再エネ推進を追い風に導入加速
米国太陽光発電需給逼迫(前編)

2023年3月31日

米国のバイデン政権は、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出ネットゼロの気候変動対策目標を掲げている。その達成に向けては、米国でGHG総排出量の29%を占める運輸部門とともに、25%を占める電力部門の脱炭素化が同様に重要な要素となっている。

その電力部門では、GHG排出量の大半を占める化石燃料の燃焼による発電から、再生可能エネルギー(再エネ)などを活用したエネルギー転換(エネルギートランジション)が進められている。中でも、太陽光発電は今後、主要電源の1つになると目され、米国では太陽光発電製品の需要が高まっている。一方で、当該製品のサプライチェーンが集中する中国に対して米国が輸入を規制する措置を講じていることから、米国は深刻な供給不足に直面している。

本稿前編では、米国の電力事情の現在地と、バイデン政権のエネルギートランジションに向けた取り組み、米国や日本の企業の太陽光発電投資動向をまとめる。後編では、米国の中国製品に対する輸入規制の動きと今後を展望する。

バイデン政権は気候変動対策に力点

米国のジョー・バイデン大統領は、気候変動対策を優先政策課題の1つに掲げている。2021年1月の大統領就任直後から、トランプ前政権下で離脱した地球温暖化対策の世界的枠組み「パリ協定」への復帰を発表したほか、「2030年までに、2005年比でGHG排出量を50~52%削減」「2050年までに、GHG排出量ネットゼロ」を目標に掲げた。

米国のGHG排出量を主要経済部門別にみると、2021年の全排出量63億4,770億トンのうち、運輸部門が18億4,170万トンで全体の29.0%、次いで電力部門が15億8,540万トンで25.0%を占めた(図1参照、注)。

図1:主要経済部門別のGHG排出割合(2021年)
運輸部門が29.0%、電力部門が25.0%を占める。

出所:米環境保護庁(EPA)公表数値を基にジェトロ作成

バイデン政権が対策の重点を置くのも、GHG排出量の多い運輸・電力両部門だ。同政権が2021年11月に発表した「長期戦略PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます) (3.54MB)」では、2050年ネットゼロ達成に向けて必要な取り組みとして、(1)電力部門の2035年脱炭素化のほか、(2)運輸部門や産業部門で電化を進め、電化が難しい航空・船舶など分野で、水素や持続可能な航空燃料(SAF)、バイオ燃料などへの置き換えを図ること、などを掲げた。加えて、(3)建物や家電の省エネ、(4)メタンなど二酸化炭素(CO2)以外のGHG排出削減、(5)大気中からCO2を直接回収するDACなどの技術開発、などについて取り組みを拡大していく必要があるとした。

具体策として、2021年11月に成立した超党派インフラ投資雇用法(IIJA)では、5年間で5,500億ドルの支出が規定された。気候変動に関しては、再エネ利用拡大を促進する送電網整備やクリーンエネルギーに関する次世代技術の研究開発に650億ドル、電気自動車(EV)用の充電ポートネットワーク拡充に75億ドル、ゼロエミッションバスやクリーンバスの導入に50億ドル、などの予算が割り当てられた。また、2022年8月に成立したインフレ削減法(IRA)でも、気候変動対策に3,690億ドルを支出することが盛り込まれ、バッテリーや重要鉱物の加工、風力タービン、太陽光モジュール(パネル)などの生産税額控除に300億ドル、EVや風力タービン、太陽光パネルなどクリーンエネルギー関連施設建設のための投資税額控除に100億ドル、などの予算措置が規定された。

2035年までに、太陽光発電が発電総量の2割強に

既述の「長期戦略」によると、電力部門の脱炭素化に向けたエネルギートランジションは、太陽光や陸上・洋上風力発電、蓄電池など主要技術の向上により、コストが急速に低下するほか、IIJAやIRAなどの施策、米国消費者のクリーンエネルギー需要の高まりによって加速しているとも指摘した。実際に、米国の太陽電池モジュールのピークワット当たりの平均単価は、2006年の3.50ドルから2021年には0.34ドルまで低下している。対照的に、太陽電池モジュールの出荷量は2006年の0.3ギガワット(GW)から2021年には28.8GWまで拡大した(図2参照)。

図2:太陽電池モジュールの出荷量および平均単価の推移
単価は2006年の3.50ドルから2021年には0.34ドルまで低下する。出荷量は2006年の0.3ギガワットから20021年には28.8ギガワットまで拡大する。

注1:出荷量には輸出を含む。
注2:平均単価はインフレ影響を調整していない。
出所:米国エネルギー情報局(EIA)公表数値を基にジェトロ作成

米国エネルギー情報局(EIA)によると、2021年の米国の電源構成は天然ガスが37.2%を占める。続いて、石炭22.7%、再エネ20.9%、原子力18.5%だ。しかし今後は、エネルギートランジションの進展により、2050年までには再エネの比率がトップの43.8%となり、天然ガス34.1%、原子力12.2%、石炭9.6%となる見通しだ(図3参照)。また、再エネの構成比をみると、2021年時点では、風力が43.0%と最大。水力29.6%、太陽光18.7%、バイオマス4.6%、地熱1.8%、などとなっている。これが2050年までには、太陽光が51.0%、風力30.9%、水力12.1%、地熱2.0%、バイオマス1.8%、などになると見込まれる。その結果、太陽光発電は米国の総発電量の22.4%を占める主要電源に成長する見通しだ(図4参照)。

図3:米国の発電量の見通し(AEO2022レファレンスケース)
燃料別
2021年は天然ガスが37.2%を占め、石炭22.7%、再エネ20.9%、原子力18.5%となっている。2050年までには再エネの比率がトップの43.8%となり、そのほか、天然ガス34.1%、原子力12.2%、石炭9.6%となる見通し。

出所:EIA公表数値を基にジェトロ作成

図4:米国の発電量の見通し(AEO2022レファレンスケース)
再生可能エネルギー別
021年は風力が43.0%と最大で、水力29.6%、太陽光18.7%、バイオマス4.6%、地熱1.8%などとなっている。これが2050年までには太陽光が51.0%で、風力30.9%、水力12.1%、地熱2.0%、バイオマス1.8%などとなる見通し。

出所:EIA公表数値を基にジェトロ作成

拡大する太陽光発電市場に日本企業も参入

米国での太陽電池モジュールメーカーの動きを確認してみると、ファーストソーラーは2022年8月、米国南東部の新規製造施設の建設に最大10億ドル、オハイオ州の既存製造施設の拡張などに1億8,500万ドルを投資すると発表した。この新規製造施設は、2025年に稼働を開始し、年間3.5GW規模の太陽電池モジュールを製造する予定だ。発表によれば、今回投資により同社の生産規模は、年間10GW規模に拡大するとしている。

また、Qセルズ・ノースアメリカ(韓国のハンファ・ソリューションズの米国子会社)は2022年5月、ジョージア州で新規製造施設の建設に1億7,100万ドルを投資すると発表した。この新規製造施設は2023年前半に稼働を開始し、年間1.4GW規模の太陽電池モジュールを製造する予定だ。発表によれば、今回投資により同社の米国での生産規模は、年間3.1GW規模に拡大するとしている。なお、Qセルズには、テキサス州に年間9GW規模の新規製造施設を建設する計画が別途にあるとのメディア報道もある。

米国での太陽光発電事業に参入する例は、日本企業にも見られる。大阪ガスは、米国子会社オオサカガスUSA(OGUSA)を通じて、ノースカロライナ州のブライターフューチャー太陽光発電所の出資権益を50%保有しており、同太陽光発電所は2022年1月に商業運転を開始している。さらにOGUSAは2022年5月に、三菱重工グループ傘下の米国オリデンと、米国で70万キロワット(kW)以上の複数の太陽光発電所を共同開発することで合意しているほか、2022年8月には、米国の分散型太陽光発電開発事業者サミット・リッジ・エナジーと、分散型太陽光発電事業の共同実施に関する契約を締結した。

また、東京ガスは2020年7月、テキサス州の大規模太陽光事業「アクティナ太陽光発電事業」の取得を発表した。建設から運転開始後の事業運営まで、同社グループ主導で手掛ける初の海外太陽光発電事業になった。

対中輸入規制との間で板挟みに

ここまで見てきたとおり、米国では、太陽光発電の導入が進み、今後の米国電源構成の多くを担うと期待され、需要が高まってきた。こうした動きは、気候変動対策を重視するバイデン政権の立法措置などが追い風になっている。

その一方で、深刻な太陽光発電製品の供給不足に直面する実態もある。太陽光発電製品のサプライチェーンが集中する中国との戦略的競争に伴い、米国は輸入を制限する追加関税措置を講じている。さらに、中国での人権保護を目的とした輸入制限措置なども響く。その結果、国内で高まる需要を充足できずにいるという構図だ。本稿後編では、太陽光発電製品を巡る米国内産業保護や対中通商政策の動きをまとめた上で、脱炭素目標との間で板挟みになるバイデン政権のかじ取りを展望する。


注:
米国領からの排出量(0.4%)は主要経済部門とは別に計上される。

米国太陽光発電需給逼迫

  1. 再エネ推進を追い風に導入加速
  2. 中国製品に対する輸入規制が向かい風に
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課
葛西 泰介(かっさい たいすけ)
2017年、ジェトロ入構。対日投資部、ジェトロ北九州を経て、2022年5月から現職。