世界のクリーン水素プロジェクトの現状と課題グリーン水素の普及を通じ、カーボンニュートラル実現に注力(中国)
生産面、需要面から見るグリーン水素推進策

2025年6月24日

中国は世界最大の水素の生産国であり、需要国でもある。中国政府は、2022年3月に「水素エネルギー産業発展中長期規画(2021~2035年)(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表し、水素エネルギーをカーボンニュートラル実現の重要手段として位置付けた(2022年3月29日付ビジネス短信参照)。中国では2030年までにカーボンピークアウト、2060年までに実質的なカーボンニュートラルを実現することを目指しており、環境にやさしいエネルギー源として水素への注目が集まる。

しかし、足元は生産・需要ともに化石燃料由来の水素製造(グレー水素)が大半を占める。カーボンニュートラル実現に向けては、再生可能エネルギー(再エネ)由来の水素(グリーン水素)の普及拡大が急務だ。世界最大規模の水素製造・消費量を誇る中国でのグリーン水素の普及は、中国ひいては全世界のカーボンニュートラル実現においても重要な意味を持つ。本稿では、グリーン水素の製造と利活用の両側面から、中国におけるグリーン水素の普及に向けた政策や取り組みについて紹介する。

中国の水素生産・消費は世界最大規模も、グリーン水素の割合は低い

中国国家エネルギー局が4月28日の記者会見で発表した「中国水素エネルギー発展報告(2025)」によると、2024年の中国の水素エネルギーの生産・消費規模は年間3,650万トンに上り、世界1位となった(2025年5月9日付ビジネス短信参照)。また、水素生産能力は前年比1.6%増の年間5,000万トン超に上るという。

しかし、水素の色別に内訳をみると、2024年の中国の水素製造量3,650万トンのうち、グリーン水素にあたる「水電解による水素」はわずか1%に過ぎない。残りは、グレー水素にあたる石炭由来の水素(56%)のほか、天然ガス由来の水素(21%)、副生水素(21%、注1)になっている(図1参照)。

図1:中国の製造法別水素生産量(割合)
石炭由来は56%、天然ガス由来は21%、副生水素は21%、水電解は1%、メタノール由来は1%。2024年の中国の水素製造量全体は約3,650万トン。

出所:中国国家エネルギー局ほか「中国水素エネルギー発展報告(2025)」を基にジェトロ作成

中国でグリーン水素の生産割合が低い背景には、(1)再エネの発電システムで供給が不安定なこと、(2)生産コストが高いこと、(3)供給地と需要地が離れていること、などがある(2024年2月9日付地域・分析レポート参照)。

特に生産コストの面では、全国政治協商会議の張復明常務委員の試算によると、石炭由来のグレー水素の製造コストは1kgあたり9~11元(約180~220円、1元=約20円)なのに対し、新エネルギーの発電による電力を用いた水の電気分解による水素(グリーン水素)の製造コストは1kgあたり40~50元と、約4倍の差がある。国務院発展研究センターの李継峰研究員は、グリーン水素を大規模かつ低コストで製造するには、システム設計や複数の電解層の管理体制、材料の性能などを改善し、水素製造の効率を向上させる必要があるほか、風力・太陽光・水素貯蔵を一体化させたシステムの研究開発を進め、再エネ消費の効率を高める必要があると指摘している。

グリーン水素量産に向けプロジェクト始動、技術開発も進む

一方で、中国は内陸部を中心に再エネ(風力、太陽光など)が豊富だ。2024年8月末までに再エネ発電設備容量は17億キロワット(kW)に達し、世界最大規模を誇る。豊富な再エネを有し、グリーン水素製造のポテンシャルがある中国では、各種政策や製造プロジェクトの実施を通じ、技術的な課題の解決に取り組みつつ、グリーン水素の量産を目指している。

政策面では、中国国家発展改革委員会が2022年3月に発表した「水素エネルギー産業発展中長期規画(2021~2035年)(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」で、「再エネ由来の水素(グリーン水素)製造を重点的に発展させ、化石燃料由来の水素を厳格にコントロールする」とした。そのうえで、クリーンエネルギー由来の水素生産技術の向上を図りながら、2035年までには最終消費エネルギーに占める割合の中で、再エネ由来の水素が「著しく増加」させることを目標にしている(表1参照)。

表1:「水素エネルギー産業発展中長期規画(2021~2035年)」における主要目標
内容
2025年
  • 水素エネルギー産業の発展のため制度と政策環境を整える。
  • 水素産業のイノベーション能力を向上、コア技術と製造能力を掌握してサプライチェーンと産業システムを構築。
  • クリーンエネルギー由来の水素生産技術、水素エネルギーの貯蔵・運搬技術の向上により市場競争力を上げ、副生水素と再エネ由来の水素の供給システムを実現する。
  • 再エネによる水素製造量を年間10万~20万トンに到達させ、二酸化炭素排出を年間で100万~200万トン削減。
2030年
  • 水素エネルギー産業の技術革新体系、クリーンエネルギー由来の水素製造および供給システムを構築。
  • 再エネ由来の水素の利用範囲を拡大する。
2035年
  • 水素エネルギー産業体系を形成し、交通、エネルギー貯蔵、工業分野など多様な水素エネルギー応用エコシステムを構築する。
  • エネルギー消費全体における再エネ由来の水素エネルギーの使用割合を著しく増加させる。

出所:中国国家発展改革委員会の発表からジェトロ作成

具体的なグリーン水素製造プロジェクトの建設も進む。2022年6月に発表した「第14次5カ年規画再生可能エネルギー発展規画(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」では、再エネ発電コストが低いといった有利な条件が整っている地域を中心に、大規模なグリーン水素の製造拠点を作ることを提唱した。2024年7月に国家エネルギー局科学技術司が発表した「中国水素エネルギー発展報告(2023)」によると、2023年末時点で380件以上のグリーン水素プロジェクトが計画され、そのうち60件が完成もしくは稼働開始しており、累計のグリーン水素製造能力は年間7万トンに及ぶ。建設中のプロジェクトすべてが稼働すると、グリーン水素生産能力は合わせて90万トンを超える見込みだ(「人民網」、2024年8月2日)。

プロジェクトを進めていく中で、ボトルネックとなっていた技術の開発や、関連設備の国産化を進めている。例えば、中国石油化工(シノペック)は2023年8月、新疆ウイグル自治区クチャ市でのグリーン水素モデルプロジェクトの稼働を開始した。年間グリーン水素生産量が2万トンに上る世界最大級の同プロジェクトでは、安定供給の難しい太陽光発電による電力を用いてグリーン水素を製造している。同社は電気設備と水素生産設備の配置を調整・最適化する独自のソフトウェアを開発し、発電量の変動に応じて水素製造設備の稼働を調整する仕組みを開発、変動の激しい電力供給への耐性を強化した。そのほか、同プロジェクトで使われている太陽光パネルや電解槽、水素貯蔵タンク、パイプラインなどの設備や中核材料に国産のものを使用しており、主要設備の国産化も実現している。

グリーン水素の利用拡大を推進、製造コストも政策課題として認識

中国での水素の主な使用用途は、アンモニア・メタノールの合成、石油精製など、工業分野での中間原料としての使用が多い。「中国水素エネルギー発展報告(2025)」によると、2024年の水素の使用用途では、メタノール合成(27%)とアンモニア合成(26%)が上位2位に挙げられる(図2参照)。

対照的に、2023年12月にシノペックが発表した「中国水素エネルギー産業展望報告」によると、水素燃料電池車(FCV)を中心に急速に需要が拡大する交通分野での利用は、2020年の時点で水素エネルギー利用全体の0.1%にすぎない(注2)。

図2:中国の使用用途別の水素消費量(割合)
メタノール合成は27%。アンモニア合成は26%、石油精製は16%、石炭化学は11%、その他は20%。2024年の中国の水素消費量全体は約3,650万トン。

注:「その他」には、交通や熱供給、製鉄などの用途が含まれる。
出所:中国国家エネルギー局ほか「中国水素エネルギー発展報告(2025)」を基にジェトロ作成

工業情報化部などの3部門は2024年12月、「工業分野でのクリーン・低炭素水素の応用実施プラン(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表し、グリーン水素の活用に関する指針を示した。同プランでは、副生水素とグリーン水素などの「クリーン・低炭素水素」の応用が排出削減の推進にとって重要としている。そのうえで、2027年までに「クリーン・低炭素水素」に関する設備と技術の普及を進め、アンモニア合成、メタノール合成、石油精製などの分野における同水素の大規模な活用を進めるとの目標を定めた。同プランでは、水素の使用用途として比較的大きな割合を占めるメタノール合成やアンモニア合成などを中心に、用途別にクリーン・低炭素水素活用のための具体的な指針を示している(表2参照)。同プランに基づく、グリーン水素の利活用に関する中央・地方各レベルでの具体的な政策展開が注目される。

表2:「工業分野でのクリーン・低炭素水素の応用実施プラン」の主な内容
分野 主な内容
クリーン・低炭素水素への代替
  • 石油精製、石炭化学工業、電子、医薬などの産業で、クリーン・低炭素水素への置き換えを進める。半導体製造、洗浄、封止、溶接、医薬業界の触媒に用いる水素について、クリーン・低炭素水素への代替を進める。
  • 再エネ由来の水素や、工業副生水素の精製の大規模化を進め、クリーン・低炭素水素の供給レベルを拡大させる。
  • 風力発電、太陽光発電などのクリーンエネルギーの豊富な地域で、工業企業や工業団地が水素製造と水素利用を統合したプロジェクトを建設することを促進する。
水素還元製鉄
  • 水素還元製鉄に関する装置やその材料、中核部品の研究開発を進める。
  • コークス炉ガスや、化学工業副産ガスなどの水素源を十分に活用し、再エネによる水素製造の利用割合を段階的に高める。
  • コークスおよび微粉炭を水素で代替し、高炉内における水素の高効率で安全な吹き込みシステムを開発し、水素の利用効率を向上させ、固形燃料の割合を減らす。
グリーンメタノール
  • クリーン・低炭素水素と炭素回収、バイオマス等の技術を融合したグリーンメタノール製造技術を開発し、グリーンメタノールの模範的プロジェクトの建設を推進する。
グリーンアンモニア
  • 合成アンモニアの生産プロセスの研究開発を進め、変動性の高い再エネ発電への適応力を高める。
  • 関連企業が連携してグリーン合成アンモニアの実証プロジェクトを建設することを奨励する。
  • 小型分散型のグリーンアンモニア採取と活用の推進を模索する。
交通
  • 燃料電池や水素・アンモニア内燃機関、車載水素タンク装置などの技術開発を進める。工業団地におけるFCVの大規模な活用を推進する。
  • FCVモデルプロジェクトで、高品質な工業副生水素と再エネ由来の水素の利用を促進し、分散型再エネに基づく水素製造・充填一体型ステーションの建設を進める。
  • 水素燃料を用いた船舶のエンジンなどの中核技術の研究開発を推進し、水素燃料を用いた船舶の研究開発やテストを推進する。
政策的支援
  • 水素エネルギー産業の発展に向け、省庁間の調整メカニズムを活用し、部門間の連携を通じて、資金やプロジェクト、政策、標準などのリソースを管理する。
  • 再エネによる水素製造プロジェクトが電力市場へ参入し、ピークカット、ピークシフト(注1)などの措置を通じて、水素製造コストの低減を図る。
  • 水素エネルギー分野の「専精特新」中小企業(注2)を育成し、条件の整う地域において水素産業の先進製造業や中小企業を集積させる。

注1:電力需要の集中するタイミングで電力消費を抑え、電力需要の低いタイミングで電力使用を増やすこと。
注2:イノベーションの強化に向けた専門性、精巧な技術力、独自性、新規性の4点で優れた特徴を有するとされる中小企業。
出所:中国工業情報化部の発表からジェトロ作成

また、グリーン水素とグレー水素のコスト差が、政策課題として認識されつつある。中国では2024年末までに、560以上の水素エネルギー関連の政策が発表されているものの、グリーン水素に対象を限定する補助金関連政策は製造プロジェクトに対するものが中心だった。例えば、水素ステーションの設置に対する補助金支給や、FCVの高速道路通行料金無償化、水素を燃料とする船舶の実用実証プロジェクトへの補助金支給など、FCV利用推進のために政府が水素の利用を促進する補助金を出す政策を打ち出してはいるものの、水素の色について言及のないものが多い。

このような状況の中、全国人民代表大会代表で、シノペック中原油田の執行董事の張慶任氏は中国メディアの取材で、現状のグリーン水素の製造コストでは、グリーン水素が市場で競争するのは不可能だとしたうえで、補助金を導入して、製造コストと市場の価格受容性の間のバランスを取る必要があると指摘している(「財聯社」、2025年3月10日)。また、同じく全国人民代表大会代表で、中天科技(注3)董事長の薛済萍氏は現地メディアの取材で、「水素の製造業者に対して適切な補助金を出すべき」と主張している。「グリーン水素製造企業に対して直接補助金を提供することは、グリーン水素の製造コストを削減するうえで重要であり、製造量に応じて補助を提供することで、交通、電力、工業などの各分野におけるグリーン水素の普及につながる」と指摘している(「財聯社」、2025年3月3日)。

このようにグリーン水素の製造コストの高さを政策課題として認識し、補助金を通じて直接コストを賄うことについて議論が進んでいる。

中国は2021年に発表された第14次5カ年規画(2021~2025年)で、2025年までに2020年比で単位GDP当たりのエネルギー消費総量13.5%減、二酸化炭素(CO2)排出量18.0%減との目標を設定している。しかし、2023年12月の中間レビュー結果では、2022年以降はそれぞれ前年比で小幅な減少に留まり、同目標の進捗に遅れがみられることが明らかになっている(2024年12月18日付地域・分析レポート参照)。

世界最大規模のエネルギー消費量を誇る中国は、環境に優しい新たなエネルギー源として水素の普及を重視している。最近では、2025年1月に「中華人民共和国エネルギー法」が施行された(2024年11月12日付ビジネス短信参照)。同法では、水素エネルギーをエネルギー源として明記するとともに、国家が積極的かつ秩序ある水素エネルギーの開発・利用を推進する方針を明確に打ち出した(注4)。

足元、中国ではグレー水素の利用が大半を占める。その中で、製造プロジェクトを通じた量産化の模索や技術開発、工業分野など水素の利用割合の多い分野でのグリーン水素普及など、生産と消費の両側面からグリーン水素の普及を推進することで、カーボンニュートラルの実現を目指している。


注1:
副生水素とは、鉄鋼精錬、苛性ソーダや塩素ガスなどや、石油精製などの製造工程において副次的に発生する水素。鉄鋼、化学製品、石油製造が盛んな中国では、石炭由来の水素に次いで多い。
注2:
同報告書では、水素エネルギーは脱炭素化が困難な分野での炭素削減目標を達成するうえで重要なエネルギーであると位置づけたうえで、長期的には水素の利用分野が多角化していくという展望を示している。交通分野での水素利用については、技術開発によるコストの削減や応用シーンの拡大により、2020年の0.1%から2060年には27%まで増加すると予測している。
注3:
新エネルギー、海洋設備、電力、通信、デジタル経済などの分野で、関連する設備や製品、プラットフォームの製造・販売を手掛ける民営企業。
注4:
水素はそれまで、危険化学物質として応急管理部門の下で管理されていた。ただし、エネルギー法の施行前から、一部各地方政府は「化学工業園区以外での太陽光発電、風力発電などを利用した水の電気分解による水素製造および製造・充填一体化ステーションの建設を許可する」「再エネを利用した水の電気分解による水素製造プロジェクトについては危険化学物質安全生産許可の取得を不要とする」など、地域限定でグリーン水素製造に関しては規制緩和政策を打ち出していた。エネルギー法の施行により、さらなる規制緩和や水素エネルギー関連産業の発展が期待される。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
高畑 友香(たかはた ゆか)
メーカー勤務などを経て、2024年1月、ジェトロ入構。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
廣田 瑞生(ひろた みずき)
2023年、ジェトロ入構。中国北アジア課で中国関係の調査を担当。

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