特集:現地発!アジア・オセアニア進出日系企業の今-2020投資環境に課題山積も、進出日系企業は事業拡大の傾向(バングラデシュ)
2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査

2020年2月25日

ジェトロが2019年11月に発表した「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(以下、日系企業調査)によると、在バングラデシュ日系企業の約7割が「今後ビジネスを拡大する」と回答した。これは調査対象の20カ国・地域の中で最も高い割合であり、バングラデシュの将来性に対する期待がうかがえる結果となった。また、足元の景況感を示すDI値(注)は2019年が18.4ポイント(調査対象国・地域中4位)、2020年が36.7ポイント(同5位)と見通しも明るい。他方、原材料の現地調達の難しさ、時間を要する通関、物流インフラの未整備など、投資環境には依然として解決に時間を要する中長期的な課題があり、進出時にはそれらを事前に把握しておく必要がある。

ODA関連やITなどを中心に企業展開進む

バングラデシュに進出している日系企業は、2019年12月末時点で310社ある(ジェトロ・ダッカ事務所調査)。円借款などのODAによるインフラ案件に関連した進出が活発だが、内需を狙う日系企業の取り組みも本格化しつつある(2019年12月3日付ビジネス短信参照)。近年はIT分野でも注目を集めており、日系IT企業の視察も相次いでいる。バングラデシュには英語を話せるITエンジニアが多く、欧米から直接、オフショア開発などの業務を受注できることが強みとなっている(2019年11月12日付ビジネス短信参照)。さらに、親日的な国民性ゆえ、日本での就労意欲や日本語学習意欲のあるITエンジニアが多いことも、日系企業にとってメリットといえる。

成長性・潜在力の高さ見越し、高い事業拡大意欲

日系企業調査では、在バングラデシュ日系企業64社から回答を得た(有効回答率39%)。2019年の営業利益見通しについて、輸出比率50%未満の内販型企業の「黒字」との回答は35.0%と、調査対象の20カ国・地域でバングラデシュが最も低かった(アジア・オセアニア全体、以下全体 65.4%)。また、45%が「赤字」と回答しており、進出間もない企業が多いこともあるが、内販事業の厳しさが浮き彫りとなった。一方、輸出比率50%以上の輸出型の企業は50%が「黒字」と回答し、全体66.3%は下回ったものの、バングラデシュと同じく縫製業が多いカンボジアやラオス、ミャンマーに比べて、「黒字」と回答した比率が同程度か高い数値を示した(図1参照)。内販型・輸出型を合わせたバングラデシュ進出企業の2020年の営業利益見通しについては、51.0%が「改善する」(全体42.1%)としている。

こうした中、今後1~2年の事業展開の方向性について、「拡大する」と回答した進出企業の比率は70.3%(全体48.9%)で、調査対象国・地域中で最も高かった(図2参照)。「事業の拡大」の主な理由としては、「成長性・潜在力の高さ」(60%)、「現地市場での売り上げ増加」(46.7%)、「輸出拡大による売り上げ増加」(37.8%)などが挙げられた。

図1:輸出比率50%未満の企業(内販型)、
50%以上の企業(輸出型)の営業利益(見込み)(国・地域別)

(内販型) バングラデシュの内販型企業の2019年営業利益見込みは黒字が35%で、調査対象国・地域中で最下位となった。
(輸出型) バングラデシュの輸出型企業の黒字化率は50%で、平均の66.3%よりは低いがラオス、ミャンマーなどを上回った。

出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

図2:今後1~2年の事業展開の方向性 (国・地域別)
 バングラデシュ進出企業の「今後1~2年の事業展開の方向性」は、 「拡大」が70.3%で調査対象国・地域中で最も高い割合となった。

出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

地場企業、富裕層の取り込みへ

「潜在力の高さ」や「現地市場での売り上げ増加」に関連し、企業向け現地市場開拓(BtoB)の取り組みに際し、将来のターゲットを「地場企業」と答えた企業は75%(全体74.5%)、消費者向けの現地市場開拓(BtoC)の将来のターゲットを「富裕層」と答えた企業の割合は66.7%(全体62.6%)といずれも高く、同じ南西アジア地域のインド(現地企業向け72.5%、富裕層向け64.9%、以下同様)や、新興国として注目されるベトナム(67.8%、62.4%)、カンボジア(48.3%、64.5%)、ミャンマー(68.3%、70.8%)に比べても高い回答率となっており、地場の企業や富裕層の取り込みを狙う進出日系企業が多いといえる(図3参照)。

図3:現地市場開拓においてターゲットとする層
(複数回答、国・地域別)(単位:%)

(地場企業向け) バングラデシュ進出企業は、今後の現地市場開拓において、BtoBでは地場企業をターゲットとするとの回答が75%と高かった。
(富裕層向け) バングラデシュ進出企業は、今後の現地市場開拓において、BtoCは富裕層をターゲットとするとの回答が高く、66.7%となった。

出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

また、原材料・部品の現地調達に関する今後の方針では、調査国・地域中で最も高い68.4%が「拡大」と回答した(全体48.2%)ことから、製造業の企業にとって、現地調達拡大への期待が高いこともわかった。

ビジネス拡大への意欲は、人員態勢の点からもうかがえる。今後1年で「現地従業員を増やす」と回答した企業は50.8%(全体37.6%)に上った。今後1~2年で事業を「拡大」する理由として、「労働力確保の容易さ」(20%)と回答した割合は調査国・地域中トップで(インド:2.6%、ミャンマー:6.5%)、特に縫製業などの労働集約型企業にとって、メリットは大きいと考えられる。

現地調達に課題

他方、進出日系企業の抱える経営上の問題も多い。課題として最も回答率が高かったのは「原材料・部品の現地調達の難しさ」の70.8%(前年度:56.0%)だった。今後、現地調達拡大の意向を示す企業は多かったものの、現状は製造業の裾野産業が十分育っておらず、輸入に頼らざるを得ない状況だといえる。また、「労働力確保の容易さ」の一方で、61.9%が「従業員の質」を課題としている(表参照)。

表:国・地域別の問題点(上位5項目、複数回答)(単位:%)
項目 2019年度 2018年度
1.原材料・部品の現地調達の難しさ(17)(**) 70.8 56.0
2.通関に時間を要する(32)(*) 66.7 60.0
3.電力不足・停電(16)(*)(**) 66.7 52.0
4.物流インフラの未整備(15)(*) 62.5 56.0
5.従業員の質(39) 61.9 62.5

注1:「特に問題ない」を除く、回答率上位5項目。「(*)」は、全調査対象地域総数の「経営上の問題点」上位10項目に入っていない項目。
注2:「(**)」は、2019年度に前年度から10ポイント以上増加。
出所:ジェトロ「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」2018年度、2019年度

従業員の賃金に関し、製造業の作業員の基本給月額(諸手当を除いた給与)は104ドルと、前年度同様に調査対象中で最も安価だった。製造業のエンジニア(同376ドル)、マネジャー(同787ドル)も他国に比して競争力がある。一方、2019年度の前年比昇給率が7.4%(調査対象中6位)、2020年度の予測が7.3%(調査対象中4位)と、毎年の賃金上昇が進んでおり、今後一層、進出日系企業にとって事業運営上の障壁となる恐れがある。特に、輸出加工区(EPZ)進出企業の従業員の賃金および上昇率はEPZ外の企業と比較して高く、課題とされている。

インフラや運用上の問題も

加えて、長年にわたってビジネスの阻害要因となっている輸入通関手続きが過去2~3年で改善したかとの設問では、「変化なし」と「やや悪化・悪化」の回答が約7割で、貨物到着から輸入通関手続き完了までの平均日数は、海上貨物が14.3日、航空貨物が8.1日だった。調査対象国・地域全体における平均は、海上輸送が4.5日、航空輸送が2.4日となっており、バングラデシュの平均日数は調査対象中で最下位と、圧倒的に後れを取っている状況だ。物流面の改善には時間を要するものの、現在、マタバリ深海港の開発事業(2019年2月13日付ビジネス短信参照)と、ダッカ国際空港(ハズラット・シャージャラール国際空港)第3ターミナルの拡張事業は、国際協力機構(JICA)の円借款事業による開発が始まっており、物流改善への期待は大きい。ただし、貿易円滑化措置として、貿易制度や手続きに関する情報の充実、税関や通関担当者によって関税分類評価などについての判断が異なる状況の防止、税関書類の簡素化・統一化・電子化などが必要と回答する比率が他地域に比べて高く、インフラ以外に運営面の改善も不可欠だ。

日系企業のビジネス拡大意欲の高いバングラデシュだが、投資環境には課題も多い。インフラ開発は中期的に改善の兆しがあるが、法制度上の課題は解決に向けた取り組みが必須であり、日本・バングラデシュ官民合同経済対話などでも継続議論されている。2021年には独立50周年、2022年には日本との国交樹立50周年と、節目の年が続くバングラデシュの今後のビジネス環境の改善に注目したい。


注1:
Diffusion Indexの略。営業利益が前年比で「改善」すると回答した企業の割合から「悪化」するとした企業の割合を差し引いた数値。景況感がどのように変化していくかを数値で示す指標。
執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所 所長
安藤 裕二(あんどう ゆうじ)
2008年、ジェトロ入構。アジア経済研究所研究企画部、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、生活文化・サービス産業部、ジェトロ浜松などを経て、2019年3月から現職。著書に「知られざる工業国バングラデシュ」。
執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所
山田 和則(やまだ かずのり)
2011年、ジェトロ入構。総務部広報課(2011~14年)、ジェトロ岐阜(2014~16年)、サービス産業部サービス産業課(2016~19年)、お客様サポート部海外展開支援課を経て、2019年9月から現職。

この特集の記事