改正経緯と国内外の交渉過程
輸入自動通知を解説(メキシコ)(1)
2026年3月18日
2026年2月12日に鉄鋼輸入(確定輸入)における輸入自動通知制度に関するさらなる改正が公布された。2024年4月15日に同制度が改正され、製鋼所の登録などが義務付けられるようになってから1年半以上経過しているが、これまでにも通関の遅延や通知の拒否などさまざまな問題が生じている。本改正により、さらなる混乱が予想される。メキシコのサプライチェーンに多大な影響を及ぼしている輸入自動通知だが、一方で対米交渉の渦中にあり、国内問題だけで片付けることができなくなっている。本稿では輸入自動通知のこれまでの経緯と対米交渉との関係を深掘りする。
輸入自動通知改正の背景
メキシコ経済省は2024年4月15日、同省が貿易に関する規則・指針を定める省令(通称、経済省貿易細則)の改正を連邦官報で公布し、翌日施行した(2024年4月17日付ビジネス短信参照)。同細則の第2.2.19則、第2.2.26則、別添2.2.1、別添2.2.2で、鉄鋼や鉄鋼製品の輸入に先立って経済省に行う輸入自動通知の手続きに関する改正を行った。この改正の背景として、米国通商代表部(USTR)と鉄鋼製品の貿易に関する両国間の協力について協議した際、USTRが(北米)地域の鉄鋼産業を強化することを目的として、鉄鋼・アルミニウム製品の輸入管理を強化することが望ましいと指摘したことがある。そのため、メキシコ政府は鉄鋼製品の輸入自動通知の許可要件の一部として、当該製品の種類に応じて、鋼材の溶解・鋳造国に関する情報が記載された鋼材検査証明書(ミルシート)(注1)および品質証明書(注2)(の提出を)を組み込むとした。
同改正では、輸入する際に都度申請が必要な輸入自動通知(Avisos Automáticos de Importación de Siderúrgicos、以下「AAIPS」)に関して、輸入する鉄鋼を製造するミル(製鋼所)の事前登録を義務化した。また、ミルシートまたは品質証明書の提出を義務付け、当該書類がスペイン語でない場合は翻訳書類をメキシコ貿易手続き単一窓口(VUCEM)で申請することを義務付けた。さらに、直近12カ月間の鋼材の輸入実績など、特定の要件を満たす企業が、複数回の輸入をカバーする1年間有効な輸入自動通知番号を輸入鋼材別に取得できるようにし、都度AAIPSの申請を不要にする「鉄鋼製品輸入業者登録(以下、RIPS)」を創設したが、施行時点で明確な申請方法の記載はなかった。
輸入自動通知の改正における混乱
詳細は後述するが、2024年4月の改正は翌日施行だったため、日系企業を含め、輸入者となる在メキシコ企業にとって、即座に対応することが困難であった。これにより、鉄鋼製品の輸入通関ができない状態が続き、港湾での滞留や通関ができず保管料が発生するなど、さまざまな問題が生じた。それだけにとどまらず、鉄鋼製品が輸入できないため、特に鉄鋼を扱うサプライチェーンに影響し、生産が停止するケースも発生した。
AAIPSで最も大きい問題の1つは、ミルシートや品質証明書の翻訳書類に対する経済省の拒否通知であった。この翻訳書類については、改正後の経済省貿易細則の別添2.2.2に要件として記載があったものの、具体的な翻訳の仕方や内容については言及がなく、企業にとってどのように対応すべきかが不明であった。さらに、企業が必要書類を提出したとしても、経済省から届く拒否事由は、その内容を要約すると「ミルシートの文字が読めない」や、ミルシートに署名・押印があるにもかかわらず「署名や押印、QRコードがミルシートおよび翻訳にない」などあいまいな指摘が多く、企業にとっては修正方法すらわからない状態が続いた。
一方で、経済省貿易細則の2.2.30条のIのdで、確定輸入時に経済省へ通知が必要な製品(HSコードで規定)においては、経済省の承認または拒否の期限は通知から2営業日としていた。しかし、実際にはその期限を過ぎ、1カ月以上返信がない場合や2週間を過ぎて拒否されるなどさらなる混乱を招いた。
2024年5月24日には、経済省が上記のような声を反映し、AAIPSに関する手続きを解説する特設ページを国家貿易統合システム(SNICE)上で公開した(2024年5月30日付ビジネス短信参照)。同ページでは、輸入時に都度申請するAAIPSを「スキームA(Esquema A)」、1年間の輸入者登録のRIPSを「スキームB(Esquema B)」としてタブで分けており、それぞれの手続きに関する情報提供を行った。共通項目として、メキシコ貿易手続き単一窓口(VUCEM)の入力ガイド動画、よくある質問と回答、使用される言葉の定義についても閲覧が可能となった。
しかし、それでも問題は解決せず、企業やサプライチェーンに甚大な影響が続いていた。さまざまな業界団体も本改正に伴う問題について抗議しており、2024年6月に在メキシコ日本大使館、メキシコ日本商工会議所、一般社団法人日本鉄鋼連盟が連名で経済省に対して陳情書を提出した。しかし、経済省からの返答はなく、一時的にAAIPSの申請が通ったという声もあったが、抜本的な改善に至らなかった。
現地調査をきっかけにAAIPSが厳格化
2024年10月にクラウディア・シェインバウム新政権が発足したことで風向きが変わり、企業や経済団体が経済省と対話できるようになった。2025年4月にメキシコ日本商工会議所と担当官の対話が実現し、AAIPSに関する陳情を行った。その後、AAIPSによる通関遅延案件への対応も加速していった。
しかし、2025年5月にマルセロ・エブラル経済相は、経済省がミルの登録に関して中国やベトナムの現地調査を行った際、申請内容の不備や実体のない住所の記載などがあったとして、約2,000件あったミル登録を約1,000件まで削除したことを発表した。そして、6月には実際にミル登録の更新リストがSNICEに公表され、削除されたミルからの鉄鋼製品の輸入は禁止されることとなった。また、この時期から、AAIPSの許可も厳格化し、以前まで許可が下りていた通知が拒否されるケースが相次いだ。
そのため、6月26日にメキシコ日本商工会議所は経済省と会合を開き、AAIPSを巡る問題についてヒアリングを行った(2025年7月3日付ビジネス短信参照)。同会合では、経済省の担当官は「遅延は認識しているものの、省内でAAIPSに対応するリソースは限られており、少人数で大量の通知を目視で確認しなければならない状況だ」と語った。現状では、約10人で毎月何千、何万の通知を目視で確認しているとし、通知から承認までの期間は平均18営業日となっていると述べた。また、「企業が同じ鉄鋼製品の輸入において、複数の通知を行っており突合に時間がかかる。AAIPSの有効期限は4カ月間となっており、実務上余裕をもって申請してほしい」というコメントを得た。また、本来的には「署名・押印・QRコードに関して拒否通知が発出された」場合に「カルタ・レスポンシーバ(Carta responsiva)」(注3)を添付するものの、QRコードがミルシートについてない場合は、実務上最初の申請時にカルタ・レスポンシーバを提出してもよいとも言及した。
さらに、2025年10月7日には、ジェトロ、メキシコ日本商工会議所と経済省が連携し、AAIPSのウェビナーを開催した。その中で経済省は、SNICEの特設ページの「チェックリスト」に記載された「VUCEMに申請する内容とミルシートの内容が完全一致すること」という要件に留意するよう注意喚起した。その後も問題は発生したものの、2024年の改正から1年が経ち、RIPSへの移行も進んできたため、少しずつ問題の発生が限定されてきていた。
USMCAと鉄鋼の関連性
しかし、2025年11月に経済省は経済省貿易細則の改正案を国家規制改善委員会(CONAMER)に提出した。鉄鋼のAAIPSに関連する改正も含まれており、さらなる厳格化を示唆していた(注4)。
2024年の輸入自動通知の改正は、米国からの輸入管理強化要請が理由となっていたが、その後目立った動きはなかった。しかし、2025年12月に米国で開催されたUSMCAの見直しに関する公聴会で、鉄鋼のトレーサビリティー強化を訴える声が米国の鉄鋼業界から挙がっていた。さらに、同月に発表されたUSTRの冒頭陳述(2025年12月19日付ビジネス短信参照)において、メキシコでの第三国からの輸入品に対する規制やトレーサビリティー強化に関して、メキシコ政府の一連の取り組みを評価するコメントが記載された。こうした対米交渉の中で、鉄鋼のトレーサビリティー強化が扱われていたため、AAIPSもメキシコ側の交渉カードの1つとしていた可能性が高い(2026年1月26日付地域・分析レポート参照)。
AAIPSのさらなる厳格化
その中で、2026年2月12日に経済省貿易細則の改正が公布され、2月13日に施行された(2026年2月16日付ビジネス短信参照)。内容は2025年11月にCONAMERに提出されたものと同じであった。さらに2月12日の早朝記者会見で、エブラル経済相は、2月4日の重要鉱物閣僚会合に際し、ジェミソン・グリアUSTR代表と会合したと述べた。「メキシコが提案してきた12の優先項目、特に鉄鋼・アルミニウムに対する、経済的に機能不全で非常にコストがかかっている関税について話した」とし、1962年通商拡大法232条における鉄鋼・アルミニウムおよび派生品に対する50%の追加関税について交渉したことを公表した。さらに、2月中旬には、トランプ大統領が鉄鋼・アルミニウム製品に対する一部の関税を引き下げる予定との報道があった(「レフォルマ」紙2月14日付)。このようにタイムラインを見ると、メキシコ国内における鉄鋼・アルミニウムに関する規制強化と対米交渉が連関していることが分かる。
AAIPSの改正は、メキシコでビジネスを行う企業のサプライチェーンにも影響を及ぼす可能性が出てきた。この影響は在メキシコ企業だけでなく、鋼材を扱い、メキシコに輸出する全ての製鋼所にも影響が出る問題だ。次稿では、この改正における具体的な内容と問題点について解説する。
- 注1:
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鋼材検査証明書には、証明書番号、サイズ、商品名、規格などの基本事項に加え、その製品独自の製品番号、製鋼番号などが記載される。改正後の経済省貿易細則の別添2.2.2に基づき、HS72.06項~72.16項、72.18項~72.29項、73.04項の鋼材の輸入自動通知にはミルシートの添付(システムへのアップロード)が必要。ミルシートがスペイン語以外で作成されている場合は、翻訳の添付が求められる。
- 注2:
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鋼材を加工した鉄鋼製品の品質証明書。経済省貿易細則別添2.2.2に基づき、HS72.02項、72.17項、72.29項、73.01項、73.02項、73.05項の鉄鋼製品の輸入自動通知には品質証明書の添付(アップロード)が必要。
- 注3:
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「カルタ・レスポンシーバ(Carta responsiva)」は、経済省が輸入自動通知の判定の際に、ミルシートに署名・押印・QRコードがないと判定し、当該通知を却下した後、輸入者の責任をもって、ミルシートが正しいものであることを宣言する書類。本来であれば、経済省からの却下通知後に再申請するものだが、自動輸入通知に迅速に対応するために、最初の申請時に添付することが推奨された。カルタ・レスポンシーバのフォーマットは、自動輸入通知の特設ページを参照(2024年5月30日付ビジネス短信参照)。
- 注4:
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同時期に、アルミニウムに関する輸入自動通知に関する経済省貿易細則の改正についてもCONAMERに掲載していた。アルミニウムの確定輸入および一時輸入に関して、鉄鋼製品の輸入自動通知と同様の内容をVUCEMで申請することが記されていた。しかし、2月12日に公布された改正内容にはアルミニウムに関する改正は含まれておらず、2月24日時点でも改正内容は公布されていない。
輸入自動通知を解説(メキシコ)
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- 執筆者紹介
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ジェトロ・メキシコ事務所
阿部 眞弘(あべ ただひろ) - 2017年、ジェトロ入構。サービス産業課、商務・情報産業課、イノベーション促進課、ジェトロ山口を経て、2022年9月から現職。






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