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特集:高度人材の宝庫ロシア:魅力と課題雇用にあたり、ロシア人求職者と日本企業のすり合わせが重要
外国人の日本就労を支援する企業にインタビュー

2020年12月4日

日本で就労するロシア人高度人材は、約1,200人。決して多くはないが、着実に増えている。

外国人の就職支援を行うキャリアバンク株式会社外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は、ロシア人社員を雇用しロシア人材の日本企業への就職を後押ししている。執行役員・海外事業部長の水田充彦氏に、ロシア人材の日本での就労状況、雇用に当たってのポイント・留意点について聞いた(8月13日)。



キャリアバンク株式会社執行役員・海外事業部長 水田充彦氏(キャリアバンク提供)
質問:
御社の概要・特徴、外国人社員の雇用状況について。
答え:

当社の創業は1987年。2019年度の売上高は56億円。従業員数は、単体で386人、連結で596人(2020年5月31日時点)。主要事業は、人材派遣、給与計算・支払い代行、再就職支援、人材紹介、日本語学校運営など。海外拠点は、グループ会社を中国・青島に設置している。

当社の関連企業ではSATO行政書士法人がある。行政書士法人として、日本で3~4位の規模だ。全国の顧客を中心に、外国人の在留許可取得手続きを年間400~500件扱っている。同じく関連企業のSATO社会保険労務士法人は、社会保険労務士法人としては日本最大の規模で、主要顧客は外食関係の大企業やコンビニエンスストアなど。留学生をはじめ日本でアルバイトする外国人の増加に伴い、労務管理に対する問い合わせが増えている。特定技能の登録支援機関運営や外国人の人材紹介業務も実施している。元々「士業」からスタートした会社のため、人材関連企業の中で特に法律に明るいことが強みだ。

当社の海外事業部では(1)外国人の就職支援、(2)外国人の受け入れ促進、(3)多文化共生支援に関して、事業を展開する。

(1)の顧客は、主に大学と民間企業だ。例えば、北海道大学、東北大学、福井県立大学、東海大学などで、日本の就活概要や活動方法に関するセミナーを実施してきた。このほか、外国人の採用を促進する合同企業説明会を開催している。

(2)は、官公庁や地方自治体がクライアント。北海道庁や宮城県庁からの受託事業で、県内企業向けに外国人の採用方法や「新型コロナ禍」による採用現場の変化などをテーマとしたセミナーを開催している。(1)と(2)を合わせて、年間のセミナー実施数は30~50件程度だ。

(3)は、文化庁による「日本語教室空白地域解消推進事業外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」に基づくものがある。技能実習生を活用する企業が日本全体に広がる一方、日本語教室が設置されていない地方自治体がいまだ数多く存在する。本事業はそのような自治体17カ所に対して、日本語学習環境の整備を支援するもので、当社は環境整備に向けた協議会の事務局を運営している。

当社の外国人社員数は7人で、国籍は中国、ロシア、ベトナム、インドネシア、韓国。最初に採用したのがロシア人のオリガ・キム社員だった(本特集記事「自身の体験をもとに外国人の日本就職を支援」参照)。その入社をきっかけに、外国人関係の業務を開拓していこうという機運が社内に生まれた。外国人社員が従事している仕事は、主に外国人向けのイベントの広報や説明会の開催、日本語事業を含む現地でのプロモーションとそれに伴う海外のエージェントとの調整業務だ。ロシア向けの事業は、キム社員の海外事業部配属に伴い開始した。

質問:
日本における高度人材受け入れ状況、特にロシア人の状況について。
答え:
「高度人材」と呼ばれる外国人の在留資格は、主に「技術・人文知識・国際業務」。2019年12月時点で同在留資格を有する外国人は日本国内に約27万人いる。しかし、そのうち約9万人が中国人で、ロシア人はわずか1,200人程度に過ぎない。もっとも、人数規模こそ小さいものの、就労先で活躍している人材が多い印象だ。例えば、北海道の水産会社では、英語堪能なロシア人がロシアだけでなく東南アジアも管掌する貿易・マーケティング担当者として奮闘している。
質問:
御社がこれまで紹介したロシア人材の規模は。
答え:

当社の海外人材の紹介件数は年間400~500件程度。中国人、ベトナム人、韓国人、台湾人、フィリピン人が多く、ロシア人はそれらに次ぐ規模。

これまでに紹介したロシア人高度人材は数十人程度。職種は貿易、翻訳・通訳、IT、ホテルが多い。就労場所は主に北海道と東京だ。ホテルは都市部でのニーズが高く、ITは東京が圧倒的に多い。

多くの企業では、求人にあたり国籍を条件としていない。募集したところ、たまたまロシア人の応募があったに過ぎないというケースが一般的だ。一方で、数は少ないが、ロシア人材を欲しいというリクエストもある。その場合、求人対象は主に留学生だ。日本語運用能力については、北海道では日本語能力試験(JLPT)N2(2級)レベルが普通で、高い日本語力を求める企業はあまり多くない。IT分野では、ハイクラス人材の場合、英語だけでも可とされることが多い。

ロシア語人材という点では、ロシア人に限らず、旧ソ連諸国の人材への関心もみられる。最近引き合いが増えているのが中央アジア人材だ。ウズベキスタン国籍とキルギス国籍の技能実習生の受け入れが始まったこともあり、技能実習生を管理するための幹部候補社員として現地の高度人材を採用したいという問い合わせが寄せられている。

質問:
御社が紹介しているロシア人材はどのように募集しているのか。募集の際の留意点は。
答え:

顧客である日本企業からヒアリングした条件をもとに、「VK(フコンタクチェ)」や「OK(オドノクラスニキ)」(いずれも、ロシアで普及しているSNS)で特定のグループに対して求人情報を発信している。加えて、知り合いに声を掛けている。

ロシア人への声掛けは、日本国内居住者を優先してきた。一方で、ロシアの大学との連携にも力を入れている。当社は、サハリン国立総合大学やハバロフスクの極東国立総合医科大と連携し、年間100~200人のロシア人学生と接触している。人材確保のためのエージェントはロシアに設置していない。

求人の際に考慮すべき点は、給与水準だ。日本の給与水準は、ロシア人の主要海外就労先である欧米諸国と比べて高くない。募集企業は、このことを認識する必要がある。日本企業の経営者には、基本的に質の高い人材を可能な限り安価な人件費で雇用したいというマインドがある。片やロシアの高度人材にしてみると、もっと高給を取れる国はほかにたくさんあるという意識を持つ。

一方、日本での就労を希望するロシア人が留意しなくてはならない点もある。それが在留許可だ。当社には、ロシア人求職者から日本で働きたいというリクエストが数多く寄せられる。しかし、ロシア人でないとできない仕事が日本には少ないこと、在留許可が取得できる職種・業務内容が限定されていることがボトルネックだ。例えば、ロシア人が事務職を希望していても、特別なスキルが求められない一般事務職では在留資格を得ることは難しい。

求人企業と応募者の双方のニーズが合致した場合でも、ロシア人応募者が履歴書を書く前に、日本の制度や日本企業での働き方、ロシア企業との違いなどを丁寧に説明し、十分に理解いただくようにしている。その上で、選考プロセスに進んでもらう。日本企業には、外国人受け入れに当たってのポイントを説明する。これらを踏まえ、日本企業とロシア人候補者をマッチングしている。当社が心掛けているのは、双方に齟齬(そご)がないよう、期待値を高くも低くもしすぎないようにうまく調整することだ。

質問:
ロシア人材は一般的に田舎暮らしをいとわないと言われるが、実際にはどうか。
答え:

田舎をいとわないかどうかは、人によって異なる。モスクワやサンクトペテルブルクといった大都市出身者は、東京のような都会生活を望む傾向にある。一方、ロシア地方部で育った人であれば田舎を好んだり、地方の生活が苦にならなかったりすることもある。このほか、ロシア極東やシベリアの出身者は、距離が近いことや気候が似ていること、姉妹都市交流などもあり、北海道に親近感を持つ傾向がある。


外国人採用セミナーでの講演の様子(キャリアバンク提供)
質問:
外国人受け入れに当たって想定されるトラブル、留意点、対応策は。
答え:

大学時代に日本で過ごした人は、日本企業での就労や生活面でのトラブルはあまりない印象だ。対して、海外から採用した外国人は、日本文化に苦慮するケースが散見される。

最近は、IT分野を中心に日本に住んだ経験のないロシア人が増えてきている。このようなロシア人は、母国で働いていた時の常識・感覚のままで日本企業に就職するのが一般的だ。例えば、ロシアの労働基準法やロシア企業の就業規則をベースに考えているため、残業は原則してはいけないとか、休日出勤した場合は給与が2倍になると捉えているケースがみられる。また、ロシアは欧米文化に近いため、ワークライフバランスを重視する傾向にある。

こういった認識の齟齬をなくすために、採用面接時に残業の有無や長期休暇の取得可否といったことは、双方で確認を取っておくことが重要だ。

また、外国人社員の中には、文化の違いや日本の文化が明確でないことに起因するストレスを抱えるケースがみられる。例えば、服装に関する規定やオフィスの席順、時間に関するマナー、ルール。また、悪意はないものの、日本人から見ると違和感を覚える行動をとる外国人は多い。気づいた場合にはその都度、伝えることが重要だ。

日本の常識が伝わっていないことも多い。海外なら、9時始業であれば8時59分に出社しても問題ないと捉えるのが一般的だ。しかし日本企業では、始業5~10分前の出社が当たり前とされている。

外国人社員に指導する際に押さえておくべきポイントは、(1) ポジティブなフィードバックを心掛けること、(2) 外国人社員の活躍をしっかりと褒めること、だ。一方、効率化、合理化という観点から、外国では当たり前の慣習を日本企業が採り入れた方が望ましいケースもある。

外国人従業員の離職率が高い傾向にあることは認識している。しかし、そもそも終身雇用が前提という日本の慣習の方が、グローバルスタンダードでない。加えて、面接の際に日本企業が持ち出す質問の方法にも課題がある。日本企業の採用担当者の多くは、求職者との面接の際に「ずっと働きます」としか回答しえないような尋ね方をしている。

高度人材を海外から直接雇用する企業は、外国人の雇用経験があったり、海外にネットワークを有したりするところが多い。こうした企業は、外国人従業員の雇用に慣れているのが一般的だ。そのため、トラブルはあまり聞こえてこない。

執筆者紹介
海外調査部欧州ロシアCIS課 課長代理
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸、ジェトロ・モスクワ事務所を経て、2019年2月から現職。編著「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。

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