特集:高度人材の宝庫ロシア:魅力と課題大学とのネットワークを通じて優秀な外国人材を獲得(ロシア)
人材サービス大手の管理職とロシア人社員に聞く

2020年12月4日

エイジェック外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は、人材サービス業の大手企業だ。近年は、外国人を雇用する企業への支援サービスに注力している。そのサービスの提供に向け外国人総合職の採用を開始、2020年4月には初のロシア人材を日本本社で採用した。同社グループ人事戦略本部人事戦略企画部の藁谷玲香次長に会社概要、外国人総合職の採用や人材活用の状況について聞いた。あわせて、ロシア人社員のバレンチナ・ドルゴバ氏(注)に日本での就職経緯や就労にあたっての苦労などについて尋ねた(8月7日)。


エイジェック グループ人事戦略本部人事戦略企画部の
藁谷玲香次長(右)とバレンチナ・ドルゴバ氏(左)(ジェトロ撮影)
質問:
御社の概要について。
答え:
(藁谷氏)当社の設立は2001年。「人材の総合プロデュース企業」を掲げ、人材・雇用に関連する業務全般を担っている。従業員数は1万6,000人で、売上高はグループ全体で752億円。グループ会社は国内35社、海外2社で、ロシアと韓国に現地法人を有している。顧客企業は約1,000社、13分野にわたって幅広く事業展開している。
エイジェックグループでは、外国人を雇用している顧客を支援するサービスを提供している。空港送迎から始まり、外国人スタッフの住宅の確保・管理支援、電気・ガス・水道など生活に必要なライフラインの契約、日本および日本文化に関する教育活動、翻訳・通訳、外国人向けのオリエンテーション、在留資格取得支援アドバイス、留学手続きの代行などだ。外国人材の紹介事業は行っていない。このほか、人材関連コンサルティングサービスもあり、例えば、東京都の外国人受入支援プロジェクトを受託している。
質問:
外国人社員の雇用状況と採用のきっかけについて。
答え:
(藁谷氏)外国人の採用については、専門職社員と総合職の2種類がある。専門職社員は、いわゆる派遣社員とアルバイトで合計約500人。日本在住の中国籍者や韓国籍者が多く、訪日観光客対応要員として商業施設での販売員として働いているケースが一般的だ。接客業には高い日本語運用能力が必要なため、これらの販売員は最低限、日本語能力試験(JLPT)N2(2級)を取得している。
総合職で採用した外国人は現在14人。国籍は中国、ミャンマー、ドミニカ、ロシア、ネパールの5カ国。外国人を採用したきっかけは、元々、優秀な学生を獲得するために日本の約200の大学のキャリアセンターと関係を構築しており、このチャンネルを通じて優秀な外国人学生の紹介があったためだ。ロシアと韓国にも拠点がある。もっとも、マッチング人材がいないこともあり、これまで海外では日本で就業する外国人の採用活動は行ってこなかった。
外国人採用のための広告費用はほとんどかけていない。これまでに採用した外国人社員が広告塔となり、各有名大学から外国人留学生を採用できている。採用することで、これらの大学との関係も強化される好循環が生まれている。
質問:
外国人社員の採用条件、待遇は。
答え:
(藁谷氏)外国人総合職の採用基準はJLPT N1(1級)取得レベル。当社は面接を重視している。日本人に囲まれて仕事してもストレスを感じないことが必須なため、必然的に高いレベルの日本語運用能力が求められる。もちろん、やや言語がおぼつかなくても、高い熱意を評価し採用した外国人社員もいる。ロシア国籍者を採用した理由は、ロシア拠点との連携強化を図るためでもある。
外国人総合職(新卒・中途採用)は、日本人の総合職社員と同じ待遇・雇用条件だ。あるネパール人社員は、マネージャークラスで日本人の部下のマネジメント業務を担っている。研修でも、日本人と外国人とを区別していない。当社には入社後半年間で13ある部署を1週間ごとに異動する研修制度がある。研修では、レポートの提出やプレゼンテーションなどが課される。ここでも、日本人と同様に日本語でこなすことを求められる。
外国人の定着支援として、新入社員向けのサポーター制度がある。年齢の近い、同年代の外国人の先輩社員が寄り添って面倒をみるもの。ロシア人職員(ドルゴバ氏)に対しては、中国人の先輩社員がサポートしている。このほか、社宅や日本語能力向上のために、ビジネス日本語に関するEラーニングの機会を提供している。
質問:
日本拠点では初めてのロシア人社員ということだが、自己紹介を。
答え:
(ドルゴバ氏)私は2020年4月に入社した1年目社員。ウラジオストク出身で極東連邦大学日本語学科卒業。日本に興味を持ったきっかけは、日本関係の仕事に従事している親戚からよく話を聞いていたこと、高校時代に日本のアニメを見ていたことだ。本格的に日本語の勉強を始めたのは大学入学後で、在学中にJLPT N2を取得した。大学5年生の時には極東連邦大学函館分校に短期留学し、2週間のプログラムで日本語や日本文化(生け花、習字など)を学んだ。
大学卒業後、日本の中古車・関連製品を輸入するウラジオストクの企業に就職。社員数7人の小規模な会社で、日本で開催される中古車売買オークションへの入札や購入した車両の輸送手続きのために日本企業とやり取りしていた。
ウラジオストクの企業に就職はできたが、会社組織や人材育成、成長の機会に問題意識を感じ、大学院に進学することを決意。文部科学省の国費留学プログラムの選考を通過し、北海道大学に研修生として1年間在学した。その後の試験に合格して、同大学院に正式に入学。大学院では、企業の人材管理政策を研究した。
質問:
御社に就職された理由、就職活動での苦労点は。
答え:
(ドルゴバ氏)大学院で人材管理を研究していた。そのため、就職活動では人材関連業界を希望していた。また、母国語であるロシア語が活用できることも重要だった。こうしたことから、ロシアに拠点を有するエイジェックの門をたたいた。ロシアにおける日本語学習者の中では、エイジェックは非常に有名な会社だ。
就職活動では、外国人留学生でも日本人と同様に臨まなくてならず苦労した。特にSPI総合検査では、問題を読み終わったら時間が終わっていたというケースも少なくなかった。ビジネスマナーについても、外国人として思いもよらないことが求められる場合があったりした。面接対策としては、日本人の先輩に何度もみてもらった。
質問:
日本での就労に当たっての苦労点は。ロシアとの就労環境の違いは。
答え:
(ドルゴバ氏)日本企業の就業規則やビジネスマナーを理解するのは、容易ではない。しかし、煩わしいとは思っていない。私は日本に関心があり、日本の社会・ルール・会社組織を深く知りたいので、非常に勉強になっている。
日本企業とロシア企業での就労環境の違いについては、甲乙つけ難い。ロシア企業では上司の具体的な指示に基づき作業を行うため、自分で判断する必要はなかった。一方で、上司からのプレッシャーは強かった。当社は日本の大企業のため、ロシアで働いていた企業に比べて雰囲気がゆったりとしている。しかし、指示内容があいまいなこともある。その都度、不明な点は上司に確認したり、すべて日本語でこなさなくてはならなかったりするため、メール1本書くだけでもロシア語に比べて2~3倍の時間を要する。1日中、日本語を使うため、退勤時間後はぐったりすることも多い。福利厚生面は、日本の会社の方がしっかりしている。
質問:
日本での生活面で苦労したことは。
答え:
(ドルゴバ氏)日本に来訪した当初は、住宅の賃貸や銀行口座の開設、携帯電話の契約、ゴミ出しルールなどに苦労した。住宅の賃貸は友人に保証人になってもらったほか、銀行口座も友人のサポートで開設できた。携帯電話を契約する際、契約書を店舗で読み上げても意味が理解できなかった。ゴミの分別は当初は難しかったが、今ではきちんとできる。
日本の良さは、夜遅くまで出歩いていても安全なこと。ウラジオストクに住んでいたころは、22時以降の外出は両親に禁止されていた。
質問:
今後の目標について。
答え:
(ドルゴバ氏)まずは、日本語のレベルアップ。客先に出ても恥ずかしくないよう磨きをかけ、きちんと仕事ができるようになりたい。将来的には、ロシア拠点とのやり取りに従事できればと考えている。

注:
株式会社能力開発(エイジェックの子会社)の社員。
執筆者紹介
海外調査部欧州ロシアCIS課 課長代理
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸、ジェトロ・モスクワ事務所を経て、2019年2月から現職。編著「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。

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