ウクライナ人とロシア人留学生が起業、16カ国・地域出身の従業員が勤務
ロシアCIS地域向け越境EC事業者インタビュー(2)

2019年12月26日

大阪・本町に本社を置くゼンマーケット株式会社外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、ウクライナ人およびロシア人留学生が立ち上げた会社だ。同社には、16カ国・地域出身の多様な従業員が働いている。ゼンマーケットへのインタビュー(11月7日)の後編は、創業の経緯や多様な国籍の従業員の採用や教育、今後の計画について。

質問:
創業者のプロファイルと創業の経緯、大阪に立地した理由などについて。
答え:
創業者はウクライナ人3人と、ロシア人1人で、4人とも訪日留学生で友達であった。大学院修了後、日本で次に何をやろうかと話し合った結果、電子商取引(EC)にビジネスチャンスがあると感じて創業した。社長の1人のアンドリイ・ナウモヴ氏は、ウクライナの最高学府キエフ国立大学出身で、専門は日本文化。他の創業者の専門は社会学や言語学、日本文学で、ビジネスが専門の創業メンバーはいない。システム開発は、ウクライナのリヴィウで行っている。
創業者のうち、大阪大学大学院で博士号を取得したナウモヴ氏以外は、東京大学大学院、早稲田大学大学院など東日本の大学に留学していたが、大阪で起業した理由は、オフィス、倉庫の不動産賃料が首都圏に比べ安価であること、関西国際空港が24時間運営空港で、物流・輸送面でメリットがあること、人材採用が首都圏に比べて容易である点だ。
質問:
従業員の採用・研修について。
答え:
従業員は、アルバイト含めると100人以上。現在、正社員(契約社員を含む)は45人。日本人社員は本社に10人(本社社員は50人)、倉庫を入れると40人程度になる。
部署は大きく3つあり、カスタマーサポート部門にはウクライナ人、フランス人など、その国の言葉を話せる人を配置している。消費者から質問・クレームがあった場合に、お客さま対応する役割を担っている。マーケティング部門は、世界の各国・地域向けに宣伝する役割を担う。この部門には、日本語の話せない外国人がいるため、英語を共通語としている。営業部門は、主にゼンプラス事業で出品者の勧誘と交渉を担当する。言語面の問題があるため、日本人が担っている。社内共通語は日本語。
従業員は正社員、契約社員、インターンシップ、アルバイトなどさまざま。従業員の出身は日本を除くと、ウクライナ、ロシア、フランス、英国、スペイン、ノルウェー、米国、オーストラリア、マレーシア、シンガポール、ベトナム、中国、香港、台湾、アルゼンチン、ウルグアイの16カ国・地域。日本人と結婚している日本在住の外国人もいるが、海外から訪日して就労している従業員が多い。
求人は、外国人専用の求人広告に掲載したり、海外からオファーがあった場合には、オンラインで面接したりしている。ウクライナ国籍の従業員は、海外から採用したことがある。採用に当たっては、まず、海外展開戦略を作成し、進出先を決定した上で、必要となる言語を操ることができる人物を募集するケースが一般的。他方、ふさわしい能力を持った人が見つからないことも多い。
従業員の育成に当たっては、マーケティング部門にはグーグルアナリティクス、フェイスブック広告に関する、資格取得に向けた支援や取得後の給与アップなどのインセンティブを提供しているほか、総務・経理部門でも会計の資格の取得奨励を行っている。

16カ国・地域からの多様なスタッフが働く(ゼンマーケット提供)
質問:
今後の計画について。
答え:
ゼンプラス事業に注力していく予定だ。理由は、購入代行に比べて利益率が高いこと。また、ユーザーにとっては購入代行に比べ手数料がチャージされる回数が少ないためだ。このため、ゼンプラスの出品者数を増やしていきたい。現状、ヘルスケア、ファッション、エレクトロニクス、食品など、人気がある製品を優先的にそろえているが、本格的に始めてから1年半程度しかたっていないため、まだ出品点数が足りておらず、全てのジャンルの製品をそろえたい。
加えて、出品者が、国・地域別、言語別でどのような商品が売れているか把握できるようシステムの改修を進めている。さらに、言語については、現在、日本語、英語、フランス語、スペイン語、ロシア語、ウクライナ語、中国語(繁体字、簡体字)、マレー語、ベトナム語に対応しているが、今後、アラビア語、タイ語も追加する予定である。
カスタマーサポートも強化していきたい。現状、ウェブチャットで行っているが、平均回答時間は繁忙度によって左右され、通常5分以内だが、繁忙期は12時間になってしまうこともある。さらに、当社従業員は就業時間内のみの対応であるため、回答にはどうしても時差の影響が生じる。これをなくすため、世界各地にカスタマーサポート担当者を配置したいと考えている。すでに、フィリピン、カナダ、ウクライナ、オーストラリアに配置しているが、オペレーターの配置先を増やし、いつでも最大1時間以内に回答をするシステムを構築したいと考えている。

ロシアCIS地域向け越境EC事業者インタビュー

  1. 多言語対応の海外からの購入代行サービスで急成長
  2. ウクライナ人とロシア人留学生が起業、16カ国・地域出身の従業員が勤務
執筆者紹介
海外調査部欧州ロシアCIS課 リサーチ・マネージャー
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸、ジェトロ・モスクワ事務所を経て、2019年2月から現職。編著「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。