「次のフロンティア」アフリカを巡る世界各国・地域の動向輸出拡大も小規模にとどまる
アフリカへの再接近を狙うロシア(1)

2025年6月26日

アフリカ諸国でのロシアに対する評価は、冷戦期に旧ソ連が、植民地主義に反対するアフリカ各国での運動を支援したという歴史的背景と深く結びついている。1980年代半ばまでに、ソ連からの専門家参加のもと、アフリカ各地で330以上の大規模なインフラおよび産業施設が建設された。これらには発電所や灌漑システム、工場、農業関連施設が含まれる。ソ連崩壊後、ロシアの財政状況の悪化ならびに欧米との協力を重視するアフリカ諸国の路線変更の影響により、ロシア国内でのアフリカに対する関心は著しく低下した。しかし、2010年代後半にその関心が再び高まり、2019年と2023年にロシア・アフリカサミットが開催された。

ロシア・アフリカサミット、新たな協力段階の幕開け

2023年3月31日にウラジーミル・プーチン大統領が承認した「ロシア連邦の外交政策の構想」に基づき、ロシアは先進国による新植民地政策が生む社会経済的不平等を解消し、より公正で多極的な世界の実現をアフリカ諸国と共に模索している。2016年時の外交政策構想と比べ、アフリカの役割が大幅に強化されたうえで、各国の主権と独立の確保、安全保障分野での協力、そして「アフリカの諸問題はアフリカで解決すべき」という原則に則した民族間の武力衝突の解決などへの支援が進められている。また、ロシア側はアフリカ連合(AU)などの枠組みを活用し、2国間および多国間協力を推進するほか、貿易投資の拡大、科学技術協力や人材育成、医療体制強化、異文化間対話や伝統的価値観の保護、信仰の自由の尊重といった多岐にわたる分野でアフリカとの連携も深めている。人材育成では、2025年4月23日にモスクワ市内で開催された「ロシア・アフリカ青年フォーラム」における、ロシア科学・高等教育省国際科学技術協力・統合課のワジム・スシチク課長の話によると、ロシアでは現在3万人を超えるアフリカ人学生が学んでおり、そのうち9,000人はロシア政府の奨学金で学んでいる。

ロシアがアフリカ諸国との連携強化を狙って、2019年10月にロシア南部のソチで開催した第1回ロシア・アフリカサミット(以下、サミット)には、アフリカ54カ国の代表(うち45カ国から首脳級)が参加した。プーチン大統領とAU議長(当時)のアブドゥルファッターハ・エルシーシ・エジプト大統領が共同議長を務め、政治・経済・安全保障・文化分野での協力基盤の構築について議論を交わした。サミット期間中に、92件の合意が締結されている(2019年10月31日付ビジネス短信参照)。2023年7月にロシア第2の都市サンクトペテルブルクで開催された第2回サミットでは、政治・安全保障・経済分野での包括的かつ対等な協力関係強化のための首脳会議宣言や行動計画が採択され、プーチン大統領は穀物供給拡大など新たな支援策を発表した。ただし、第2回サミットにおける首脳級参加国の数は第1回の45カ国から17カ国と大幅減となった(2023年8月2日付ビジネス短信参照)。サミットは、3年に1度の定例開催が決まっており、次回は2026年に予定されている。先述の「ロシア・アフリカ青年フォーラム」では、次回のロシア・アフリカサミットにおいて、ロシア側から両地域の若者の絆を深める「若者の日」を設ける提案が出された。

2026年に第3回サミットも控える中、ロシア外務省は2025年1月13日、省内にアフリカ連携局を新設した。同局はサミットの準備に加え、2国間協力にとどまらず、AUなどのアフリカ地域組織との協力を推進する。外務省は、これまで欧米諸国との協力に投入していたリソースを再配分し、アフリカを含む世界の多数派の国々との外交協力に注力し始めている。

アフリカ向け輸出が増加も、輸出偏重の不均衡状態

西側諸国から経済制裁を受ける中、ロシアはアフリカを含むグローバルサウスとの貿易拡大を目指している。ロシアのアフリカ向け輸出は、2022年の148億200万ドルから2023年に211億5,300万ドル(前年比42.9%増)、2024年には242億6,400万ドル(同14.7%増)に達し、シェアも2023年の5.0%から2024年は5.6%に拡大している(表1参照)。 その一方で、ロシアのアフリカからの輸入は2022年30億8,800万ドルから2023年に33億5,500万ドル(同8.6%増)、2024年に34億7,100万ドル(同3.5%増)と、輸出に比べれば増加幅は小さい(表2参照)。2024年のロシアの対アフリカ貿易総額のうち輸出入の割合を見てみると、ロシアからの輸出が全体の87.5%を占めるのに対し、輸入はわずか12.5%。ロシアとアフリカの貿易は、ロシアからの輸出に大きく偏っている。ロシア経済発展省のドミトリー・ボリワチ次官は、一方向の輸送を行っている運輸・物流企業の状況を改善させるためにも、両地域間の貿易の不均衡の是正に取り組んでいると述べている(2024年11月9日)。しかし、ロシアからの輸出は増加の一途をたどり、貿易総額を押し上げている。

表1:ロシアの主要地域別輸出(通関ベース)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
地域 2022年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 構成比 伸び率
欧州 265,629 85,897 20.2 △ 67.7 68,394 15.8 △ 20.4
アジア 290,434 306,025 72.0 5.4 329,204 75.9 7.6
アフリカ 14,802 21,153 5.0 42.9 24,264 5.6 14.7
米州 20,545 12,080 2.8 △ 41.2 11,881 2.7 △ 1.7
オセアニア 282 7 0.0 △ 97.4 6 0.0 △ 22.2
合計(その他含む) 592,487 425,290 100.0 △ 28.2 433,924 100.0 2.0

出所:連邦税関局

表2:ロシアの主要地域別輸入(通関ベース)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
地域 2022年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 構成比 伸び率
欧州 89,509 78,531 27.5 △ 12.3 73,074 25.8 △ 6.9
アジア 145,155 187,643 65.8 29.3 191,177 67.6 1.9
アフリカ 3,088 3,355 1.2 8.6 3,471 1.2 3.5
米州 16,844 15,031 5.3 △ 10.8 14,758 5.2 △ 1.8
オセアニア 397 166 0.1 △ 58.2 123 0.0 △ 26.2
合計(その他含む) 255,305 285,278 100.0 11.7 283,003 100.0 △ 0.8

出所:連邦税関局

アフリカからみて、貿易額(2023年)を国別に比較すると(表3参照)、欧州と中国が主要貿易パートナーとしての地位を確立している一方で、ロシアのシェアは依然として低い状況にある。アフリカへの輸出において、ロシアが台頭してくることは中国にとって脅威となるだろうか。在ベルリン・カーネギー・ロシアユーラシア・センターのビタ・スピワク客員研究員(当時)は、同センターが2019年10月24日に公表した論文の中で、「ロシアはアフリカ大陸における影響力の規模で中国に太刀打ちできないため、ロシアによる対アフリカ戦略の強化の試みは中国にとって特に懸念されるものではない」と述べている。

表3:アフリカの主要国・地域別輸出入総額(単位:100万ドル、%)
国・地域 2023年 構成比
EU27 382,961 28.3
中国 212,181 15.7
インド 69,949 5.2
アラブ首長国連邦 69,666 5.1
米国 62,408 4.6
南アフリカ共和国 45,458 3.4
トルコ 31,502 2.3
英国 28,962 2.1
サウジアラビア 26,749 2.0
スイス 22,084 1.6
ブラジル 20,750 1.5
シンガポール 19,684 1.5
日本 18,867 1.4
ロシア 15,929 1.2
総額(その他含む) 1,353,171 100.0

出所:TradeMAPからジェトロ作成(注)

ロシアのアフリカ向け輸出品目の約90%は、原油や石油製品、穀物、肥料、各種金属および同製品で構成されている(表4参照)。アフリカからの輸入は、農産物(果実、ココア、コーヒー)や鉱物資源が主だ(表5参照)。

西側諸国による対ロシア経済制裁(2022年)の影響により、ロシアはアフリカ諸国への穀物供給や資金援助が困難になったが、ロシア穀物輸出・生産者連盟会会長のドミトリー・セルゲーエフ氏は、ロシアの輸出業者はすでに新しい状況に適応していると述べている(「インターファクス通信」2025年5月30日)。ロシア農業省傘下の連邦農業輸出センター「アグロエクスポート」広報部のデータによると、2024年のロシアの農業輸出はアフリカ向けに70億ドルを超え、前年より19%増加した。エジプトがアフリカで最大の輸入相手国で、その他の主要な国はアルジェリア、リビア、ケニア、チュニジアだった。農業輸出の主な品目は約87%が小麦、大麦、トウモロコシなどの穀物が占めた。ロシア産小麦のアフリカへの輸出量は増加している。2023/2024穀物年度(2023年7月~2024年6月)の輸出量は2,120万トンで、前年度比20%増加した。

一方、金融面では依然として課題が残っている。ロシア外務省のタチアナ・ドワガレンコ・アフリカ連携部長は、対ロシア経済制裁により、2024年にザンビア、ジンバブエ、モザンビーク、ナミビア、ニジェール、スーダンなどのアフリカ諸国への食糧援助を目的とした資金を送ることができなかった、と述べている(「ノーボスチ通信」2025年2月20日)。

表4:2023年のロシアの対アフリカ主要品目別輸出
HSコード_品目 2023年
金額 構成比
1~11、16~24_食料品 4,975 33.5
階層レベル2の項目10_穀物 4,568 30.8
12~15_油脂その他の動植物生産品 568 3.8
84~91_機械機器 324 2.2
28~40_化学品 1,087 7.3
階層レベル2の項目31_肥料 857 5.8
25~27、41~63、68~83_その他原料およびその製品 7,893 53.1
階層レベル2の項目27_鉱物性燃料など 6,335 42.7
階層レベル2の項目72~83_卑金属及びその製品 1,114 7.5
階層レベル3の項目72_鉄鋼 776 5.2
64~67、92~97_雑製品 3 0.02
98~99_その他 2 0.02
合計 14,853 100.0

出所:TradeMAPからジェトロ作成(注)

表5:2023年のロシアの対アフリカ主要品目別輸入
HSコード_品目 2023年
金額 構成比
1~11、16~24_食料品 919 85.4
階層レベル2の項目8_食用の果実及びナット 580 53.9
階層レベル2の項目9_コーヒー、茶 58 5.4
階層レベル2の項目18_ココア及びその調製品 58 5.4
12~15_油脂その他の動植物生産品 26 2.4
84~91_機械機器 41 3.8
28~40_化学品 35 3.2
25~27、41~63、68~83_その他原料およびその製品 52 4.8
階層レベル2の項目25~27_鉱物性生産品 12 1.1
64~67、92~97_雑製品 4 0.4
98~99_その他 0 0.0
合計 1,077 100.0

出所:TradeMAPからジェトロ作成(注)

ロシアのアフリカとの関係は、ソ連時代にさかのぼる。現在、政治・経済にはじまり、安全保障、文化や人道分野にまで広範囲での協力関係が進展する。西側の対ロシア経済制裁の発動が契機となり、ロシアはアフリカ市場開拓への関心を一層高め、現地では徐々に存在感を増している。輸出は増加傾向にある。その一方で、アフリカにとっては欧州と中国が依然として最大のパートナーであり、ロシアの同地域への影響力は限定的である。ロシアが対アフリカ戦略を強化したとしても、中国に対する実質的な脅威とはならないと結論づけられる。


注:
ロシアは2022年以降、具体的な貿易統計を公表していないことから、本稿では相手国側のデータ(ミラーデータ)を用いた。そのため、相手国が貿易統計データを公表していない場合には本表には反映されていない。

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執筆者
ジェトロ調査部欧州課