経済安保中心の通商協定
米国が挑む新たな国際通商システム(3)

2026年2月6日

トランプ政権2期目で発表された「国家安全保障戦略(NSS)」では、米国の過去の戦略を、グローバリズムと自由貿易に「極めて誤った破壊的な賭け」を行った結果、「米国の経済的・軍事的優位性の基盤である中産階級と産業基盤が空洞化した」と非難した。ドナルド・トランプ大統領のほか、ジェミソン・グリア通商代表部(USTR)代表などは、現在のWTOを基軸とした自由貿易体制の改革の必要性を繰り返し訴えている。その背景には、WTOは非市場経済がもたらす課題に対応できていない、といった経済安全保障上の理由がある。第2次トランプ政権発足から1年間の経済安全保障政策を基に、米国が目指す新たな国際通商システムの方向性を読み解く。

国家安全保障の基盤としての経済安全保障

トランプ政権の経済安全保障政策を読み解く上で参考になる1つの資料が、NSSだ。NSSでは経済安全保障を国家安全保障の基盤と位置付け、その上で重要となる6つの具体的分野を示した(注1)。筆頭には「均衡ある貿易」を挙げ、トランプ氏が繰り返し主張している貿易赤字削減の必要性を指摘し、公平かつ相互的な通商協定締結を目指すと記載した。また「重要なサプライチェーンと資源へのアクセス確保」では、自国を守るために必要な物資を、独立かつ確実に確保するとして、経済的威圧に対抗しながら重要鉱物などを入手する機会を拡大する、と記載した。続く「再工業化」では、工業生産の米国内回帰の重要性を説き、関税の戦略的活用と新技術を通じて未来を形作る重要・新興技術分野への投資を促進する方針を示した(表1参照)。

表1:NSSに記載された経済安全保障の内容
項目 主な内容
均衡な貿易 貿易関係の均衡化、貿易赤字の削減、輸出障壁への対抗、ダンピングの終結を優先。公平かつ相互的な通商協定締結を目指す。その際の優先事項は、自国の労働者・産業・国家安全保障。
重要なサプライチェーンと資源へのアクセス確保 国防や経済に必要な中核的な部品を外部勢力に依存してはならない。自国を守るために必要な物資を、独立して確実に確保する。そのためには、略奪的な経済慣行に対抗しながら、重要鉱物などを入手する機会を拡大。インテリジェンス機関は、米国の安全と繁栄に対する脆弱(ぜいじゃく)性や脅威を理解し、世界中の主要なサプライチェーンや技術の進歩を監視。
再工業化 工業生産を「国内回帰」させ、未来を形作る重要・新興技術分野に焦点を当て経済と労働力への投資を促進。関税の戦略的活用と新技術を通じて実現。米国労働者の生活水準を向上させ、重要製品・部品において敵対勢力に依存しない国家基盤を確立。
防衛産業基盤の再生 強固で有能な防衛産業基盤なくして、強い軍隊は存在し得ない。低コストで強力な防衛手段を革新、高性能システムや弾薬を大規模に生産し、防衛産業のサプライチェーンを国内回帰させる。大半の敵を撃破可能な低コスト兵器(ドローンなど)から、高度な敵との紛争に必要な最高性能のハイエンドシステムに至るまで、あらゆる能力を提供しなければならない。トランプ大統領の「強さによる平和」というビジョン実現のため迅速に行う必要がある。集団防衛を強化するため、全ての同盟国の産業基盤の活性化を促進。
エネルギー優位性 米国のエネルギー優位性(石油、ガス、石炭、原子力)の回復と、主要エネルギー部品の国内回帰は最優先の戦略的課題。安価で豊富なエネルギーは米国に高賃金の雇用を生み出し、再工業化を促進し、AIなどの先端技術における優位性の維持に寄与。純エネルギー輸出の拡大は、同盟国との関係深化と敵対勢力の影響力抑制、沿岸防衛能力の保護、戦力投射を可能にする。「気候変動」および「ネット・ゼロ」イデオロギーを拒否。
米国金融セクターの優位性の維持・拡大 世界をリードする金融・資本市場は、政策立案者に安全保障上の優先事項を推進するための重要な影響力と手段を提供する米国によるレバレッジ力の柱。優位性を維持・拡大するには、ダイナミックな自由市場システムとデジタル金融・イノベーション分野におけるリーダーシップを活用し、世界が羨む存在であり続けなければならない。

出所:国家安全保障戦略(NSS)

NSSではまた、「米国の国力は、平時・戦時を問わず、生産需要を満たす強力な産業部門に依存している」として、産業育成を経済政策の最優先課題に位置付け、特に人工知能(AI)、バイオテクノロジー、量子コンピューティングで世界を牽引することが「米国の核心的かつ重大な国益」「最優先で注力すべき利益」とも記載した。AIなどを中心とした先端技術における研究開発を主導することの重要性は、各所でたびたびうたわれている。

このNSSで示された経済安全保障政策の方針を踏まえ、トランプ政権2期目発足以降の具体的な取り組みを見ると、(1)「経済安全保障に関する二国間合意」、(2)「重要鉱物供給協力に関する合意」、(3)「先端技術の開発促進」という3点を挙げることができる。

(1)通商協定に組み込まれた経済安全保障条項

「経済安全保障に関する二国間合意」は、マレーシアなどとの通商合意に含まれている(注2)。トランプ政権は、全世界からの全ての品目に原則として追加関税を課す相互関税を2025年4月に発表して以降、各国・地域と個別に通商交渉を行った。首都ワシントンの識者は、これがトランプ政権発足以降初めての他国と合意した経済安全保障に関する条項であることから、同政権が他国に求める要件を知る上で指標になると指摘している(注3)

各国との合意における経済安全保障に関する条項の内容は、ほぼ同じだ。例えば、米国が安全保障上の理由で特定国からの輸入に関税を課した場合などに、米国と同様の措置を取るよう求めている。また輸出管理では、米国が独自に導入する「一方的措置」と整合的な措置の導入を求めるほか、対内投資では対米外国投資委員会(CFIUS)のような審査メカニズムの創設を要請している。併せて、こうした経済安全保障上の協力を行う場合には、米国の輸出管理・投資判断で優遇することも定めた(表2参照)。この方針は、NSSで示された「米国と輸出管理を整合させる国々を経済上有利に扱う、対象を絞ったパートナーシップ」と一致する。

表2:米国・マレーシアの相互貿易合意「第5節 経済および国家安全保障」の概要
条項 内容
第5条1項:
補完的措置
  1. 米国が安保上の理由で物品またはサービスに関税、割当、禁止、手数料、課徴金そのほかの輸入制限を課した場合、マレーシアは米国が採用した措置と同等の制限効果を有する措置を取る。
  2. マレーシアは、自国内の第三国企業が以下の不公正な慣行を行う場合、対処する。
    (a)米国への市場価格を下回る商品の輸出、(b)当該商品の米国への輸出増加、(c)マレーシアへの米国輸出の減少、(d)第三国市場への米国輸出の減少。
  3. マレーシアは、市場経済国による造船産業を促進するために米国が採用したのと同等の制限効果を有する類似の措置を取る。
第5条2項:
輸出管理、制裁、投資の安全保障および関連事項
  1. マレーシアは、既存の多国間輸出管理体制を通じて機微技術および物品の取引を規制し、米国が実施する全ての一方的輸出管理と整合性を図る。
  2. マレーシアは、米国のエンティティリスト(EL)、SDNリストに掲載された事業体との取引を制限する。
  3. マレーシアは、重要鉱物および重要インフラなど国家安全保障上のリスクについて対内投資審査メカニズムの創設を検討する。
  4. 米国はマレーシアが国家・経済安全保障課題への対応に協力していると判断した場合、輸出管理、投資審査その他の措置に関して優遇する。
第5条3項:その他の措置
  1. 米国はマレーシアと協力し、防衛貿易の効率化および強化を図る。
  2. マレーシアは、米国が課す関税の迂回に対抗する措置をとる。
  3. マレーシアが米国の本質的利益を損なう国と新たなFTAなどを締結した場合、米国は本協定を終了させ、相互関税率を課すことができる。
  4. マレーシアは、同等の条件で代替供給元が存在しない場合を除き、特定の国から原子炉、燃料棒、濃縮ウランを購入しない。

出所:米国・マレーシア相互貿易協定

米国が相手国と規制の協調を図ろうとしている輸出管理は、経済安全保障上重要なツールだ。バイデン前政権下では、経済安全保障政策の中心に据えられ(注4)、トランプ政権もその重要性を認識している(注5)。だが、輸出管理の運営方針は前政権と必ずしも同じではない。トランプ政権下で発表された米国第一の通商政策では、輸出管理について「米国の先端技術が敵対国に流出しないことを確かにする必要がある」としつつも、「簡素で、厳格で、効果的なものにするべき」として、過度な規制には反対する姿勢をみせた(注6)。この視点を基に、トランプ政権の1年間の輸出管理規則(EAR)の変遷を振り返ると、規則そのものを強化していくバイデン前政権とは異なり、個別企業の特定の製品や技術に対して輸出管理を強化している傾向を指摘できる(表3参照)(注7)。ただし、特定の条件下では輸出管理の要件を緩和するなど、「ディール」も重視している点には留意が必要だ。例えば、トランプ氏は1962年通商拡大法232条に基づき、エヌビディア製半導体「H200」などが含まれる特定の先端半導体に25%の追加関税を課す代わりに、これら半導体を中国へ輸出する際の規則を緩和した(注8)

表3:輸出管理関連措置の変遷
年月 措置内容 強化/
緩和
分野
2025年3月 中国、イラン、パキスタン、南アフリカ共和国、UAEの70事業体をELに追加。 強化 AI、AI半導体、量子等 
4月 エヌビディアおよびAMDの半導体に、米商務省産業安全保障局(BIS)のライセンス要件追加 。 強化 AI半導体
5月 AI拡散規則の撤回 。 緩和 AI半導体
5月 ファーウェイ製AI半導体の輸出管理違反リスクに関する注意喚起などガイダンス3本公表。 強化? AI半導体
5月 中国の航空機メーカー向け航空機部品、および半導体EDA(電子設計自動化)大手3社のソフトウエアの輸出許可停止 。 強化 航空機部品、半導体関連ソフトウエア
5~6月 米石油ガス輸送大手の石油化学原料のエタンおよびブタンにライセンス要件追加。 強化 エタン・ブタン
(後日ブタンは対象から除外) 
8月 エヌビディアおよびAMDの対中半導体輸出ライセンス取得条件として、販売収益の15%を米政府に納付することで合意。 緩和 AI半導体
9月 インテル、サムスン電子、SKハイニックスの中国拠点向けの半導体製造装置・関連技術の輸出管理。 強化 半導体製造装置
9月 EL掲載事業体が50%以上所有する事業体を輸出管理の適用対象に拡大(関連事業体ルール)。 強化
11月 関連事業体ルールの1年間の停止を決定。 緩和
11月 サウジアラビア、UAEの企業に対してエヌビディアのAI半導体のライセンス発行。 緩和 AI半導体
2026年1月 エヌビディア製半導体「H200」やAMD製半導体「MI325X」など特定の米国製半導体の中国・マカオへの輸出管理を緩和。 緩和 AI半導体

出所:米政府発表資料、メディア報道などから作成

(2)同盟国・有志国間での多様化図る重要鉱物サプライチェーン

「重要鉱物供給協力に関する合意」のうち、内容が確認できるものはマレーシア、タイ、オーストラリア、日本などとの合意がある(注9)。マレーシアとタイとの合意はほぼ同じ内容で、米国企業による採掘関連投資の優先や技術共有を通じた能力向上などを定めた。日本とオーストラリアの合意ではそれぞれ、重要鉱物の安定供給に向けた補助金拠出のための具体的なプロジェクト選定のほか、第三国での協力も念頭においた財政支援や投資促進などを定めた。共通するのは、非市場経済的政策への対抗措置における連携だ(表4参照)。

米国のサプライチェーン上のボトルネックは、希土類(レアアース)などの重要鉱物の高い海外依存度にある。特に、最大の競争相手国である中国にレアアースの大部分を依存していることから、これらサプライチェーンの多様化は喫緊の課題となっている(注10)。従って、トランプ政権による重要鉱物に関する合意は、同盟国・同志国と協力して中国に依存しないサプライチェーンを構築することが目的となっている(注11)

表4:重要鉱物供給協定に関する合意
項目 内容
マレーシア・タイとの重要鉱物協定の概要
(2025/10/26)
  • 目的
    a.重要鉱物の探査、採掘、加工・精製、製造、リサイクル・回収における貿易・投資の促進。
    b.重要鉱物・希土類のサプライチェーンの安全保障と繁栄。
  • 協力分野/方法
    ベストプラクティス、知識、専門知識の共有。
    米国からの投資を優先。
    許認可手続きの効率化措置などの適切な規制慣行。
    重要鉱物ツールおよび希土類資産売却に関する審査強化。
    最低価格の設定など非市場的政策や不公正な貿易慣行から自国の重要鉱物・希土類市場を保護するための連携。
オーストラリア・日本との重要鉱物協定の概要
(2025/10/20, 27)
  • 供給の確保:財政支援、適切な貿易措置、重要鉱物備蓄制度などを活用。
  • 採掘・加工への投資:補助金、融資、出資などを通じて政府・民間の支援を動員。
    a.プロジェクト選定:永久磁石、電池、触媒、光学材料など派生製品を含むサプライチェーンのギャップ解消に向けたプロジェクトを共同で特定。
    b.資金調達:発効後6カ月以内に、選定プロジェクトに対し財政支援措置。
    c.投資支援:民間資本を動員しサプライチェーン強化メカニズムを共同開発。
    d.閣僚級会合:協定発効後180日以内に閣僚級会合を開催し、優先事項を特定することで鉱業投資を促進。
    e.許可手続き:許可手続きの期間およびプロセスを加速化、合理化、規制緩和。
  • 公正な競争:非市場的政策や不公正な貿易慣行に対処。責任ある採掘・加工・取引の下、高水準市場を確立。
  • 売却:売却を審査・抑止する新たな権限の創設、既存の権限・外交手段の強化に向け協力。
  • スクラップ:リサイクル技術への投資とスクラップ管理確保に向けた協力。
  • 第三国:他の国際パートナーと協力。
  • 地質調査:鉱物資源調査の支援で協力。
  • 迅速対応:鉱物の供給加速に向けた調整計画を策定。
  • 備蓄:相互補完的な備蓄体制の構築を共同で検討。

出所:各国との協定内容から作成

(3)米国主導の先端技術エコシステムの創出

先端技術開発におけるトランプ政権2期目の実績を見ると、米国内での産業育成と、主要先進国と協力した米国主導のエコシステムの輸出促進を指摘できる。トランプ氏は2024年の大統領選挙期間中から大型の補助金支出には否定的だったが、AI、半導体、重要鉱物などに対しては、バイデン前政権下で成立したCHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)に基づき助成を継続している。トランプ政権2期目発足以降、少なくとも5件(注12)、助成対象となる案件を発表している(表5参照)。

表5:CHIPSプラス法に基づく助成対象案件の公募・発表
概要 日付 内容
半導体などの研究開発プロジェクト公募 2025/9/24 米国のマイクロエレクトロニクス技術を前進させる先端半導体やAI、量子技術などの研究開発プロジェクトを公募。申請するプロジェクトの予算規模は、最低で1,000万ドル。
磁石製造企業へ助成 2025/11/3 レアアース磁石(ネオジム磁石)製造企業のバルカン・エレメンツに、5,000万ドルを拠出。同社のNdFeB磁石の生産設備の購入に充てられる。NdFeB磁石は、半導体製造やロボット、産業用モーター、EV、ドローン、戦闘機、原子力潜水艦、衛星などに使われる。さらに国防総省(戦争省)が、重要鉱物サプライチェーン強化を目的に、同社とリエレメント・テクノロジーズに7億ドルを条件付きで融資。
極端紫外線(EUV)光源開発スタートアップへ助成 2025/12/4 エックスライトに対し最大1億5,000万ドルを助成。同社が開発する光源は、粒子加速器を利用した自由電子レーザー方式のEUV光源で、オランダの半導体製造装置大手ASMLのEUV露光装置に外付け可能な次世代の光源として注目されている。
先進製錬所および重要鉱物処理施設の建設に助成 2025/12/15 テネシー州の韓国企業子会社クルーシブル・メタルズに2億1,000万ドルを交付。新施設では、半導体やAI、量子コンピューティング、航空宇宙・防衛、自動車などの産業に不可欠な13種類の重要・戦略的鉱物および半導体グレードの硫酸などを年間54万トン生産予定。戦争省も14億ドルを条件付きで融資。
レアアース採掘・製造強化に助成 2026/1/26 レアアースなどの重要鉱物の採掘から、レアアース金属への転換、永久磁石製造原料の鋳造までを一貫して行うUSAレアアースに対し、最大2億7,700万ドルの助成と最大13億ドルの優先担保付融資を提供。

出所:米国商務省国立標準技術研究所(NIST)

対外的には、NSSに記載のとおり、AIを中心に置きつつバイオテクノロジーや量子コンピューティングにおける開発協力において先進国と合意している(注13)。特にAIについては、同盟国と協力しながら標準・規格の策定を目指し、それを輸出することで、米国主導のエコシステムを創出しようとする意図が伺える。なお、先端技術保護の観点からは、これらの技術が敵対国にわたらないようにする取り組みも重要となる。各国との合意では、敵対国を意識し、技術保護のための規制の強化を求める内容が含まれている(表6参照)。

表6:先端技術開発に関する合意
項目 内容
英国(2025/9/18)
  • 強力な AI インフラの構築、研究コミュニティーのコンピューティングへのアクセス促進、新しい科学データセットの作成支援、計測および評価における専門知識の活用を通じて緊密に協力。
  • AI イノベーションの加速。
  • AIモデルのための計測学および標準開発におけるベストプラクティスの確立。
  • 将来の労働力を育成し、サプライチェーン全体でAIの機会を享受。
  • 安全なAIインフラ構築とAIハードウェア革新支援における協力機会の探求。
  • 半導体、データセンター、モデルのフルスタック提供のためAI輸出を促進。
  • 民生用原子力エネルギー、量子優位性の確保、6G開発などでも協力。
日本(2025/10/28)
  • イノベーション促進型のAI政策枠組み推進、AIスタックの輸出促進、重要・新興技術保護措置の厳格な実施、標準に関する共同作業推進で協力。
  • 高性能計算、最先端半導体技術、量子コンピューティングの協力深化。
  • AI技術エコシステム導入を支援。
  • AIインフラ、ハードウェア、モデル、ソフトウエア、アプリケーション、関連規格の輸出促進。
  • 既存保護措置の厳格な執行、重要・機微技術の保護措置強化、AI技術スタックのサプライチェーン強靱(きょうじん)性向上での連携。
  • AI開発・導入ガイドライン・枠組みの相互理解促進。
  • そのほか、5G、医薬・バイオテックサプライチェーン、量子技術、核燃料、宇宙などでも協力。
韓国(2025/10/29)
  • イノベーション促進型のAI政策枠組み構築、AIスタック輸出促進、AI対応データセット開発、技術保護措置の執行強化、標準に関する共同作業推進で協力。
  • イノベーション促進型AI政策枠組みの推進およびAI技術導入支援。
  • AIハードウェア、モデル、ソフトウエア、アプリケーション、関連規格のAI輸出促進に向けた連携。
  • アジアなどでのAI輸出協力、地域における共通AIエコシステム採用の推進。
  • 既存のAI保護措置の執行強化、重要・新興技術向け保護措置の整合性の協議。
  • 相互のガイドライン・枠組みに対する理解促進を通じた相互運用性の促進。
  • そのほか、5G、医薬・バイオテックサプライチェーン、量子技術、核燃料、宇宙などでも協力。

出所:米政府が発表した各国との合意内容を基に作成

経済安全保障を中心に据えた通商システムの行方

これら本稿で取り上げた内容をまとめると、トランプ政権が進める経済安全保障の方針は次のように整理できる。まず米国内では、AI、半導体、重要鉱物など、政権が重視する分野には補助金を支出し、米国内での研究開発強化や産業育成を図る。この土台の下で、同盟国・有志国との二国間通商合意に経済安全保障条項を組み込み、輸出管理などの規則を整合させ、敵対国への技術流出を防ぎながら、AIなどの先進技術において米国主導の国際的なエコシステムを創出する。同時に、同盟国らとの間で重要鉱物の調達先を多様化し、サプライチェーンの強靭化を図る。なお、これら各種の合意内容は、米国との関係性が近い国ほどより米国の規制と調和した内容になる(注14)。こうした方針は、国務省が「2026~2030年度の戦略計画」で示した「親米諸国による経済ブロックを形成し、これら友好国と新たな経済安全保障を確立する」方針とも整合する(図1参照)(注15)

図1:米国の経済安保政策・通商協定のイメージ
米国内では、AI、半導体、重要鉱物など、限定的ながら補助金を支出する。米国と関係の近い同盟国などとは、第3国での連携を踏まえた、経済安保や非市場経済国への対抗措置で協力。先端技術の輸出促進で連携。米国の輸出管理や投資審査で優遇。有志国とは、経済安保や非市場経済国への対抗措置で協力。経済安保でのキャパビル支援。米国の輸出管理・投資審査で優遇。敵対国に対しては機微技術の流出を同盟国などと連携して阻止する。

注:円の中心になるほど、米国と関係性が近いことを示す。
出所:米国政府の発表資料などを基に作成

ただし、米国の意図どおりに各国と規制の調和が進み、米国の描くシステムが構築されるかは依然として不透明だ。まず、米国と合意した国は、現時点では限定的だ。経済安全保障条項を含む通商合意はマレーシア、カンボジア、エクアドル、グアテマラ、重要鉱物はマレーシア、タイ、オーストラリア、日本、サウジアラビア、先端技術開発は英国、日本、韓国、サウジアラビアなどに限られる。さらに同盟国と敵対国の区別なく適用される追加関税措置が合意拡大の障害になり得る。グリーンランドを巡る欧州各国に対する関税賦課勧告と、それに対する欧州の反応はその最たる例だろう(注16)。対中戦略においても、過剰生産などへ対抗するには同盟国などとの連携が不可欠だが、相互関税の発表以降は、足並みをそろえることが難しくなっているとの指摘がある(注17)。実際にカナダのマーク・カーニー首相は2026年1月に訪中し、中国からの電気自動車(EV)輸入に対する低関税枠を約束したほか、新たな戦略的パートナーシップを締結した。カーニー首相は「ここ数カ月の中国との関係強化は、米国より予測可能だ」と語っている(図2参照)(注18)。さらに、米国が仮にこれら障害を乗り越え合意を拡大しても、「二国間合意の積み重ねに過ぎず、新たな国際システムを形成するアーキテクチャにはなり得ない」との見方もあり(注19)、長期的な実効性には疑問が残る。ただ、それでも国際通商システムが岐路に立っていることに変わりはない。2026年3月に予定されている第14回WTO閣僚会議(MC14)前に、EUもWTO改革案を出すなど、国際通商システムに関する議論は勢いづいている(注20)。国際通商システムの変容は、企業の海外展開に大きな影響を与えるため、今後も注視する必要がある。

図2:米国と各国・地域との交渉状況のイメージ
各国・地域は、米国による関税プレッシャーの下で、中国との関係性も考慮しながら、米国と経済安保、重要鉱物、先端技術開発に関する交渉を行っている。

出所:米政府発表資料などを基に作成


注1:
NSSについては、2025年12月15日付ビジネス短信「トランプ政権2期目初の国家安全保障戦略、「米国第一」を貫く対外政策」、2025年12月15日付ビジネス短信「トランプ政権2期目初の国家安全保障戦略、インド太平洋を地政学的戦場と位置づけ」も参照。 本文に戻る
注2:
連邦議会での批准が必要な自由貿易協定(FTA)などとの混同を避けるため、合意(agreement)と表記する。 本文に戻る
注3:
ジェトロによる通商政策に詳しい有識者への2025年10月のインタビュー。 本文に戻る
注4:
BISが2024年1月に発表した、2023年の輸出管理の執行実績に関する報告書では、「歴史上、今ほど輸出管理が集団安全保障の中心だった時代はない」と記載し、AIや量子コンピューティングのような先端技術が地政学的情勢を大きく左右するとして、これらの技術が悪意のある者に渡らないようにする輸出管理の執行強化は極めて重要だと強調している。2024年1月18日付ビジネス短信「米商務省、2023年の輸出管理規則に基づく執行実績を発表」参照。 本文に戻る
注5:
トランプ政権のNSSや輸出管理政策については、2026年1月19日付地域・分析レポート「ディール優先の経済安全保障政策、評価はさまざま」も参照。 本文に戻る
注6:
米国第一の通商政策については、2025年4月7日付ビジネス短信「トランプ米政権、『米国第一の通商政策』報告書の要約発表、通商政策の方針示す」参照。 本文に戻る
注7:
具体的には、イズインフォームドレターの送付が挙げられる。同レターは、特定の製品や技術が特定の事業体や仕向地に輸出などされる場合に、ライセンスの申請を要することを、取引する企業に個別に通知するもの。官報などで公開する必要はない。トランプ政権2期目の輸出管理の方向性については、2025年8月6日付地域・分析レポート「トランプ米政権の輸出管理政策(前編)厳格化の方向性は変わらず」「トランプ米政権の輸出管理政策(後編)部分的に簡素化の考えも」も参照。 本文に戻る
注8:
主に米国外で生産されているH200を検査などのために米国に輸入する際に、追加関税が課される代わりに、米国から中国への輸出が可能になる構図だと報道されている(ロイター2026年1月14日)。なお、こうした緩和措置は、米国の戦略的優位性を損なうリスクがあるなどとして、共和党内の対中強硬派の一部からは批判も出ている。2026年1月15日付ビジネス短信「トランプ米大統領、232条に基づき一部の半導体へ追加関税賦課を決定」、2026年1月15日付ビジネス短信「トランプ米政権、エヌビディア製半導体「H200」などの対中輸出管理を緩和」も参照。 本文に戻る
注9:
2025年11月にサウジアラビアとも重要鉱物枠組みで合意しているが、詳細な内容については明らかでない。2025年11月25日付ビジネス短信「米・サウジ首脳会談、対米投資額を1兆ドルに拡大、米国製AI半導体の輸出許可なども発表」参照。 本文に戻る
注10:
2025年12月9日付地域・分析レポート「トランプ政権の対中政策-緊張と緩和が繰り返される米中関係」参照。 本文に戻る
注11:
トランプ氏は1962年通商拡大法232条に基づく、重要鉱物の輸入が安全保障へ与える影響調査を経て、サプライチェーンの多様化を促すように、各国・地域と交渉するようUSTRに指示している。2026年1月16日付ビジネス短信「トランプ米大統領、232条に基づき重要鉱物の協定交渉を指示、将来的な関税賦課の可能性残る」参照。 本文に戻る
注12:
商務省傘下の国立標準技術研究所(NIST)のプレスリリースによる。2026年1月26日時点。 本文に戻る
注13:
サウジアラビアとはAI分野に関する覚書(MOU)を結んでいるが、重要鉱物枠組み同様、内容については明らかでない。 本文に戻る
注14:
情報技術イノベーション財団(ITIF)のロバート・アトキンソン代表は2025年12月にジェトロが戦略国際問題研究所(CSIS)と共催したカンファレンスにて、米国の今後の貿易体制を「マトリョーシカ人形」に例え、日本を含む同盟国などと緊密に協力する枠組みが中心にあり、その外側に一般的な通商協定を結ぶ枠組み、さらにその外側に中国などとの貿易や投資に一定程度制限を設ける枠組みが存在する構図になるとの見通しを述べている。2025年12月11日付ビジネス短信「日米経済関係と国際貿易体制の行方を議論、ジェトロとCSISがワシントンでセミナー開催」参照。アトキンソン氏の論考も参照。Robert D. Atkinson, “The Era of Global Free Trade Is Over: Time for the Era of Strategic Partnerships”, Jan 9, 2026, In the Arena. 本文に戻る
注15:
2026年1月19日付ビジネス短信「米国務省が新たな戦略計画を発表、公正かつ相互利益に基づく通商協定を追求」参照。 本文に戻る
注16:
2026年1月26日付ビジネス短信「トランプ米大統領、欧州8カ国に対する追加関税発動を取り下げ」参照。 本文に戻る
注17:
対中政策を専門とする連邦議会スタッフへのジェトロによる2025年4月のインタビュー。 本文に戻る
注18:
2026年1月20日付ビジネス短信「カナダ・カーニー首相訪中で共同声明発表、関税引き下げと新戦略的パートナーシップ締結」参照。 本文に戻る
注19:
ジェトロによる政治経済学の専門家に対する2025年10月のインタビュー。 本文に戻る
注20:
例えば、David LaRoss. “EU: WTO reform should address ‘fairness,’ reciprocity in openness”, January 22, 2026, Inside US Trade参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 調査担当ディレクター
赤平 大寿(あかひら ひろひさ)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部国際経済課、海外調査部米州課、企画部海外地域戦略班(北米・大洋州)、調査部米州課課長代理などを経て2023年12月から現職。その間、ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)の日本部客員研究員(2015~2017年)。政策研究修士。