世界のクリーン水素プロジェクトの現状と課題ウズベキスタンのグリーン水素開発、中東と中国の企業が着手

2025年5月14日

ウズベキスタンは、2050年のカーボンニュートラルの目標を掲げ、取り組みを推進している(2025年5月8日付地域・分析レポート参照)。同国は、環境に負荷が少ないとされている天然ガスの産出国だ。天然ガスは同国の主要なエネルギー源であるが、近年、国内のエネルギー需要の増加などの影響で、天然ガスが不足する状況が続いている。その中で新たなエネルギー源として、水素やアンモニアの活用の検討を進めている。水素とアンモニアは、エネルギーとして使用する際に二酸化炭素(CO2)を排出しないという特徴があり、脱炭素化への利用が期待されている。このような背景から、ウズベキスタンは諸外国の政府や企業と協力し、国内で大規模なグリーン水素製造プラントの建設を進めており、アンモニアについても実現可能性調査(いわゆるフィージビリティスタディ:FS)を進めている。特に中国、中東企業の進出が目立つが、欧州、米国、日本も同国の水素・アンモニアの可能性に注目し、関与し始めている。このレポートでは、ウズベキスタンの水素・アンモニア開発の現状を見ていく。

政府はグリーン経済への移行のため、水素の導入を検討

ウズベキスタン政府は2050年のカーボンニュートラル達成に向け、その手段の1つとして水素の導入を掲げている。大統領決定第PP-5063号「ウズベキスタン共和国における再生可能エネルギーおよび水素エネルギーの開発に関する措置について」(2021年4月9日付)(表1参照)で、再生可能エネルギーと水素を国内のエネルギー需要と気候変動対策の手段として位置づけた。大統領決定第PP-436号「2030年までにウズベキスタンをグリーン経済に移行させることを目的とした改革の効率性を高めるための措置について」(2022 年 12 月 2 日付)では、同国エネルギー省をグリーンエネルギーの開発、再生可能エネルギーと、水素の幅広い導入、エネルギー効率改善および生産される製品のエネルギー強度の低減に関する被授権機関と定めた。

表1:大統領決定第PP-5063号(2021年4月9日付)の要点
項目 要点
1. 背景と目的
  • エネルギー資源の需要構造が変化しており、再生可能エネルギーと水素エネルギーの発展が重要。
  • 気候変動の中で効率的で資源節約型、環境に優しい経済を確保するための課題に対処する。
  • 産業化の加速と人口増加がエネルギー資源の需要を高め、環境への負荷を増加させている。
2. 主要な措置
  • 再生可能エネルギーと水素エネルギーのインフラを整備し、科学的および実践的な研究の成果を向上させる。
  • イノベーション技術の導入を促進し、ウズベキスタンの「グリーン」経済への移行を支援する。
3. 具体的な取り組み
  • 再生可能エネルギー研究所と水素エネルギー研究センターの設立:設備と資金を支援し研究と人材育成を推進する。
  • 国家戦略の策定と協力強化:再生可能エネルギーと水素エネルギーの発展に関する国家戦略を策定し、関連省庁や機関、高等教育機関と協力して研究と人材育成を推進する。
  • 国際的な協力と認証:国際会議などを通じて国際協力を促進し、研究所のラボを国際基準に基づいて認定する。

出所:大統領決定第PP-5063号「ウズベキスタン共和国における再生可能エネルギーおよび水素エネルギーの開発に関する措置について」(2021年4月9日付)からジェトロ作成

脱炭素を支える水素は、水資源へのアクセス確保が課題

2024年4月30日、ウズベキスタンで開催された会議には、ウズベキスタンとカザフスタンのエネルギー省や、ウズベキスタンの持続可能な経済発展やグリーン水素の導入を支援するドイツ国際協力公社(GIZ)などが参加し、ウズベキスタンのグリーン水素について議論した。会議では、グリーン水素が同国の持続可能な開発目標の達成を支え、太陽エネルギーなどと組み合わせることで炭素排出量を大幅に削減し、エネルギー源を多様化できると議論された。この議論の中では、水素のポテンシャルへの期待とともに、懸念点にも言及があった。再生可能エネルギーから生産されるグリーン水素は、同国でもGHG(温室効果ガス)の排出量が多い鉄鋼生産、鉄鋼製品加工の重工業の脱炭素化や、グリーン肥料の製造と輸出促進を支えるポテンシャルがある。一方で、GIZのプログラムマネージャー、セルゲイ・マカロフ氏は、ウズベキスタンでは水素の製造に必要な水が不足する時があり、政府が主体となり、製造拠点を水資源の確保ができる適切な場所に設けるなどの計画が必要だ、と指摘する(「Daryo」2024年5月28日)。

2050年までに400億ドルの投資誘致が目標

ウズベキスタンの水素戦略の資金計画は、前例のない金額の調達を計画している。ジェトロ・タシケント事務所が同国エネルギー省にヒアリングをしたところ、同国は2050年までに400億ドルのグリーン水素分野への投資を目指している(2023年9月)。2021年以降の同国の対内直接投資額は約20億~26億ドルで推移しており、2023年の名目GDP(1,015億8,400万ドル)と比較すると、400億ドルは大きな目標だ。

ウズベキスタンの水素開発に外国の政府や企業が関与

近年、外国の政府や企業によるウズベキスタンでの水素開発の実証研究や導入プロジェクトが動き始めた。2023年1月には、サウジアラビアのACWAパワーが、タシケント州チルチク市でウズベキスタン政府と協力し、年間3,000トンのグリーン水素を生産するプラントの建設と、年間50万トンのグリーンアンモニアを生産するプロジェクトの実現可能性調査を行う合意書に署名した。2023年11月にグリーン水素プラント建設の起工式が行われた。プロジェクトの完了後は、同国の主要なエネルギー源であり、近年逼迫している天然ガスの国内需要を年間3,300万立方メートル分削減できる見通しだ。その後、中国の企業のほか、欧州復興開発銀行(EBRD)などが同プロジェクトに加わった(表2参照)。2023年1月の発表時点では、2024年12月末までに水素プラントの建設と、アンモニア開発の調査を完了させるとしていたが、2025年3月時点でその後の発表はない。

表2:ウズベキスタン初のグリーン水素およびグリーンアンモニアプロジェクトの主な推移
発表時期 概要
2023年1月 サウジアラビアのACWAパワーは、ウズベキスタン・エネルギー省および国営化学企業ウズキミヨサノアトと、グリーン水素施設およびグリーンアンモニアパイロットプロジェクトの開発に関する包括的な基本合意書に署名。最初のグリーン水素プロジェクトは、タシケントから45キロ離れたチルチクの既存アンモニアプラントに接続される予定。年間3,000トンのグリーン水素の生産を計画しており、2024年12月の稼働開始を目指すと発表した。
2つ目のプロジェクトは、50万トンのグリーンアンモニアの実現可能性の調査だ。このプロジェクトにより、国内の天然ガス消費は年間6億立方メートル削減、二酸化炭素排出量は年間150万トン削減される見込み。調査は2024年末までに完了予定と発表。
2023年11月 11月27日にプロジェクトの起工式が行われた。中国電力建設集団(PowerChina)がエンジニアリング・調達・建設を担当する。プロジェクト完了後は肥料生産における天然ガスの使用が削減され、年間3,300万立方メートルの天然ガスを節約することができると発表。
2024年3月 ACWA パワーと、中国のロンジ・グリーン・エナジー・テクノロジーの完全子会社であるロンジ・ハイドロジェンは、同プロジェクトの業務提携を発表。ロンジ・ハイドロジェンはプロジェクトに主要な設備を供給する。
2024年5月 ベルギーのデルハイゼ・グループは、同プロジェクトのために設立されたACWAパワーUKS グリーン H2 LLC JVに2,500万ドルの融資を行い、この新しいプラントの開発と建設を支援していると発表。
2024年8月 欧州復興開発銀行(EBRD)、同施設への融資を通じて、ウズベキスタンの肥料生産および発電の脱炭素化への支援を発表。EBRDは、ACWA パワー UKS グリーンH2に総額6,500万米ドル(5,800万ユーロ)のファイナンスを支援する。総額には気候変動対策におけるハイインパクト・パートナーシップ特別基金(HIPCA)の下での、カナダからの最大1,000万米ドル(900万ユーロ)の支援も含まれる。
2024年9月 ウズキミヨサノアト、EBRD、ACWA パワーUKS Green H2が、ウズベキスタンでのグリーン水素製造プラント開発プロジェクトに関する合意書に調印した。
2024年10月 ロンジ・ハイドロジェン、同プロジェクト向け設備の出荷をしたと発表。

出所:ACWA、中国電力建設集団、EBRD、デルハイゼ・グループ、各種報道からジェトロ作成


ACWAパワーのウズベキスタンのオフィス(ジェトロ撮影)

米国も、ウズベキスタンの水素開発に関与している。2024年2月29日には、米国国際開発庁 (USAID) が、ウズベキスタンのエネルギー省およびエネルギー部門の関係者と協力して「グリーン水素ハブ」の開発をすると発表した。これは、クリーンエネルギー技術に関する同分野の人材の専門知識の向上の支援などを通じて、同国の「再生可能エネルギーおよび水素エネルギー開発戦略」に貢献することを目的としている。USAIDは、中央アジアの再生可能エネルギーの導入などを支援する「Power Central Asia」プロジェクトを通じ、2020年10月~2025年9月の5年間で3,900万ドルの予算を組んでいる。ウズベキスタンでは、水素ハブ構想など水素技術の調査のほか、エネルギー規制機関や新電力市場開発、再生可能エネルギー導入などの支援をしていた。しかし、米国国務省は2025年1月26日、国務省とUSAIDが資金提供を行っている全ての対外援助プログラムを一時停止・検証の対象とした(2025年1月28日付ビジネス短信参照)。在ウズベキスタン米国大使館のサイトを見ると、2025年5月の執筆時点でUSAIDのウズベキスタンに関する活動や、水素ハブに関する動きは見られない。報道によれば、USAIDは中央アジアでの活動を停止している(「ボイス・オブ・アメリカ」2025年2月14日)。

日本も、外務省が「対ウズベキスタン共和国事業展開計画(2024年4月)」で、「ウズベキスタンの地域特性に配慮したカーボンニュートラル社会実現のための効率的・革新的グリーン/ブルー水素製造技術開発プロジェクト(SATREPS)」の支援に3億円を計上し、同分野の調査を開始している。

ウズベキスタンは「直接排出の削減」の取り組みとして、燃費や環境に優しいグリーンな自動車の導入や公共交通システムの開発の検討を進めている。「輸送」も、「電力・熱」「農業」「建物」などに次いで同国のCO2の発生源であり、対策が求められている。例えば、近年、同国は電気自動車やハイブリッド車の物品税や関税の撤廃をするなどして導入を支援している。また、ウズベキスタン自動車公社(ウズアフトサノアト)はロシアと協力して、水素自動車の開発も進めている(2024年5月20日付ビジネス短信参照)。

執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課ロシアCIS班 リサーチ・マネージャー
小野塚 信(おのづか まこと)
2021年、民間企業勤務を経て、ジェトロ入構。

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