札幌の日ロ合弁会社、ソフトウエア開発・技術者派遣にロシア人材を活用
ロシアCIS地域の高度人材活用事例

2019年12月13日

グローバル化が進展する現在、高度な知識・技能を持った人材は国境を越えて活躍しており、日本政府も優秀な外国人材を呼び込みに注力している。ロシアは優れた理数系人材を豊富に輩出する国として世界的に有名であるが、ロシア人材を活用している北海道企業がある。ロシア企業との合弁会社である株式会社ADインタラクティブ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますだ。同社システム開発本部の石澤智取締役本部長に、ロシア人材の活用の魅力・メリットと課題などについて聞いた(7月19日)。

質問:
会社の概要は。
答え:
当社の設立は2006年。資本金2,000万円で、親会社であるデジックと、ロシア企業ロンダ(ウラジオストク)の合弁会社だ。資本比率は日本7割、ロシア3割。売り上げは2億円程度。主な事業は自動車、カーナビ、プリンター・複合機、空調などの分野の組み込みシステム、ウェブサイトなどの開発と技術者派遣で、主要顧客はソフトウエア開発会社や大手システムインテグレーターだ。札幌に本社を構え、名古屋、大阪、東京にも拠点を有している。
従業員数48人で、日本人はうち2人(総務担当1人、エンジニア1人)、残り45人は外国人。内訳は、ロシア人(ウラジオストク、サハリン、ロシア欧州部、カザフスタンの出身)が12~13人と最大で、そのほか、台湾、ベトナム、タイ、ミャンマー、インド、バングラディシュ、ガーナなどの出身者を有する。いずれも、日本で働きたいという夢があり、当社に就職した。

株式会社ADインタラクティブ・システム開発本部の石澤智取締役本部長(ジェトロ撮影)
質問:
日本における日ロ合弁会社というユニークな形態だが、設立経緯は。
答え:
2000年代前半に、当社親会社デジックの社長が全国地域情報産業団体連合会(ANIA)の会長を担っていた関係で、ウラジオストク出身のあるロシア人と知り合うことがあった。当時は、中国のオフショア開発ブームだったが、中国以外でも良い人材がいることに興味を抱き、何回かロシアを訪問した。現地には、真面目で技術力が高い人材が豊富にいることに気付いた。
その中で、ロンダというウラジオストク企業と出会った。同社は半導体、通信制御、組み込みシステム関係の業務を行う会社で、高度な品質管理を行っており、米国の電子・通信機器メーカーのモトローラからポケベルやフィーチャー・フォンの受託開発業務を請け負っていた。他方、ロシア極東に立地している企業は、時差の関係から米国とのビジネスに苦労し、テレビ会議を行う場合、ロンダが米国の顧客の業務時間に合わせるため、深夜に仕事をせざるを得ない状況であった。また、国内取引でもモスクワとの時差は7時間に上る。このため、時差がほとんどない近隣の経済大国である日本とビジネスを行いたいという思いを彼らは持っていた。
デジックはロンダの技術力と専門性が一致したため、半導体関係分野の協業向けの合弁会社である当社を設立した。しかし、2008年にリーマン・ショックが発生し、世界経済が低迷したことで、具体的な協業はいったんストップした。その後、日本経済の回復に伴い、5~6年前から再起動しているところだ。ただし、現時点ではロンダからエンジニアを受け入れていない。
質問:
従業員は大半が外国人であるが、外国人材を活用する理由は何か。
答え:
最大の理由は、顧客からの開発コストの引き下げ要求に基づくものだ。一般的に、技術者の派遣先の作業現場の共通言語は日本語である。当社が外国人従業員を顧客に派遣する場合、設計製造・試験を日本語で行えなかったり、誤字脱字のない日本語を書くことができなかったりする代わりに、単価を下げるという提案を行っている。他方で、日本人と外国人で技術面での差はほとんど無い。
日本ではエンジニアの人手不足が叫ばれているが、当社はそのような考えで、外国人を活用しているわけではない。近い将来、能力面で日本の若者の活用が難しくなることが予想される一方、近年では、将来を担うような潜在力の高い外国人が数多く出現しているため、苦労してでも即戦力となる外国人と付き合い、うまく活用できるようにならないといけないという危機感を有しているためだ。
グローバル化の進展に伴い、さまざまな外国人を集めてプロジェクトを実施することが求められていくと考えており、そのための訓練を現在、行っているところ。
質問:
ロシア人を活用するメリットは何か。
答え:
日本では、ロシア人に無表情で硬いというイメージを持っているが、実際には全く異なる。フレンドリーで自由奔放な考え方を持ち、勉強もしっかりする、真面目な国民性を有している。日本人の特徴である謙虚さは、ロシア人も同じものを有しており、自分がヒーローであると思っている米国人と異なり、日本人と親和性があると捉えている。
日本人とロシア人の技術スキルの比較では、個々人による差が大きいが、組み込み系システム分野では、同分野に精通している35~40歳の日本人と、30歳程度のロシア人の差は特にないと感じている。設計は経験値によるところが大きく、日本人エンジニアの方が、経験が豊富なだけ物事を広く捉えられる点が優れている。20~30代のプログラマーのエンジニアリング能力で比較すると、ロシア人の方が上であることが多い。
日本人は大卒であっても、戦力として育成するのに時間がかかるが、ロシア人は即戦力となる。ロシア人従業員は、昔の日本人エンジニアに似ており、とにかくプログラミングしているのが好きという人が多い。今の日本人の若手従業員は、プログラミングを単なる仕事としか捉えていないように思う。好きでプログラミングを行っているロシア人には、高度な能力を有する者もいる。
ロシア人材と東南アジア人材の違いとしては、東南アジアでは日本や米国からオフショア開発を委託される案件が多く、それほど高度でない内容のものが多い印象だが、ロシアはIT分野が強く、イスラエル、米国などの外国と交わりながらさまざまな開発プロジェクトがあるため、レベルは東南アジア人材よりロシア人の方がはるかに高いと捉えている。ロシア人はIT技術に精通しており、技術面を勉強したいという意欲も高い。
質問:
ロシア人材を活用する際の苦労・課題は。
答え:
労働時間を気にすること、残業を嫌がる傾向がある点だ。IT開発では、チームとして動かないといけない。不具合が出た際などには、突発的に残業が発生する可能性もあるが、ロシア人の若手従業員は残業してまで、社員一丸となって作業を終わらせようという意欲や、仕事で困っている人を助けようという意識が希薄だ。
作業は時間を気にしてやってほしいが、少し残業してでも手伝うなど、日本で働く外国人は理解する必要があると考えている。
質問:
外国人材の採用・育成、日本での生活支援はどのように行っているか。
答え:
外国での人材採用では、人材会社を使っておらず、友達の友達といった人づての紹介で採用している。従業員教育はオン・ザ・ジョブトレーニング(OJT)を通じて行っている。エンジニアリングスキルは現場作業を通じて覚えさせるほか、打ち合わせの際には日本語で議事録を取らせている。会議後の議事録作成も日本語でやらせている。議事録作成を通じて、自分のやり方を発見させ、最低限、要点・ポイントを書かせるなどの訓練を施している。加えて、先輩社員が後輩社員に教えたり、チームで仕事を進めるやり方を身に付けさせたりしている。このほか、毎週土曜日に日本語勉強会を実施しており、日本での生活方法も教えている。
外国人従業員の日本での生活は、最大限サポートしている。生活でトラブルが生じた際には夜中や休日であっても、すぐに対応している。例えば、冬にストーブが作動しない、燃料が足りないなどのトラブルがあった際には、対処方法を教えることでサポート要請を繰り返させないようにしている。
東南アジア出身者にとって、札幌の最初の冬は、寒いと愚痴をこぼすが、一度冬を乗り越えると慣れるようだ。給与は東京の方が高いが、人が多く混み合っているという印象を持つようになり、札幌に居心地の良さを見いだす者は多い。当社立ち上げから13年間が経過しているが、創業時から働いている外国人従業員もおり、定着率は高いと言える。
当社で働いた外国人は将来、現地に戻してマネジメントを担ってもらおうとも考えている。 例えば、ベトナム人従業員は将来的に、ベトナムでマネジメント業務を任せる計画があるため、まずは勉強のために日本で働いてもらっている状況である。将来的には、ロシアでもオフショア拠点を設立したいと考えている。
執筆者紹介
海外調査部欧州ロシアCIS課 リサーチ・マネージャー
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸、ジェトロ・モスクワ事務所を経て、2019年2月から現職。編著「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。