原子力発電所の廃炉を10年延期、再エネへの移行に向けた投資も発表

(ベルギー)

ブリュッセル発

2022年03月24日

ベルギー連邦政府は3月18日、国内で稼働中の7基の原子炉のうち、2基の稼働を10年間延長することで合意したと発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。ベルギーは、国内全ての原子炉の運転を2025年までに終了する計画だったが、今回の方針転換は、ロシア・ウクライナ情勢などを受け、化石燃料依存からの脱却を加速化するための措置と、その必要性を説明している。他方で、再生可能エネルギーを通じ気候中立を目指す政策に変更はないとし、洋上風力や水素、太陽光発電、持続可能なモビリティへの投資を強化する姿勢を明確にした。

今回、稼働延長が決定された原子炉の合計設備容量は2ギガワット(GW)と、国内の原子力発電の総設備容量(約5.9GW)の約3割を占める。今後は、2022年3月末までに関連の改正法案の閣議決定を目指す。他方、原子力発電所を運営するフランスの電力大手エンジ-は、技術的な観点から、稼働延長の決定は2020年末までに必要と主張していたことから、延長に伴う原子炉の改修や燃料調達の遅れが及ぼす影響が今後の焦点になる。

また、政府は、今回の決定が電力容量報酬メカニズム(CRM、2021年11月8日記事参照)に与える影響について、欧州委員会と協議を継続するとしつつも、電力の安定供給に向けてCRMオークションを実施する意向を示している。特に、新設予定のフィルフォールデ火力発電所の認可が滞っていることを受け、2024年には追加オークション実施の必要性が指摘されている。なお、再生可能エネルギー促進の観点から、余剰電力が発生した場合は、水素製造への活用を検討するとしている。

再生可能エネルギーへの移行加速に向けた投資も発表

連邦政府は今回の発表に合わせて、気候中立性の早期実現に向けた総額11億ユーロの投資を行うことも発表した。主な内容は以下のとおり。

  1. 風力発電:北海の洋上風力発電の発電容量増強計画(2021年11月5日記事参照)に基づき、プリンセス・エリザベス・ゾーン(注1)における洋上風力発電施設の設置の加速、風力タービンの建て替え(リパワリング)による既存の洋上風力発電施設の発電容量の拡大、洋上風力送電網の近隣諸国との相互接続などの実施。
  2. 水素:ベルギーをグリーン水素の輸入・輸送拠点とするため、港から国内の工業地帯をつなぎ、ドイツまで至る水素インフラの整備を加速させる。また、水素分野におけるベルギーの専門性を高め、企業の水素へのエネルギー転換を促すため、民間セクターとの連携強化を進める。
  3. 太陽光発電:太陽光パネルやヒートポンプなどの付加価値税を時限的(2022~2023年)に6%に軽減する。また、浮体式の洋上太陽光発電の導入を加速する。
  4. 小型モジュール式原子炉(SMR):ベルギー原子力研究センター(SCK・CEN)などと連携し、今後4年間にわたりSMRの開発に年間2,500万ユーロを投資する。
  5. 持続可能なモビリティ:2030年までの鉄道貨物輸送倍増を目指し、線路使用料の構造的な引き下げに加え、複合輸送と車扱貨物輸送(注2)に対して2023年に約1,500万ユーロを拠出する。

また、エネルギー関連投資の持続可能性を確保する観点から、税制上の優遇措置を設ける税制改正を予定している。

(注1)ベルギーの北海のフランス海域側に開発中の洋上風力発電区域。

(注2)タンク車などの貨物を1両単位で貸し切って輸送するもので、石炭、石油などの輸送に活用される。

(大中登紀子)

(ベルギー)

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