「次のフロンティア」アフリカを巡る世界各国・地域の動向デジタル領域に注目(シンガポール)

2025年7月3日

シンガポールとアフリカとの間の近年の経済関係を見ると、シンガポールのリベリア船籍向けを中心とした輸出が活発だ。シンガポールからのアフリカ向け対外直接投資の動きは足元では弱いものの、資金の出し手としてのシンガポールの役割、さらにはデジタル領域に着目した動きが見て取れる。(注1)

貿易・投資統計から見るシンガポール・アフリカ関係

シンガポールとアフリカの経済関係を貿易額および直接投資額で見ると、アフリカ向けの財輸出とアフリカからのサービス輸入は、対世界を上回るスピードで成長した。

2023年のシンガポールから世界向けの輸出額は2019年と比べて1.2倍だった(表1)。これに対し、シンガポールからアフリカ向けは1.5倍だった。とくに地場輸出(自国生産による財輸出で、再輸出を除く)が1.6倍と、再輸出を上回った。

表1:シンガポールの貿易・直接投資状況
貿易・直接投資 2019年 2023年
対世界 対アフリカ 対世界 対アフリカ
金額
(億S$)
金額
(億S$)
金額
(億S$)
2019年比
(倍)
金額
(億S$)
対世界
〔構成比(%)〕
2019年比
対世界との比較
(1)貿易(財)輸出 5,325 79 6,384 1.2 118 1.9 1.5 +
階層レベル2の項目地場輸出 2,516 64 2,851 1.1 100 3.5 1.6 +
階層レベル2の項目再輸出 2,809 15 3,534 1.3 19 0.5 1.2
(1)貿易(財)輸入 4,897 55 5,673 1.2 49 0.9 0.9
(1)貿易(サービス)輸出 3,072 45 4,810 1.6 65 1.4 1.5
(1)貿易(サービス)輸入 2,856 40 4,381 1.5 84 1.9 2.1 +
(2)直接投資(ストック)対外 10,934 297 15,233 1.4 269 1.8 0.9
(2)直接投資(ストック)対内 19,133 294 28,431 1.5 280 1.0 1.0

注1:1シンガポール・ドル(S$)=109円で算出(2025年4月末時点)。
注2:端数処理しているため、足し上げなどが合わない箇所がある。
注3:「サービス貿易」の国・地域別のデータ、また「対内直接投資(ストック)」も併せて取得可能な2023年までのデータを掲載。
出所:シンガポール統計局とシンガポール通貨金融庁資料から作成

シンガポールのアフリカ向けの財の地場輸出を2024年までの20年の中長期で見ると、2022年に最高額を記録(図1)。2023年には前年水準を下回ったが、2024年には回復し、2005年以降で2番目となる水準に達した。近年の地場輸出の増減に大きく寄与しているのが、リベリア向けの輸出だ。国際港湾のなかでも貨物取扱量が多いシンガポールに寄港するリベリア船籍用の燃料や船内消費用に積み込まれる商品が、シンガポールのアフリカ向け輸出に大きく寄与している。

なお、新型コロナウイルス感染症拡大前の2019年と2024年で比較した財別の動きを見ると、リベリア船籍向けの商品の他には、モロッコ向けのトランジスターや集積回路、レユニオン向けの石油および歴青油などが、シンガポールからアフリカ向け輸出の近年の増加に大きく寄与した(表2)。

図1:シンガポールのアフリカ向けの地場輸出(財)の時系列推移
2022年に最高額を記録。2023年には前年水準を下回ったが、2024年には回復し、2005年以降では2番目となる水準に達した。近年の地場輸出の増減に大きく寄与しているのが、リベリア向けの輸出だ。国際港湾のなかでも貨物取扱量が多いシンガポールに寄港するリベリア船籍用の燃料や船内消費用に積み込まれる商品が、シンガポールのアフリカ向け輸出に大きく寄与している。

出所:「Global Trade Atlas」(S&P Global)とシンガポール税関資料から作成

表2:シンガポールのアフリカ向け財の地場輸出(主要財別)
輸出先 品名
(HSコード)
2024年
金額
(億S$)
構成比
(%)
寄与度
(対2019年)
(%ポイント)
リベリア 船舶や航空機燃料、船内消費用に積み込まれる貯蔵品(9893.00) 8.2 74.7 73.3
モロッコ トランジスターの一種(8541.29) 0.2 2.2 3.5
レユニオン 石油および歴青油の一種(2710.19) 0.6 5.6 1.8
モロッコ 集積回路の一種(8542.39) 0.1 1.1 0.7
レユニオン 石油および歴青油の一種(2710.12) 0.1 1.2 0.7
アフリカ向け輸出全体 10.9 100.0 71.9

注:商品名は、簡略化して表記。
出所:「Global Trade Atlas」(S&P Global)、シンガポール税関、および財務省関税局資料から作成

シンガポールの2023年時点のアフリカ向け対外直接投資残高は、2019年比で減少した(既出表1)。シンガポール統計局が公表する対外直接投資残高統計では、アフリカのうち、モーリシャス、ナイジェリア、南アフリカ共和国(以下、南ア)の3カ国についてはデータを把握できる。アフリカ向け全体が減少するなか、これら3カ国のなかでは、ナイジェリアおよび南ア向けの2023年の対外直接投資残高は2019年比で増加(図2)。なかでも、南ア向けの寄与度はナイジェリアを上回った。

図2:シンガポールの対アフリカ向け対外直接投資(ストック)
アフリカ向け全体が減少するなか、ナイジェリアおよび南ア向けの2023年の対外直接投資残高は2019年比で増加した。

出所:シンガポール統計局資料から作成

2020年以降のシンガポール企業の南アでのビジネス展開を少額出資まで広げて見ると、シンガポール政府系ファンドのGICの動きが目立つ。例えば、ビッドヴェスト・グループ(Bidvest Group/南アの大手コングロマリット)は2020年1月、GICのビッドヴェスト株の保有率が5%を超えたと発表。その後も、この保有率は断続的に増加し、2025年1月28日時点で、5.0596%になった(注2)。GICはこのほか、ショップライト・ホールディングス(Shoprite Holdings/南ア小売業大手)と、クリックス・グループ(Clicks Group/南アでヘルスケア事業を運営)の株式保有率も上げた(注3、4)。

資金の出し手という観点では、ファンドマネジメント会社のAAIC Investment(本社:シンガポール)が2017年、日系初のアフリカに特化したファンド(AHF1号)を設立。アフリカのヘルスケアセクターを中心に投資している。また、アフリカのスタートアップ向け2号ファンド(AHF2号)を2022年3月末にファースト・クローズ(注5)した。AHF2号は、変動資本会社(Variable Capital Company:以下、VCC)によるファンドだ。シンガポールは2020 年1月に、国際的なファンド・マネジメント・センターとしての地位の強化を目指し、VCCを導入。VCCにより、税メリットの享受のほか、複数ファンドを一本化できることから、AAIC Investmentは今後もVCCの仕組みでシンガポールにてファンドを設立していく予定だ(2025年5月29日書面インタビュー回答)。

デジタル領域での活動に注目

AAIC InvestmentはAHF2号で、遠隔診断、人工知能(AI)診断などデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進んでいるヘルスケア関連企業、そしてアフリカスタートアップの成長を牽引しているフィンテック、次に触れるゴゼム(Gozem)などのテクノロジー企業を中心に出資・成長支援している。

もっとも、アフリカにおけるデジタル領域での活躍は、アフリカのスタートアップに限らない。シンガポールのデジタル関連企業によるアフリカ展開例も少なくない。

例えば、配車サービス、食品やスーパーマーケットの配達、車両ファイナンス、その他のサービスを組み込んだアプリを運営するゴゼムは2018年、トーゴでバイクタクシーサービスを提供する企業として誕生し、ベナン、ガボン、カメルーンにビジネスを拡大している(注6)。

また、アグリビジネスを手掛けるロバストインターナショナル、物流管理ソリューションを提供するトラメス、デジタルソリューションを提供するアダトス(いずれもシンガポール企業)は、3社間で了解覚書(MOU)に署名。アダトスの人工知能(AI)技術を活用した天候や収穫量予測などの見識をロバストのナイジェリアの農家に提供する。トラメスはロバストのアフリカや世界の供給網の最適化を支援する(2023年8月31日付ビジネス短信参照)。

ローレンス・ウォン首相兼財務相は2025年4月、第14回S.ラジャラトナム・レクチャーで「東南アジアに引き続き注力していく」としながらも「アフリカ、中東、ラテンアメリカ、太平洋、カリブ海など、さらに遠く離れたパートナーのために、より多くのリソースを確保し、デジタル経済や再生可能エネルギーなどの新しい領域での活動を拡大する」と発言(注7)。シンガポール政府として、アフリカなどを舞台としたデジタルやグリーン経済分野での活動を強化する方針を示した。

シンガポールでは、同国とアフリカのビジネスリーダーや政府関係者が域内の貿易・投資機会について議論するプラットフォーム「アフリカ・シンガポール・ビジネス・フォーラム」(ASBF)が立ち上がっている。2025年8月には第8回目を開催する予定だ。エネルギー転換や炭素市場、さらにはフィンテック関連(モバイルマネーソーシャル・メディア・コマース)などが議論のテーマとして挙がっている(シンガポール企業庁ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。今回のASBFを通じて、シンガポールのアフリカビジネスへの関心がさらに高まると見込まれる。


注1:
本稿は、2025年5月29日までの情報に基づく。
注2:
Bidvest Groupウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます掲載資料参照。
注3:
ShopRite Holdingsウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます掲載資料参照。
注4:
Clicks Groupウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます掲載資料参照。
注5:
投資活動開始のための初期資金が集まるタイミングのこと。
注6:
Two Asian startups that run super apps in Africa raise fresh funding外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」〔NTU-SBF Centre for African Studies(CAS)〕参照。
注7:
初代外務大臣「S.ラジャラトナム」の名を冠したイベント。シンガポールが直面している外交政策の課題などを取り扱う。シンガポール外交学院(Diplomatic Academy)が主催。
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所次長
朝倉 啓介(あさくら けいすけ)
2005年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、国際経済研究課、公益社団法人日本経済研究センター出向、ジェトロ農林水産・食品調査課、ジェトロ・ムンバイ事務所、海外調査部国際経済課を経て現職。