世界のクリーン水素プロジェクトの現状と課題化石燃料フリーの電力供給と水素活用
スウェーデンの水素動向(1)

2026年6月18日

豊富なクリーンエネルギーを有するスウェーデンでは、ほぼ化石燃料を使用しない電力供給を実現している。グリーン水素の製造コストはEU内でも低水準にあり、産業分野での水素活用でも注目される。国家水素戦略は未策定だが、政府は産業分野の電化推進策の一環として水素利用を支援している。温室効果ガス排出量の3分の1を産業部門が占める中、スウェーデン政府は2018年から、産業分野の脱炭素化を支援する助成制度である「産業リープ(Industriklivet)」を開始し、製鉄などでの水素利用を後押ししている。本稿では、スウェーデンのエネルギーシステムの現状と、エネルギー政策および産業分野における支援プロジェクトについて概説する。

豊富な水力・風力発電

スウェーデンは約40万平方キロメートルと日本の約1.1倍の国土を有する。人口は約1,060万人(2026年3月時点)にとどまり、人口密度はEU内でも低い。西側にはスカンディナビア山脈が連なり、高低差があり、冬の積雪が潤沢な水資源を形成している。1940~1970年代に整備した大規模水力発電が現在も基幹電源となっている。また、バルト海やボスニア湾に面する長い海岸線と、偏西風の影響による良好な風況を背景に風力発電も拡大している。2024年の発電構成は、水力が37.7%、風力が23.5%、原子力が29.3%であり、水力・風力で全体の6割を占めた(図1参照)。総発電量の約2割を輸出する欧州有数の電力輸出国でもある(注1)

スウェーデン政府は、2040年までの電力供給100%非化石化(fossil-free energy)と、2045年までの温室効果ガス排出量のネットゼロ達成を掲げる。2023年6月には、従来の「再生可能エネルギー100%」から原子力を含む100%「非化石エネルギー電力」へと目標を転換した。スウェーデンのエネルギー企業連盟(Energiföretagen)によれば、2024年の発電の99.0%がクリーンエネルギーでまかなわれ、化石燃料による発電は総発電量170.7テラワット時(TWh)のうちわずか1.6TWhにとどまった(注2)。スウェーデンで普及する地域熱供給(注3)でも化石燃料利用は限定的であり、脱炭素化が進展している。

図1:スウェーデンのエネルギー源別発電割合(2024年)
2024年のスウェーデンのエネルギー源別発電割合は、 水力37.7%、風力23.5%、太陽光2.4%、バイオ燃料4.1%、廃棄物2.5%、原子力29.3%、石炭0.2%、石油0.2%。

出所:IEA資料からジェトロ作成


ストックホルム・ユステル島の風力発電所(ジェトロ撮影)

北部地域の電力価格は域内最低水準

スウェーデン国内は4つの異なる電力価格ゾーンに分かれる。北部のSE1、SE2は水力・風力発電による電力余剰があり価格が低い一方、SE3、SE4では消費量が供給量を上回り、価格が高い(注4)。発電は北部、需要は南部に偏在しているため、北部から南部への送電が行われている。スウェーデンの送電網はノルウェー、フィンランド、デンマーク、ドイツ、ポーランド、リトアニアの周辺6カ国と直接接続され、欧州広域の電力市場に組み込まれている(注5)。国外情勢の影響を受ける一方で、スウェーデンおよび西欧・中欧の電力市場を見ると、特にSE1、SE2(注6)の価格は域内でも低水準で推移している(図2、表1参照)。

同国エネルギー庁の研究・イノベーション・事業開発部次長のクララ・ヘルスタッド(Klara Helstad)氏は、「スウェーデンは水力発電や原子力発電を含めたエネルギー・ミックスにより、エネルギー供給において比較的有利な前提条件を備えている。欧州域内のエネルギー危機の局面においても、他国と比較して低いエネルギーコストを維持してきた」と指摘した(注7)

図2:北欧電力市場における電力価格の推移
ポーランド、ドイツ、フランス、SE1、SE2、SE3、SE4の2024年1月から2026年4月までの月別電力価格(ユーロ / メガワット時)の推移。2026年4月時点の電力価格は、ポーランドが80ユーロ超、ドイツが約80ユーロ、SE4が約60ユーロ、SE3が約50ユーロ、フランスが約40ユーロ、SE1とSE2が約25ユーロ。ポーランドは通期で電力価格が一番高く、ドイツは通期で2番目に高い。各国ともに1月、2月に電力価格が高騰する傾向。

注:スウェーデンは北部から南部にかけて、SE1、SE2、SE3、SE4の4区画に分かれている。
出所:Nord Poolのデータを基にジェトロ作成

表1:2025年の平均電力価格(ユーロ/MWh)
国・地域 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年
スウェーデン(SE1) 42.49 59.06 39.97 25.05 16.71
スウェーデン(SE2) 42.55 61.95 39.98 24.64 16.53
スウェーデン(SE3) 66.00 129.21 51.70 35.77 46.23
スウェーデン(SE4) 80.52 152.10 64.88 49.71 60.43
ドイツ 96.85 235.45 95.18 78.51 89.32
フランス 109.17 275.88 96.86 58.02 61.07
ポーランド 87.03 166.72 111.65 96.26 104.29

出所:Nord Poolのデータを基にジェトロ作成


スウェーデン・エネルギー庁のクララ・ヘルスタッド氏(ジェトロ撮影)

原子力拡大で電力需要増に対応

発電部門の脱化石燃料化が進む一方、ヘルスタッド氏は「産業・輸送分野では依然として化石燃料依存が残っている。特に鉄鋼、化学、パルプ・紙産業が温室効果ガスの主要排出源となっている」と課題を挙げた。スウェーデン政府は2024年3月公表の「エネルギー政策の新たな方向性」で、産業部門の電化とグリーン移行に対応するため、2045年までに少なくとも300TWhの電力供給能力が必要とした(2024年3月28日付ビジネス短信参照)。2022年10月発足のスウェーデン民主党、穏健党、キリスト教民主党、自由党による連立政権は原子力発電推進を掲げ、2035年までに大型原子炉2基、2045年までには小型モジュール炉(SMR)を含む原子炉10基分相当の新設を計画する。2025年5月には、新規原子力発電建設支援のため、政府融資および差額決済契約制度(Contract for Difference:CfD)導入法案が議会で可決された(注8)

また、風力発電拡大やデータセンター開発による需要増に対応するため、送電網整備も進む(注9)。国営送電事業者のスウェーデン・クラフトナット(Svenska kraftnät)は、「ネットワーク開発計画2026~2035年」〔Network development plan 2026–2035(5.5MB)〕を策定し、今後10年間で約2,900キロメートルの送電線整備を計画している。

製鉄など産業分野での水素利用を支援

2020年以降、EU加盟国の多くは国家水素戦略を策定済みだが(注10)、スウェーデンでは未採択のままだ。2021年11月にエネルギー庁が水素戦略提案書を作成したが、政府はこれを正式採択していない。一方で、産業部門の脱炭素化の文脈では、水素活用支援が進められている。2024 年 3 月に国会に提出された「エネルギー政策の長期的方向に関する法案」では、「水素は、産業分野における化石燃料の段階的廃止のための前提条件である」としながらも、水素の取り組みは電力生産の拡大や関連規制・政策の整備が必要なことから一定の原則に基づいて進められるべきだとの政府の見解が記された(注11)

2024年12月に政府が発表した「供給の安定、競争力および気候変動移行を可能にするためのエネルギー部門における研究・イノベーション法案(Research and Innovation in the Energy Sector for Security of Supply, Competitiveness, and Climate Transition外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」では、原子力発電、バッテリー、水素を重点分野として位置付け、供給の安定性や競争力強化、持続可能性を軸にエネルギーシステムの移行を進める方針を示した。

また、産業分野の脱炭素化に向け、技術開発・導入を支援する「産業リープ(Industriklivet)」プログラムを2018年に開始した。2040年まで継続される長期支援事業であり、バッテリー、バイオマス、二酸化炭素回収・貯留(CCS)、バイオCCS、二酸化炭素回収・利用(CCU)、電化、水素、リサイクルの8分野を中心に支援する。2025~2026年度までに477件の申請を受け付け、196件のプロジェクトが承認された。産業界や学術・研究機関など民間による投資が約973億スウェーデンクローナ(約1兆6,541億円、1スウェーデンクローナ=約17円)となり、エネルギー庁の助成金は約83億スウェーデンクローナが交付され、全案件の総投資額は1,056億スウェーデンクローナに上る。スウェーデン政府の支援は、EUイノベーション・ファンドなどのEU資金の同国の水素関連プロジェクトへの呼び水にもなっている(注12)

表2:産業リーププログラムによる支援実績(分野別)(100万スウェーデン・クローナ、件)
分野 助成金 民間投資 総投資額 案件数
水素 4,983 85,629 90,612 26
電化 755 1,429 2,184 16
バイオCCS 702 2,963 3,665 82
その他 592 1,176 1,768 14
バイオマス 511 1,287 1,798 22
CCS 374 379 753 13
リサイクル 319 2,216 2,535 15
CCC 60 2,174 2,234 8
合計 8,296 97,253 105,549 196

出所:スウェーデン・エネルギー庁の資料を基にジェトロ作成

分野別に見ると、水素分野への投資額が最大であり(表2参照)、鉄鋼業界の2つの大型案件だけで総額の8割超を占めた(注13)(表3参照)。ヘルスタッド氏も「政府資金の相当部分が鉄鋼業界の水素ソリューションに投入されており、同分野が気候変動移行において重要な役割を果たしている」と強調した。

大型水素案件の1件は、HYBRITであり、スウェーデンの鉱業会社LKAB、製鉄会社SSAB、電力会社Vattenfallの3社による共同プロジェクトだ。グリーン水素を還元剤として用い、鉄鉱石を直接還元することで、化石燃料を使用しない製鉄を目指す(注14)

もう1件はスタートアップのステグラ(Stegra、旧H2 Green Steel)によるグリーンスチールプロジェクト(連載3本目「ステグラが挑むグリーンスチール製造」参照)だ。再生可能エネルギー由来の電力を活用し、直接還元鉄(DRI)と電気アーク炉(EAF)を組み合わせた低炭素製鉄を進めている。

さらに日本製鉄グループ傘下のオバコ(Ovako)も、グリーン水素を活用した特殊鋼生産に取り組んでいる。2023年9月からホーフォーシュ(Hofors)製鉄所で特殊鋼向けのグリーン水素製造プラントを稼働している(連載2本目「クリーン水素で進む特殊鋼の脱炭素」参照)。

表3:産業リープが支援する大型水素プロジェクト
社名 産業リープによる助成 民間投資 案件概要
HYBRIT 26億9,000万スウェーデンクローナ 285億5,000万スウェーデンクローナ HYBRITは、スウェーデンの鉱業会社LKAB、製鉄会社SSAB、電力会社Vattenfallの3社による共同プロジェクト。グリーン水素を還元剤として利用し、鉄鉱石を直接還元することで、化石燃料を使用しない「化石燃料フリー鉄(スポンジ鉄)」の製造を行う。北部都市イェリバーレ(Gällivare)に初の実証用プラントを建設し、パイロット段階から商業生産への移行を目指す。
ステグラ 15億9,000万スウェーデンクローナ 557億9,000万スウェーデンクローナ 2020年に設立されたスタートアップによるグリーンスチールプロジェクト。北部都市ボーデンを拠点に、再生可能エネルギー電力を活用した一体型の製鉄プロセスを構築。約700MW規模の水電解装置を用いてグリーン水素を製造し、その水素を利用した直接還元鉄(DRI)と電気アーク炉(EAF)を組み合わせることで、2030年までに年間500万トンのグリーンスチール生産を計画。

出所:スウェーデン・エネルギー庁および各社ウェブサイトを基にジェトロ作成


注1:
ジェトロ調査レポート「スウェーデンのクリーンエネルギー・水素産業動向(2026年2月)」p.2参照。 本文に戻る
注2:
Energiföretagenプレスリリース(スウェーデン語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2025年3月13日付)を参照。 本文に戻る
注3:
発電所や廃棄物処理施設、産業余熱などで生産した熱を温水として地域全体に供給し、住宅や商業施設の暖房・温水需要をまかなうシステムを指す。 本文に戻る
注4:
Energiföretagen“Energiåret 2025(スウェーデン語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます” p.5およびビジネス・スウェーデンへのインタビュー(2026年4月10日実施)に基づく。 本文に戻る
注5:
Svenska kraftnätウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。 本文に戻る
注6:
SE1、SE2は、発電構成や系統制約、需要などの条件が似ており、歴史的に価格差が非常に小さい。 本文に戻る
注7:
インタビューは2026年3月4日に実施。 本文に戻る
注8:
スウェーデン政府“Green light for a new model for financing and risk sharing for investments in new nuclear power外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます”を参照。 本文に戻る
注9:
Network development plan 2026–2035PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(5.5MB)”では、送電網は従来の北部から南部への送電に加えて、東西方向が増加するなど、長期的に多方向化する可能性が示唆された。 本文に戻る
注10:
欧州水素観測所ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。 本文に戻る
注11:
ジェトロ調査レポート「スウェーデンのクリーンエネルギー・水素産業動向(2026年2月)」p.5を参照。 本文に戻る
注12:
例えばステグラは、スウェーデン政府の助成のほか、欧州委員会から2億5,000万ユーロの支援が承認された。 本文に戻る
注13:
エネルギー庁のウェブサイトによると、鉄鋼業界の脱炭素化における水素技術分野2件のプロジェクトの助成金は26億9,000万スウェーデンクローナ、15億9,000万スウェーデンクローナ、民間投資額が285億5,000万スウェーデンクローナ、557億9,000万スウェーデンクローナである。 本文に戻る
注14:
2023年12月14日付HYBRITウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。産業リープを通じて、約31億スウェーデンクローナの助成が行われている。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
森 詩織(もり しおり)
2006年、ジェトロ入構。大連事務所経済分析部長、海外調査部中国北アジア課リサーチマネージャー、調査部国際経済課課長代理などを経て、2025年から現職。

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