特集:現地発!アジア・オセアニア進出日系企業の今-2020オーストラリア経済の減速に伴い、景況感が悪化

2020年2月25日

ジェトロが2019年8~9月に実施した「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(以下、本調査)によると、2019年における営業利益見込みを黒字とした在オーストラリア日系企業は約80%だったものの、景況感は2018年と比べて大きく悪化した。その背景には、高止まりする人件費に加えて、不安定な為替相場や現地市場での売り上げ減少など、世界経済の不確実性の高まりを反映した要因も見受けられる。調査結果を基に、最新の進出企業動向を報告する。

輸出型を中心に約8割の企業が営業黒字見込み

本調査に回答した在オーストラリア日系企業162社のうち、2019年の営業利益見込みを「黒字」とした企業は全体の79.9%で、2018年度調査(以下、前年調査)の77.4%と比べてわずかに増加した。業種別では、非製造業が78.3%だったのに対し、製造業は86.7%と黒字割合がやや高かった(図参照)。

図:2019年の営業利益見込み(製造業/非製造業)
本調査に回答した在オーストラリア日系企業162社のうち、2019年の営業利益見込みを「黒字」とした企業は全体の79.9%で、2018年調査(以下、前年調査)の77.4%と比べてわずかに増加した。業種別では、非製造業が78.3%だったのに対し、製造業は86.7%と黒字割合がやや高かった。

出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

また、輸出割合50%未満の企業(内販型)と、輸出割合50%以上の企業(輸出型)の黒字割合を比較すると、内販型は77.9%、輸出型は90.2%と、輸出型が12.3ポイント上回った。前年調査と比較すると、内販型の黒字割合が1.9ポイント減少したのに対して、輸出型は6.9ポイント増加した。理由の1つとして、オーストラリア・ドル(豪ドル)安の影響によって輸出企業が恩恵を受けていることが考えられる。

景況感は悪化、オーストラリア経済の停滞感を反映

一方、2019年の景況感を示すDI値(前年と比べて営業利益見込みが「改善」すると回答した企業の割合から「悪化」すると回答した企業の割合を差し引いた数値)は、0.6ポイントとなり、前年調査の27.4ポイントから大きく減少した(表1参照)。

表1:営業利益見込みとDI値(2017~2019年)(単位:ポイント、%)
DI値 改善 横ばい 悪化
2017年 31.1 50.0 31.1 18.9
2018年 27.4 44.5 38.4 17.1
2019年 0.6 32.5 35.6 31.9

出所:ジェトロ「2017~2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

2019年の営業利益見込みが悪化する理由としては、現地市場での売り上げ減少(56.9%)が最も多く、為替変動(25.5%)、人件費の上昇(19.6%)が続いた。他方、改善する理由としては、現地市場での売り上げ増加(63.5%)、生産効率の改善(36.4%)などが挙げられた。2019年は、米中貿易摩擦による世界経済の不確実性の高まりなどによって、実質GDP成長率が約10年ぶりの低水準を記録し、オーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)は3度にわたって政策金利の引き下げを行っている。在オーストラリア日系企業の景況感の悪化は、こうしたオーストラリア経済の停滞感を反映した結果とみることができる。

米中貿易摩擦などの通商環境の変化については、30.8%の企業が「影響がある」と回答しており、内訳をみると、「マイナスの影響がある」と回答した企業が17.5%と最も多く、「プラスとマイナスの影響がある」と回答した企業(11.2%)がそれに続いた。マイナスの影響としては、世界経済の減速によるオーストラリア国内の景況感の悪化や消費の落ち込みによる国内売り上げの減少、豪ドル安による調達・輸入コストの高騰などが多く聞かれた。一方で、輸出企業は豪ドル安によって利益を得ている面もあり、いずれも米中貿易摩擦による間接的な影響を指摘する企業が多かった。

2020年の見通しは「横ばい」が半数

2020年の営業利益見通しは、「改善」が38.8%、「悪化」が10.6%となり、DI値としては28.2ポイントだったものの、「横ばい」と回答した企業が約半数を占めた。改善する理由は、「現地市場での売り上げ増加」(83.9%)が最も多く、悪化する理由は、「人件費の上昇」(35.3%)が最も多かった。また、前年調査と比較して、改善する理由を「輸出拡大による売り上げ増加」と回答した割合(14.5%)は9.8ポイント減少し、悪化する理由を「輸出低迷による売り上げ減少」と回答した割合(23.5%)は12.4ポイント増加したことから、輸出に対する見通しが悪化傾向にあることが懸念される。

今後1~2年の事業展開の方向性については、「拡大する」と答えた割合が42.2%で、前年調査の50.9%から8.7ポイント減少した。一方で、「現状維持」の割合は53.4%となり、前年調査(44.2%)から9.2ポイント増加した。「縮小する」と答えた割合はわずか4.4%で、前年調査(4.9%)から0.5ポイント減少した。製造業における「拡大」の割合は48.4%となり、非製造業(40.8%)よりもやや多かった。また、業種別にみると、食料品(71.4%)、運輸(66.7%)、金融・保険(60.0%)などで「拡大する」と回答した割合が高かった。拡大する理由としては、現地市場での売り上げ増加(82.4%)が最も多く、成長性・潜在力の高さ(27.9%)、高付加価値製品・サービスへの高い受容性(22.1%)などが挙げられた。

オーストラリアでは、113四半期連続で景気後退(2四半期連続のマイナス成長)がない期間の世界最長記録を更新し続けており、移民の流入などによって今後も人口増加が見込まれている。足元の景況感は悪化しているものの、こうしたオーストラリアの潜在的な成長力が評価され、約4割の企業が事業拡大の方向性を示した、と推測される。

人件費の高騰や不安定な為替による影響大

オーストラリアにおける投資環境上のメリットとしては、「安定した政治・社会情勢」(81.9%)と回答する企業が最も多く、「言語・コミュニケーション上の障害の少なさ」(50.0%)、「駐在員の生活環境が優れている」(50.0%)、「市場規模/成長性」(45.6%)が続いた。他方、投資環境上のリスクとしては、2019年の営業利益見込み/2020年の営業利益見通しの悪化する理由としても挙げられているとおり、「人件費の高騰」(76.4%)が最も多かった。また、「不安定な為替」(30.6%)をリスクとして指摘する企業が前年調査(24.4%)から6.2ポイント増加した。

経営上の問題点についても同様に、「従業員の賃金上昇」(55.1%)と回答した企業が最も多かった。そのほかでは、「調達コストの上昇」(51.9%)、「現地通貨の対ドル為替レートの変動」(42.5%)、「現地通貨の対円為替レートの変動」(35.6%)、「主要販売市場の低迷」(35.4%)が上位を占め、いずれも前年調査より大きく増加した(表2参照)。

表2:経営上の問題点(上位10項目、複数回答)(単位:%)
問題点 2019年 2018年
従業員の賃金上昇(86) 55.1 57.7
調達コストの上昇(14) 51.9 46.9
現地通貨の対ドル為替レートの変動(68) 42.5 35.4
競合相手の台頭(コスト面で競合) (65) 40.4 47.0
現地通貨の対円為替レートの変動(57) 35.6 24.2
主要販売市場の低迷(消費低迷)(57) 35.4 26.8
従業員の質(45) 28.9 28.2
主要取引先からの値下げ要請(38) 23.6 23.8
従業員の定着率(36) 23.1 21.5
限界に近づきつつあるコスト削減(6) 22.2 31.3

出所:ジェトロ「2018~2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

2018年におけるオーストラリアの最低賃金は、世界主要国の中で最も高いとされており(2019年7月24日付ビジネス短信参照)、人件費の高騰は最大の懸案事項になっている。また、為替レートについては、例えば対円でみると、2018年11月末時点で1豪ドル=82.98円だったのが、2019年8月末には71.46円を記録した。輸出企業が恩恵を受ける一方、調達・輸入コストが上昇するなど、その影響は大きくなっている。

デジタル技術の活用が進展

現地ビジネスにおいて、デジタル技術を活用している企業の割合は78.5%となり、アジア・オセアニア地域で最も高く、前年調査の69.0%から9.5ポイント増加した。活用されているデジタル技術は、クラウド(54.2%)、デジタルマーケティング(29.9%)、電子商取引(EC)(22.4%)が多く、製造業ではロボット(36.8%)の活用も進んでいる。中長期的に活用が検討されているデジタル技術としては、人工知能(AI)(30.9%)が最も多く、モノのインターネット(IoT)(23.4%)、デジタルマーケティング(18.1%)、ビッグデータ(18.1%)が続いた。オーストラリア統計局(ABS)によれば、2018/2019年度(2018年7月~2019年6月)におけるオーストラリアの労働生産性はマイナス0.2%に落ち込んだという。人件費の高騰や生産性の低下などの理由から、AIやIoT、ロボットなどのデジタル技術導入に対するインセンティブが高まっていることがうかがえる。

また、本調査に回答した在オーストラリア日系企業のうち、現地スタートアップと連携している企業は7社、連携する予定があるとした企業は3社で、その割合は6.9%にとどまった。一方、「今は連携していないが、今後、連携への意思・関心がある」とした企業は35社(24.1%)となった。オーストラリアでは、2015年12月にターンブル首相(当時)が「全国イノベーション・科学アジェンダ」を発表し、連邦政府および各州政府がイノベーションや起業の推進に取り組んでおり、スタートアップの育成支援にも力を入れている。ウェブ上でデザインツールを提供するソフトウエア企業キャンバ(Canva)や、低コスト海外送金サービスを提供するフィンテック企業エアーウォレックス(Airwallex)といったユニコーン企業(評価額10億米ドル以上の未上場企業)も生まれている。今後、在オーストラリア日系企業と現地スタートアップとの連携が進むことを期待したい。

執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所
住 裕美(すみ ひろみ)
2006年経済産業省入省。2019年よりジェトロ・シドニー事務所勤務(出向) 。

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