中国製品に対する輸入規制が向かい風に
米国太陽光発電需給逼迫(後編)

2023年4月3日

米国のバイデン政権は、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出ネットゼロの気候変動対策目標を掲げている。目標達成に向け、同政権がインフラ投資雇用法やインフレ削減法で予算措置を講じていることなどが追い風となり、再エネの中でも太陽光発電の導入が進む。

一方で、世界の太陽光発電製品のサプライチェーンは、中国に集中する実態がある。その中国との戦略的競争に伴い、国内産業保護の観点から米国は追加関税など措置を講じている。加えて、中国・新疆ウイグル自治区での人権保護を目的にした輸入規制も課す。しかも、高まる需要に対して太陽光発電製品の国内生産体制が不十分だ。こうしたことから、米国は深刻な太陽光発電製品の供給不足に直面している。

本稿後編では、米国の中国製品に対する輸入規制の動向をまとめた上で、脱炭素目標との間で板挟みとなるバイデン政権のかじ取りを展望する。

国内産業保護の観点から、中国製品の輸入を制限

米国だけでなく、太陽光発電製品に関する需要は世界的にも増大している。一方で、国際エネルギー機関(IEA)の「太陽光発電のグローバルサプライチェーンに関する報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」によると、中国は2011年以降、この分野で500億ドル以上を投資し、国内需要を上回る規模で太陽光発電の製造を推進してきた。現在、世界全体のポリシリコン、インゴット、ウエハー、太陽電池、モジュールなどの太陽光発電製品に占める中国製品のシェアは80%を超える。さらに2025年までには、このシェアが95%に達するとしている。

太陽光発電製品のサプライチェーンに中国が大きな影響力を持つ中、米国政府はオバマ元政権下の2012年に、中国製の太陽光発電製品に対してアンチダンピング税(AD)および補助金相殺関税(CVD)を賦課する措置を発動した。この措置は今なお継続している(注1)。本件の発動にあたって米国政府は、(1)中国企業が太陽光発電製品を不当廉売し、同時にそれら製品の生産には政府から不当な補助金を受けていたこと、(2)それによって米国内の太陽光発電製品産業が損害を受けたこと、(3) そして(1)と(2)の間に因果関係があることを認定していた。

さらに、トランプ前政権下の2018年には、太陽光発電製品に対して1974年通商法201条に基づいて、緊急輸入制限措置(セーフガード、注2)を発動した。原則として全ての輸入(中国以外を含む)の輸入が制限されることになった。太陽光発電製品の輸入が急増し、国内産業が損害を受けているというのが、その理由だ。この措置は、当初4年の期限が設けられていたものの、その期限を迎えた2022年2月に、バイデン政権は当該措置を2年間延長すると発表した。 なお、延長に際しては両面太陽光パネルが適用から除外されたほか、太陽電池の輸入数量制限を緩和するなど例外措置をあわせて講じた(2022年2月7日付ビジネス短信参照)。

さらに、一部の中国製太陽光発電製品(注3)を対象に、同じく2018年から、1974年通商法301条に基づく追加関税も付加している。米国通商代表部(USTR)は同措置の発動から4年の期限を迎えた2022年9月に、制度を見直した上で、追加関税賦課の継続を発表した(2022年9月5日付ビジネス短信参照)。

人権保護の観点からも、中国製品の輸入を制限

AD・CVD、セーフガード、301条関税など米国内産業保護を目的とした措置に加えて、2022年6月には、ウイグル強制労働防止法(UFLPA、注4)の施行が開始された。

UFLPAは、中国の新疆ウイグル自治区などにおけるウイグル族などの人権を保護するところにある。この目的を確保するため、同自治区や、同法で特定された企業・団体がサプライチェーンに関与する製品を、「強制労働に依拠して製造された製品」と推定する。当該製品が同法の対象に該当しない、または、同法の対象であっても強制労働に依拠していないなどの立証ができない限り、米国への輸入が原則として禁止される。対象品目は、産業分野を問わず、全ての製品が執行対象になる。ただし、特に(1)アパレル、(2)綿、(3)トマト、(4)ポリシリコン(太陽電池モジュールの原材料の1つ、注5)の4品目は、重点執行対象とされた。同法では、同自治区や特定事業体がサプライチェーンに関わる限り、材料のごく一部が使われているだけだったとしても執行対象とされる。例えば、太陽電池モジュールそれ自体が新疆ウイグル自治区で生産されているのなら、もちろん、原料のポリシリコンが新疆ウイグル自治区で生産されたものであっても、適用され得る。

なお、同法執行戦略には、「世界のポリシリコンの約半分は、新疆ウイグル自治区で生産される」との記載があり、ポリシリコンは特に輸入差し止め可能性の高い品目の1つと推測される。米国税関・国境警備局(CBP)によると、同法に基づいて差し止めされた輸入貨物の件数は2023年3月までに3,237件(9億6,100万ドル相当)に上った。輸入貨物の件数を産業別にみると、太陽光発電製品を含むエレクトロニクスが1,627件と約半数を占める(2023年3月17日付ビジネス短信参照)。CBPは同法に基づいて輸入を差し止めた個別事例を公表していないものの、CBPは1月時点で輸入を差し止めた貨物のおよそ半数が太陽光発電製品だったことを明らかにしており、太陽光製品の輸入に大きな影響が出ていることがうかがえる。

東南アジア製品が存在感を高める

これら関税賦課・輸入数量制限措置などにより、中国からの太陽光発電製品輸入は存在感を弱めつつある。例えば、モジュール〔関税分類番号(HTSコード):854140〕は、2011年(AD・CVD措置発動の前年)時点で、中国から33億7,000万ドル輸入されていた(通関ベース)。輸入額全体の47.6%と、半分近くを占めたかたちだ。しかし、2021年には3億2,000万ドルに縮小しており、輸入額全体の3.5%を占めるに過ぎない。2022年はウイグル強制労働防止法が施行されたことから、金額・シェアともさらに落ち込んでも不思議ではない。対照的に、米国で存在感を高めるのが東南アジア製品だ。2021年のモジュール輸入額をみると、国別にはマレーシアが最も多かった(24億2,000万ドル、シェア26.4%)。これに、ベトナム(20億6,000万ドル、22.5%)やタイ(12億7,000万ドル、13.9%)が続いた(図参照)。

図:モジュール(HTSコード:854140)の輸入額の推移(通関ベース)
中国からの輸入は2011年には33億7,000万ドルと、輸入額全体の47.6%を占めていたものの、2021年には3億2,000万ドルと、輸入額全体の3.5%を占めるに過ぎない。対照的に東南アジアからの輸入額が増加し、2021年はマレーシアが国別に最も多く、24億2,000万ドルで26.4%を占める。次いで、ベトナムが20億6,000万ドルで22.5%、タイが12億7,000万ドルで13.9%を占める。

出所:米商務省経済分析局公表数値を基にジェトロ作成

東南アジア諸国からの輸入を巡っては、バイデン大統領が2022年6月、太陽光発電製品の供給不足について緊急事態を宣言し、東南アジア4カ国(マレーシア、ベトナム、タイ、カンボジア)の太陽光発電製品の輸入に対して、2年間を上限に関税を免除する大統領布告を発表した。

一方で、米商務省は中国製品の迂回輸出を疑う動きを見せる。2022年12月には、関税免除措置対象4カ国の企業8社のうち4社について、AD・CVD措置を回避するために、中国製太陽光発電製品に対して、いずれかの国で軽度の加工を加えて米国に輸出しているとの予備判断を発表した(米商務省ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )。ただし、この予備判断により、東南アジア4カ国から輸入される製品の輸入が直ちに制限されるわけではない。そのため、最終的な措置が講じられるまで、当面の間は引き続き東南アジア製品が輸入の多くを占める状況は続くものとみられる。

国内生産拡大が今後のカギに

このように、太陽光発電製品の製造元は、中国から東南アジアへと遷移する一方で、米国が太陽光発電製品の供給の多くを輸入に依存する状況自体は変わっていない。EIAによると、2021年の米国の太陽電池モジュールの出荷量を見ると、そのおよそ8割は輸入によるものだ。そのため、バイデン政権は2022年6月、1950年国防生産法(DPA、注6)を太陽光発電などクリーンエネルギー分野に適用した。目指すのは太陽光発電製品の国内生産増強を企図し、連邦政府機関が国内で生産された太陽光発電製品を優先的に調達する計画を策定することなどが含まれた。

既に述べた中国製品に対する輸入規制で、太陽光発電製品のサプライチェーンが集中する中国からの輸入が制限される中、米国内で増大する需要を賄うだけの太陽光発電製品の供給量を確保するには至らず、米国では、供給不足から事業の延期や中止が相次いでいる。米国太陽エネルギー産業協会(SEIA)とウッドマッケンジー(米国の調査会社)によると、UFLPAなどに伴うサプライチェーンの制約などにより、2022年の米国の太陽光発電導入量は前年比23%減の18.6ギガワット(GW)にとどまる見通しだ。政権にとっては、板挟みの状態と言えるだろう。

当面のところ、バイデン政権は、東南アジアからの輸入に対して関税免除をすることで需要を満たしつつ、国内産業の成長を待つ状況が続くものとみられる。一方で、東南アジアからの輸入関税を免除するいわば「猶予期間」も2年間と限られる中で、米国内産業がどこまで生産規模を拡大することができるのかが、今後の米国の太陽光発電製品需給のカギとなるだろう。

また、インフラ投資雇用法(IIJA)やインフレ削減法(IRA)、DPAなどに基づいて太陽光発電事業への投資やリショアリング(国内回帰)を促進するのは、単に気候変動対策のためだけではない。化石燃料からエネルギー構成を多元化し、自国でエネルギーを調達するというエネルギー安全保障の観点からも重要な意味を持つ。米国エネルギー省(DOE)は2022年2月に、「強靭(きょうじん)なクリーンエネルギートランジションに向けたサプライチェーン強化のための米国戦略」を発表した。同戦略では、太陽光発電製品のサプライチェーンを中国企業および中国に関連が深い企業に依存する現状の脆弱(ぜいじゃく)性を指摘している。

一方で、中国製品に対する輸入規制は、太陽光発電を含む重要産業分野で、中国との戦略的競争を進めるための経済安全保障上の重要手段になっている。そのため、今後、前述の輸入規制が措置期間満了を迎えた際にすんなりと解除されるかは見通せない。現状、輸入規制は供給不足を招いて、米国の太陽光発電導入ペースを鈍化させる諸刃(もろは)の剣となる中で、国内産業の成長とともに、今後バイデン政権が輸入規制を巡ってどのような判断を下すのか、そのかじ取りが注目される。


注1:
AD・CVD関税措置の対象品目は、関税分類番号(HTSコード)で以下のとおり。8501.31.80.00、8501.61.00.00、8507.20.80、8541.40.60.15、8541.40.60.20、8541.40.60.25、8541.40.60.30、8541.40.60.35、8541.40.60.45。
なお、AD・CVD措置は、不公正貿易を是正するためにWTO協定で認められた制度だ。この制度上、(1)輸出国の国内価格よりも低い価格で輸出された品目にはADを、(2)不当な補助金を受けて輸出された品目にはCVDを、それぞれ課すことが認められている。いずれも、国内産業への損害と因果関係を示すことが発動のための要件になる。
これら措置は、原則5年間までに限られるが、米国では見直しを繰り返してそれ以上に継続する例がしばしば散見される。中国製太陽光発電製品に対する当該措置も、今なお有効になっている。
注2:
セーフガード措置の対象品目はHTSコードで以下のとおり。8541.40.60、8501.31.80、8501.61.00、8507.20.80。
セーフガードも、国内産業保護するためにWTO協定上で認められた制度だ。具体的には、追加関税賦課や輸入数量を制限することが可能になる。ただし、対象を限定するAD・CVD措置と異なり、原則として全ての貿易相手国からの輸入が対象になる。
注3:
1974年通商法301条に基づく対中追加関税対象品目は、幅広い品目が対象とされた。それらのうち、太陽光発電製品はHTSコードで8507.20.80など。
注4:
UFLPAについては、ジェトロ特集ページ「ウイグル強制労働防止法」も参照。同ページでは、UFLPAに関する最新動向を随時紹介している。
注5:
CBPによると、UFLPA重点執行対象分野には、レッドデーツおよびポリ塩化ビニル(PVC)が追加されている。
注6:
DPAは、国防に必要な資材やサービスの供給に関して、大統領に国内産業界を統制できる権限を付与付与する。最近では、トランプ前政権が新型コロナウイルス感染拡大を受けて、国内自動車メーカーなどに人工呼吸器の生産を要請したなどの活用例がある。

米国太陽光発電需給逼迫

  1. 再エネ推進を追い風に導入加速
  2. 中国製品に対する輸入規制が向かい風に
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課
葛西 泰介(かっさい たいすけ)
2017年、ジェトロ入構。対日投資部、ジェトロ北九州を経て、2022年5月から現職。