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特集:現地発!アジア・オセアニア進出日系企業の今-2020デジタル技術を活用した生産性向上への日系企業の取り組みと課題

2020年2月25日

日本企業が海外に進出する目的の1つは、コストメリットを活用して当該国を製造拠点にし、同国での製品販売もしくは第三国向けに輸出を行うことだろう。昨今、現地での賃金が上昇し、人手の確保がままならない中では、生産性(注)を高めて、ビジネスを成長させることが重要となっている。本稿では、現地日系製造業の生産性やデジタル技術の活用の現状を紹介する。

生産性に見合う最低賃金を設定している国は限定的

ジェトロが実施した「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(2019年度)によると、回答企業の日本における生産性を100とした場合の、進出先国における自社工場での生産性を問うたところ、生産性が「100」を超えたのは、香港・マカオ(105.6)のみとなった。

オーストラリア、ニュージーランドはそれぞれ95、90.2と高い数値になっているものの、ASEAN平均では78.2となっている。これを業種別に比較すると、精密機械器具が90.1と高い。ロボットなどを活用し自動化が比較的進んでいることが反映された結果と考えられる。精密機械器具などの高付加価値工業製品を製造するには、技術的なノウハウ、優秀な人材が必要であり、シンガポールなどの先進国へ進出する傾向にある。一方、輸送機械器具と一般機械器具はそれぞれ74.7、64.8と低い数字になっている。

経営層にとって重要な観点は、生産性に見合うコストであるかどうかである。生産性から見た場合、所在国・地域の政府が設定する最低賃金が妥当な金額か問うたところ、全体(N=1,641)で42.7%の企業が「妥当である」と答えた(図1参照)。

図1:生産性からみた場合、所在国・地域の政府が設定する
最低賃金は妥当な金額と思うか
各国生産性と比較して、最低賃金の妥当性を聞いたところ、「妥当」と回答した国はフィリピン(74.2%)、ラオス(66.7%)、ミャンマー(60.9%)で、回答率が高い。一方、カンボジア、インドネシアは「妥当でない」との比率がそれぞれ54.6%、55.8%と高い。

出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

「妥当である」と回答した企業の割合が多い国は、フィリピン(74.2%)、ラオス(66.7%)、ミャンマー(60.9%)で、比較的安い人件費を活用した輸出加工型ビジネスが盛んな国が上位に並んだ。一方、インドネシア、カンボジアは生産性がそれぞれ74.4、70.7となっている上に、「妥当ではない」と回答した企業は55.8%、54.6%と、現状に満足できない日系企業が多く存在することを示している。両国の製造業における前年比昇給率(2018年から2019年)は、インドネシアが8.0%、カンボジアが7.5%とASEANでは最も高くなっている。近年の賃金上昇率の高さに、生産性が伴っていない結果を反映しているものと考えられる。

課題に合ったデジタル技術の導入を

最低賃金に生産性が見合わない国が多い中、デジタル技術を活用して生産性の上昇を図る企業もある。製造業において、多く活用されているデジタル技術はロボットだ(表1参照)。輸送機械器具(N=206)では50%、電気機械器具(N=159)では39%、一般機械器具(N=43)では30.2%の日系企業がロボットを活用している。また、中期的(5~10年程度)に活用を検討しているデジタル技術について尋ねたところ、製造業では食料品を除く全ての分野でモノのインターネット(IoT)が1位、ロボットが2位だった(表2参照)。

表1:現地ビジネスにおいて活用しているデジタル技術(業種別、複数回答)

輸送機械器具(206)
順位 項目 回答率
1位 ロボット 50.0%
2位 クラウド 18.9%
3位 電子商取引(EC) 16.0%
電気機械器具(159)
順位 項目 回答率
1位 ロボット 39.0%
2位 IoT 32.1%
3位 クラウド 25.2%
一般機械器具(43)
順位 項目 回答率
1位 ロボット 30.2%
2位 電子商取引(EC) 14.0%
3位 クラウド 14.0%
化学・医薬(143)
順位 項目 回答率
1位 ロボット 30.1%
2位 クラウド 19.6%
3位 電子商取引(EC) 10.5%
精密機械器具(48)
順位 項目 回答率
1位 ロボット 29.2%
2位 クラウド 25.0%
3位 IoT 16.7%
鉄・非鉄・金属(143)
順位 項目 回答率
1位 ロボット 25.9%
2位 クラウド 16.1%
3位 IoT 11.2%

出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

表2:中長期的(5~10年程度)に活用を検討しているデジタル技術(業種別、複数回答)

輸送機械器具(223)
順位 項目 回答率
1位 IoT 42.2%
2位 ロボット 30.5%
3位 人工知能(AI) 19.7%
電気機械器具(173)
順位 項目 回答率
1位 IoT 38.7%
2位 ロボット 31.8%
3位 人工知能(AI) 25.4%
一般機械器具(45)
順位 項目 回答率
1位 IoT 24.4%
2位 ロボット 20.0%
3位 ビッグデータ 15.6%
化学・医薬(160)
順位 項目 回答率
1位 IoT 31.3%
2位 ロボット 21.9%
3位 人工知能(AI) 16.9%
精密機械器具(41)
順位 項目 回答率
1位 IoT 46.3%
2位 ロボット 34.2%
3位 人工知能(AI) 26.8%
鉄・非鉄・金属(212)
順位 項目 回答率
1位 IoT 34.9%
2位 ロボット 31.1%
3位 人工知能(AI) 12.3%

出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

製造企業は、将来的にIoTの導入を検討している。各種センサーなどIoT機器を活用して得られる情報を企業内で共有し、生産管理や品質管理などに生かすことを想定していると考えられる。IoTを活用することで人件費を抑え、ヒューマンエラーを少なくすることも可能だ。しかし、実行に移すには課題も存在する。デジタル分野への投資を行うにあたっての阻害要因について、「社内でデジタル技術に詳しいエンジニア人材がいない」(28.8%)、「社内でデジタル投資に関する理解が進んでいない」(22.4%)との声が多く聞かれた(図2参照)。

図2 :デジタル分野への投資を行うにあたっての阻害要因(複数回答)
デジタル投資を行う上での課題を聞いたところ、日系企業の28.8%が「社内でデジタル技術に詳しいエンジニア人材がいない」と回答して最も多かった。

出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

社内でエンジニア人材が不足していると回答した企業からは、そもそも国としてエンジニア人材が不足していることを指摘する声もある。デジタル分野への投資の阻害要因として、「エンジニア人材の不足」を挙げた企業の割合が最も多かった国はインドネシア(33.5%)だが、政府もデジタル人材の重要性は認識しており、教育機関を巻き込んだ人材育成プログラムを実施している(2019年8月21日付ビジネス短信参照)。

ジェトロがIoT機器などを提供している企業にヒアリングを行ったところ、「日系企業はデジタル分野への投資に本社の承認を得る必要があり、時間がかかる上に最終的に導入しないケースも見られる」との指摘があった。社内で生産現場における課題を共有し、その解決のためのデジタル技術導入のメリット、デメリットを経営陣含め全員で認識をすることがまず重要だ。また、シンガポールやマレーシアでは、政府が企業に対しアセスメントを実施し、企業のインダストリー4.0導入に向けた課題の洗い出し、さらには課題解決のサポートを行っている。(2020年1月28日付ビジネス短信2019年11月7日付ビジネス短信参照)

生産性向上の方策の1つであるデジタル技術の導入について、日系企業にはロボットなど現状導入が進んでいる技術もあるが、インダストリー4.0の中心となるIoTについては中長期的には検討しつつも、導入にはさまざまなボトルネックがあることが今回の調査で明らかとなった。アジアの国々は、経済成長が著しく、人件費上昇が急ピッチで進む中、海外での生産現場を改善し、日本と変わらぬ、もしくは日本を上回る生産性を実現することが課題となっている。


注:
本レポートでの「生産性」は、効率性に加えて、付加価値向上や新規ビジネスの創出も含む生産性として聞いている。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
上野 渉(うえの わたる)
2012年、ジェトロ入構。総務課(2012年~2014年)、ジェトロ・ムンバイ事務所(2014年~2015年)、企画部企画課海外地域戦略班(ASEAN)(2015年~2019年)を経て現職。ASEANへの各種政策提言活動、インドネシアにおける日系中小企業支援を行う。

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