特集:現地発!アジア・オセアニア進出日系企業の今-2020日系サービス業の現地市場開拓、各国事情に合わせた仕様・販促ツールを(ASEAN、南西アジア)

2020年2月25日

日本企業にとって、ASEANおよび南西アジア地域は製造拠点であるとともに、所得や人口が成長する消費市場でもある。近年の同地域への日本企業の直接投資動向をみると、おおむね非製造業投資が製造業投資を上回る傾向にある。非製造業(サービス業)に焦点を絞り、ASEANおよび南西アジアの現地市場開拓への取り組みについて、特に競合相手、消費や嗜好(しこう)の傾向といった観点から、ジェトロが実施した「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(以下、ジェトロ調査)の結果を基に解説する。

主な競合相手は日系や地場

今回のジェトロ調査では、アジアに進出する日系サービス業2,158社(注)から回答を得た。製造業と非製造業の比率をみると、非製造業の比率が最も高かったのはミャンマー(80.4%)で、次いでシンガポール(77.0%)、カンボジア(67.3%)が続いた。

サービス業における競合企業の国籍をみると、各国とも「進出日系企業」「地場企業」「中国企業」を挙げる比率が高いことが共通した。それぞれを見ていくと、「進出日系企業」を挙げた比率が最も高かったのはインドネシア(78.3%)、次いでミャンマー(76.6%)、ベトナム(74.1%)が続いた。業種別にみると、運輸業、建設業などの業種の比率が高かった。運輸業と建設業については、地場企業に比べて、進出日系企業を顧客としてターゲットにしている比率が他の業種に比べて高いことから、日本のサービス品質を求める進出日系企業との取引における競争が激しい業種のようだ。

「地場企業」を挙げた比率は、インドネシア(70.8%)、マレーシア(69.6%)、ベトナム(66.0%)の順に高かった。業種では、運輸業の比率が高い国が多かった。運輸業は「進出日系企業」が競合相手という比率も高いが、汎用(はんよう)サービスなどコスト削減が求められる部分において、地場企業と競合しているものとみられる。また、インドとシンガポールにおいては、通信・ソフトウエア業で「地場企業」を競合相手とする比率が高い傾向にあった。両国における地場IT企業、IT技術者の集積が背景にあるといえるだろう。

「中国企業」を挙げた比率が最も高かったのはパキスタン(55.0%)で、次いでカンボジア(43.5%)、スリランカ(38.1%)が続いた。業種別では建設業、卸売・小売業が高い傾向にある。建設業における「中国企業」を競合とする比率は総じて高い傾向にあるが、特に「中国企業」を挙げた上位3カ国は、中国による「一帯一路」政策のインフラ案件が盛んな国でもあり、中国企業のプレゼンスが他国に比べて高い傾向にあるといえる。

バングラデシュ、ベトナムでは、進出日系企業、地場企業に次いで、韓国企業を競合とする比率がそれぞれ21.6%、18.9%と他国に比べて高かった。バングラデシュでは現代建設やGS建設などのインフラ案件における建設業で、ベトナムではサムスン火災保険やハンファ生命といった保険業において、韓国企業が市場を牽引しているようだ。

価格重視、現地カスタマイズ型が主流

続いて、各国の嗜好、価格と品質に対する考え方についての回答結果を見てみる。

まず、進出先の顧客について「日本でも販売している日本国内向け製品・サービス(日本市場型)」と、「現地市場向けに機能やデザインなどをカスタマイズした製品・サービス(現地カスタマイズ型)」のどちらが好まれるかを見ていく(図1参照)。ASEANおよび南西アジア地域の中で最も所得の高いシンガポールが、日本市場型を好む割合が53.1%と最も高く、唯一、過半を超えた。高価格帯の商材であっても購入できる購買力があることに加え、日本に複数回旅行に行ったことがあり、日本で経験した商品やサービスを自国でも楽しみたいという層が多いことが推測される。一方、シンガポール以外の国は「現地カスタマイズ型」が好まれると回答した。特に、ラオスは回答企業のすべてが「現地カスタマイズ型」を選択、インドも7割以上が選択した。こうした国では、日本でも販売されているものだから売れる、ということにはならないため、いかに現地の人々の所得や嗜好などに合わせてカスタマイズができるかが勝負となるだろう。

図1:進出先国の消費者にはどちらがより好まれるか
(「日本市場型」対「現地カスタマイズ型」)
進出先の顧客について「日本でも販売している日本国内向け製品・サービス(日本市場型)」と「現地市場向けに機能やデザインなどをカスタマイズした製品・サービス(現地カスタマイズ型)」のどちらが好まれるかを見ていく。ASEANおよび南西アジア地域の中で最も所得の高いシンガポールが、日本市場型を好む割合が53.1%と最も高く、唯一、過半を超えた。一方、シンガポール以外の国は「現地カスタマイズ型」が好まれると回答した。特にラオスは回答企業のすべてが「現地カスタマイズ型」を選択、インドも7割以上が選択した

注:業種は回答企業数が20以上の分野のみ。
出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

次に、現地の一般消費者が、製品・サービスを選ぶ際、価格と品質をどのように検討しているかという質問に対する回答結果をみてみる(図2参照)。総じて価格を重視する比率が高いものの、シンガポールやマレーシアといった所得の高い国の方が品質を重視する比率がやや高い傾向にある。

図2:現地消費者は価格と品質のバランスをどうみるか(国別、合計が100%)
現地の一般消費者が、製品・サービスを選ぶ際、価格と品質をどのように検討しているかという質問に対する回答結果。総じて価格を重視する比率が高いものの、シンガポールやマレーシアといった所得の高い国では品質を重視する比率が4割程度とやや高い傾向にあるといえる。

注:業種は回答企業数が15以上の分野のみ。
出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

広告宣伝はSNSが基本

現地消費者に対して効果が高い広告宣伝方法については、ASEANおよび南西アジア地域の全対象国において、インターネット普及率や携帯電話/スマートフォン普及率の高まりを背景に、「SNS」が第1位となった(図3参照)。また、同様の理由から「Web・インターネット広告」の効果もASEANを中心に高かった。他方で、口コミの影響力も強い。

全体的にみると、効果の高い広告宣伝方法はインターネットを活用したものが主流ではあるが、特に南西アジア各国では、テレビや新聞・雑誌などのオフラインの広告・宣伝にも一定の効果がある、と評価する企業の比率が高かった。

図3:現地市場で効果が高いと思う広告宣伝方法
(ASEAN・南西アジア平均、上位10項目)
現地消費者に対して効果が高い広告宣伝方法については、ASEANおよび南西アジア地域の全対象国において、インターネット普及率や携帯電話/スマートフォン普及率の高まりを背景に、「SNS」が59.0%で第1位となった。また、同様の理由から「Web・インターネット広告」の効果もASEANを中心に38.6%と高かった。しかし、他方で口コミの影響力も強い(40.1%)

出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

図4:ASEANおよび南西アジアの携帯電話普及率(2017年)
ASEANおよび南西アジアの携帯電話普及率。タイが176.0%、インドネシアが173.8%、シンガポールでは148.2%など高い。

出所:総務省「世界情報通信事情」

各国で最も広告宣伝効果が高かったSNSについて詳しく見てみると、ほとんどの国で「Facebook」が圧倒的だった(表参照)。ASEANおよび南西アジア地域では、Facebookアカウントの作成は基本中の基本といえそうだ。「Facebook」に次いで効果が高いSNSとして「Instagram」が続くが、国によって割合にはばらつきがある。中でも、インドネシア(83.8%)、マレーシア(68.2%)、シンガポール(57.1%)は「Instagram」の効果が高く、特にインドネシアでは「Facebook」の75.7%を上回る。写真が中心となる「Instagram」では、「インスタ映え」が重要になる国といえるだろう。特定のハッシュタグを使った写真コンテストといったプロモーションも効果的だ。

続いて、動画サイトの「YouTube」が上位にあがる。最近では電子商取引(EC)サイトを中心に「シーナウ・バイナウ(See Now, Buy Now)」といった動画を見ながらオンラインで買い物が楽しめるサービスに人気が集まっていることもあり、写真や文字だけでは伝わらない使い方や質感などを伝えることができる点で、動画による広告・宣伝には今後の伸び代がある方法といえる。

国別の特徴として、タイでは「LINE」が55.1%と、「Facebook」に次いで高い。タイでは2016年に、モバイル送金・決済サービスの「LINE Pay」が、公共交通カードのラビットカードと提携したことから、「LINE」の普及が進んでおり、日本のように「LINE」の公式アカウントなどを活用したプロモーションにも効果があるようだ。また、ベトナムでは、2012年にベトナムで開発されたチャットアプリ「Zalo」が47.3%と、「Facebook」に次いで高い。「Zalo」はベトナムの若者を中心に普及しており、写真投稿機能なども充実しており、「LINE」と「Instagram」を融合したような多機能のアプリとして人気のようだ。ショッピング機能も付いていることから、アプリから直接購買につなげる手段として効果が期待できる。

表:現地市場で広告・宣伝効果が高いと思うSNS
地域・国
(有効回答数)
第1位 第2位 第3位 第4位 第5位 第6位
ASEAN
289
Facebook
93.4
Instagram
43.6
YouTube
26.3
LINE
22.8
Twitter
14.2
WhatsApp
11.1
ベトナム
55
Facebook
94.6
ZALO
47.3
Instagram
29.1
YouTube
21.8
LINE
14.6
Twitter
12.7
シンガポール
49
Facebook
95.9
Instagram
57.1
YouTube
32.7
LINE
14.3
LinkedIn
14.3
WhatsApp
12.2
タイ
49
Facebook
93.9
LINE
55.1
Instagram
42.9
YouTube
36.7
Twitter
18.4
LinkedIn
4.1
カンボジア
22
Facebook
100.0
LINE
31.8
Instagram
31.8
YouTube
22.7
Twitter
18.2
WeChat
13.6
インドネシア
37
Instagram
83.8
Facebook
75.7
YouTube
32.4
WhatsApp
32.4
Twitter
29.7
LINE
18.9
マレーシア
22
Facebook
90.9
Instagram
68.2
WhatsApp
36.4
YouTube
31.8
Twitter
22.7
LINE/WeChat
13.6
ミャンマー
39
Facebook
100.0
LINE
10.3
YouTube
10.3
Instagram
7.7
WeChat
5.1
Twitter
2.6
南西アジア
55
Facebook
85.5
Instagram
50.9
YouTube
45.5
WhatsApp
40.0
Twitter
20.0
LinkedIn
16.4
インド
34
Facebook
79.4
Instagram
52.9
YouTube
44.1
WhatsApp
41.2
LinkedIn
14.7
Twitter
14.7
バングラデシュ
11
Facebook
100.0
YouTube
63.6
Instagram
36.4
LINE/Twitter/TikTok/WhatsApp他
9.1

出所:ジェトロ「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

各国特性に応じたカスタマイズを

ASEANおよび南西アジアにおける現地市場は共通点が多い。しかし、細かくみていくと、国ごとの特色もある。共通する基本の部分は押さえつつ、自社がターゲットとする階層に合わせてカスタマイズすることで、より効果が期待できる。そのためにも、当たり前のことではあるが、各国の所得水準、所得層の分布、消費の嗜好、SNSの活用方法、地場企業などの競合相手の事例研究などを行うことが重要だ。


注:
ASEANは1,822社、南西アジアは336社の非製造業が回答した。この中には農林水産業や鉱業に従事する企業22社も含まれているが、本稿では便宜的に「日系サービス業」としている。
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)(2010~2014年)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)(2014~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2017年)を経て、2017年9月より現職。

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