特集:進む北米のEV化、各地域の市場と政策を探る 中西部でもEV化が進展(米国)
カギはインフラ整備やインセンティブ拡大

2022年10月25日

米国では、ミシガン州を中心として中西部に自動車産業が集積している。電気自動車(EV)についても、生産拠点を置く新興メーカーがある。他方、この地域のEV普及率は高くない。カリフォルニア州、フロリダ州、テキサス州などの大規模市場に比べると依然、成長途上にあると言える。こうした状況から、EV関連の産業を奨励することで州の経済を活性化させようとする動きが活発になってきた。隣接する州との連携によってEVの普及を加速させようという計画もある。

なお、本稿では、基本的に一般消費者向け乗用車のEVに焦点を当てる。そのため、バスやトラックなどの商用車は、特に明記しない限り含まれていない。

中西部でもEV普及率が増加傾向

米国エネルギー省が2021年12月に発表したところ、米国で最もEV登録台数が多いのはカリフォルニア州。全米で登録された台数のうち、約4割を占める。また、上位5州の合計では全米の約6割だ(表1参照)。これに対し、「地域電気自動車中西部連合〔Regional Electric Vehicle Midwest Coalition(REV Midwest)、以下REV中西部連合〕」(注1)加盟州のEV登録数合計は、全米の6%程度にとどまる。こうした中、EV普及に向けて目標に掲げる州も出てきた。例えば、イリノイ州は2030年までにEV登録台数を100万台に、ミネソタ州も2030年までに20%増加させるという。

表1:中西部5州のEVの登録台数推移(単位:台、%)(-は値なし)
項目 州名 2017年 全米での
シェア
(2017年)
2019年 全米での
シェア
(2019年)
2021年 全米での
シェア
(2021年)
REV
中西部
連合5州
イリノイ 8,300 2.2 19,300 2.5 36,500 2.5
ミシガン 2,500 0.7 6,600 0.8 17,500 1.2
ミネソタ 2,300 0.6 7,700 1.0 15,000 1.0
インディアナ 1,900 0.5 5,100 0.7 10,400 0.7
ウィスコンシン 2,800 0.7 4,700 0.6 9,300 0.6
中西部5州合計 17,800 4.7 43,400 5.5 88,700 6.1
上位5州 カリフォルニア 189,700 50.3 349,700 44.6 563,100 38.7
フロリダ 15,900 4.2 40,300 5.1 95,600 6.6
テキサス 16,100 4.3 38,400 4.9 80,900 5.6
ワシントン 21,000 5.6 40,400 5.2 66,800 4.6
ニューヨーク 9,400 2.5 23,000 2.9 51,900 3.6
上位5州合計 252,100 66.9 491,800 62.8 858,300 59.0
全米合計 377,100 - 783,600 - 1,454,400 -

注:100の位で四捨五入。
出所:米エネルギー省データからジェトロ作成

主要道路の充電器の拡充は助成金で

ここで、中西部での充電ステーション設置状況を確認してみる。米国エネルギー省の2021年12月時点でのデータによると、イリノイ州が1,077カ所だ。そのほかのREV中西部連合加盟州では、ミシガン州(834カ所)、ミネソタ州(589カ所)、ウィスコンシン州(474カ所)、インディアナ州(354カ所)と続く(図参照)。

図:中西部5州の公共充電ステーション数推移
2014年の公共充電ステーション数は、イリノイ州で395カ所、ミシガン州で283カ所、ミネソタ州で209カ所、ウィスコンシン州で174カ所、インディアナ州で126カ所。 2015年の公共充電ステーション数は、イリノイ州で455カ所、ミシガン州で326カ所、ミネソタ州で238カ所、ウィスコンシン州で225カ所、インディアナ州で149カ所。2016年の公共充電ステーション数は、イリノイ州で525カ所、ミシガン州で533カ所、ミネソタ州で285カ所、ウィスコンシン州で279カ所、インディアナ州で196カ所。2017年の公共充電ステーション数は、イリノイ州で543カ所、ミシガン州で550カ所、ミネソタ州で294カ所、ウィスコンシン州で283カ所、インディアナ州で198カ所。2018年の公共充電ステーション数は、イリノイ州で579カ所、ミシガン州で606カ所、ミネソタ州で318カ所、ウィスコンシン州で306カ所、インディアナ州で224カ所。2019年の公共充電ステーション数は、イリノイ州で663カ所、ミシガン州で616カ所、ミネソタ州で380カ所、ウィスコンシン州で345カ所、インディアナ州で239カ所。2020年の公共充電ステーション数は、イリノイ州で805カ所、ミシガン州で628カ所、ミネソタ州で445カ所、ウィスコンシン州で381カ所、インディアナ州で282カ所。2021年の公共充電ステーション数は、イリノイ州で1,077カ所、ミシガン州で834カ所、ミネソタ州で589カ所、ウィスコンシン州で474カ所、インディアナ州で354カ所。

注:店舗に併設の充電施設を含む。
出所:米国エネルギー省データからジェトロ作成

一方で、バイデン政権は「EV充電プログラム」を打ち出していた。このプログラムは、EV充電ネットワークを全米的に拡充するため、州政府に対して助成金を支給するのが趣旨だ。各州からEVインフラ展開計画書を受け付け、連邦高速道路局(FHWA)が審査する。その利用を期し、2022年8月1日までに各州とも計画書を提出していた。米国運輸省は9月14日、ミシガン州を含む35州が最初の合計9億ドル超の資金提供の承認を受けたと発表した(2022年2月16日付、9月15日付ビジネス短信参照)。この予算によって、インフラ重点道路として指定された「代替燃料回廊」を中心に、全米で充電設備が設置される予定だ。

こうした動きの中で、中西部では現在、REV中西部連合加盟州と、ミシガン湖EVサーキット(注2)加盟州によってインフラの拡充計画が立てられている。ミシガン湖EVサーキットでは、湖沿岸の1,100マイル(約1,800キロ)以上の道路に、EV充電ネットワークを構築。EV専用のロード・トリップ・ルートを建設する予定だ。具体的には、湖沿いのイベント会場や公園、宿泊施設や飲食店など、観光スポットに充電器を建設する。これによって、同地域の観光業を振興するとともに、EVの普及促進を狙う。この計画に対し、ミシガン州の商工団体ミッシュオート(MICHIAuto、注3)のエグゼクティブディレクター、グレン・スティーブン氏は、「これらの計画は州をまたぐ。そのため、異なる州法を持つ州同士が連携してインフラを敷設するには多くの調整が必要になる」「今後増加する充電設備の維持に向けて、技術者育成も課題となっている」と述べた。

イリノイ州がインセンティブ提供でリード

EVは、通常のガソリン車に比べて高価なのが実情だ。その普及に向けては、連邦政府や州などからインセンティブを提供することが重要だ。これまでは、連邦政府の税額控除がそのために大きな役割を果たしてきた。しかし、2022年8月16日に成立したインフレ削減法では、税額控除(注4)を受けるための要件が追加されている。その結果、EV購入の際の選択肢が狭まるのではないかと懸念する声も上がっている(2022年8月5日付ビジネス短信参照)。

一方、各州が定めるインセンティブは、連邦政府が定める要件とは別に設定できる。中西部の中では、イリノイ州が2022年7月1日以降に購入したEVに対して、4,000ドルの払い戻しを受け取れるよう、制度設計済みだ(表2参照)。

ミシガン州には現時点で、払い戻しや税額控除などのインセンティブはない。しかし、グレッチェン・ウィットマー知事(民主党)は2022年1月26日、EV購入時に2,000ドル、家庭での充電設備に500ドルの払い戻しをする案を発表した。加えて、EV充電設備は、各州の個々の電力会社などが提供する払い戻しやクレジット付与の対象になり得る。例えば、ミシガン州の電力会社DTEエナジーは、EVを購入またはリースをして住宅用にレベル2のEV充電器を設置した場合、500ドル払い戻している。

他方、2022年8月現在、インディアナ州、ミネソタ州、ウィスコンシン州では、EV購入時またはEV充電設備購入時に州によるインセンティブがない。

表2:中西部5州のEV購入奨励策
州名 EV購入時 州のインセンティブ 個人用のEV充電設備 州のインセンティブ その他
イリノイ 払い戻し予算1,800万ドル(EV:4,000ドル、電動バイク:1,500ドル) 個々の電力会社によるリベートプログラムなど × 7月1日時点で、払い戻しのための基金残高は約1,800万ドル
インディアナ × 個々の電力会社によるリベートプログラムなど ×
ミシガン 個々の電力会社によるリベートプログラムなど × 個々の電力会社によるリベートプログラムなど × 1月に知事が払い戻し提案(EV購入時:2,000ドル、充電設備購入時:500ドル)
ミネソタ × 個々の電力会社によるリベートプログラムなど ×
ウィスコンシン × 個々の電力会社によるリベートプログラムなど ×

注:-は該当するものなし。
出所:各州のウェブサイト、米国エネルギー省データからジェトロ作成

新興EVメーカーが中西部で生産開始

現在、米国では、米国の自動車製造大手3社「デトロイト3」(注5)もEVモデルを相次いで発表している。その車種は、ピックアップトラックやスポーツ用多目的車(SUV)などの大型乗用車から、スポーツカーなど幅広い。進められているEV関連の設備投資も、巨額だ。

さらに、歴史的に自動車産業が集積する中西部では、デトロイト3以外に新興のEVメーカーも生産を開始している。

例えば、リビアン(本社:カリフォルニア州)。新興EVメーカーとして、ハイエンドのピックアップトラックやSUVを手掛ける。イリノイ州ノーマル市に組み立て工場を持ち、2021年9月に生産を開始。その当初こそ、サプライチェーンの混乱などで生産が滞っていた。しかし、徐々に回復し、現在は当初の目標通り2022年末までに2万5,000台の生産を目指している。現在、同社のピックアップトラックには9万8,000台の注文があるという。また、同社は、アマゾン(米国オンラインストア最大手)の配達用EVトラック製造も手掛けている。アマゾンからは、10万台の注文が入っているという。

また、同州ジョリエット市では、商用EVメーカーのライオン・エレクトリック(本社:カナダ)が組み立て工場を建設中だ。2022年末までに、EVスクールバスの生産を開始する予定だ。さらに今後は、年間2万台のEVスクールバスとEVトラック生産ができるようになると見込んでいる。

このほか、オハイオ州ローズタウンにも新興EVメーカーが立地する。大口顧客向け商業用フルサイズピックアップトラックを専門にするローズタウン・モーターズだ。同社はキャッシュフローの悪化から、2022年5月にはフォックスコン(本社:台湾)に組み立て工場を2億3,000万ドルで売却した。今後は、フォックスコンがピックアップトラック「エンデュランス」の委託生産を請け負う。2022年第3四半期には、その生産を開始する予定だ。

米国自動車部品製造者工業会(OESA)のマイク・ジャクソン戦略・調査担当エグゼクティブディレクターは、「米国の自動車産業は、EV化に向けて巨額投資している」という。あわせて、「こうした動きは、技術や投資を優遇する政策によって支えられている。当面は経済的・政治的不確実性があるだろう。しかし、このEV化の動きがすぐに止まることはないはず」との見通しを示した。その上で、「自動車メーカーは、堅調に成長する中国や欧州などのグローバル市場も視野に入れながら、北米でのEV需要を見極めている。サプライヤーも、グローバルな専門知識をいかして創意工夫しつつ、最先端技術の開発に貢献。顧客への革新的なソリューション提供を追求している」と述べた。

米国では2022年第2四半期、新車販売台数に占めるEVの割合が5.6%に伸びた。前年同期の2.7%から倍増したかたちだ。これは、各種インセンティブの導入、充電インフラ整備、自動車メーカーの生産モデル数の増加などに後押しされた結果と言える。一方、政府の政策や国際情勢、物流の混乱などにより、生産体制や技術、資材調達先の変更など、課題へ柔軟に対応していくことが必要だ。

このような状況で、一層のEV普及に向けては、(1)連邦政府だけでなく、州政府レベルがどのようなEV普及に向けたインセンティブを導入できるか、(2)消費者へアピールできるEVを自動車メーカーがどれだけ魅力的な価格でラインナップできるのか、がカギを握るといえよう。今後も各方面のEV普及戦略から目が離せない。


注1:
中西部でのEV化とインフラ整備などを目指して、超党派で2021年9月30日に結成された。加盟州はイリノイ、インディアナ、ミシガン、ミネソタ、ウィスコンシンの5州。
注2:
ミシガン州が先導し、2022年8月3日に、ミシガン湖に隣接するイリノイ、インディアナ、ウィスコンシン各州も参加し結成された。
注3:
ミッシュオートは、自動車と次世代モビリティに関して、州内産業の振興・促進を支援する団体。
注4:
インフレ削減法では、EV購入時の税額控除を最大7,500ドルと規定した。
注5:
デトロイト3とは、米国で伝統的に自動車製造大手とされる3社のこと。具体的には、ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、旧・クライスラー(現・ステランティス)。
執筆者紹介
ジェトロ・シカゴ事務所 農水/調査部 アシスタント・リサーチャー
星野 香織(ほしの かおり)
商社、ジェトロ・ニューヨーク事務所などでの勤務を経て、2022年3月から現職。