札幌のIT企業、ベトナム×ロシアで海外展開に臨む
地方の中小企業のロシアCIS地域への事業展開、高度人材活用事例

2020年2月4日

昨今、日本国内の人材不足やグローバルレベルでの競争に打ち勝つために、高度な技術・能力を有する外国人材の活用に注目が高まっている。地方の中小企業も例外でなく、優秀な外国企業の活用に取り組む事例がみられる。その1つが、札幌に拠点を構えるシステム開発会社の株式会社イークラフトマン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますだ。同社は、ベトナムとロシアでビジネス展開を行っているほか、ベトナム人やウズベキスタン人従業員を抱えている。同社の新山将督代表取締役に同社のベトナム、ロシアを中心とする海外展開や外国人の採用・活用について聞いた(2019年12月5日)。

質問:
会社の概要について。
答え:
当社は2007年設立で、資本金は2,999万円。従業員数15人程度だ。主に食品流通分野のEDI(企業間電子商取引)に特化したシステム開発・提供を行っている。EDIとは、受発注、出荷、請求・支払いなどの各種取引データを、企業間でやり取りする電子商取引(EC)の仕組みであり、受発注から請求・支払いまでの取引業務を自動化するもの。主な顧客は、統合基幹業務システム(ERP)を導入することが難しい、北海道の小規模な食品メーカーや2次卸以下の食品流通企業。これらの事業者は受発注にいまだにFAXを用いているため、自動化・業務効率化に向けEDIの導入を支援している。

イークラフトマンの新山将督代表取締役(中央)、ベトナム人のグエン・ティ・ツーチン氏(左)、
ウズベキスタン人のイギタリ・ゾキロフ氏(右)(ジェトロ撮影)
質問:
ベトナムに現地法人を有しているが、海外展開の概要ときっかけ、ベトナムでの事業展開について。
答え:
現在、ベトナムに現地法人を有しているほか、ロシア中部のノボシビルスクに立地するオーラスという会社と代理店契約を締結している。
海外進出のきっかけは、元々、海外志向があったことと、海外企業が当社の事業基盤である北海道に攻め入ってくるのではという危機感を持っていたことだ。海外企業が進出する前に、当社として、競争できる体制を構築していく必要性を感じていた。また、業務体制をフレキシブルに調整可能な形にしたかったこともある。
海外進出に当たって、最初に取り組んだのは中国だった。中国へのオフショア開発ブームが終わりかけていた2011年ごろに瀋陽の企業と提携した。しかし、その後、尖閣諸島をめぐる問題が発生し、社内で提携について異論が出たこともあり、1回の業務提携案件で終わりにせざるを得なかった。
その後も海外展開意欲は衰えず、タイ、ベトナム、シンガポールを調査したところ、ベトナムに市場性があると判断し、2014年10月にホーチミンに現地法人を設立した。その際に、ジェトロの北海道事務所や現地事務所、海外産業人材育成協会(HIDA)の支援を受けた。
ベトナムでは、本社の発注による現地でのオフショア開発と、現地の日系企業から依頼を受けた受託開発を行っている。日系企業の顧客は製造業が多い。当社が得意とする流通とは分野が異なるが、インプット、アウトプット、インターフェースといった点は業種による差異はない。当社が有しているノウハウ、コア技術を用いた構築は可能である。
ベトナムでは、すぐに黒字化することが難しく、最低でも3~5年かかることを想定し、細々と現地でのIT開発を進めた。現在では半分以上、ベトナム側で開発できる状態となった。ベトナムでは固定電話やFAXを持っていないため、一気にEDIを使用する可能性があるポテンシャルを感じている。2017年7月には、ベトナム最大手書店チェーン「ファハサ」と企業間電子商取引システム構築および普及に関する協力合意書を締結。2020年のサービス開始を目指し、調査・システム構築・試運転に取り組んでいる。
質問:
2019年2月にロシア・ノボシビルスク企業と代理店契約を締結しているが、ロシア展開の概要やきっかけ、ロシア企業やロシア人材の印象について。
答え:
ロシア展開のきっかけは、北海道経済産業局から紹介があったことだ。同局のロシア事業担当者から、シベリアには手付かずのIT人材が豊富に存在するという説明を聞き、2018年11月にシベリアの中心都市であるノボシビルスクを訪問した。
現地視察した際に出会った企業の1つが、オーラスという、社内コミュニケーションとコールセンターシステムに特化したシステム開発会社だった。同社の経営者と面談した際、相手に対して悪くはない印象を持った。同社の製品、ソフトウエアの完成度が高く、カスタマイズ対応も可能であった。コミュニケーション分野に特化している会社であったため、提携できそうだと考え、2019年2月に代理店契約を締結した。現状、日本ではまだ製品をリリースしていないが、顧客の獲得と導入に向けた準備を行っているところ。ロシア語のウェブサイトも同月に開設した。
オーラスとのやり取りを通じて、ロシアにはレベルの高いIT人材が豊富にいることに気付き、現地のIT人材を早速活用したいと思った。このため、2019年11月に開催された北海道経済産業局主催のノボシビルスクでのロシア人材採用説明会に参加。ノボシビルスクだけでなく、シベリア各都市から参加者がいて、日本人と話したい、海外に移住したいという切実な希望を語る若者が多かった。
質問:
ロシアとベトナムとで企業や人材の違いは何か。ロシアと付き合うメリットは何か。
答え:
ノボシビルスクの企業や人材のレベルは高かった。ロシア人ITエンジニアは、データサイエンスの知識を持った上で、プログラミングを行っている。ベトナムでは、こういった踏み込んだ技術レベルを獲得しようという意識はそれほど高くない。
人件費の観点でも、ロシアにメリットがある。ノボシビルスクとホーチミンの賃金水準はすでに同レベルにある。ホーチミンは急激に経済成長しており、毎年10%、平均給与が上昇している。人材の流動が激しく、引き止めコストが生じている。他方で、ロシアは経済成長速度が遅いため、人材の定着率は高い。ロシア人は安定志向で、シベリアでは転職できるような仕事も多くない。加えて、ホーチミンとノボシビルスクは同じ時間帯(日本より2時間遅れ)。北の国と南の国が、時差なく仕事ができる環境にある。
さらに、ベトナムでは、ロシア製品がポジティブに見られていることもある。日本にはロシア製品に対するアレルギーが存在するが、ベトナムにはそういった偏見がない。こういったことをバランスさせながら、ロシアで開発した製品をベトナム市場に展開し、ベトナムを通じて、ASEAN諸国、欧州、米国などに供給できればよいと考えている。
海外事業の売り上げは伸びてきているが、まだ小さい。今後3年以内に売上高に占める海外の比率を30%まで拡大させることが目標。ベトナムはGDP成長率が年6~7%に上るため、現在の売上高の3~4倍に拡大する可能性があると考えている。
質問:
ロシアやベトナムへの海外展開に当たってのリスクと対策についてどう考えているか。
答え:
日本の企業経営者の方々から「ロシアとのビジネスには気をつけろ」とよく言われるが、当社としては、倒産による債権回収困難化の発生よりも、発注した業務の作成物を回収できないリスクの方が高いと考えている。海外へのアウトソーシングの場合、発注と送金ができるだけで十分である。仕様に基づき委託先に発注し、作成したものを回収できるだけでよい。もちろん、発注に伴い納品物のチェックや品質管理体制を見ながら、うそはないのか確認する作業も重要である。委託先にも、期待されている仕事に対して成果を出させるかどうか不安があるため、当社ではお見合い期間を設けている。
海外とのやり取りは、英語を標準としている。海外とのやり取りに日本語を求めることが一番のコストであるため。ものづくりのノウハウを教えるのに日本人は必要だが、日本語は不要と考えている。プログラムのアウトソーシングでは、コードの調達ができれば十分。日本の品質と変わらず、安価で調達できればよく、そのやり取りのために、現地側に日本語を押し付けない。英語を標準とすることで、仕事が発注しやすく、作成物の回収もしやすくなる。
質問:
札幌本社での外国人材の活用について。
答え:
日本本社では現在、ベトナム人とウズベキスタン人の2人を正社員として雇用している。ベトナム人材に対しては、お茶だしなどの試用期間を経た上で、輸出、通訳、調整をやらせている状況。商談対応が可能な人材となるようトレーニングを施している。
加えて、北海道大学経済学部出身のウズベキスタン人従業員を採用した。同従業員はウズベキスタンの国費留学生で、母国語のほか、ロシア語、英語、韓国語を操ることができる。ロシア側とのやり取りはネイティブに任せないと難しいこともあり、上述のノボシビルスクでの面談調整を含め、ロシア事業は彼に任せている。北海道では、こういった優秀な人物を中小企業が獲得するのは難しい。
外国人を採用する理由は、日本人学生にとって中小企業への就職は尖(とが)ったベンチャー企業でない限り、負け組という印象であるが、外国人学生の場合、会社のビジョンを理解してくれて、入社を決めてくれるためだ。日本の大企業の場合、外国の採用枠があり、かつ外国人は一時的に働いているとみなされ、活躍の場を与えてもらえないという印象を、外国人は持っている。このため、外国人の場合、採用後にマネジメント業務に携われる機会がある方がよいと考えていることもある。さらに、例えば、ベトナム人従業員は、実家や親戚を豊かにしたいという思いを持っているなど、外国人の方が、日本人の若者より就労意欲が高い。
外国人はいずれ母国に戻るため、日本で会社を経営するやり方を見せている。10年後に、母国に戻って、当社のパートナーとして事業を興す思いで働いてほしいと考えている。当社のパートナーとして、末永く付き合うことができればよい。トレーニングのため、会社に在籍する間は会社に貢献してくれればよいと考えている。
外部人材の採用の際には、オリエンテーションを実施している。どの程度、実戦投入するかについては、適性検査のほか、インタビューした上での反応をみて決めている。
今後、ロシア人材を2~3人、ベトナム人材を3人程度採用する予定。いずれも採用するのはマネージャー職を想定している。マネージャー職とする理由は、作業自体は現地のパートナー企業に任せればよいと考えているためだ。
執筆者紹介
海外調査部欧州ロシアCIS課 リサーチ・マネージャー
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸、ジェトロ・モスクワ事務所を経て、2019年2月から現職。編著「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。