「次のフロンティア」アフリカを巡る世界各国・地域の動向アフリカへの戦略的投資事例
UAEのアフリカ展開(2)
2025年6月23日
産油国として知られているアラブ首長国連邦(UAE)では、現在、政府が石油依存からの脱却を目指し、産業多角化に取り組んでいる。政府が進める産業成長戦略においては、アフリカが重要なパートナーとして位置づけられているといえる。連載前編の(1)では、UAEとアフリカの貿易や経済連携協定について概説した。後編となる本稿では、UAEによるアフリカへの投資事例について取りあげる。
UAEのアフリカ向け投資が拡大
UAEからアフリカ向けの投資額はここ数年で伸びており、グリーンフィールド投資額を見ると、2024年は約410億ドルで、2019年からの5年間で7.7倍に増えている(図参照)。

出所:fDi Markets(Financial Times)からジェトロ作成
UAEによる大規模投資案件として驚きを持って報道されたのが、2024年にアブダビ首長国の政府系投資会社ADQがエジプトのラス・アルヘクマの都市開発に350億ドルを投資すると発表したことだ(2024年2月27日付ビジネス短信参照)。エジプトの対内直接投資金額としては過去最大規模となった。同地は地中海に面した風光明媚(めいび)な都市で、エジプト屈指の観光地の1つとして知られている。そこへ、観光施設、金融センター、フリーゾーン、住宅、商業施設などを建設する計画だ。
資源分野では、エミレーツ・グローバル・アルミ(EGA)が2024年6月に、ギニアのボーキサイト鉱山やアルミ精錬施設の開発への投資を発表した。さらに、UAE政府は2023年には、コンゴ民主共和国(DRC)の国営鉱山会社サキマと鉱山開発のパートナーシップ協定に署名。投資額は19億ドルに上るという。同国はコバルト、スズ、タンタル、銅、金など豊富な鉱物資源を有することで知られており、重要鉱物資源の確保のための戦略的な投資とも見て取れる。
農業分野では、UAEが課題とする食糧安全保障の面で、肥沃(ひよく)なアフリカの土地を活用する動きが出ている。亜熱帯乾燥地帯であるUAEは、農業部門のGDP寄与率が0.1%にとどまり、食料の90%を輸入に依存している。食糧安全保障の観点から食料自給率の向上とともに安定的な食料調達ルートの拡大が急務であり、農業開発を目的にアフリカへ進出している。ADQのパートナー企業であるUAEのアル・ダハラはモロッコ、エジプト、ナミビア、南アフリカ共和国で農場を運営する。2023年には、UAEのエリート・アグロ・プロジェクト(EAP)が、エチオピアに小麦農場、ウガンダに紅茶工場の設立を計画している、と報道された。プロジェクト案では、収穫の一部をUAEに輸出し、残りをエチオピア国内で販売するための地元政府との協定を含むものであった。同年、ドバイ大手投資会社ドバイ・インベストメンツとアブダビのアグリビジネス投資会社E20インベストメントは、アンゴラで3,750ヘクタールの農地開発に関する覚書(MOU)に調印した。アンゴラの肥沃な土壌と良好な気候条件を活用し、ピーク時にはコメ2万8,000トン、アボカド5,500トンの生産を見込んでいる。
イノベーション分野においては、直近で2024年5月に、UAEの政府系AI(人工知能)関連企業であるG42が、米国のマイクロソフトと共同で、ケニアのオルカリアにデータセンターを設立すると発表した。投資額は10億ドルに及ぶ。地熱エネルギーで知られる同地の特性を生かし、データセンターも地熱のみで運営されるという。また、2025年には、アブダビの暗号資産採掘事業を手掛けるフェニックス・グループが、エチオピアでのビットコイン採掘事業を拡大し、採掘に必要となる電力を確保するために、エチオピアで80メガワット規模の電力購入契約を締結した。データセンター、AI、クリプト(暗号資産)などはUAEが力を入れている産業であり、今後さらなるアフリカ展開が期待されるだろう。
アフリカの脱炭素支援にコミットし、再エネ推進を狙う
再エネ分野においては、アフリカの脱炭素支援にコミットし、再エネ分野での躍進を狙っている。UAE政府は2022年、2035年までにアフリカ大陸の1億人に再エネによる電力を提供することを目標にした基金「エティハド7」を立ち上げた。これにより官民から資金調達をし、プロジェクトを推進することが目的で、UAEの再エネ関連企業のアフリカ進出がさらに後押しされた。
UAEの再エネ関連企業であるマスダールは2022年、エジプトでの大型の陸上風力発電施設計画、セーシェルでの太陽光発電プロジェクト計画を発表した。2023年には、コートジボワールでの太陽光発電プラント開発、エチオピアでの太陽光発電所2カ所の開発計画、ザンビアでの太陽光発電所開発計画をそれぞれ発表した。また、同年にケニアで開催されたアフリカ気候サミットでは、アフリカでのクリーンエネルギー事業に100億ドルの投資を約束し、2030年までにアフリカで10ギガワット規模の発電施設建設の方針を表明した。2023年12月にドバイで開催された国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では、アフリカでの再エネ開発を加速するべく、アンゴラ、ウガンダ、コンゴ共和国、ケニア、モザンビークとパートナーシップ協定を締結。2024年5月には、エジプトの再エネ関連企業であるインフィニティ・パワーと共同で風力発電計画の契約を締結している。
マスダール以外にも、UAEの再エネ関連企業の活動は活発で、ドバイの再エネ関連企業アメア・パワーは2025年1月に、エジプトで独立型バッテリーエネルギー貯蔵システムを建設する計画を発表した。投資総額は3億5,000万ドルに上る。同社はエジプトで再エネ事業を拡大しており、2024年12月にはエジプト南部で太陽光発電所を稼働させたほか、2022年にはグリーン水素の生産およびアンモニア輸出関連プロジェクトのMOUをエジプト政府と締結している。アブダビ国営石油会社(ADNOC)の投資会社であるXRGと英国の石油大手BPは2024年12月、エジプトで天然ガス事業を手掛ける合弁会社を設立した。XRGは低炭素エネルギーに特化した投資会社で、当事業でエジプトにおける低炭素の天然ガスの生産・供給を目指すとしている。また、UAEとエジプト政府は、再エネ事業や工業地帯開発などにおけるパートナーシップ強化の協定に調印している。エジプトにおける再エネ発電施設の拡大やそれらを取り巻く産業プロジェクト立ち上げを目指し、太陽電池工場、ソーラーパネル工場、蓄電池工場、太陽光発電所の建設などが計画に含まれている。アブダビ国営エネルギー会社(TAQA)はサウジアラビアのアクワ・パワー(ACWA Power)と共同で、2025年にモロッコにおける270億ドル規模のグリーン水素プラント開発プロジェクトを決定した。また、子会社のTAQAモロッコも、モロッコにおける電力および水道開発プロジェクトに参画しており、2030年までに最大140億5,000万ドルの投資を予定している。
アフリカでも港湾企業が多角化経営
港湾オペレーション会社の多角化経営とアフリカでの展開も活発に見られる。ドバイ・ポーツ・ワールド(DPワールド)は、港湾施設や経済特区、物流施設、海運サービスなどを提供しており、UAE国外での展開も積極的に進めている。アフリカでは、アルジェリア、アンゴラ、ボツワナ、ジブチ、エジプト、ガーナ、ケニア、モザンビーク、ナミビア、ナイジェリア、ルワンダ、セネガル、ソマリア、南アに展開している。これらの展開の一例を挙げると、2023年にタンザニアのダルエスサラーム港の一部運営権を取得し、最大10億ドルを投じて同港の近代化に取り組んでいる。また、ソマリアのベルベラ港にベルベラ経済特区(BEZ)を新設し、同社が運営するドバイのジュベル・アリ・フリーゾーン(JAFZA)と連携して、双方を通じた登録や施設利用などの特典を付与している。また、南アの金融大手スタンダード銀行とアフリカ企業の貿易金融支援を目的に提携し、トレードファイナンス(輸出入に必要な資金の融通)のプラットフォームとサービスを提供している。貨物輸送資金を必要とするアフリカ企業がDPワールドのデジタルプラットフォームを通じて融資の申請をすると、一定の審査と手続きのもとでスタンダード銀行から資金を調達できる仕組みだ。さらに、直近では2025年に、DRCでの港湾開発も進行中で、同社のアフリカ進出は加速度的に進んでいる。
アブダビの港湾運営会社アブダビ・ポーツ(ADポーツ)も同様に、エジプト、コンゴ共和国、アンゴラ、タンザニアなどで港湾施設や経済特区、物流施設を運営するほか、海運サービスも提供している。2023年には、アンゴラでの港湾・海運サービスの開発を決定した。アンゴラは天然資源を活用した経済成長を目指しており、その上で港湾インフラの近代化を必要としていた。同年、コンゴ共和国の港湾ターミナルの管理および運営契約も締結。コンテナや貨物をハンドリングする施設開発およびメンテナンスも手掛ける。さらには、2024年には、エジプトのサファガ港のターミナル建設および運営に関する契約を締結し、エジプトでグリーンメタノールの貯蔵管理施設の建設を発表した。その他、2025年5月にはUAEの医療サービス大手ブルジールと、アフリカの医療物資輸送を取り巻く環境整備を目的とした合弁会社を設立するなど、多角的な展開をしている。
特筆すべきは、これらの前述のUAE企業はほとんどが政府系企業であることだ。つまりは、一民間企業のビジネス展開ではなく、国家成長戦略を具現化する形でこれらの政府系企業がアフリカに展開をしていると捉えることができるだろう。
UAEのアフリカ展開
シリーズの次の記事も読む

- 執筆者紹介
-
ジェトロ・ドバイ事務所
清水 美香(しみず みか) - 2010年、ジェトロ入構。海外調査部中東アフリカ課、海外調査企画課、ジェトロ埼玉などを経て、2023年9月から現職。