世界のクリーン水素プロジェクトの現状と課題日本への輸出が計画されるインドのグリーンアンモニア
豊富で安価な再エネで水素製造に向け準備加速

2026年1月23日

2020年代前半に盛り上がった世界のグリーン水素(注1)プロジェクトはその実行にあたり、見直しと淘汰(とうた)の時期を迎えている。

グリーン水素のコストは既存燃料(天然ガスなど)やグレー水素(化石燃料から製造)に比べて高い。そのため、引き取り手(オフテイカー)がいないことが問題になる。本稿では、「インドのグリーン水素はコスト競争力があり、商業スケールでの生産は現実的か」という視点でインドの水素を取り巻く現状を分析したい。

また、後述するインド特有の文脈を踏まえ、グリーンアンモニアの生産・輸出にも触れる。アンモニアは、 (1)固有用途(肥料用、燃料用など)に加え、(2)水素の貯蔵・輸送手段としても注目が集まっている。こうした点からアンモニアは、水素に関する事業・施策を考える上で重要な派生物だ。

これらの観点から、インドのグリーン水素およびグリーンアンモニア関連政策と、実施しているプロジェクトについて解説する。

肥料製造用途のアンモニアが不可欠

インドの水素生産を考える上ではまず、インドの経済、産業の現状を正しく把握しなくてはならない。成長著しいインドにおいて目下重要なテーマの1つは「エネルギー安全保障」だ。インドの液化天然ガス(注2)の輸入額は、150億ドル(2024年)で、これは中国、日本、韓国に次ぐ世界第4位(注3)。特徴的なのが、インドにおいて天然ガスの国内消費の半分弱は、農業用の肥料産業で使用されていることだ(注4)。肥料産業では天然ガスから水素を製造し、その水素と窒素を反応させてアンモニアを合成。アンモニアを肥料の原料として使用する。インドは年間1,700~1,900万トンのアンモニアを肥料製造に使用している(注5)。また、アンモニア需要の86%を輸入に依存している(2022年度)(注6)。世界全体のアンモニア消費量は年間2億トンであるため(注7)、インドの肥料需要だけで世界の消費量の1割弱を占める規模となる。農業大国インドにとって、このような莫大(ばくだい)なアンモニア需要の輸入依存は重要な問題の1つとなっていた。

安価な太陽光発電がインドのグリーン水素の支え

当地の特徴は、旺盛なアンモニア需要だけではない。安価な再生可能エネルギー(再エネ)価格も、強調しておく必要がある。インド政府は脱炭素化にも力を入れる。インドの電源構成は、石炭火力発電が74.4%、水力が7.2%、太陽光が6.0%などだ(2023年)(注8)。太陽光だけでも、118,528.0GWhの発電量があり(2023年)、インドの太陽光発電は、中国、米国に次ぐ世界3位の規模となっている(注9)。当地では、再エネの急成長が見られる。国際エネルギー機関(IEA)は、インドの2024年の発電における再エネ比率は22%で、2030年には34%に成長すると予測する(注10)

現在インドで使用されているアンモニアはすべて天然ガス由来のグレーアンモニアで(注11)、グレーアンモニア製造によるCO2排出量は年間2,500万トンとされる(2022年度)(注12)。再エネ由来のアンモニアを製造することができれば、この排出量が削減できる。 グリーンアンモニアは水を再エネで電気分解して製造した水素(グリーン水素)から作られるアンモニアの呼称だ。インドのグリーンアンモニアが注目される大きな理由が、再エネの価格だ。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、インドの太陽光発電設備のコストは世界で一番安く、1kWあたり525ドルだ。さらに、太陽光発電コスト(LCOE)は1kWhあたり0.038ドル(2024年)で、中国に次ぐ世界2位のコスト競争力を持つ(2024年)(注13)

グリーン水素製造コストの高さが多くの国で問題になっているが、IEAも年次レポート「Global Hydrogen Review外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」などで、「グリーン水素の最大のコスト構成要素は再エネ価格である」と述べている。グリーンアンモニアは再エネが豊富なインドにとっては、国内でアンモニアを製造できるまさに理想的な機会なのだ。それだけではない。欧州や日本などは、発電などを脱炭素化するため、水素を必要としている。長距離輸送をする際、水素は密度が小さいため、通常圧縮や液化して運ばれる。それ以外に輸送方法として、水素をいったんアンモニアにし、需要地で水素に戻す(クラッキングする)という方法も一つの有力な手段だ。

これまで述べたように、太陽光発電により国内でグリーンアンモニアを製造することで、インドはアンモニアの輸入依存を軽減できる。加えて製造した水素を活用して国内で肥料用途や石油精製、燃料として使用し脱炭素に貢献するとともに、海外へのエネルギー輸出にも寄与する。このような期待の中、インド政府は水素政策を推進している。

小規模ながらグリーン水素支援政策が着々と始動

インド新・再生可能エネルギー省(MNRE)は、2023年1月に「国家グリーン水素ミッション」を発表した(2023年6月9日付地域・分析レポート参照)。同文書内でインドのグリーン水素の製造コストは世界で最安であると期待されているとし、2030年までに予期される世界のグリーン水素(およびその派生物)需要1億トンのうち10%の1,000万トンを輸出できる潜在性が想定されている(注14)

同文書中には「Strategic Interventions for Green Hydrogen Transition (SIGHT)」という中央政府のグリーン水素振興策が盛り込まれている。内容は以下のとおり。

  • 初期段階の財政的インセンティブ:2029-30年度までに1,749億ルピー(約3,060億円、1ルピー=1.75円)を支出予定。
  • 支援は、コンポーネント1「電解層の製造」とコンポーネント2「水素等の製造と利用」に分かれる。
    • コンポーネント1の補助
      生産能力(kw)を単位として補助金を拠出する。
      開始年のベース補助は、4,440ルピー (約7,770円)/kW。5年にわたって供与し、段階的に減少していく(注15)
    • コンポーネント2の補助
      グリーン水素かグリーンアンモニアを製造・利用した場合に、補助金を拠出する。
      水素については、生産開始から3年にわたり、重量単位(kg)で補助する。初年度は最大50ルピー/kg、2年目は40ルピー/kg、3年目は30ルピー/kgになっている(注16)
      アンモニアについては、3年間で、1年目8.82ルピー/kg、2年目7.06ルピー/kg、3年目5.30ルピー/kgだ(注17)

対象となるプロジェクトを選定するため、それぞれ順次入札が行われ、後述のオーミウムなどの外資系企業の採択事例もある(入札結果はMNREウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照)(注18)。インドの水素政策において注目される取り組みだ。もっとも、日本の3兆円規模とされる経済産業省の「価格差に着目した支援外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」などと比較すると、SIGHTのインセンティブは小さく、支援期間は短い。

グリーン水素プロジェクトの実現に向けて準備加速

インドにおける水素プロジェクトは、MNREの「プロジェクトデータベース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」で確認できる(図参照)。

図:インドのグリーン水素プロジェクト件数
グリーン水素製造は、計画中 4件、公表済 133件、建設中 4件、運用開始済 15件、拡張中 0件、廃止済 1件。電解槽製造は、計画中 0件、公表済 16件、建設中 3件、運用開始済 2件、拡張中 1件、廃止済 0件。その他関連プロジェクトは、計画中 0件、公表済 19件、建設中 0件、運用開始済 11件、拡張中 0件、廃止済 0件。

注:2025年12月8日のデータに基づく。
出所:MNRE「プロジェクトデータベース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

インド国内において、157件のグリーン水素製造案件があるが、うち133件が未だプロジェクトを公表したのみという段階だ。一方、運用開始済みのプロジェクトの内容を確認すると、さまざまな用途で水素を利用する予定になっていることがわかる(表参照)。なお、その中で、電解層容量が最大なのは、インド国営ガス会社(GAIL)が手掛けるマディヤ・プラデシュ州のプロジェクトだ。10メガワット(MW)の電解槽で年間約1,570トンのグリーン水素を製造し、同地の既存工場で天然ガスと混合して使用される。

表:現在稼働中のインドのグリーン水素製造プロジェクト 注:2025年12月8日のデータに基づく。電解層容量順。
プロジェクト名 場所 水素の用途 電解層容量
(MW)
年間水素生産容量(トン)
GAIL - Vijaipur PEM Electrolyser Project
GAIL- GH2 Project
マディヤ・プラデシュ州 天然ガス混合 10 1,571
BPCL - Green Hydrogen マディヤ・プラデシュ州 リファイナリー 5 750
NTPC - Green Hydrogen for Green Methanol from CC Vindhyachal マディヤ・プラデシュ州 メタノール製造 5 730
HPCL - Green Hydrogen Plant アンドラ・プラデシュ州 リファイナリー 2 370
ACME - Green Hydrogen and Green Ammonia Plant Rajasthan ラジャスタン州 肥料 2 314
Rampur GH2 Project (Phase 1) ウッタル・プラデシュ州 ハッカ油およびソルビトール産業 1 145
Shell - Bengaluru Green Hydrogen Project カルナータカ州 研究 1 219
L&T - Green Hydrogen Plant グジャラート州 重工業で使用 1 113
Hero Future Energies Tirupati Hydrogen Plant アンドラ・プラデシュ州 天然ガス混合 0 43
NTPC - Green Hydrogen for Ladakh Fuelling Station ラダック-ジャンム・カシミール モビリティー 0 29
OIL India - Jorhat Pump Station AEM Electrolyser アッサム州 天然ガス混合 0 4
SJVN Limited -NJHPS Multi-purpose GH2 Pilot Project ヒマーチャル・プラデシュ州 重工業で使用 0 4
NTPC - City Gas at NTPC Kawas グジャラート州 天然ガス混合 0 1
Hygenco Heartland Ujjain Hydrogen Plan マディヤ・プラデシュ州 研究 0 0

注:2025年12月8日のデータに基づく。電解層容量順。
出所:MNRE「プロジェクトデータベース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」、各種報道

前述の中央政府のSIGHTにも電解層製造プロジェクトが対象とされているように、インドでは水素を作るための電解層の製造にも力を入れる。2025年12月8日時点で商業規模のプロジェクトの代表例は、オーミウム(米国のグリーン水素スタートアップ)がベンガルール郊外に構えるギガファクトリーだ。同工場は、プロトン交換膜(PEM)電解層を製造。年間製造量2GWの規模で、将来的には4GWまでの拡張を予定する(注19)。同社は既に米国へのPEM型電解層の輸出実績がある。ほかにも、ヒンドゥスタン・ペトロリアム(HPCL/国営石油企業)がパイロット規模で、近年商用化が進む水素生産技術である固体酸化物電解(solid oxide electrolysis:SOE)の電解層を製造・稼働している。MNREのデータベース上の「その他グリーン水素関連プロジェクト」では、水素ステーション設置や水素燃料電池バス、廃棄物から水素を製造するプロジェクトなどが進行中だ。

インド産アンモニアの日本の引き取り手は九州、愛知、北海道などを想定

インドでは日本企業によるグリーンアンモニアプロジェクトへの投資も進む。双日は、九州電力とシンガポールのエネルギー企業セムコープ・インダストリーズ子会社とともにタミル・ナドゥ州でグリーンアンモニアを製造。2030年頃までに九州地方を中心として日本向けに年間20万トンのグリーンアンモニアを供給する計画だ(注20)。IHIは、2024年1月に、インド大手再生可能エネルギー事業者ACMEグループと同社がインドで生産するグリーンアンモニアの引き取りに関して、基本合意している。IHIはグリーンアンモニア最大40万トンを2028年から引き取り、日本における発電などの需要家向けに供給予定(注21)。IHIは、2024年度に愛知県のJERA碧南火力発電所4号機において燃料アンモニアの大規模転換実証試験(熱量比20%)に成功しており、商業利用が可能であることを示している。また、ACMEの同プロジェクトに関して、北海道電力もIHIと覚書を結び、北海道の苫東厚真発電所4号機(石炭火力発電所)でのアンモニア活用に向けた検討および苫小牧地域でのアンモニアの受入・貯蔵・供給拠点の整備に関する検討等を進めている(注22)。日本国内の水素プロジェクト動向については、経済産業省の「価格差に着目した支援」の順次行われる選定にも注目したい。

各国で水素のオフテイカー不足が問題となっているが、水素製造を取り巻くコストの点でインドの事情は少し異なる。価格の安い太陽光発電と国内での電解層製造、加えて自国内の圧倒的なアンモニア需要が水素製造国としての未来のインドの後ろ盾となるだろう。現在のところ技術的には米国や欧州、日本に頼る面があることも事実だが、世界規模で見た水素の製造・輸出国としてインドは見逃せない存在であると言える。

2020年代後半に日本のアンモニア輸入が実現すれば、当然国内でもアンモニアの輸送から消費までのインフラが必要となる。これは、関連市場への参画チャンスという側面で中小企業を含む日本の関連企業にとって、着目すべき点であることも付け加えたい。


注1:
再エネで水を電気分解して製造した水素。製造時にCO2を排出しない。なお水素は、燃焼してもCO2が発生しない。 本文に戻る
注2:
HSコード「271111」天然ガスを液化したもの。 本文に戻る
注3:
国際貿易センター(ITC)「Trade Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」参照。 本文に戻る
注4:
インド政策委員会(NITI Aayog)「India Climate & Energy Dashboard外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」Sector-wise Natural Gas Consumption参照。 本文に戻る
注5:
インドの独立系シンクタンクであるCouncil on Energy, Environment and Water(CEEW)レポート「Economic Feasibility of Green Ammonia Use in India’s Fertiliser SectorPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(8.6MB)」参照。 本文に戻る
注6:
同上。同数値は、インドにおける肥料生産向けに輸入されたアンモニアの量、輸入肥料最終製品として間接的に輸入されたアンモニアの量、および輸入天然ガスを改質してインド国内で生産されたアンモニアの量を集計し、推計したもの。 本文に戻る
注7:
資源エネルギー庁(日本)「我が国の燃料アンモニア導入・拡大に向けた取組についてPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.4MB)」(2024年2月)参照。 本文に戻る
注8:
国際エネルギー機関(IEA)「India外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」Energy Mix(発電電力量ベース)参照。 本文に戻る
注9:
IEA「Renewables2025外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」参照。 本文に戻る
注10:
IEA「Renewable Energy Progress Tracker外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」参照。 本文に戻る
注11:
前述のCEEWレポート参照。 本文に戻る
注12:
CEEW「Evaluating Net-zero Trajectories for the Indian Fertiliser Industry: Marginal Abatement Cost Curves of Carbon Mitigation TechnologiesPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(7.1MB)」参照。 本文に戻る
注13:
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)「Renewable Power Generation Costs in 2024外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」参照。 本文に戻る
注14:
インド新・再生可能エネルギー省「国家グリーン水素ミッションPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(633KB)」(2023年1月)参照 本文に戻る
注15:
インド新・再生可能エネルギー省「Strategic Interventions for Green Hydrogen Transition (SIGHT) Programme – Component I: Incentive Scheme for Electrolyser Manufacturing外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(2023年6月)参照。 本文に戻る
注16:
インド新・再生可能エネルギー省「Scheme Guidelines for Implementation of Strategic Interventions for Green Hydrogen Transition (SIGHT) Programme Component-II : (under Mode-2B)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」参照。 本文に戻る
注17:
インド新・再生可能エネルギー省「Scheme Guidelines for Implementation of Strategic Interventions for Green Hydrogen Transition (SIGHT) Programme Component-II (under Mode-2A)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」参照。 本文に戻る
注18:
需要サイドのSIGHTプログラムモード2については、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の短報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに詳細の説明がされている。執筆時点で、モード2Bの結果は関連ウェブサイトに掲載されていないが、政府発表によると1回入札が行われ、結果が公表されている。 本文に戻る
注19:
オーミウムプレスリリース 「Ohmium Launches Newest PEM Electrolyzer Gigafactory外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(2024年7月19日)参照。 本文に戻る
注20:
双日プレスリリース「双日、インドから日本へのグリーンアンモニア供給についてSembcorpおよび九州電力と基本合意外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(2024年6月6日)参照。 本文に戻る
注21:
IHIプレスリリース「IHIとACME,インドから日本へのグリーンアンモニア供給について基本合意外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(2024年1月23日)参照。 本文に戻る
注22:
IHIプレスリリース「インドにおけるグリーンアンモニア製造プロジェクトへの出資検討に関する覚書を締結外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(2025年3月25日)参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
板谷 幸歩(いただに ゆきほ)
民間企業などを経て、2023年4月ジェトロ入構。

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