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特集:現地発!アジア・オセアニア進出日系企業の今-2020DI値が10年ぶりマイナスも、事業拡大意欲は減退せず(パキスタン)

2020年2月25日

ジェトロが2019年8~9月に実施した「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によると、パキスタン進出日系企業は、前回調査(2018年度調査)に引き続き、通貨パキスタン・ルピー安や調達コスト増などの問題に直面していることが明らかになった。現在の厳しいマクロ経済状況にあって、景況感を示す2019年のDI値は10年ぶりのマイナスで、アジア・オセアニア域内で最低となったが、一方で2020年のDI値は12位に回復する見込みだ。当地日系企業は今を正念場と捉え、事業拡大に向けて準備する傾向もみられた。

複数の日本企業の進出案件が進行する

ジェトロの調べでは、パキスタンの進出日系企業数は2020年1月時点で77社になっている。2018年半ばまではパキスタン経済が順調であったため、進出を計画・準備していた日本企業は少なくなかった。

直近1~2年の日本企業の投資事例では、2018年に三菱商事が液化天然ガス(LNG)関連で事業投資会社を2社設立し、スズキの現地法人パック・スズキが自動車向けガラス製造の合弁会社テクノ・オート・グラスを設立した。2019年では、1月に出光興産が自動車向け潤滑油の輸入販売などで現地法人を設立、2月に長瀬産業が駐在員事務所を設立、7月にはニプロが既存事務所を現地法人化し、大同工業も合弁会社の設立を発表した。2020年1月現在、双日が現代自動車の組み立て工場を建設中であり、森永乳業の粉ミルク製造工場が稼働間近であるなど、複数の進出案件が立ち上がっている。

今回の調査では進出日系企業60社を対象にし、40社から回答を得た(回答率66.6%)。回答企業の構成は表のとおり。

表:在パキスタン日系企業の回答企業概要
業種 企業数
製造業 19社
階層レベル2の項目輸送用機器 8社
階層レベル2の項目化学品/石油製品 4社
階層レベル2の項目鉄鋼(鋳鍛造品を含む) 3社
階層レベル2の項目その他製造業 4社
非製造業 21社
階層レベル2の項目卸売り/小売り/商社 10社
階層レベル2の項目建設業 2社
階層レベル2の項目その他サービス業 3社
階層レベル2の項目その他 6社

注:回答企業数:40社(日本の親会社の企業規模:大企業36社、中小企業4社)。
出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

2019年の営業利益見込みの「改善」が大幅に縮小

パキスタン経済は2018年半ばから鈍化しはじめ、その後は悪化する傾向となっている。2018/2019年度(2018年7月~2019年6月)の実質GDP成長率は3.3%で、前年度に比べて2.2ポイント減となった。

パキスタン進出日系企業(有効回答n=32)のうち、2019年の営業利益見込みが「黒字」と回答した企業の割合は68.8%で、前回調査から大きな変化はなかった(図参照)。しかし、2019年の営業利益見込みが前年に比べて「改善」すると回答した企業の割合は、厳しい経済状況を如実に反映して25.0%にとどまり、2017年度調査(62.5%)、2018年度調査(44.1%)からさらに低下した。一方、「悪化」したと回答した企業は43.8%となり、前年(35.3%)から増大した。

景況感を示すDI値は、2019年はマイナス18.8ポイントとなり、前回調査(2018年)から20.0ポイント低下し、調査対象のアジア・オセアニア20カ国・地域の中で最下位だった。ただし、2020年(見通し)のDI値は25.0ポイントと回復が見込まれており、回答企業は現在を「我慢の時」と捉えているものと考えられる。

図:パキスタン進出日系企業の営業利益見込み
パキスタン進出日系企業のうち、2019年の営業利益見込みが「黒字」と回答した企業の割合は68.8%。2019年の営業利益見込みが前年に比べて「改善」すると回答した企業の割合は25.0%にとどまり、2017年度調査(62.5%)、2018年度調査(44.1%)からさらに低下した。一方、「悪化」したと回答した企業は43.8%となり、前年(35.3%)から増大した。景況感を示すDI値は、2019年はマイナス18.8ポイントとなり、前回調査(2018年)から20.0ポイント低下した。ただし、2020年(見通し)のDI値は25.0ポイントと回復が見込まれている。

注1:2020年は、2019年8~9月時点での見通し。
注2:DI値は、営業利益見込みが前年に比べて「改善」した企業の割合から「悪化」した企業の割合を差し引いた値。
出所:ジェトロ「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

通貨ルピー安が最大の経営課題に

パキスタン経済および当地日系企業が直面する最大の課題は、2017年半ばあたりから進行する通貨安だ。経営上の問題点を聞いたところ、「現地通貨の対ドル為替レートの変動」が82.1%と最も回答割合が大きかった。パキスタン・ルピーの対ドル為替レートは、2017年12月初時点では1ドル=105.5ルピーだったが、2018年12月初では1ドル=137.6ルピー、2019年12月初では1ドル=155.3ルピーまで下落している。

2番目に大きな経営課題は、「調達コストの上昇」で76.5%に上った。通貨安による輸入部材コストの上昇により、日系企業においては販売価格の引き上げを実施しており、これが販売減につながっている。また、石油などのエネルギーの輸入価格も上昇しており、光熱費や燃料費が増大している。

アジア・オセアニア地域で最大の経営課題となっている「従業員の賃金上昇」(全体平均:65.8%)については、パキスタンでは41.0%とラオスや台湾に次いで低かった。しかし、2019年度の前年度比昇給率をみると、製造業(10.6%)、非製造業(10.8%)とも調査対象国・地域の中で唯一10%を上回っており、最も賃金上昇が激しいという結果になっている。パキスタンは、エネルギー資源などの輸入拡大に伴って大幅な貿易赤字を抱えており、通貨安とインフレが進行している。2018年12月に5.4%であったインフレ率は、2019年12月には12.6%まで上昇しており、従業員の生活に影響を与えている。こうした状況下、一定の昇給がなければ生活が立ち行かなくなるため、パキスタンの高い昇給率は、現在雇用している従業員の離職を防止する意図も働いているものとみられる。

厳しい経済情勢にあっても事業拡大意欲はほぼ横ばい

今回の調査で目を引くのは、厳しい経済情勢にありながらも、回答企業の事業拡大意欲はほぼ横ばいを示したことだ。今後1~2年の事業展開の方向性を聞いた質問では、前回調査では66.7%の企業が「拡大」すると回答していた。今回の調査では62.5%(n=25)と調査対象国・地域の中で第4位となっており、事業拡大意欲の顕著な減少はみられなかった。「縮小」すると回答した企業はわずか2.5%にとどまっており、「移転・撤退」は0%だった。このことからも、回答企業は現在を耐え忍ぶ時期と捉えていると考えられ、縮小や撤退する意向はみられなかった。今後の事業拡大への準備として、現地従業員数は過去1年の変化では「増加」と回答した企業の割合は33.3%であったところ、今後1年の予定で「増加」と回答した企業の割合は44.7%となっている。

経済指標では分からないパキスタン市場の魅力

パキスタンの最大の魅力は、2億人を超える人口とその潜在性だ。「投資環境上のメリット」を聞いた設問では「市場規模/成長性」が79.0%となり、「人件費の安さ」(47.4%)など他の回答項目を抑えて圧倒的に高かった。パキスタン進出日系企業は以前からパキスタンの潜在性を評価しているが、マクロ経済環境の指標が悪化する中で、同国経済の実態を適切に把握する必要性はさらに高まっている。

パキスタンは、名目GDPや同国経済を牽引する個人消費、その主たる収入源である郷里送金などのように、捕捉しているデータが限定される政府発表統計・指標ではパキスタン経済の実態を読み取り難いのが実情だ(世界貿易投資報告を参照PDFファイル(733KB) )同国経済・市場を的確に評価するためには、マクロ経済指標、治安情勢、カントリーリスクなどに限らず、一見したところの事象の裏側にある「実態」を捉えることが何にも増して重要だ。今回の調査においても、厳しい経済情勢を反映した回答結果がある一方、予想に反して事業拡大意欲は衰えておらず、経済環境の悪化が与える日系企業への影響は一時的とも捉え得る。

執筆者紹介
ジェトロ・カラチ事務所長(執筆時)
久木 治(ひさき おさむ)
2005年、ジェトロ入構。大阪本部、ジェトロ・バンガロール事務所、ジェトロ・チェンナイ事務所、生活文化・サービス産業部、ジェトロ・カラチ事務所長を経て、2020年2月からジェトロ滋賀所長。

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