日米経済関係と国際貿易体制の行方を議論、ジェトロとCSISがワシントンでセミナー開催

(米国、日本)

ニューヨーク発

2025年12月11日

ジェトロと米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は12月9日、首都ワシントンで日米の経済関係強化や国際貿易体制の構築に向けた協力などをテーマにセミナーを開催外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

冒頭でCSISのジョン・ハムレ所長は、日本が近年、環太平洋パートナーシップ協定(TPP、注1)の推進などを通じてアジアにおける「ルールメーカー」としての役割を果たしてきたと評価した。同時に、米国では保護主義が台頭していると指摘し、これが日米の経済関係を強化する上での重要な課題になるとの認識を示した。

続いて登壇したダニエル・クリテンブリンク元国務次官補は、トランプ政権下の日米通商関係について「波乱の1年だった」と振り返りつつ、2025年7月の日米合意(注2)により、不確実性が和らいだと述べた。また、対米投資を含む合意内容の着実な実行が今後の関係を左右すると強調した。

ジェトロの石黒憲彦理事長は基調講演で、「日米両国がインド太平洋地域における貿易体制構築に向けて協力するというメッセージは、現在のワシントンでは必ずしも強く支持されるものではないだろう」と前置きしつつ、米国が各国との2国間交渉を進める間、日本が自由で開かれた地域枠組みの維持と強化を担うと強調した。

写真 左からハムレ氏、クリテンブリンク氏、石黒氏(いずれもジェトロ撮影)

左からハムレ氏、クリテンブリンク氏、石黒氏(いずれもジェトロ撮影)

パネルディスカッションでは国際貿易体制の行方を議論

パネルディスカッションでは、日米の有識者が議論を交わした。川瀬剛志・上智大学教授はCPTPPに関して、フィリピンやインドネシアの加入交渉の進展や、EUとの分野別協力の状況を例示し、同協定が今後の国際貿易体制の焦点になっていると指摘した。その上で、同協定拡大のプロセスや、WTO改革などの面で日本が主導的役割を果たすことが期待されており、高市政権もその推進に意欲を示していると説明した。

バーバラ・ワイゼル元米国通商代表部(USTR)代表補は、現時点で米国が国際貿易体制への関心を弱めているとしながらも、多数の2国間合意が乱立する複雑化した状況を考慮すれば、将来的に地域的枠組みの必要性が再認識されるとの見通しを示した。米国シンクタンクのアジア・ソサイエティのシェイ・ウェスター・アジア経済担当部長も、米国は1930年代の高関税政策後に自由貿易にかじを切った歴史を挙げ、トランプ政権の通商政策への反発が、将来の国際貿易体制を支持する国内基盤につながり得るとの見方を示した。

米国シンクタンクの情報技術イノベーション財団(ITIF)のロバート・アトキンソン代表は、米国の今後の貿易体制を「マトリョーシカ人形」に例え、複数レベルの枠組みが並立する可能性を提示した。具体的には、日本を含む同盟国などと緊密に協力する枠組みが中心にあり、その外側に一般的な通商協定を結ぶ枠組み、さらにその外側に中国などとの貿易や投資に一定程度制限を設ける枠組みが存在する構図が現実的だと述べた。

写真 左からCSISのクリスティ・ゴベラ日本部長、アトキンソン氏、ウェスター氏、川瀬氏、ワイゼル氏(ジェトロ撮影)

左からCSISのクリスティ・ゴベラ日本部長、アトキンソン氏、ウェスター氏、川瀬氏、ワイゼル氏(ジェトロ撮影)

(注1)TPPは当初、日本や米国(オバマ政権)を含む12カ国が2016年に署名したが、2017年に米国(トランプ政権)が離脱した。残る11カ国により再交渉され、2018年にTPPを基礎とする「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)」が発効した。2024年には英国が加入した。

(注2)日米は2025年7月に米国の関税措置に関する合意に達し(2025年7月24日記事参照)、9月に合意に関する大統領令(米国)、共同声明、投資覚書の3文書を公表した(2025年9月11日記事参照)。さらに、10月には関連文書にも署名した(2025年10月29日記事参照)。

(葛西泰介)

(米国、日本)

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