体的手続き情報を提供するナショナルコンタクトポイント(NCP)が国ごとに設定されている。日本においてNCPの役割を担っているのが、日欧産業協力センターである。同センターではNCPの機能として、(1)HEの関係する研究トピックスや公募探しの支援、(2)事務的手続きや契約関係に関する助言、(3)公募提案書記載方法に関する助言、(4)必要書式の紹介、(5)国際共同研究のパートナー探しの支援の5つを挙げている。例えば、EU補助金・公募ポータルからの検索方法については、日欧産業協力センターのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで詳述されているほか、直近の締め切りとなる公募の一覧外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます主な問い合わせに対する回答外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますも整理されている。参照いただきたい。後編では、今後の見通しや日本の企業・機関が参画に向けて受けられるサポートについて解説する。

  • Horizon Europeの公募選定、手続き関係、提案書記載に関する助言、必要書式の紹介について:(一財)日欧産業協力センター Horizon Europeナショナル・コンタクト・ポイント(NCP) 問い合わせフォーム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

注1:
EU予算には、物価上昇を考慮した現行価格(Current Prices)と、ある特定の年を参照した実質価格(Constant Prices)の2通りの表記がある。実際に配分される予算は現行価格に基づく。HEの予算は、2026年2月時点の現行価格で935億ユーロ。 本文に戻る
注2:
2026年現在構想が発表されている第10次研究イノベーション枠組みプログラム(FP10)においても、通称としてホライズン・ヨーロッパの名称が用いられる見通し。本稿では混同を避けるため、第9次研究イノベーション枠組みプログラム(FP9)をホライズン・ヨーロッパ(HE)、FP10はそのままFP10と表記する。 本文に戻る
注3:
公募の種類はIA、RIAのほかに、普及啓発、広報・ネットワーク構築、政策対話などを対象とするCSA(協力・サポート・アクション)がある。CSAは準参加国の1機関のみで応募可能で、経費の100%助成が可能。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所 EMEA地域イノベーション戦略担当ダイレクター
蒲田 亮平(がまだ りょうへい)
2005年、ジェトロ入構。日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)事務局次席代表、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・バンコク事務所広域調査員、イノベーション部総括課長代理などを経て、2023年から現職。
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課
川嶋 康子(かわしま やすこ)
2023年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2025年4月から現職。