通関・NMPPs
2026年米国NTEのメキシコ編を解説(1)

2026年5月29日

米国通商代表部(USTR)は3月31日、2026年版の「外国貿易障壁報告書(NTE)」を公表した(2026年4月2日付ビジネス短信参照)。メキシコに関しては9ページ分を割き、同国の貿易障壁を20のテーマにわたって整理している。クラウディア・シェインバウム大統領は、3月19日早朝の記者会見で、2025年に発表されたNTEの内容も含まれる「54の非関税障壁」(注1)について、「現在は大部分が解決済みだ」と述べていた。さらに、マルセロ・エブラル経済相は4月23日に、「(米国が)報告書(2026年のNTE)を公表したが、54項目には含まれていなかった13の新しい項目がある」とコメントした。その一方で、2026年のNTEでは前年のNTEの内容と重複している内容も多く、メキシコ政府がどの程度対応しているかは依然として把握しづらい状況だ。そこで本稿では、USTRが主張している主要な内容と、実際にメキシコ政府が対応した内容を比較し、2026年4月までの両国の動きを解説する。

メキシコの通関分野におけるUSTRの意見

2026年のNTEでは、「非関税障壁」に関する記述が特に長く、税関での規制と通関の円滑化に関する複数の問題点が示された。USTRは、メキシコの通関における法改正や新規規制の公布について、改正内容の事前通知が不十分であり、パブリックコメントの期間も短く、さらに提出された意見の活用状況が不均衡だと批判した。これは、法令が官報公示の当日または翌日に施行されるケースが多く、通関手続きが改正された際に輸入者や通関士など輸出入関連企業が対応に苦慮していることを示すものだ。

また、同報告書では、2025年11月19日に公布された税関法の改正と、2025年12月27日に公布された2026年貿易に関する一般規則(通称、SAT貿易細則)について、通関手続きを行う通関業者に厳格な責任を課していると指摘した。これにより、各輸入取引で求められる情報は大幅に増加し、罰則の対象となる潜在的な責任も劇的に高まっているとした。さらに、メキシコ税関は貨物の差し押さえや没収を行う権限を拡大し、過去1年間で多数のメキシコ人通関業者の業務が停止されていると述べた。輸入業者の責任と業務量が増加する一方で、税関の権限が拡大し、罰金や差し押さえなどが生じている点について警鐘を鳴らしている。

メキシコの通関遅延については、税関庁(ANAM)と国税庁(SAT)が分離されたことが原因と指摘した。特に、ANAMが税関業務のオペレーションを担っているものの、SAT貿易細則などの法規定やシステムはSATの管轄にあり、この分担によって通関分野の規定が複雑化し、結果として相互連携に問題が生じているとした。

さらに、新規通関業者の認可に向けた試験および申請手続きは2023年以来実施されておらず、この点が問題として指摘された。改正された税関法では、メキシコの通関業者の免許や許認可を監督する新たな税関評議会を設立するとしており、その設置状況を引き続き注視する必要があるとした。

ほかにも、電子商取引による輸入品に対する特定港への輸入制限や、税関法161条で定められた通関士が活動可能な港の数の制限(現在は4カ所のみ)について、拡大を求めた。特に通関士業務の制限については、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が、通関業者が業務を行える港の数に対する恣意(しい)的な制限を禁じている点を引き合いに出し、(協定違反であると)批判した。小口輸送についても、国際宅配(クーリエ)便における分割オプション(注2)が未導入であることや、貨物価額が荷受人1人当たり2,500ドルを超える場合にクーリエ便による簡易通関が利用できないとSAT貿易細則で規定された点に対し、懸念を示した(注3)

メキシコの通関分野における動き

USTRが公表した、メキシコの通関分野における法改正での事前通知不足や提出書類の増加については、現時点では改善の兆しはみられていない。事前通知不足の例としては、鉄鋼の輸入自動通知の改正(注4)が公布の翌日に施行された点が挙げられる。アルミニウムの輸入自動通知(注5)についても、通知義務を経済省令で定めた後、長らく詳細が未発表で不透明な状況が続いていた。鉄鋼・アルミニウムの輸入自動通知に関しては、2025年11月に経済省が経済省貿易細則の改正案を国家規制改善委員会(CONAMER)に提出し、パブリックコメントを募集したものの、いずれもコメントを踏まえた変更はなかった。書類の大幅な増加の例としては、4月時点では延期されているものの、税関価格申告書の電子申請(MVE)(注6)が挙げられ、電子申請を怠った場合には罰金の対象となる点が問題視されている。USTRは、こうした通関手続きに関する一連の問題に対して懸念を示していると考えられる。

また、メキシコ政府は、2026年3月31日に公布した税関法第159bis条の指針に関する省令で、税関審議会を、通関士・通関代理人の免許の付与・停止・取り消し・失効などの許認可や、税関管理区域および保税倉庫に関する許認可を所管する機関と位置付けた。4月時点では、具体的な許認可の変更はまだ出ておらず、今後の手続きに必要な提出書類の変更について随時確認が必要となる。そのほか、通関分野で明確に改善された点は乏しく、依然として懸念が残る状況であり、今後の改正動向を注視する必要がある。

USTRの非市場的政策・慣行に関する見解

非市場的政策・慣行(NMPPs)について、USTRはメキシコ政府が十分ではないものの一定の措置を講じていると評価した。2026年1月1日には、自由貿易協定を締結していない国からの1,463品目の製品リストに最大50%の関税を課した点を指摘(2026年1月6日付ビジネス短信参照)。さらに、メキシコは「鉄鋼過剰生産能力に関するグローバル・フォーラム」に参加し、世界的な過剰生産能力への対処や市場機能の強化に向けた共同解決策の策定・実施に尽力しているとした。

メキシコは、特に鉄鋼・繊維・自動車・自動車部品を中心に上記のとおり一般関税率を引き上げた。2024年に544品目で導入した2年間の時限措置も、2026年4月に多くの品目で撤廃され、一般関税率が維持された(2026年4月28日付ビジネス短信参照)。さらに、鉄鋼分野では一般関税に加え、鉄鋼・アルミニウムの輸入自動通知を通じて、他国からの輸入品のトレーサビリティ強化を進めている。

以上のように、メキシコ政府は通関分野ではNTEの指摘への対応が限定的で、依然として多くの課題が残る。一方、NMPPsでは一定の評価を得ていた。次稿では、エネルギーと鉱業の動向を解説する。


注1:
非関税障壁についてのこれまでの指摘については、2025年10月31日付ビジネス短信2025年12月5日付ビジネス短信2026年2月4日付ビジネス短信を参照。 本文に戻る
注2:
料金や税金などを都度ではなく、定期的にまとめて支払う方法のこと。 本文に戻る
注3:
メキシコの小口貨物通関制度の詳細は、「小口貨物の通関・関税制度(メキシコ)(2025年3月)」を参照。 本文に戻る
注4:
鉄鋼の輸入自動通知については、2026年3月18日付地域・分析レポート「改正経緯と国内外の交渉過程」「改正内容と実務の注意点」を参照。 本文に戻る
注5:
アルミニウムの輸入自動通知については、2026年4月6日付ビジネス短信を参照。 本文に戻る
注6:
税関価格申告書の電子申請(MVE)については、2026年3月12日付地域・分析レポート「税関価格申告書の電子申請(MVE)に関する基礎情報(メキシコ)」および2026年4月3日付ビジネス短信を参照。 本文に戻る

2026年米国NTEのメキシコ編を解説

執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所
阿部 眞弘(あべ ただひろ)
2017年、ジェトロ入構。サービス産業課、商務・情報産業課、イノベーション促進課、ジェトロ山口を経て、2022年9月から現職。