欧州委、2兆ユーロ規模の次期MFF案を発表、産業支援予算を中心に増額
(EU)
ブリュッセル発
2025年07月22日
欧州委員会は7月16日、2028年から2034年までの次期中期予算計画(MFF)案を発表した(プレスリリース)。次期MFF案の総額は約1兆9,849億ユーロと、2021年から2027年までの現行MFFの1兆2,110億ユーロ(復興基金を除く)からの大幅増額となる。ただし、次期MFF案には復興基金の財源であるEU名義債券の償還分も含まれることから、実際の総額は1兆8,169億ユーロ程度とみられる。
MFFは、通常7年間にわたるEUの予算計画で、EUの政策優先度に応じ政策領域ごとに歳出の上限額を設定する。現行の欧州委は、域内産業の競争力強化(2025年2月6日記事参照)と防衛力の再構築(2025年3月21日記事参照)を最優先課題に掲げており、次期MFF案もこうした政策動向を反映したものとなった。
競争力強化に関する政策領域の中心となるのは、欧州競争力基金だ。同基金は、支援分野の重複や制度の複雑さなどが指摘されていた、多くの産業支援プログラムを統合するものだ。制度を集約することで、より効果的な産業支援と制度の簡素化を狙う。同基金の総額は、イノベーション基金からの追加分を含め4,508億ユーロ。支援分野の主な内訳は、クリーンエネルギーへの移行・脱炭素化に674億ユーロ、保健・バイオエコノミーに226億ユーロ、デジタル化に548億ユーロで、防衛・宇宙には現行MFFから約5倍増となる1,307億ユーロを配分する。また、研究開発支援枠組み「ホライズン・ヨーロッパ」については現行MFFからほぼ倍増の1,753億ユーロを割り当てる。
一方で、これまでMFFの約3分の2を占めてきた共通農業政策(CAP)と地域間格差是正策である結束政策への予算配分は合計で8,651億ユーロにとどまる。欧州委は加盟国ごとに受け取る額は現行MFFと変わらないとしているが、予算総額に占める割合は約半分に低下する。また、制度も刷新し、両政策を加盟国ごとに加盟国政府と地方政府などが共同で策定する国家・地域パートナーシップ計画(NRPP)のもとに統合する。復興基金と同様に、NRPPにはEUの優先課題に沿った投資・改革目標を含めることを求め、予算の支払いには欧州委の審査のもと投資・改革目標の達成に応じて行う成果型予算執行モデルを導入する。
欧州委は、次期MFF案を増額することを踏まえ、新たな独自財源も提案する。特に注目されるのは、域内で営業する企業のうち年間純売上高が1億ユーロを超える企業に対し負担金を求める「欧州のための企業リソース(CORE)」だ。ほかにも、EU排出量取引制度(EU ETS)の収益や炭素国境調整メカニズム(CBAM)の賦課金の一部をEU予算に組み込む案も提案する。
次期MFF案の成立には、全加盟国の承認と欧州議会の同意が必要だ。予算増額を巡る倹約派加盟国の反対や、制度改革による欧州委の影響力拡大を懸念する加盟国の反発が予想されることから、今後2年間にわたる審議は非常に困難なものになるとみられる。
(吉沼啓介)
(EU)
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