「次のフロンティア」アフリカを巡る世界各国・地域の動向貿易と経済連携
UAEのアフリカ展開(1)
2025年6月23日
アラブ首長国連邦(UAE)は、産油国として知られているが、現在、政府は石油依存からの脱却を目指し、産業多角化に取り組んでいる。2023年時点でGDPに占める石油部門の割合は25%程度で、残りは非石油部門だ。人工知能(AI)、イノベーション、食糧安全保障、再生可能エネルギーなど、政府が力を入れる産業は多岐にわたる。これらの産業成長戦略を進める上で、アフリカは重要なパートナーとして位置づけられていると言えるだろう。とりわけ、近年はアフリカの重要鉱物資源、農業分野のポテンシャル、再生可能エネルギーなどに期待するUAEのアフリカ展開が目立つようになってきた。
本稿では、UAEとアフリカの貿易および経済連携協定の枠組みについてレポートする。
アフリカ展開のゲートウェイとしてのUAE
UAEは地理的にアフリカに近く、さらに、アジア、欧州、中央アジアへの重要な結節点となっている。世界最大の国際旅客数を誇るドバイ国際空港や、アブダビ国際空港、物流ハブとなるアル・マクトゥーム国際空港を有する。ドバイの主要航空会社であるエミレーツ航空は2024年10月、アフリカ便の需要拡大を受け、ドバイ発で、ウガンダのエンテベ、エチオピアのアディスアベバ、南アフリカ共和国のヨハネスブルク行きの増便を発表した。アブダビ国際空港をハブとするエティハド航空もアブダビ発で、アディスアベバ、ヨハネスブルク、セーシェル、ケニアのナイロビ、モロッコのカサブランカ、アルジェリアのアルジェ、チュニジアのチュニス行きなどを増便し、アフリカへの航空移動において利便性が増している。海運を取り巻く環境についても、ドバイにある中東最大の港湾ジュベル・アリ港やアブダビのハリーファ港など大型の港湾を有することから、物流拠点として発展している。そのため、UAEをアフリカビジネスのゲートウェイと位置づけ、広域でアフリカ展開をしている企業の活動が見られる。日系企業もその例外ではなく、カシオ(2025年3月14日付地域・分析レポート参照)や日本光電工業(2020年8月31日付地域・分析レポート参照)などをはじめ、ドバイからアフリカビジネスを手掛けている企業も多い。さらに、北アフリカ地域はイスラム圏の国が多く、中東諸国と宗教的かつ文化的な親和性がある上に、アラブ連盟としてのつながりもあることから、UAEは政治的にも優位な環境にある。
アフリカの再輸出拠点としてのUAE
中継貿易拠点として発展するUAEは、アフリカ向けの再輸出拠点にもなっている。2023年のUAEの対アフリカ輸出額は非石油部門において、1,071億9,000万ディルハム(約4兆1,804億円、1ディルハム=約39円)で、うち同部門の再輸出額は648億2,000万ディルハムと、再輸出の割合が大きいことが特徴だ。アフリカからの輸入額は2,010億ディルハムであった。UAEの貿易額全体に占める割合は、非石油部門の輸出額が10.3%、同再輸出額が10.5%、輸入額が14.0%だった。
国別で見ると、アフリカで最大の輸出相手国はエジプトで、輸出額が166億1,000万ディルハム、そのうち再輸出額は101億2,000万ディルハムだった(表1参照)。主要輸出品は卑金属およびその製品、プラスチックおよびゴムならびにこれらの製品、主要再輸出品目は機械類・電気機器であった(表2参照)。次いで、南アフリカ共和国(南ア)が89億7,000万ディルハム、そのうち再輸出が52億7,000万ディルハムだった。主要輸出品は卑金属およびその製品、鉱物性生産品、再輸出の主要品目は機械類・電気機器、真珠・貴石・貴金属類であった。一方、最大の輸入相手国はギニアで332億3,000万ディルハム、次いで南アが184億5,000万ディルハム、マリが177億4,000万ディルハムの順だった。3カ国とも主要輸入品目は真珠・貴石・貴金属類であった。
なお、これら真珠・貴石・貴金属類の貿易構造について一例を挙げると、ドバイは世界屈指のダイヤモンド取引市場として知られており、ダイヤモンドや金専用のフリーゾーンも存在する。UAE国内で加工されたダイヤモンドが国内消費市場に出回るとともに、国外へも輸出される構造となっている。
国・地域 | 非石油部門輸出合計 | 非石油部門再輸出 | 輸入 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
金額 | 構成比 | 金額 | 構成比 | 金額 | 構成比 | |
エジプト | 16,611 | 1.6 | 10,120 | 1.6 | 8,877 | 0.6 |
南アフリカ共和国 | 8,972 | 0.9 | 5,272 | 0.9 | 18,445 | 1.3 |
ギニア | 1,046 | 0.1 | 547 | 0.1 | 33,228 | 2.3 |
マリ | 707 | 0.1 | 482 | 0.1 | 17,744 | 1.2 |
アフリカ合計 | 107,187 | 10.3 | 64,816 | 10.5 | 201,028 | 14.0 |
合計(その他含む) | 1,037,065 | 100 | 616,171 | 100 | 1,439,030 | 100 |
注:「FOB」「CIF」「CV」などの表示が出所のデータに記載なし。
出所:UAE連邦競争力・統計局統計データから作成
国 | 輸出 | 再輸出 | 輸入 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
品目 | 金額 | 品目 | 金額 | 品目 | 金額 | |
エジプト | 卑金属およびその製品 | 2,065 | 機械類・電気機器 | 6,286 | 真珠・貴石・貴金属類 | 3,737 |
プラスチック、 ゴム、ゴム製品 |
1,281 |
車両、航空機、船舶 および輸送機器関連品 |
1,572 | 機械類・電気機器 | 1,709 | |
南アフリカ共和国 | 卑金属およびその製品 | 2,742 | 機械類・電気機器 | 1,774 | 真珠・貴石・貴金属類 | 13,807 |
鉱物性生産品 | 222 | 真珠・貴石・貴金属類 | 1,518 | 植物性生産品 | 1,489 | |
ギニア |
調製食料品、飲料、 アルコール、食酢、たばこ |
264 | 機械類・電気機器 | 231 | 真珠・貴石・貴金属類 | 30,744 |
鉱物性生産品 | 85 |
車両、航空機、船舶 および輸送機器関連品 |
180 | 鉱物性生産品 | 2,476 | |
マリ | 鉱物性生産品 | 111 | 機械類・電気機器 | 281 | 真珠・貴石・貴金属類 | 17,743 |
真珠・貴石・貴金属類 | 52 |
車両、航空機、船舶 および輸送機器関連品 |
96 | 植物性生産品 | 1 |
注:「FOB」「CIF」「CV」などの表示が出所のデータに記載なし。
出所:UAE連邦競争力・統計局統計データから作成
包括的経済連携協定(CEPA)とBRICSの枠組みへの期待
UAEは、2024年1月にBRICSに加盟した。加盟の際にUAE政府は「UAEは多国間主義を支持し、BRICS、G20プロセスへの定期的な参加や国際会議の主催など重要な国際舞台に積極的に貢献することを信条とする」とコメントを発表した。UAEと同時に、アフリカからはエチオピアとエジプトが加盟した。また、新たに「パートナー国」の枠組みが導入され(2024年10月31日付ビジネス短信参照)、アフリカからはナイジェリアとウガンダが加入した。全方位外交を展開しているUAEは、従来、中国やロシアとも良好な関係性を構築してきている。UAEはBRICSを、貿易相手国としても、米国と中国の対立と一線を画した有力な地域と位置づけているとの見方もある。BRICSに軸足を置いたアフリカとの関係性深化の可能性も考えられる。
また、UAEは2021年に制定した「We the UAE 2031」ビジョンの戦略に基づき、2031年までに同国非石油部門の貿易総額を4兆ディルハムに引き上げ、そのうち非石油部門の輸出額を8,000億ディルハムに増加させることを目標としている。その一環で2021年以来、包括的経済連携協定(CEPA)締結の動きを拡大させており、2025年6月1日時点でアフリカのモーリシャスを含む10カ国とCEPAを発効している。また、ケニア、中央アフリカ、コンゴ共和国とはCEPAの署名を終えており、発効を待つ段階にあるほか、モロッコとは妥結、チュニジアとは新たに交渉を開始した。今後もCEPA締結拡大の勢いは増し、アフリカ諸国との交渉も進むと見られ、その効果による貿易拡大が期待されている。
- 注:
- 当時は、2023年11月の気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)の主催を念頭に発言。
UAEのアフリカ展開
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- 執筆者紹介
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ジェトロ・ドバイ事務所
清水 美香(しみず みか) - 2010年、ジェトロ入構。海外調査部中東アフリカ課、海外調査企画課、ジェトロ埼玉などを経て、2023年9月から現職。