特集:高度人材の宝庫ロシア:魅力と課題ロシアからの外国人留学生受け入れに注力
北海道大学の取り組み事例

2021年8月3日

少子高齢化と労働人口減少が進展する中、日本では高度外国人材の活用が避けては通れなくなってきている。高度外国人材を獲得しようとする場合、外国人留学生は有力な選択肢の1つだ。北海道大学は近年、外国人留学生の受け入れ、特にロシアからの誘致に力を入れている。同大学国際部国際連携課の金子郁代課長(当時)と田代陽子係長に、ロシアCIS地域に対する取り組みや外国人留学生の誘致、日本での生活および就職支援について聞いた(2021年2月2日)。


北海道大学国際部国際連携課 金子郁代課長(当時)と田代陽子係長(右)(北海道大学提供)
質問:
北海道大学がロシアCIS地域を対象に実施する事業について。
答え:
北海道大学(以下、本学)は、前身の札幌農学校時代から北海道の特性を生かした学問を創造し、産学官連携を通じた教育研究成果の世界に向けた発信に取り組んできた。ロシアについては、スラブ・ユーラシア研究センターと北極域研究センター(注1)という全国的に有名な地域研究拠点を通じて当該地域に関する研究教育を牽引してきた。
近年のロシア関連事業は、(1)「極東・北極圏の持続可能な環境・文化・開発を牽引する専門家育成プログラム」(RJE3プログラム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)と(2)「日ロ経済協力・人材交流に資する人材育成プラットフォーム事業」(HaRP事業外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の2つが挙げられる。いずれも、日ロ間で活躍する産業人材育成を目的としたもの。(1)は、2014年度に文部科学省の「大学の世界展開力強化事業外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(ロシア)(注2)の1つとして採択された事業だ。本学とロシア極東の5大学(注3)、北海道の行政・経済界が連携し、将来の日ロ交流を担う高度職業人材の育成に取り組んでいる。(2)は、2016年5月に当時の安倍晋三首相がプーチン大統領に提案した「8項目の協力プラン」に基づく。本プランの実現に資する人材育成が、その目的だ。シベリア・極東との医学生・医師交流を長く担っている新潟大学と共同の事業として、(1)と同じく、2017年に「大学の世界展開力強化事業」に採択され実施しているものだ。

HaRP事業で実施した第2回日露産官学連携実務者会議の様子(2020年1月)(北海道大学提供)
前述に加え、日ロ間の人材交流活性化を目指し、「日本留学海外拠点連携推進事業外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」にも、新潟大学、筑波大学と共同で取り組んでいる。その狙いは、ロシアCIS地域からの留学生を増加させることにある。本事業推進のため、2019年にモスクワにオフィス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを開設した。留学コーディネーターを配置し、日本への留学生誘致に向けたイベントの企画・運営を行っているほか、在ロシア日系企業との連携を進めている。
質問:
外国人留学生の受け入れ状況や誘致方針について。
答え:
2020年11月時点の外国人留学生総数は2,104人。2019年までは毎年100人程度増加を続けていたが、2020年は「新型コロナ禍」の影響もあり減少に転じた。留学生の内訳では、大学院生が1,764人と全体の8割以上を占める。大学院生が大多数を占める理由としては、(1)本学が大学院生の誘致に力を入れていること、(2)英語による単位・学位取得が可能なこと、が挙げられる。ロシアCIS諸国からの留学生は、ロシア19人、ベラルーシ2人、ウズベキスタン2人、カザフスタン2人,キルギス5人、トルクメニスタン1人の合計31人だ。
留学生誘致について、重点対象国・地域はロシアとアフリカ。これらは「世界の成長を取り込むための外国人留学生の受入れ戦略(報告書)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」で、わが国の発展に特に寄与すると考えられる重点地域とされている。また、先述のとおり、本学が「大学の世界展開力強化事業」「日本留学海外拠点連携推進事業」を実施している地域でもある。日本への留学生最多なのが中国だ。本学でも、留学生総数の6割を占めている。しかし、以上の方針や他大学との差別化・留学生の多様化の観点もあり、ロシアとアフリカを重視している。
質問:
外国人留学生の日本での生活面に関する支援は。
答え:
留学生向けの情報提供、個別相談、交流イベントの実施などに取り組んでいる。情報提供では、ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを活用。日本語や日本文化の授業、奨学金、寄宿先、日本での生活方法・ルールなどを案内している。個別相談には、「留学生サポートデスク外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」で対応し、本学の先輩留学生が後輩留学生にアドバイスしている。交流イベントについては、同デスク主催による国際交流・文化体験行事のほか、本学職員家族が運営する「国際婦人交流会外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」が実施する日本語クラス、生活支援イベントもある。
質問:
生活面の支援における課題は。
答え:
主に2つある。1つ目は、住宅賃貸時の連帯保証人の設定だ。賃貸契約を締結する際には一般的に必要とされる。これを回避するために、本学では民間の信用保証会社を利用するよう案内しているが、この場合でも連帯保証人が求められる場合がある。また、緊急連絡先に日本人を含めるよう要求される場合もあり、対応に苦慮している。
2つ目は、保険未加入者の問題だ。学生教育研究災害傷害保険(略称「学研災」)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに加入すると、授業中、学校行事中、課外活動中、キャンパス内などで不慮の事故に遭った際に、補償金が支払われる。掛け金は3年間で3,000円程度と安価だ。そのため、全学生に対して保険加入を求めているが、義務ではないため、未加入の留学生が多い状況だ。
これまでにも、予期せぬ事故に見舞われその治療費の支払いで困窮し、大学に支援を求めてくることがあった。例えば、未加入者が自転車事故に巻き込まれたケースなどだ。大学としては万一に備え、基金を設けている。やむを得ない場合には、留学生に経済的支援を行える体制は構築している。
このほか、昨今、重要性が増している外国人留学生のメンタルヘルス面のサポートについては、外国籍の教員や留学生専門のカウンセラーが従事している。一方、「新型コロナ禍」で授業や実習などのオンライン化が進み、学生がキャンパスに出向かなくなったため、大学が精神面に不安を抱える学生の実態を把握することが難しくなっている。この点も、課題の1つと認識している。
質問:
外国人留学生の日本国内での就職状況は。
答え:
本学を卒業・修了した外国人留学生のうち、日本国内で就職する割合は15~25%程度だ。この割合が大きくない理由としては、(1)修士・博士課程の留学生は研究者を目指すケースが多いこと、(2)就労先を日本に限定せず母国や第三国などを対象にしていること、が挙げられる。一方、日本国内での就職希望者は学士、修士、博士課程のいずれであっても8割以上が就労先を確保できている。本学としては、日本で就職を希望する学生を力強くサポートしていく必要があると考えている。
ロシア人留学生卒業・修了者の日本国内での就職実績は、2018・2019の両年度、それぞれ1人ずつだった。2018年度は博士後期課程修了生が大学教員として就職、2019年度は修士課程修了生がサービス業の企業の事務職に就いた。
実績が少ない理由は、そもそもロシア人留学生数が多くなく、また、日本国内で就職を希望する学生がわずかなためだ。他方、数は少ないながらも日本企業で活躍している本学卒業・修了生のロシア人は時々目にする(地域分析レポート「自身の体験をもとに外国人の日本就職を支援(ロシア)」、「大学とのネットワークを通じて優秀な外国人材を獲得(ロシア)」参照)。いずれも能力が高く、社内で重要な役割を担っている印象だ。
質問:
どのような就職支援プログラムを提供しているのか。
答え:
日本での就職活動全般に関する情報提供や、履歴書の書き方、模擬面接、キャリア・カウンセリングといった個別指導、英語・中国語のキャリアハンドブック(就職の手引)の作成・提供、留学生向けの就職イベントの開催などを行っている。日本語のできない学生には、英語によるサポートも行っている。具体的には、英語での説明会・マッチングイベント、ビジネスマナー講座の開催、模擬面接の実施などだ。就職支援プログラムは、外部の専門人材を活用する場合もある。
本学としては、就職ガイダンスの受講を留学生に義務付けてはいない。しかし、日本の就活スケジュールやルールには独特の慣習も含まれているため、ある程度伝えるようにしている。
質問:
外国人留学生が日本で就職するのは容易ではないと聞く。内定を勝ち取る留学生の特徴は。
答え:
まず、留学生自身の日本での就職に対する意識の高さが挙げられる。意識が高い学生は独自に動く。同時に、本学のキャリアセンターに足を運ぶ回数も多い。そういった学生はおおむね、就職を希望する会社から内定を獲得できる。
日本語や日本社会に対する慣れもある。企業側はこれらへの適応能力をみている。日本で就職を考えている留学生は、アルバイトやインターンシップなどを通じて積極的に日本企業や社会に触れているケースが多い。在学中にそのような活動に携わった経験は、就職活動の際にアピール材料となる。

注1:
スラブ・ユーラシア研究センターは、日本唯一の総合的なスラブ地域研究機関。北極域研究センターは、北極域の持続可能な活用と保全を目的とした研究活動を行っている機関。
注2:
「大学の世界展開力強化事業」とは、国際的に活躍できるグローバル人材の育成と大学教育のグローバル展開力の強化を目指し、特定国・地域の大学との間での日本人学生の派遣や外国人学生の受け入れといった相互交流を通じた国際教育連携を支援する事業。
注3:
極東連邦大学(沿海地方)、北東連邦大学(サハ共和国)、イルクーツク国立大学、サハリン国立大学、太平洋国立大学(ハバロフスク地方)の5大学。
執筆者紹介
海外調査部欧州ロシアCIS課 課長代理
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸、ジェトロ・モスクワ事務所を経て、2019年2月から現職。編著「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。

この情報はお役に立ちましたか?

役立った

役立たなかった

この特集の記事

ご質問・お問い合わせ