エネルギー・鉱業
2026年米国NTEのメキシコ編を解説(2)

2026年5月29日

米国通商代表部(USTR)は3月31日、2026年版の「外国貿易障壁報告書(NTE)」を公表した(2026年4月2日付ビジネス短信参照)。(1)通関・NMPPsでは、通関および非市場的政策・慣行(NMPPs)に関する米国の指摘とメキシコ政府の対応を整理した。本稿では、エネルギーセクターと鉱業セクターを取り上げる。

USTRのエネルギーセクターにおける懸念点

USTRは昨年のNTEに続き、電力庁(CFE)と石油公社(PEMEX)を国営企業として民間企業よりも優遇する2024年10月の憲法改正に対し、強い懸念を示した。また、2025年3月に公布・施行された新電力部門法(LSE)について、次の2点を問題視している。(1)CFEの優位性を確保し、国家電力系統に注入される電力のうち年平均で54%以上を国が供給する(注1)ことを保証している点、(2)「共同出資(注2)」による発電プロジェクトでCFEが少なくとも54%の所有権を保有することを義務付け、発電・売電においてCFEを民間企業よりも優先するよう定めている点だ。USTRは、メキシコで事業を行う民間企業が、発電に関する新規許可や許可変更の申請で頻繁な遅延、説明のない、または不当な却下、さらには行政の不作為に直面し、同国のエネルギー部門に参入が阻害されていると指摘。説明のない、または不当な許可の停止や取り消しなどにより、民間企業によるエネルギー施設の運営や燃料の輸出入、貯蔵・積み替え、燃料ステーションの建設・運営が阻害されていると批判した。さらに、米国の利害関係者からは、エネルギー省(SENER)が国家規制改善委員会(CONAMER)に提出した「自家発電、コージェネレーションおよび独立系発電事業者(IPP)を、電力部門法に規定される制度へ自発的かつ迅速に移行するための指針」の草案についても、売電制限や許可期間の短さから懸念が示されている(注3)。USTRは今後の動向を注視するとしている。

2025年10月に公布された炭化水素部門法の施行規則が特定の燃料積み替え活動を禁止した点についても、USTRは物流の柔軟性を損ない、米国企業のコスト増につながり、PEMEXを優遇する措置だと批判した(注4)。また、PEMEXの支払い遅延も問題視されており、2025年末時点で米国企業に対する延滞額は25億ドルを超えていたという。

メキシコの電力セクターにおける対応

メキシコ政府は、前政権から続くエネルギーナショナリズムの立場から、エネルギー分野では強硬姿勢を維持している。CFEやPEMEXを民間企業よりも優遇しているとのUSTRの批判に対しては一貫して否定しており、SENERは2025年11月11日付のプレスリリースで、米国企業への差別的扱いは事実無根と反論した(2025年11月19日付ビジネス短信参照)。さらに、エネルギー分野の法的枠組みは透明性を備えており、民間企業の投資を妨げていないと主張している。

また、先述のLSEに基づき、2025年10月から12月にかけて、各種の施行規則や細則、開発計画が相次いで公布された(注5)。CFEは2026年1月28日、民間事業者と共同で発電事業を行うための「共同開発スキーム」について、制度設計や手続き要件を定めた指針を公表した。さらに、SENERは「共同投資」に関する説明会を開催した(2026年2月17日付ビジネス短信参照)。説明会では、共同投資においてCFEが土地取得、長期買電の保証、発電許可取得などを支援する一方、民間事業者は流動資本の全額を負担し、発電所の建設から稼働までの管理責任を負う仕組みが示された。このため、民間側に大きな負担が生じるスキームとなった。政府は、資金調達に際して開発銀行や民間銀行からの融資、プロジェクトファイナンスの活用も検討していると説明したものの、こうした負担の偏りに対して、国内外の民間事業者や業界団体から反対の声が上がっていた。これらの反対意見を受け、SENERは2026年4月16日、「IPP許可の自主的な移行に関する指針」を省令として公布し、LSEへの自発的な移行を促す方針を示した。今回の指針では、USTRが問題視していたCONAMER掲載の指針案(前述)が修正され、自家発電およびコージェネレーションが対象から除外された。また、IPPについては、CFEが総発電量の30%以上を購入することを条件に、余剰電力を卸電力市場(MEM)で販売できるようになった。さらに、移行手続きに基づき付与される発電許可の有効期間も、従来の5年から15年へと延長された。

また、メキシコ政府は4月9日、「福祉を伴う開発のための戦略的インフラ投資促進法」(以下、「インフラ投資促進法」)(注6)を公布し、投資スキームとして特別目的事業体(SPV)(注7)の活用を明確に位置付けた。SPVを用いることで、連邦政府の財政リスクを切り離しつつ、証券市場を通じた資金調達を可能とし、国家予算を補完することを狙う。このように、電力セクターにおいて、メキシコ政府が国内外の事業者やUSTR、業界団体の指摘を一部反映した規則を提示したかたちとなる。しかし、発電許可の有効期間が15年を超えて延長できないなど、依然として不透明な部分も残っており、今後の動向を注視する必要がある。

メキシコの炭化水素セクターにおける対応

USTRが指摘した炭化水素分野については、2025年10月以降、新たに修正された法令や規則は確認されていない。一方、PEMEXの支払い遅延問題に関しては、公共事業銀行(Banobras)と大蔵公債省が2025年、PEMEXのサプライヤーやサービス提供者への支払いを行うための基金(通称「Orion」)を設立した。この基金は、2,500億ペソ(約2兆2,750億円、1ペソ=約9.1円)で、開発銀行や機関投資家からの融資で資金調達し、政府保証も付与する仕組みとなっている。また、メキシコ政府の2026年の予算でも、PEMEX向けに約5,174億ペソの支出が計上された。そうした中、PEMEXは2026年2月4日、2025年に発生したサプライヤー向け支払いのうち、3,900億ペソ以上を支払ったと公表した。さらに2026年についても、「Orion2」としてサプライヤー向け支払いを目的とした新たな基金の創設を検討しているとし、支払い遅延への対応姿勢を示した(「エル・フィナンシエロ」紙、4月10日付)。

USTRの鉱業セクターにおける懸念

USTRは鉱業セクターについても懸念を示した。メキシコ政府はAMLO前政権下の2022年4月、国内のリチウム資源に対する国家管理を強化する目的で鉱業法を改正した(注8)。この改正により、国内のリチウムの探査・採掘・利用は、国営企業「リチオメックス(LitioMx)(注9)」の独占的管理下に置かれ、民間企業は鉱区権、ライセンス、契約、許可などの取得から排除されることになった。さらに、メキシコ政府は他の鉱物についても「戦略的資源」に指定する権限を持つことになり、将来的に国家による管理を一段と強化できる枠組みが整えられたと非難した。

鉱業セクターにおけるメキシコ政府の対応

メキシコ政府は2023年3月28日、鉱業関連法の改正案として、コンセッション期限を従来の50年から15年へ短縮する法案を提出した。これに対し、メキシコ鉱業会議所(Camimex)は「非現実的な内容が多い」と強く批判し、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に抵触すると主張した。こうした反発を受け、政府は2023年5月8日に鉱業法の改正を実施し(2023年5月10日付ビジネス短信参照)、開発コンセッションの期間を30年とし、25年の更新を可能とした。一方で、鉱区開発コンセッションは公共入札によってのみ付与される仕組みに変更された(注10)。また、鉱業関連事業者は、改正法の付則第5条(注11)について、既に申請中の探鉱・採掘案件に不遡及(ふそきゅう)を求めるとともに、改正自体が違憲であるとしてアンパロ訴訟(注12)を提起した。しかし、最高裁判所(SCJN)は2025年9月25日の判決で、許可申請中の企業が有するは既得権ではなく、あくまで「期待権」にすぎないとして、原告の主張を退けた。続く同年10月8日の判決でも、2023年の鉱業法および水資源法改正を有効と判断し、公共の利益および天然資源に対する国家の支配権を強化する立場を示した。さらに2026年3月24日の判決では、鉱業法、とりわけリチウム関連条文についても合憲と判断され、現シェインバウム政権下でも鉱業分野への民間企業の参入が引き続き困難な状況となっている。実際、法改正以降、鉱山開発に関するコンセッションは1件も付与されていない。

対米交渉で鉱業分野でも動きあり

こうした状況の中、2026年2月4日、USTRとメキシコ経済省は重要鉱物に関する「メキシコ・米国行動計画」を発表した(2026年2月5日付ビジネス短信参照)。この計画は、両国の協力を通じて、産業の重要分野に必要な原材料の安定供給を確保することを目的としている。一方で、マルセロ・エブラル経済相は、「あらゆる協力活動は、主権の枠組み内で、かつ憲法を尊重して行われる」と述べ、協力の範囲が両国の法制度に限定されることを強調した。また、この行動計画は、今後予定されるUSMCA見直しにおいて、議題の1つとなる可能性がある(注13)

さらにメキシコ政府は4月8日早朝の記者会見で、国内の天然ガス鉱床開発を強化する方針を発表した。PEMEXのビクトル・ロドリゲス・パディージャ総裁は、在来型鉱床に加えて非在来型鉱床の開発に取り組むとも述べ、新たなコンセッション付与の可能性を示唆した。しかし、非在来型鉱床の開発手法である「フラッキング(水圧破砕)」は憲法で禁止されている。これに対し、シェインバウム大統領は「近年は環境負荷の低い採掘方法も登場している」と述べ、専門家委員会で実現可能性や費用を検討している段階であると説明した。こうした状況から、鉱業セクターで新たな動きが生じる可能性はあるものの、PEMEXの投資余力や技術的側面には依然として課題が残り、鉱業法改正の問題も未解決のままである。

このように、エネルギー・鉱業分野では、USTRのNTE報告を受けて一部で民間事業者への制限緩和の動きがみられる。一方で、国家主導の方針自体には大きな変更はなく、依然として政府が中心的役割を維持している。これらの分野は、2026年7月に予定されるUSMCA見直しにおいて重要な論点となる可能性が高く、今後もメキシコ政府の対応を注視する必要がある。


注1:
自家発電やコージェネレーションなどは除く。54%の対象範囲については、2025年5月1日付地域・分析レポート「民間事業者参画の枠組みは維持も、国の役割を重視(メキシコ)」を参照。 本文に戻る
注2:
共同投資は、CFEと民間事業者が発電事業の共同で開発する際のスキームの1つであり、出資比率は国54%、民間46%とされている。詳細は2026年2月2日付ビジネス短信を参照。 本文に戻る
注3:
「自家発電、コージェネレーションおよび独立系発電事業者(IPP)を電力部門法の制度へ自発的かつ迅速に移行するための指針」では、IPPが長期売電契約(PPA)を締結することが前提とされ、卸電力市場(MEM)への売電は認められていなかった。また、LSE移行後の許可期間は5年に限定されていた。 本文に戻る
注4:
USTRはNTEで、炭化水素部門の施行規則により燃料許可に新たな制限が課され、輸入許可の有効期間が20年から5年、販売許可が30年から2年に短縮された一方、これらがPEMEXには適用されない点を批判した。ただし、PEMEXも一部の許可についてはエネルギー省の承認が必要であり、完全に免除されているわけではない。 本文に戻る
注5:
LSEや施行規則などの詳細は、2025年5月1日付地域・分析レポート「民間事業者参画の枠組みは維持も、国の役割を重視(メキシコ)」や2026年1月26日付地域・分析レポート「メキシコの新たな電力事業の枠組みが明確に(メキシコ)」を参照。 本文に戻る
注6:
クラウディア・シェインバウム大統領が3月19日に下院に提出し、3月25日に賛成多数で下院を通過、4月7日に上院を通過して成立した。シェインバウム政権が2月3日に発表した「福祉開発におけるインフラ投資計画2026-2030」(2026年2月13日付ビジネス短信参照)で掲げた5年間で5兆6,000億ペソ(約50兆4,000億円、1ペソ=約9.0円)の投資を実現するための制度的枠組みを定める新法。 本文に戻る
注7:
特別目的事業体(SPV)とは、特定事業や資産の保有・運営など限定目的で設立され、親会社と独立して資産・負債・リスクを分離管理し、証券化やプロジェクトファイナンスで活用される事業体。 本文に戻る
注8:
鉱業法における一連の改正については、2022年4月19日付2022年4月21日付ビジネス短信を参照。 本文に戻る
注9:
リチオメックスは、メキシコにおけるリチウムの探鉱、採掘、精鉱・加工、産業利用を統括する国営企業。 本文に戻る
注10:
2023年5月8日に官報公示された鉱業法の改正において、鉱区開発コンセッションが公共入札によってのみ付与されることとなった。同改正でリチオメックスが探鉱する前に行う資源探査の主体が、経済省管轄の国営メキシコ地質調査所(SGM)と明確化された。そのため、民間事業者が主体となる資源探査が原則行えなくなり、SGMによる探査で資源が発見された後に経済省による鉱区開発入札が行われることとなった。 本文に戻る
注11:
鉱業および水資源の権益付与を規制する法改正の付則第5条は、探鉱・採掘権の申請手続きが進行中のものについては、これ以上の手続きを経ることなく却下すべきであると定めていた。 本文に戻る
注12:
行政府や立法府、司法府などの行為により、憲法が保障する国民や企業の基本的権利が侵害された場合、当該行為の差し止めと無効を求める裁判制度。原則として、提訴した企業に対してのみ差し止めや無効の効果が及ぶ。 本文に戻る
注13:
メキシコとの行動計画では、60日以内に、重要鉱物輸入に対する最低国境調整価格の導入など通商政策での協調、多国間重要鉱物貿易協定における最低価格設定の実現可能性などを協議すると定めた。また、2026年4月20日のUSTRと経済省の共同声明でも重要鉱物に関する協力について協議を進めるよう指示したとしている(2026年4月22日付ビジネス短信を参照)。 本文に戻る

2026年米国NTEのメキシコ編を解説

執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所
阿部 眞弘(あべ ただひろ)
2017年、ジェトロ入構。サービス産業課、商務・情報産業課、イノベーション促進課、ジェトロ山口を経て、2022年9月から現職。