「次のフロンティア」アフリカを巡る世界各国・地域の動向アフリカ市場の成長を対内・対外投資から読む

2025年8月13日

日本にとって、アフリカは心理的にも地理的にも遠い大陸だ。日本企業のアフリカ進出拠点数は、2010年と比較して、ほぼ倍増したが、日本の対外直接投資全体でみると、アフリカ向けはまだ少ない(2025年6月16日付地域・分析レポート参照)。複雑な法規制や汚職、不安定な治安などの課題から、対アフリカ投資のハードルは依然として高いものの、人口増加に伴う市場拡大などを背景に、「次のフロンティア」アフリカを重要な地域として位置づけている企業も多い。旧宗主国として関係が深い欧州企業や、中国企業の一部は既にアフリカ市場でのプレゼンスを確立している。アフリカ各国にとっても、人口増加分をカバーする雇用の確保や、産業の多角化・高度化の観点から、対内投資の呼び込みには積極的だ。さらに、アフリカ域内の投資関係を促進しようとする動きもある。本稿は、アフリカの対内・対外投資関係について解説する。

アフリカの対内直接投資は過去最高

国連貿易開発会議(UNCTAD)の「世界投資報告2025」によると、2024年の全世界からアフリカへの対内直接投資(フロー)は前年比75%増の970億ドルに達し、過去最高を記録した(2025年6月23日付ビジネス短信参照)。

UNCTADが統計を開始した1990年時点では、アフリカ全体の対内直接投資額は30億ドルに満たなかったが、2000年代から増加傾向が続き、2007年から2020年までは約400億ドルから600億ドルの間を推移した。2021年は前年比ほぼ倍増の800億ドルで、2022年、2023年は再び550億ドル前後だったが、2024年は970億ドルで過去最高を更新した(図1参照)。ほとんどの年で、サブサハラ・アフリカ向けの投資額が北アフリカを上回っていたが、2024年は後述するエジプトの大型投資案件を反映し、北アフリカ向け投資額がサブサハラ・アフリカを上回った。

図1:アフリカの対内直接投資額(フロー)推移
UNCTADが統計を開始した1990年時点では、アフリカ全体の対内直接投資額は30億ドルに満たなかったが、2000年までに100億ドルに到達し、2000年代後半から投資額は増加傾向が続き、2007年から2020年までは約400億ドルから600億ドルの間を推移した。2021年は前年比ほぼ倍増の800億ドルで、2022年、2023年は550億ドル前後だったが、2024年は再び投資額が伸び、970億ドルで統計開始以来過去最高を記録した。ほとんどの年で、サブサハラ・アフリカへの投資額が北アフリカを上回っていたが、2024年は後述するエジプトの大型投資案件を反映して、北アフリカへの投資額がサブサハラ・アフリカを上回った。

出所:UNCTAD「世界投資報告2025」からジェトロ作成

アフリカは、紛争やデモによる治安の不安定化、デフォルトといった経済状況の悪化などが外資系企業の投資動向に大きく影響を与えることがある。個別の国や案件を見ていくと、こうした現地情勢の変化を受けて外資系企業が撤退した例や、投資を引き揚げた例はあるが、アフリカ全体の対内直接投資残高は比較的堅調に伸びている(図2参照)。リーマンショックや新型コロナウイルス禍などの世界的な経済不況の中でも、対内直接投資残高はそれほど落ち込むことなく増加傾向が続き、2021年に1兆ドルを超えた。2024年は前年比5%増の1兆739億ドルだった。2000年代以降、サブサハラ・アフリカの投資残高が北アフリカ以上に伸びたことから、対内直接投資残高の差は広がり、2024年時点ではサブサハラ・アフリカの投資残高が北アフリカの約倍の規模で、アフリカ全体を牽引している。北アフリカと比較すると1人当たりGDPなど経済水準が低いサブサハラ・アフリカが今後発展していく可能性を踏まえると、サブサハラ・アフリカの対内直接投資残高はさらに伸びていく余地があると言えるだろう。

図2:アフリカの対内直接投資残高推移
統計を開始した1990年の対内投資残高は約600億ドルで、リーマンショックや新型コロナ禍などの世界的な経済不況の中でも対内投資残高はそれほど落ち込むことなく増加傾向が続き、2021年に1兆ドルを達成した。2024年は前年比5%増の1兆739億ドルだった。統計開始直後の1990年代、北アフリカとサブサハラ・アフリカの投資残高額はともに300億ドル前後で大きな差はなかった。2000年代以降、サブサハラ・アフリカの投資残高が北アフリカ以上に伸びたことから差が開き、2024年時点ではサブサハラ・アフリカの投資残高は約700億ドル、北アフリカは約350億ドルとほぼ倍になった。

出所:UNCTAD「世界投資報告2025」からジェトロ作成

また、アフリカへの投資を国別で見ると(表1参照)、旧宗主国の欧州各国や、中国が上位10カ国に入る。2023年末時点のアフリカ向け直接投資金額はオランダ、英国、米国、フランス、中国、南アフリカ共和国(南ア)の順に多く、南アは320億ドルだった。なお、オランダや米国は多国籍企業の間接投資を多く含んでいる可能性がある。2023年末は2018年末時点と比較すると、新たにインドがランクインしている点が特徴的だ。

表1:対アフリカ直接投資残高の上位10カ国 (単位:10億ドル)

2018年末
順位 国名 金額
1 オランダ 89
2 フランス 60
3 米国 48
4 中国 46
5 英国 44
6 南ア 35
7 イタリア 29
8 シンガポール 20
9 ドイツ 11
10 スイス 12
2023年末
順位 国名 金額
1 オランダ 70
2 英国 58
3 米国 56
4 フランス 53
5 中国 42
6 南ア 32
7 イタリア 32
8 シンガポール 20
9 ドイツ 14
10 インド 13

出所:UNCTAD「世界投資報告2025」からジェトロ作成

受け入れ国別に見ると(表2参照)、2024年の対内直接投資額(フロー)のトップはエジプトの465億7,800万ドルで、アフリカ全体の約半分を占めた。アラブ首長国連邦(UAE)の政府系投資会社ADQが2024年2月にエジプト北西部のラス・アルヘクマ(Ras Al-Hekma)をリゾートや商業施設、住宅地などへと総合開発する投資案件に調印し、支払いを終えたことによるものだ。最終的な投資額は1,500億ドルになることから、エジプトへの大型投資案件は続くとみられる。なお、この案件を差し引いても、アフリカへの投資は前年比12%増加した。2022年から2024年の3年間を見ると、上位10カ国だけでアフリカ全体の6~7割を占めている。エジプトや南ア、エチオピア、コートジボワールなど、アフリカの中でも比較的発展が進んでいる主要国のほか、重要鉱物や金属が採掘されるコンゴ民主共和国(DRC)や、石油・ガスを産出するセネガル、モザンビークといった資源国がランクインしている。

表2:対内直接投資額(フロー)の上位10カ国 (単位:100万ドル)

2022年
順位 国名 金額
1 エジプト 11,400
2 南ア 9,280
3 エチオピア 3,670
4 ウガンダ 2,953
5 セネガル 2,929
6 モザンビーク 2,458
7 モロッコ 2,260
8 DRC 1,846
9 コートジボワール 1,599
10 ケニア 1,597
2023年
順位 国名 金額
1 エジプト 9,841
2 セネガル 4,790
3 南ア 3,475
4 エチオピア 3,269
5 ウガンダ 2,994
6 DRC 2,576
7 モザンビーク 2,509
8 コートジボワール 2,485
9 ナミビア 2,303
10 ナイジェリア 1,873
2024年
順位 国名 金額
1 エジプト 46,578
2 エチオピア 3,984
3 コートジボワール 3,802
4 モザンビーク 3,553
5 ウガンダ 3,305
6 DRC 3,113
7 南ア 2,469
8 ナミビア 2,063
9 セネガル 2,016
10 ギニア 1,828

出所:UNCTAD「世界投資報告2025」からジェトロ作成

M&Aとグリーンフィールド投資で大型案件も

アフリカのクロスボーダーM&Aの売却案件は、2015年の155件が最多で、2024年は96件だった。売却金額は2008年の245億4,000万ドルが最高で、2024年はマイナス14億8,700万ドルとなった(注)。2022年から2024年の売却金額上位5カ国を見ていくと(表3参照)、アフリカの中で売却金額が多いのは南アやエジプト、ナイジェリアで、2024年はザンビアがトップだった。ザンビアは銅をはじめとした世界有数の鉱物産出国で、2024年に鉱業関連で複数のクロスボーダーM&Aが行われ、その他の案件を合わせて11億6,200万ドルが売却された。日本政府は2025年2月に日・ザンビア投資協定に署名し、石破茂首相が鉱物資源分野での協力を推進していきたいと述べている(2025年2月10日付ビジネス短信参照)。

表3:クロスボーダーM&A売却金額(ネット、フロー)の上位5カ国 (単位:100万ドル)

2022年
順位 国名 金額
1 南ア 4,427
2 エジプト 3,409
3 ナイジェリア 532
4 DRC 240
5 モロッコ 170
2023年
順位 国名 金額
1 南ア 7,107
2 エジプト 1,817
3 ナイジェリア 317
4 ケニア 117
5 アルジェリア 107
2024年
順位 国名 金額
1 ザンビア 1,162
2 南ア 395
3 エジプト 200
4 ウガンダ 130
5 ナミビア 99

出所:UNCTAD「世界貿易投資報告2025」からジェトロ作成

グリーンフィールド投資による対内直接投資(発表済み)は、統計を開始した2003年以降、約500億ドルから1,000億ドルの間で推移している。2024年のグリーンフィールド投資は前年比36.7%減少したが、2022年の1,970億5,200万ドル、2023年の1,783億4,900万ドルが突出していたために、減少幅が大きく出たもので、金額でみると、統計開始以降4番目に大きい1,128億3,100万ドルだった。2022年から2024年の上位10カ国は以下のとおりだ(表4参照)。

表4:対内グリーンフィールド投資額(発表済み)の上位10カ国 (単位:100万ドル)

2022年
順位 国名 金額
1 エジプト 107,753
2 南ア 26,864
3 モロッコ 15,614
4 ウガンダ 10,214
5 リビア 6,367
6 ジンバブエ 5,729
7 DRC 3,418
8 ジブチ 3,186
9 ナイジェリア 2,012
10 ケニア 1985
2023年
順位 国名 金額
1 エジプト 41,934
2 モーリシャス 34,000
3 モロッコ 22,594
4 南ア 13,234
5 ケニア 9,337
6 ナイジェリア 9,198
7 ギニア 8,600
8 DRC 6,424
9 モザンビーク 3,847
10 エチオピア 3,200
2024年
順位 国名 金額
1 エジプト 54,545
2 チュニジア 13,442
3 アンゴラ 7,659
4 モロッコ 7,291
5 ナイジェリア 4,867
6 南ア 3,898
7 ジンバブエ 3,156
8 ナミビア 2,247
9 ケニア 1,857
10 セネガル 1,535

出所:UNCTAD「世界投資報告2025」からジェトロ作成

グリーンフィールド投資も、上位10カ国でアフリカ全体の8~9割を占め、2024年はエジプトのほかに、チュニジアやモロッコが上位にランクインし、アフリカの中でも比較的投資環境が整っている北アフリカにグリーンフィールド投資が集中した。また、前年からの伸びで見ても、チュニジアは34.4倍と伸びが大きく、その他、アンゴラ(13.2倍)、セネガル(4.5倍)、トーゴ(3.9倍)などが大幅に増加した。

以上を踏まえ、2024年の対内直接投資額(フロー)が1億ドルを超えた国のうち、2023年からの伸び率が大きい順に上位10カ国をみると、8,590万ドルから12億3,760万ドルへ14.4倍増えたザンビアがトップとなった(表5参照)。前述したM&Aの大型案件に支えられて、ザンビアの対内投資フロー額は大幅に増加したかたちだ。2位は4.7倍に増えたエジプトで、モロッコやコートジボワール、モザンビーク、タンザニアなどの主要国も堅調な伸びを見せている。

表5:主要な2024年の対内直接投資額(フロー)の前年比伸び率が大きい国(単位:100万ドル、%)
国名 2023 年 2024年 前年比
ザンビア 86 1,238 1,341
エジプト 9,841 46,578 373
ボツワナ 198 467 136
ギニア 893 1,828 105
モーリタニア 878 1,531 74
モロッコ 1,055 1,639 55
コートジボワール 2,485 3,802 53
モザンビーク 2,509 3,553 42
赤道ギニア 142 188 33
タンザニア 1,339 1,718 28

注:2024年の対内直接投資額(フロー)が1億ドルを超えた国のうち、2023年からの伸びが大きい順。
出所:UNCTAD「世界投資報告2025」からジェトロ作成

対外投資の大部分が南ア、域内投資も活発

アフリカの対外直接投資残高は、2000年代後半から急激に伸び、2017年の3,403億1,700万ドルが最高だ。2024年は2,754億5,400万ドルと、前年比13%増加した(図3参照)。2010年代ごろから少しずつ南ア以外の国の対外直接投資残高も増加してきているが、アフリカの対外直接投資残高のうち、最も大きな割合を占めるのは南アだ。

図3:アフリカの対外直接投資残高推移
統計開始の1990年から2000年代中頃まで250億ドルから500ドル規模を推移していたが、その後増加傾向が続き2017年には3,403億1,700万ドルで最高を記録した。2018年,2019 年は2年連続で前年比減少に転じたが、2020年には再び増加した。2021年から2023年は前年比で減少したが、2024年は2,754億5,400万ドルと、前年比13%増だった。

出所:UNCTAD「世界投資報告2025」からジェトロ作成

南アはアフリカ域内への投資も活発なのが特徴だ。ジェトロが2024年12月に発表した「海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)」では、アフリカ進出でパートナーとなり得る第三国として、フランスの次に南アが多く挙げられた。周辺国に展開する際、既にアフリカ域内へ展開している南ア企業との協業や連携を通して、南ア企業が域内に持つネットワークや知見を活用することができるかもしれない。

アフリカはリスクや課題も多く、決して簡単な市場ではないが、「次のフロンティア」として、期待は高まっている。米国政府は2025年5月に、これまでの援助中心の対アフリカ政策から商業中心の外交政策へ転換することを発表した(2025年5月21日付ビジネス短信参照)。中国からの投資もインフラやエネルギー関連だけでなく、医薬品や食品加工など多様化しており、アフリカの投資環境は競争が今後激しくなる可能性がある。

そんな中、日本は2025年8月にアフリカ開発会議(TICAD9)を横浜で開催する。ジェトロは、日・アフリカ間のビジネス交流を多角的に促進することを目的に、「TICAD Business Expo & Conference」を実施する予定で、6月30日には一般参加の受け付けを開始した(「TICAD Business Expo & Conference」ウェブサイト参照)。アフリカ各国から政府関係者やビジネスパーソンが訪れる機会をぜひ活用してほしい。


注:
UNCTADの「世界投資報告2025」では、クロスボーダーM&Aをネットベースで算出しており、外国の多国籍企業がアフリカに所有する子会社をアフリカ企業に売却した際には、マイナスとして計上している。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
坂根 咲花(さかね さきか)
2024年、ジェトロ入構。中東アフリカ課で主にアフリカ関係の調査を担当。