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特集:高度人材の宝庫ロシア:魅力と課題日ロ人材交流拡大を契機に高度人材との接触機会が増加
ロシア人の就職活動と就労観

2020年12月4日

ロシアで高度人材の採用活動を行う際には、ロシア人の一般的な就職活動方法や就労観、日本に対する関心、活用可能なジョブイベントの情報を把握しておく必要がある。本稿では、これらの状況を説明する。海外での就労希望者の多さや、「新型コロナ禍」による就職難、日ロ人材交流イベントの増加は、日本企業のロシアでの採用に追い風だ。

インターンを通じた就労経験獲得がカギ

ロシアでは、日本のように新規学卒者が特定の時期に一斉に就職活動して入社するといった慣習がない。学生が職を得るには、ウェブサイトに掲載されている求人に応募したり、ジョブイベントに参加したり、大学教授や友人、知人から紹介されたりというかたちが一般的だ(表1参照)。他方で、多くの場合に職務経験が求められる。このため、在学中からインターンシップを通じて就労経験を獲得する学生が多い。インターンシップで優秀な評価を得られれば、そのまま採用に至ることもある。特に法律事務所や金融機関などのホワイトカラー職では、その傾向が強いようだ。

表1:ロシアの学生の就職活動の一例
媒体・手段 方法
インターネット 大手求人サイト(例:hh.ru)のほか、「フェイスブック」やロシアで人気のSNS「VK(フ・コンタクチェ)」などに掲載される求人情報を検索。
知人による紹介 家族や友人、知人などの伝手を利用する。大学の教師は学生の専門分野の企業とネットワークがあるため有効。また、インターンシップは知り合いからの紹介でのみ受け入れるというケースもある。
大学の支援 大学が掲載する学生向け求人情報の検索や大学が主催するキャリアイベントへの参加。
企業への直接のコンタクト 入社やインターンシップを希望する企業のメールアドレスに直接送付する。
ジョブフェア 主要イベントは次のとおり。
(1)ビッグ・キャリア・デー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
学生向け就職説明会をモスクワ、サンクトペテルブルク、カザンなど国内複数都市で解散。2020年春には求人企業75社が出展、就職希望者8,400人が参加。
(2)キャリア・ロシア外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
ロシアの求人サイト。大学生や転職希望者を対象にした就職説明会を各地で開催。
このほか、地域ごとに開催される就職イベントも存在する。

出所:ロシア求人サイト大手hh.ru記事や各種イベント情報を基にジェトロ作成

就職イベントは、いわゆるジョブフェアだけではない。特定業界のイベントも、求職者と企業の出会いの場になることがある(2019年9月4日付ビジネス短信参照)。ロシア人高度人材の採用に取り組む場合、採用したい人材が集まるイベントへの参加も一案だろう。

日本に関心を持つ学生との接触機会が増加

日本企業がロシアで高度人材の採用活動を行う場合、これまで現地で個別に採用説明会を実施したり、エージェントを通じて人材紹介を活用したりするケースが一般的だった。しかし近年は、新たな潮流がみられている。きっかけは日ロ大学協会の設立だ(注)。協会設立により日ロ大学間交流が活発化し、ロシアで日本留学フェアの開催が相次いでいる。留学フェアを採用活動の場として活用しようと日本企業が注目し始めたのだ。例えば、2019年9月にはロシア人学生に対する日本留学プロモーションを目的に、複数の日本の大学がモスクワやサンクトペテルブルクで留学フェアを開催した。イベントでは留学情報の提供だけでなく、日本への留学後のキャリアという観点で、日系企業によるブース出展やプレゼンテーションも実施された。これが、日本語を専門としたり日本に関心があったりするロシア人学生と接触する機会になった。実際、フェアをきっかけに、優秀なロシア人学生の発掘に成功、採用に至ったという事例も出ている。


2019年9月に実施されたサンクトペテルブルクでの日本留学フェアの様子(ジェトロ撮影)

IT人材は海外志向、「新型コロナ禍」で就職難

ロシアの高度人材はどのような就労観を持っているのか。人材サービス会社ケリー・サービス・ロシアがロシアの若年IT人材約500人に実施した調査(2018年)では、「転職をいとわない」「外国での就労への高い関心」といった傾向が明らかとなった。「最初の勤務先の希望勤続年数」に関する設問では、「1~3年」とした回答者が76%。「1年未満」も13%あった。一方で、「3年以上」と回答した層はわずか11%にすぎなかった。「海外での就労への関心」については、65%が「あり」と回答。その理由として、「国際的な職場での勤務経験」や「(ロシアより)高めの給与、昇進・ステップアップの機会の獲得」を挙げる回答者が多かった。

「勤務希望地」では、米国、ドイツ、英国がトップ3だった(表2参照)。アジア太平洋地域では、オーストラリア、シンガポール、中国が辛うじて入ったにとどまり、日本は名前すら挙がっていない。

表2:ロシアIT人材が勤務を希望する国
順位 国名
1 米国
2 ドイツ
2 英国
4 カナダ
5 チェコ
5 スペイン
7 ノルウェー
8 フランス
8 スイス
10 オーストラリア
11 スウェーデン
12 キプロス
12 シンガポール
12 ポーランド
15 オーストリア
15 中国

出所:ケリー・サービス・ロシアの調査(2018年)を基にジェトロ作成

「将来のロシアへの帰国希望」については、約4分の3がいずれロシアに戻ることを希望している。「国際的な勤務経験を身に着けた後、ロシアに戻りたい」という意向の回答者は72%に上る。

この調査結果を踏まえると、ロシアのIT人材は海外志向を有するも、IT分野でキャリアを積む際の選択肢の1つとして日本が候補に入るのは厳しそうだ。他方で、IT分野の日本企業がロシアの学生やIT人材に広く周知される機会はこれまでほとんどなかった。となると、情報不足からロシア人に認知すらされていない可能性もある。つまり、日本企業がPRを強化すれば、関心が高まる余地が大きいと捉えることもできる。

「新型コロナ禍」の影響で、ロシアでも新卒の就職戦線は厳しい状況だ。8月のロシア労働省発表によると、2020年夏の卒業生が就職先を見つけられないまま労働市場に参加したことによって失業者数が増加傾向にあるという。名門大学卒の学生でも就職に苦戦している様子が現地メディアで伝えられている。この状況を受け、ロシアの科学高等教育省は各大学に対し、学生の就職状況をモニタリングするよう伝えた。このほか大学も、オンラインジョブフェアの開催し、地元企業と連携して就職を支援している。

日本での就労の魅力やキャリアプランの明示が重要

日本企業がロシアで高度人材に採用に取り組む場合、どのような点に留意すべきか。まず、日本企業は知名度やイメージで不利なスタートラインに立っていることを認識する必要がある。ロシア人学生は一般的に欧米企業に好意を寄せるケースが多い。その中で、自社事業や日本企業で就労する魅力をいかに認識させるかが最初の課題だ。もっとも、先述のとおり、日ロ間の人材交流イベントが毎年開催されるようになった。こうしたイベントを足掛かりに、日本に関心ある高度人材やロシアの大学と接触し、PRしていくことが肝要だ。

キャリアステップを明確にPRすることも重要だ。外国での勤務希望理由が給与に加えて国際経験の獲得にあることを踏まえ、どのような経験やキャリアが得られるかを具体的にわかりやすく説明する必要がある。ただし、長期間勤務する心積もりではないケースが多いことにも留意すべきだろう。例えば5年間など短・中期的なスパンでのキャリアステップを示せると良いのではないか。

海外での就労希望者が多いことや、「新型コロナ禍」によるロシア本国での就職難は日本企業による採用活動にとって追い風となりうる。現時点では人の往来が制限されていることもあり、すぐに活動することは難しいが、「新型コロナ禍」収束後の採用活動を見越し、オンラインイベントを通じてロシア人学生との交流に着手するには良いタイミングといえるだろう。


注:
日本とロシアの大学間交流の推進、学生交流の拡大などを目的とした日ロの大学による組織。2016年12月設立。2019年10月現在で日ロ54大学が加盟。
執筆者紹介
ジェトロ・サンクトペテルブルク事務所長
一瀬 友太(いちのせ ゆうた)
2008年、ジェトロ入構。ジェトロ熊本(2010~2013年)、展示事業部アスタナ博覧会チーム(2015~2018年)などを経て2018年4月より現職。

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