「次のフロンティア」アフリカを巡る世界各国・地域の動向資源中心に共同事業が進行
アフリカへの再接近を狙うロシア(2)

2025年6月27日

ロシアは、貿易と投資を通じて、アフリカでの存在感を強化しようとしている。ジェトロの地域・分析レポート「アフリカへの再接近を狙うロシア(1)輸出拡大も小規模にとどまる」では、ロシア・アフリカサミットの開催を踏まえ、ロシアがどのようにアフリカにアプローチしているかを概観し、ロシア・アフリカ間の貿易動向を分析した。本稿では、まず、ロシアの対アフリカ投資の全体像を紹介した上で、特定のアフリカ諸国との協力分野について、詳細な情報を交えて解説する。また、ロシア企業のアフリカ展開を明らかにするとともに、アフリカで進行中、または完了した代表的なプロジェクト事例を取り上げる。

ロシア政府はアフリカ投資増にてこ入れ

国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計によると、ロシアはアフリカへの直接投資残高(2022年末)でトップ10に入っていない(トップ10はオランダ、フランス、米国、英国、中国、南アフリカ共和国、イタリア、シンガポール、ドイツ、スイス)。フランス外務省のアンヌ・クレール・ルレジャンドル報道官による「海外からアフリカへの直接投資総額に占めるロシアの割合は1%未満にとどまる」との発言もみられる中(「RBK」2023年7月17日)、ロシアは対アフリカ投資を増やす意向を鮮明にしている。アレクセイ・オベルチュク副首相によると、2025年にエネルギーや鉱業のプロジェクトに関心を持つ国内企業向けの投資ファンドを設立し、20億ルーブル(約36億円、1ルーブル=約1.8円)以上の民間資金を集める計画だという(「コメルサント」2024年12月4日)。さらに、下院は、2025~2027年の3カ年予算の中から、2025年にアフリカ投資プロジェクト支援に5億ルーブルを充てることを決定済みだ。

ロシアの貿易相手は一部に集中、中部アフリカとの連携は限定的

伝統的に、ロシアは北アフリカ諸国や南アとの関係に注力している。北アフリカに位置するエジプト、アルジェリア、モロッコ、チュニジア、リビア、そして南アがロシアのアフリカ大陸全体との貿易で、輸出の70%以上、輸入の50%以上を占める重要な市場となっている(表1)。中部アフリカに位置する国々との取引は限定的だ。

表1:ロシアの国別輸出入のうち、アフリカ上位6カ国(通関ベース)

(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値、-は値なし)
輸出
国・地域 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
エジプト 5,344 6,390 30.2 19.6
アルジェリア 1,706 3,749 17.7 119.7
モロッコ 1,804 2,115 10.0 17.2
チュニジア 752 1,805 8.5 139.9
リビア 556 1,459 6.9 162.3
南アフリカ共和国 493 501 2.4 1.7
アフリカ全体 14,802 21,153 100.0 42.9
輸入
国・地域 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
エジプト 793 752 22.4 △ 5.1
アルジェリア 9 16 0.5 83.9
モロッコ 263 273 8.1 3.9
チュニジア 120 134 4.0 11.0
リビア 0
南アフリカ共和国 833 767 22.9 △ 8.0
アフリカ全体 3,088 3,355 100.0 8.7

出所:連邦税関局「ロシア連邦貿易通関統計年鑑」2023年版

貿易以外の具体的な協力分野についていえば、ロシアはアフリカ諸国との間で、資源開発やエネルギー分野のほか、インフラ整備、軍事技術などでの協力に重点を置いて活動している。近年注目されている協力分野では宇宙だ(表2)。ロシアの宇宙開発公社ロスコスモスにとって、アフリカの宇宙市場は、西側の顧客離れを補う新たな機会となっている。2024年11月5日、ロシアとジンバブエが共同開発したナノ衛星「ZIMSAT-2」が地球周回軌道に打ち上げられた。南アとの間では、BRICS参加国間の戦略的科学技術協力の枠組みでの旗艦プロジェクトの1つの「BRICS高知能望遠鏡・データネットワーク」の構築が進められており、今後10年以内の実現を目指す。

表2:ロシアの主要なアフリカのパートナー国と協力分野(五十音順)
国名 インフラ エネルギー 安全保障 宇宙 観光 科学技術 教育 鉱物資源 穀物の供給 軍事技術協力 政治 貿易
アルジェリア
アンゴラ
エジプト
エチオピア
エリトリア
ジンバブエ
スーダン
中央アフリカ共和国
チュニジア
ナイジェリア
ニジェール
マリ
南アフリカ共和国
モロッコ

注:〇はあり。
出所:政治経済メディア「フズグリャド」(2023年8月16日)からジェトロ作成

ただし、アフリカ内にロシアに批判的な国も少なくない。ケニアは2023年のロシア・アフリカサミットへの参加を見送った。同国はロシアが穀物取引から撤退したことを批判している。西側諸国の影響を受けているといわれるリベリアやシエラレオネ、ボツワナも、同サミットに参加しなかった。コートジボワールのように、フランスとの関係を重視しつつ、ロシアとの経済協力を進めようとしている国もある。全体的にみて、ロシアのアフリカへの政治的、経済的影響力の拡大には、西側諸国の同地への影響力の強さが障壁となっている(「フズグリャド」2023年8月23日)。

制裁下でも、ロシアは食糧・資源・原子力のプロジェクト継続

アフリカ市場で積極的に事業を展開するロシア企業の中には(表3)、食糧安全保障への貢献を目指して、肥料の生産を手掛けるフォスアグロやウラルヒム、穀物商社のアストンや統一穀物会社が際立っている。地質調査や鉱物資源採掘の分野では、ルクオイル、ロスネフチ、レノバが中心的な役割を果たし、積極的に事業を推進している。ルスアルはギニアで最大級の外国投資家として活躍している。検索最大手のヤンデクスはアフリカのIT市場での地位を強化中だ。

アフリカでの原子力発電所の建設プロジェクトは、地域のエネルギー需要増大と持続可能な経済発展を支えるために欠かせない。ロシアの国営ロスアトムはエジプトのエルダバ(El Dabaa)原子力発電所の建設プロジェクトに取り組む。完成すれば、総出力4,800メガワット(MW)を誇るアフリカ最大規模の原子力施設となり、同国のエネルギー供給の安定化と経済成長に貢献することが期待される。ロスアトムは原子力発電分野だけでなく、子会社の「ロスアトム・再生可能エネルギー」がマリで200MWの太陽光発電所を建設している。同社はアフリカ諸国に対し、技術主権確立のためのプロジェクトを提案している点が特徴的だ。これらのプロジェクトは、人材育成からアフリカでの企業設立、技術導入まで、全ての工程を網羅している(「タス通信」2023年7月23日)。

表3:ロシア企業が関わるアフリカでの主要プロジェクト(開始年順)
プロジェクト 対象国 概要、補足情報 ロシア企業 開始年
石油(炭化水素)の採掘 エジプト、カメルーン、ガーナ、コンゴ共和国、ナイジェリア 資源が集中する大陸西部でのプロジェクト ルクオイル 1995
ボーキサイトの採掘 ギニア ルスアルの系列会社フリギアがアルミナ工場を運営 ルスアル 2001
マンガン鉱石の採掘 南アフリカ共和国 南アフリカ共和国のマジェスティック・シルバー・トレーディングと共同で事業を展開 レノバ 2005
金の採掘 ギニア、ブルキナファソ ノルド・ゴールドによるアフリカ向け投資額は20億ドルを超えている ノルド・ゴールド 2008
原子力エネルギー分野での協力 ザンビア
ルワンダ
原子力の平和的利用に向けた技術移転と施設整備を目的とした共同プロジェクト ロスアトム 2017
ダイヤモンドの採掘 ジンバブエ ダイヤモンド採掘のための合弁会社「アルロサ(ジンバブエ)リミテッド」を設立 アルロサ 2018
鉄道車両の供給 エジプト 車両1,350台の供給、保守・メンテナンスサービスの提供 トランスマッシュホールディング 2018
配車サービス「ヤンゴ」 アフリカ諸国11カ国(コートジボワール、エチオピア、モロッコなど) ヤンデクスがアフリカを含む国外で展開するタクシーサービス。ロシア国内では「Yandex Go」の名称で事業を展開している ヤンデクス 2018
炭化水素の採掘 モザンビーク ロスネフチの持ち分は20%。ほかはエクソンモービル(40%)などが保有 ロスネフチ 2018
アンモニア・尿素製造プラントの建設 アンゴラ 化学肥料生産設備の導入により現地農業の発展を支援 ウラルヒム 2019
エルダバ原子力発電所の建設 エジプト 総出力4,800メガワットを誇るアフリカ最大規模の原子力発電施設 ロスアトム 2022
石油製品パイプラインの建設 コンゴ共和国 合弁会社が設立され、ロシア側の持分は90%となる予定 ZNGSプロメテイ 2024

出所:各種公開情報からジェトロ作成

このほか、イノベーション分野では、ロシアのスコルコボ基金が、アフリカとの間で多角的な協力プロジェクトを展開している。例えば、同基金が運営するイノベーション拠点「スコルコボ・イノベーションセンター」に入居するラピド・ビオが開発したエクスプレス検査キットは、南アやナイジェリア、ザンビア、ケニアで提供されている。また、ロシア側は、アフリカを消費国としてだけでなく、技術の供給国としても重要視している。2024年のスコルコボによるグリーンテック分野のアクセラレーションプログラムでは、エチオピア企業が決勝進出を果たした。土壌品質を測定する装置とアプリケーションを開発する同国のオミシュツジョイ・テック・ソリューションズはスコルコボが主催する外国スタートアップ向けプログラムに参加していた。

このように、ロシア企業・団体によるアフリカとの共同事業の事例は多いが、対ロ経済制裁の影響により、さまざまな課題に直面している。例えば、アンゴラが制裁対象となっているロシア企業との協力の将来性に懸念を示したことから、ダイヤモンド大手アルロサは41%の持ち分を有する現地のダイヤモンド採掘企業カトカの株式を、オマーンの国営ファンドのマーデン・インターナショナルに譲渡せざるを得なかった(「インターファクス通信」2024年11月29日)。

貿易と投資の分野でロシアは、中国や欧州と比べると、アフリカでの存在感は限定的だ。歴史的な連携を背景に、いまだに欧州がアフリカにとって主要な貿易相手国、投資元国となっている。ロシアはアフリカへの投資拡大を狙いながらも、一部の国やプロジェクトに努力が集中している。また、経済制裁の影響も強く受けている。

アフリカ大陸はロシア企業にとって、長期投資先として非常に魅力的な市場だ。特にインフラ整備やエネルギー分野での協力は、双方にとって多大な利益をもたらす可能性がある。単なる商品の取引にとどまらず、人材育成や技術の輸出などを通じてアフリカ諸国の主権の発展にも寄与しようとしている。

アフリカへの再接近を狙うロシア

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執筆者
ジェトロ調査部欧州課