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特集:高度人材の宝庫ロシア:魅力と課題着実な増加と活用が多様化する在留ロシア人高度人材
日本での就労状況、魅力と留意点

2020年12月4日

日本で働くロシア人高度人材は、年々増加をみせている。これまでは、貿易・マーケティング、通訳・翻訳といった分野での就労がメインであったが、最近では、ホテル、IT、人材など日本国内向け事業での活用が目立っている。ロシア人高度人材の魅力と留意点、採用方法や望ましい定着支援は何か。ロシア人を含む、外国人の活用に取り組む日本企業10社以上にヒアリングした結果を踏まえて報告する。

増加が続く在留ロシア人高度人材

日本における外国人は年々増加しており、2019年末時点では293万人に達している。高度人材と呼ばれる「技術・人文知識・国際業務」(以下、「技人国」)の在留資格を保有する外国人も同様に拡大し、27万人に達している。「技人国」の在留ロシア人数は1,212人と全体数に占める割合はわずか0.4%に過ぎないが、近年は安定的に増え続けている(図参照)。

図:在留資格「技術・人文知識・国際業務」保有者数の推移(単位:人)
外国人全体(左軸)とロシア人(右軸)について、2012年は111,994人と672人、2013年は115,357人と698人、 2014年は122,794人と734人、2015年は 137,706人と778人、2016年は161,124人と833人、2017年は189,273人と934人、2018年は225,724人と1,050 人、2019年は271,999人と1,212人。

注:数字は各年末時点。
出所:法務省在留外国人統計(各年版)より作成

ロシア人高度人材はどこで働いているのか。都道府県別でみると、東京都が551人と全体の45%を占め際立って多い状況だが、富山県、神奈川県、北海道、大阪府、千葉県でも50人以上が就労している(表1参照)。富山と京都を除き、ロシア人留学生の多い都道府県では就労するロシア人高度人材も多い、という傾向が見て取れる。

表1:都道府県別の在留ロシア人数(2019年12月末時点)
都道府県名 総数 在留資格の種類
技術・
人文知識・
国際業務
留学
東京都 3,031 551 418
富山県 475 100 6
神奈川県 913 92 48
北海道 533 86 48
大阪府 479 63 72
千葉県 626 62 54
埼玉県 440 38 39
愛知県 279 28 20
京都府 248 26 53
兵庫県 279 22 22
新潟県 202 22 38
茨城県 224 14 32
石川県 84 11 19
その他 1,565 97 115
全体 9,378 1,212 984

出所:法務省在留外国人統計より作成

ロシア人高度人材が日本企業で活躍している業界・職種はどこか。従来は、ロシアでの事業展開を行っている商社やメーカーに限られていたが、最近では、ホテルやIT、人材など日本国内を対象とした事業を行う企業にも広がりを見せている。特に、北海道をはじめとする地方の中小企業での採用も相次いでいる。

ロシア人高度人材はどのように活用されているのか。貿易・マーケティング分野では、ロシアだけでなく、その他の国・地域もカバーする担当者として活躍しているケースが数多くみられている。国内向け事業では、ホテルではフロント担当(本特集記事「外国人に向けた日本の魅力発信に意欲」参照)、IT分野では自社開発エンジニアのほか、IT技術者派遣に用いられている(2019年12月13日付地域・分析レポート記事参照)。これ以外の業種では、例えば人材分野では外国人向けの支援に登用されている(本特集記事「自身の体験をもとに外国人の日本就職を支援」参照)。ロシア事業以外での実績は、本特集の総論で述べたとおり、日本企業で活躍するロシア人材が優秀ということの証左であろう。

採用した学生が偶然ロシア人というケースが一般的

ロシア人を雇用している企業は、どのように採用活動を行っているのか。ロシア人を採用している企業は、(1)日本人、外国人を区別せずに日本国内で採用活動を行っているケース、(2)日本にいる外国人留学生を対象として採用活動を行っているケース、(3)海外で採用活動を行っているケース、(4)人材紹介会社を通じた採用活動、(5)友人・知人からの紹介、(6)人材派遣会社からのIT技術者受け入れ、などに分かれる。

手段としては、外国人留学生を対象としたジョブフェアへの参加や大学からの紹介、官庁・自治体が行う姉妹都市交流の枠内でのイベント参加など、さまざまだ。

筆者がヒアリングしたロシア人従業員を雇用する日本企業の多くは、採用活動を行う際の募集条件で国籍を特定していないが、日本人、外国人問わず募集した結果、優秀で内定を出した応募者がたまたまロシア人であった、としている。

ロシア人高度人材の紹介・マッチングや日本企業での就労支援を行っている企業は表2のとおり。キャリアバンクは、日本企業のニーズに基づきロシア人材を募集の上、マッチングを実施。ロシア人材と日本企業に齟齬(そご)がないように擦り合わせに注力している(本特集記事「雇用にあたり、ロシア人求職者と日本企業のすり合わせが重要」参照)。ベリタス・コンサルティングは、ロシアでの日本企業による採用説明会開催を支援。ヒューマンリソシアは、ロシアのカザン連邦大学やアストラハン国立大学と提携。IT専攻の学生に日本語教育を施した上で自社採用し、同社のクライアント向けに技術者派遣を行っている。

表2:ロシア人高度人材の紹介・マッチングや日本での就労支援を行う主な企業
企業名 拠点場所 主なサービス概要
キャリアバンク 北海道 ロシア人材紹介・マッチング事業、外国人留学生向けの就職活動支援
ベリタス・コンサルティング 東京都 ロシアでの日本企業の採用説明会実施を支援
ヒューマンリソシア 東京都 ロシア人を含む外国人IT技術者派遣
ADインタラクティブ 北海道 ロシア人を含む外国人IT技術者派遣および業務委託。日ロ合弁企業
エイジェック 東京都 外国人の日本での就労に関わる業務支援全般。ロシアに現地法人も有する。

出所:各社ウェブサイト、各社へのヒアリングにより作成

従業員教育や福利厚生面の充実が魅力

ロシア人が日本で働くメリットは何か。外国人が日本で働く魅力は、一般的には給与水準の高さ、治安の良さ、就労環境の安全性、専門スキル・経験の獲得と言われるが、ロシア人材の場合、従業員教育や福利厚生の充実、企業経営や雇用の安定性などだ。筆者がインタビューしたロシア人材からは、「日本では当たり前のように受けられる研修の機会がロシア企業にはない」「ロシアではある程度経験を積んだ即戦力しか採用されないが、日本企業には基礎知識ゼロでも入社可能。入社後に同僚が丁寧に教えてくれることもあり従業員教育の点で日本企業の方が優れている」「健康保険に加入できる」「寮や借り上げ住宅の提供があるため実質可処分所得が高い」「ロシアでは解雇されるまでの期間が短い」といった声が聞かれた。

一方、給与面の魅力はそれほどない。日本企業で活躍するような能力の高いロシア人材の場合、キャリアアップを図るため転職を繰り返し短期間で高い給与を得る傾向があることや、ロシア人高度人材の海外就労希望先である欧米諸国と比べると日本の給与水準は低いためだ。

このため、日本で就労しているロシア人の多くは、日本の社会、文化、労働環境、日本での生活などソフト面に魅力を感じており、「日本の魅力を外国人に発信したい」「仕事の内容に魅力とやりがいを感じている」など、日本に熱い思いを持つ人が少なくない印象だ。

日本人との親和性が高いロシア人材

ロシア人従業員の特徴や性格はどのようなものか。日本人が一般的に抱くロシア人のイメージは「無表情で愛想がない」「怠け者」といったものだろう。こういったステレオタイプは、旧ソ連映画や西欧映画によって植え付けられることが多いと思われるが、実際にロシア人を雇用している企業からは、イメージとのギャップが大きいというコメントをよく耳にする。特に評価が高いポイントは、真面目、親日的、謙虚など、日本人との親和性が高い点だ。具体的には、「フレンドリーかつ自由奔放な考え方を持つ一方、勉強もしっかりする真面目な国民性。謙虚さも有しており日本人との親和性がある」「非常に真摯(しんし)に仕事に取り組む。親日的で良い意味で内気なため日本人に近く仕事がしやすい」「明るく、おしゃべりで陽気な人が多い。物静かな人もいるが芯がしっかりしている」といったものだ。

性格が日本人に合うだけでなく、ロシアの教育システムによって育まれた「能力の高さ」や、さらにそれを強化する「向学心」も、日本企業にとってはプラスとなる点だ。ロシア人ITエンジニアについては、世界的にも競争力ある人材が豊富だが(本特集記事「技術系人材の輩出で、質量ともに世界トップレベル」参照)、日本語人材についても、国際交流基金が「高等教育機関における学習者はおおむね高い日本語運用能力を有している」と評しているとおり、大学在学中に日本語能力試験(JLPT)N1(1級)に合格してしまう猛者も数多い。向上心も高く、「昔の日本人エンジニアに似て、とにかくプログラミングすることが好きという社員が多い」「仕事の処理効率や情報分析力を高めたい」「日本語レベルを向上させ顧客の前に出ても恥ずかしくないようにしたい」といったものから、「自社のビジネスを新しいレベルに引き上げることが目標」「部下を育成したい」など、日本企業の幹部人材と遜色ないマインドを有する者もいる。このほか、北海道や富山県にロシア人高度人材が数多く就労していることからもわかるように、一般的に大都会での生活へのこだわりがない点も、地方の企業としては活用しやすいポイントだろう。

留意点は何か。1つ挙げるとすれば、残業に対する考え方だ。雇用者からは「ロシア人の若手エンジニアは労働時間を気にする。残業してまで社員一丸となって作業を終わらせようという意欲や、仕事で困っている人を助けようという意識が希薄」「欧米文化に近いためワークライフバランスを重視する傾向にある」といった声が聞かれる。

一方、ロシアの労働法は残業について「連続する2日間で計4時間、年間120時間を超えてはならない」と規定しており、ロシア企業では原則禁止しているケースが一般的なことを理解する必要があるだろう。こういった認識の齟齬は、特にITエンジニアのような海外から直接採用する外国人との間に生じやすいため、キャリアバンク執行役員・海外事業部長の水田充彦氏は「採用面接時に残業の有無、長期休暇取得の可否などを日本企業と採用候補者の間で確認することが肝要」と指摘している。

ただし、前述の点については、個人の性格・思考によって異なることは留意しておく必要がある。

特別な待遇・研修は提供せず

優秀なロシア人材に可能な限り長く働いてもらうための、福利厚生や定着支援の整備状況はどうか。筆者がヒアリングした企業の多くは、ジョブローテーションを含む人事制度や研修、福利厚生などの待遇は日本人と差がなく、外国人のためだけに用意している制度は、外国での採用者に対する日本までの渡航費支給程度だった。

手続き面では、外国人の受け入れに関しては在留許可の申請をはじめとする専門知識が問われるものを除き、自社スタッフがサポートしているケースが一般的だ。例えば、転入届、銀行口座開設、携帯電話契約、住宅賃貸契約、日本の運転免許証の取得、自動車保険の加入などである。

就労の際の苦労点やストレスは何か。入社直後に苦労する点は「日本語」だ。ITエンジニアを除き、ある程度日本語ができる人材が就労しているが、それでも多くの場合、入社後1~2年程度は日本語運用能力の低さに起因する低生産性に不安を覚えるようだ。加えて、日本の企業文化への戸惑いもある。「会議のための打ち合わせが2回以上あることが驚き」「欧州諸国やロシアでは当たり前の長期休暇が取得しにくい」「日本人上司の指示があいまいなので、何度も確認する必要がある」といったコメントが聞かれた。

このため、ロシア人材を上手に活用するインタビュー先では、外国人を含む先輩社員がメンターやサポーターとして定着支援をしっかり行うことに配慮しているケースが多い。このほか、「1つの職場に外国人を2人以上配置するようにしている」「外国人は孤立してしまうとさまざまな問題が発生するため、なるべく同じ国籍者を複数人受け入れている」「最初の1カ月間を乗り切れるかどうかが鍵なので集中的にフォローアップしている」「指導の際にはポジティブなフィードバックをし、外国人社員の活躍をしっかりと褒める」といった取り組みも見られた。

日本に留学経験のある外国人ならば、ある程度は日本社会のルールを理解していることから、外国人を採用する企業の多くが日本に留学経験のある人物を優先している。一方、IT分野を筆頭に、就労に伴い初めて日本に渡航する外国人も最近は増えてきている。この点について、海外から高度人材を直接採用している大和リゾートは、外国人社員の意見を否定せず、理にかなっている場合には社内ルール・慣習を変更する試みも行っている(本特集記事「ロシアを含む外国での採用活動に注力」参照)。

日本で働くロシア人高度人材は年々増加し、就労先業種・職種も多様化している。能力をいかんなく発揮し大活躍しているケースが数多く見られ、メンタリティーも日本人との親和性があることから、就労先からは高く評価されている。一方、IT人材をはじめとする非日本語人材の拡大に従い、ロシアの常識で仕事を行う従業員が職場でのトラブルの原因にもなり得る。そういった場合には、外国人社員に対して一般的に提供する説明に加え、ロシアの人事・労務制度・慣習をはじめとする、現地の状況を理解する取り組みも必要となってこよう。

執筆者紹介
海外調査部欧州ロシアCIS課 課長代理
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸、ジェトロ・モスクワ事務所を経て、2019年2月から現職。編著「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。

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