経済安全保障で変わるビジネス米国の重要鉱物通商政策
同盟国連携による供給網再構築と市場形成

2026年10月13日

米国トランプ政権は、貿易赤字の削減や相互的な貿易関係の構築を目的として、2025年4月に中国を含む世界各国・地域に対する相互関税を発動した。これに対して中国は報復措置を講じ、米国に対する追加関税に加え、重要鉱物・レアアースの輸出管理を強化した。中国の措置により、米国では自動車メーカーのフォードが永久磁石の供給不足を理由として、2025年5月に中西部シカゴの工場の操業を一時停止するなど、重要鉱物の供給の制約が供給網(サプライチェーン)に及ぼす影響が顕在化した(注1)。こうした供給途絶リスクを踏まえ、米国は、重要鉱物の採掘、精錬、加工、回収・再利用に至るサプライチェーン全体で、中国への依存度を低減させる取り組みを加速させている。その特徴は、国内の生産能力の拡大、戦略備蓄の拡充、輸入調整・輸出規制といった米国単独の取り組み(注2)にとどまらず、同盟国・パートナー国との連携を強化している点にある。トランプ政権の一連の動向からは、米国が、同盟国・パートナー国との投資連携を通じて重要鉱物のサプライチェーンを再構築するとともに、それを経済的に支える最低価格(プライス・フロア)などの新たなルールの形成に乗り出している方向性がうかがえる。

関税交渉を通じた二国間の投資協力の推進

トランプ政権は、2025年4月の相互関税の発動以降、関税や市場アクセスだけでなく、重要鉱物の供給確保を含む経済安全保障分野についても、各国・地域と協力に向けた交渉を進めている。トランプ政権はこれまでに、日本やEUなど20カ国・地域と「相互貿易協定(ART)」の締結や枠組み合意の成立を発表している。合意の内容は各国・地域によってさまざまだが、多くの協定や合意では、米国による関税率の引き下げや、相手国・地域による対米関税・非関税障壁の見直しにとどまらない(注3)。米国と相手国・地域が重要鉱物分野における二国間の投資を促進することなどの協力内容も盛り込まれており、投資の促進を通じて供給源を多様化し、サプライチェーンの強靭(きょうじん)化を図ろうとしていることがうかがえる。

また、トランプ政権はオーストラリアやウズベキスタンなどの鉱物資源国とは、関税に関する合意には至っていないものの、重要鉱物の供給確保や投資協力などに関する協力覚書などを締結している。また、ウクライナやコンゴ民主共和国とも(注4)、鉱物資源・安全保障に関する協定を締結している(表1参照)。

表1:米国と各国・地域との二国間合意の形成状況(2025年4月以降)
合意の内容 国・地域 特徴
貿易合意+個別の重要鉱物協力合意 日本、EU、英国、インド、マレーシア、タイ、アルゼンチン、エクアドル 通商政策と重要鉱物政策の連携が並行。重要鉱物の供給網強靱化、投資促進、採掘・加工、リサイクル、市場形成などについて、貿易合意とは別に協力内容を具体化。
貿易合意に重要鉱物協力を組み込み/個別の重要鉱物協力合意なし 韓国、台湾、インドネシア、カンボジア、バングラデシュ、ヨルダン 貿易合意の中に重要鉱物分野の投資促進などの言及を盛り込み。例えば、インドネシアでは、協定に重要鉱物章が設けられ、同国の重要鉱物の輸出制限撤廃や安定供給協力などが記載 。
個別の重要鉱物協力合意のみ/貿易合意なし ウクライナ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、ウズベキスタン、アルメニア、フィリピン、オーストラリア、クック諸島、メキシコ、パラグアイ、ペルー、コンゴ民主共和国、ギニア、モロッコ 貿易面での合意は形成されていないものの、重要鉱物分野で直接協力。鉱山開発を通じた供給源の多様化や市場形成などについて協力。
貿易合意のみ/重要鉱物の明確な協力の言及なし スイス、リヒテンシュタイン、北マケドニア、ベトナム、エルサルバドル、グアテマラ 貿易面での合意は形成されているものの、現時点では重要鉱物について具体的な協力は確認されない。

出所:米国政府発表、米国シンクタンクCFRレポートを基にジェトロ作成

中でも日本との連携は最も包括的な事例の1つであり、重要鉱物の安定供給確保に向けて、投資や資源開発に加え、採掘・加工、貿易、市場形成、備蓄、危機対応など、サプライチェーン全体を対象とした協力を進めている。2025年7月の合意では、重要鉱物を含む戦略分野への投資・融資・融資保証を盛り込んだ5,500億ドルの対米投資枠組みが示され、同年10月には重要鉱物・レアアースの供給網の多様化・強靱化、採掘・加工への投資促進、公正な市場形成に向けた協力に関する覚書を締結した。さらに2026年3月には、米国および第三国の鉱山などを含む13件の投資案件や、南鳥島周辺海域の海洋鉱物資源開発に関する協力が示された。また、覚書に基づく行動計画では、プライス・フロアを含む複数国間の貿易枠組みについて協議することが盛り込まれた(表2参照)。こうした取り組みは、特定の鉱山や鉱物の確保にとどまらず、採掘から加工、貿易、投資、市場形成、備蓄、危機対応までを含むサプライチェーン全体の強靱化を目指すものと位置付けられる。

表2:日本と米国の重要鉱物分野における二国間協力の動向
時期 合意・覚書など 主な内容 協力の対象範囲 ビジネス短信
2025年7月 日米合意 米国の相互関税の引き下げ、5,500億ドルの対米投資の枠組みを創設。枠組みでは、重要鉱物を含む戦略分野で、日本側が政府系金融機関を通じて投資・融資・融資保証を提供し、米国側が連邦政府所有地のリースや電気・水道などのインフラ整備支援などを提供する。 投資・融資・融資保証 2025年9月11日付ビジネス短信参照
2025年10月 重要鉱物供給確保に関する覚書 重要鉱物・レアアースの供給確保に向けて、供給網の多様化・強靱化、採掘・加工への投資促進、公正な市場形成に向けた協力を確認。 採掘・加工、サプライチェーン、市場形成 2025年10月29日付ビジネス短信参照
2026年3月 13件の投資案件に関するファクトシート 米国の銅鉱山、オーストラリア・ブラジル・カナダ・UAE・ナミビアなどの第三国案件を公表。 鉱山・投資、第三国案件 2026年3月23日付ビジネス短信参照(※)
2026年3月 海洋鉱物資源開発に関する協力覚書 日本の南鳥島周辺海域のレアアース泥プロジェクトおよびマンガン団塊プロジェクトなどを対象とした深海鉱物資源開発に関する協力を確認。 採掘・資源開発 (※)と同じ
2026年3月 覚書に基づくアクションプラン(行動計画) プライス・フロアやその他の措置を含む複数国間貿易枠組みの構築に向けて、日米両国が協議。プライス・フロア以外の措置には、強靱な重要鉱物市場を支える貿易措置、重要鉱物の採掘・加工・貿易に関する基準、技術・規制協力、投資促進・審査、地理的マッピング、サプライチェーンの途絶・危機への協調対応、新技術の研究開発、協調備蓄、経済的威圧への対応などを協議対象として列挙。 貿易、市場形成、投資、規制、備蓄、危機対応 (※)と同じ

出所:日本政府発表を基にジェトロ作成

米国通商代表部(USTR)は2026年3月の報告書で、重要鉱物の供給確保に関する各国・地域との二国間の協定を例に挙げ、「重要サプライチェーンの確保に向けて強力な措置を講じている良い例」と評価した上で、今後も重点的に取り組む姿勢を示している(2026年3月3日付ビジネス短信参照)。このことから、トランプ政権は今後も、関税交渉と重要鉱物を含む経済安全保障分野の協力を一体的に進めるとともに、個別の重要鉱物分野における二国間協力合意の締結も志向していく方向性がうかがえる。

複数国間の投資・ルール形成も模索

これらの二国間協力に加え、トランプ政権は複数国間の枠組みを通じて、重要鉱物サプライチェーンの再構築に向けた投資や政策協力を進めている。2025年12月には、人工知能(AI)を支える重要鉱物や半導体の供給網を同盟国・パートナー国と確保する「パックス・シリカ(Pax Silica)」を立ち上げ(2026年3月31日付ビジネス短信参照)、2026年2月には55カ国・地域が参加する重要鉱物閣僚会議を開催するとともに、新たな枠組み「資源の戦略地政学的関与に関するフォーラム(FORGE)」の創設を発表した(2026年2月5日付ビジネス短信参照)。これらは、採掘・加工から最終用途、リサイクル・再処理までを含むサプライチェーンへの投資に加え、政策面での協力を通じて、多様・強靱・安全な供給網の構築を目指すものだ。

一方、重要鉱物の市場環境に関するルール形成については、より少数の国・地域による協力が先行している。2025年7月には日米豪印のクアッド(QUAD)が重要鉱物イニシアチブを立ち上げ、2026年2月には日米EUが重要鉱物貿易に関する複数国間貿易イニシアチブの検討を表明した。さらに同年6月のG7首脳宣言では、プライス・フロア、収益安定化措置、共同調達、関税割当など、重要鉱物の市場形成に関する具体的な政策・メカニズムが示された(表3参照)。このように米国は、参加国・地域の多い枠組みによるサプライチェーンの多様化・強靱化と、日米EUやQUAD、G7など比較的少数の国・地域による市場ルール形成を並行して進めている。

表3:米国の重要鉱物に関する複数国間の取り組み(ーは値なし)
枠組み 発表・
発足時期
参加国・
地域
主な目的 主な協力・検討事項
パックス・シリカ 2025年12月(発足) 25カ国・地域 AIを支える重要鉱物・半導体などのサプライチェーン確保 採掘、精錬、加工、最終用途、リサイクル・再処理への投資
重要鉱物閣僚会議/FORGE 2026年2月(発足) 55カ国・地域 多様・強靱・安全な重要鉱物サプライチェーンの構築 投資協力、政策協力
QUAD「重要鉱物イニシアチブ」 2025年7月(発足) 日米豪印4カ国 重要鉱物のサプライチェーン強靱化 プロジェクト投資、許認可の迅速化・合理化、取引審査、価格メカニズム
日米EU「複数国間貿易イニシアチブ」 2026年2月(検討表明) 日米EU+同志国 複数国間貿易イニシアチブにおける重要鉱物貿易に関する協調的な政策・メカニズムの構築に向けて、日米EUが連携。 プライス・フロア、基準に基づく市場、値差補助金(price gap subsidies)、オフテイク契約
G7 2026年6月(首脳宣言) G7 重要鉱物サプライチェーンの確保 強靱性基準、基準に基づくアプローチ、透明性・トレーサビリティー、多角化要件、収益安定化措置、共同調達、関税割当、プライス・フロア

出所:米国政府発表、日本政府発表を基にジェトロ作成

ポリシリコンでは最低輸入価格が導入

ここまでの動きを整理すると、米国の政策には3つの層がみえてくる。第1は、米国内の生産・加工能力や備蓄などを強化すること。第2は、二国間協力を通じて、同盟国・パートナー国を含む複数の地域で鉱山、精製・加工、リサイクルなどへの投資を進めること。第3は、複数国間の枠組みを通じて、こうしたサプライチェーンを支える価格、貿易、基準、トレーサビリティーなどの市場環境を形成することだ。このうち第3の層は、近年の米国の重要鉱物政策の中でも特に注目される変化だ。中国への依存を低減するだけであれば、米国企業が中国以外の国から鉱物を購入することでも一定の効果は得られる。しかし、重要鉱物の採掘・加工には大規模な初期投資が必要であり、中国を含む既存の供給網と比較してコスト競争力が低いプロジェクトも少なくない。このため、非中国の供給能力を中長期的に維持・拡大するには、投資を促す市場環境を形成することが課題となる。プライス・フロア、値差補助金、オフテイク契約、共同調達などが議論されている背景には、こうした問題意識があると考えられる。すなわち、米国は関税によって中国産品の輸入を抑制するだけでなく、同盟国・パートナー国の供給能力に投資が向かいやすい条件を整備することで、非中国サプライチェーンの経済的な持続可能性を高めようとしているとみられる。ただし、こうした仕組みの具体的な制度設計や対象範囲は現時点で確定していない。特に、プライス・フロアについては、対象となる鉱物、価格水準、適用国、原産地・加工地の判定方法などがいかに決定されるかが今後の焦点となる。

この点で、2026年8月に米国がポリシリコンについて最低輸入価格(MIP)と追加関税を組み合わせた措置を発表したことは(2026年8月10日付ビジネス短信参照)、現在議論されているプライス・フロアの政策手段が単なる政策構想にとどまらず、国際取引価格に政策的に介入する手法を実際に採用した事例として注目される。トランプ政権は2025年7月に、ポリシリコンの輸入が米国の国家安全保障に及ぼす脅威を判断するため、1962年通商拡大法232条に基づく調査を開始し、2026年8月にMIPの導入や追加関税の発動を発表した。具体的には、2026年12月からポリシリコンに対して(例えばポリシリコンのインゴットに対して100ドル/キログラム)のMIPを設定し、これを下回る場合にMIP相当額の特別関税(specific tariff)を課すとともに、原則15%の追加関税を課す。

別途、幅広い重要鉱物の輸入に関する232条調査を通じては、貿易相手国との間で輸入調整に関する協定を交渉するほか、プライス・フロアやその他の輸入調整措置の検討をすることが規定されている(2026年1月16日付ビジネス短信参照)。今後、米国と各国・地域の交渉や、米国の判断によっては、ポリシリコン以外の鉱物資源の輸入にもMIPの設定が広がる可能性もある。

「重要鉱物経済圏」の形成につながるか

複数国間連携の動きは、トランプ政権の対外経済政策全体との関係でも興味深い。トランプ政権は、WTOに代表されるような多国間(マルチ)体制よりも、ART締結の推進にみられる二国間(バイ)交渉を重視してきた。一方、重要鉱物分野では、パックス・シリカやFORGEなど、複数有志国が参加する枠組みを積極的に立ち上げている。もっとも、これを「トランプ政権がマルチへ回帰した」と評価するのは適切ではない(注5)。むしろ、現在模索されているのは、重要鉱物の特定分野において、サプライチェーン上の利害や戦略的目的を共有する有志国による複数国間(プルリ)の協力と見る方が適切だ。

また、二国間協力と複数国間協力は択一的なものではなく、組み合わせて進められることが想定される。二国間で具体的な投資・供給協力を進めつつ、その協力を複数国間の枠組みに広げ、プライス・フロア、トレーサビリティー、輸入調整措置などについて共通の政策を検討するという動きだ。今後、この動きが一時的な政策協調の検討にとどまるのか、あるいは共通のルールを持つ経済圏の形成につながるかは、現時点では明らかではない。ただし、仮に米国と日本を含む同盟国・パートナー国の間でトレーサビリティーや輸入調整措置に関するルールの形成が進めば、重要鉱物が中国で採掘された場合や、中国以外の鉱山で採掘された重要鉱物であっても精製や加工の工程で中国との関係が残る場合などでは、企業の調達判断に一定の影響が及ぶことも考えられる。こうした場合、採掘、精製、加工の各工程を担う企業を特定し、その企業の資本関係などを確認することなどを含め、サプライチェーンの実態を把握するための対応が必要となることも想定される。よって、日本企業にとっては、こうした米国の政策動向を単なる米国向け輸出の問題としてではなく、日本を含む米国と日本を含む同盟国・パートナー国の企業の中長期的な調達戦略にも影響し得る変化として捉え、注視することが重要になるだろう。


注1:
Gracelin Baskaran, "Unleashing America’s Mineral Potential: The Critical Minerals Commodity Supply Chain", Center for Strategic and International Studies(CSIS), March 25, 2026 本文に戻る
注2:
トランプ大統領は2025年3月に、重要鉱物などの外国依存軽減に向け、国内での鉱物生産能力を増強する大統領令に署名した(2025年3月24日付ビジネス短信参照)。また、トランプ大統領は2026年2月に、重要鉱物の戦略的備蓄を行う「プロジェクトボールト」を発表した(2026年2月5日付ビジネス短信参照)。輸入調整に関しては、トランプ政権は1962年通商拡大法232条に基づき、重要鉱物およびポリシリコンの輸入について調査を実施し、ポリシリコンについては最低輸入価格の設定や追加関税の賦課を決定した(本文参照)。輸出規制に関しては、トランプ政権は2026年8月に、ブラックマスなど電子廃棄物の輸出を制限する措置を発表している(2026年8月7日付ビジネス短信参照)。 本文に戻る
注3:
Inu Manak, “Tracking Trump’s Trade Deals”, Council on Foreign Relations (CFR), March 17, 2026. 本文に戻る
注4:
Cullen Hendrix, “Is the US posing a hidden risk in the West’s critical minerals strategy?”, Peterson Institute for International Economics (PIIE), February 3, 2026. 本文に戻る
注5:
William Reinsch, ”Trump Discovers Multilateralism”, CSIS, February 17, 2026 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課リサーチ・マネージャー
葛西 泰介(かっさい たいすけ)
2017年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課・外国企業支援課、北九州事務所、海外調査部米州課を経て、2026年2月から現職。2024~2026年にワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員。