米USTR、2026年の通商課題を報告、相互貿易協定の維持を表明

(米国)

ニューヨーク発

2026年03月03日

米国通商代表部(USTR)は3月2日、「2026年の通商政策課題と2025年の年次報告外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を公表した(注1)。トランプ政権が繰り返し主張してきた貿易赤字を問題視するとともに、「米国第一の通商政策」の成果を強調した。

報告書は冒頭で、行き過ぎたグローバリゼーションにより500万の製造業雇用が米国から海外に移転され、7万以上の工場を失った結果、米国は「史上最大の貿易赤字を抱えている」とし、米国が他国よりも市場開放をしている「相互性の欠如」を強調した。一方で、トランプ政権2期目が発足した2025年には、対中財貿易赤字は前年比32%減少し輸入元を多様化したこと、財・サービス輸出が6.2%増加し、過去最高の3.4兆ドルに達したことなどを例示し「米国は復活した」と記載した。その上で、2026年の通商課題として、米国第一の通商政策を強化するため、次の6つの重点分野を示した。

  1. 「相互貿易協定(ART)」プログラムの継続
  2. ART、その他の通商協定、米国通商法の強力な執行
  3. 重要鉱物・重要分野のサプライチェーン確保
  4. 米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直し
  5. 中国との貿易における相互性と均衡の管理
  6. 国際フォーラムにおける米国の利益の促進

1.では、これまでの各国・地域との協定締結や枠組み合意を列挙した(注2)。その上で、ARTに関連する関税が司法審査の対象となっているものの、合意内容を維持する意向を示した。連邦最高裁判所は2月20日、相互関税の根拠となっている国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税賦課は認められないと判断したが、ARTに基づく関税率には言及しておらず、ARTに基づく関税の扱いは不透明な状況が続いている(2026年2月24日記事参照)。

2.では、関税回避防止のための措置を推進するとしたほか(注3)、1974年通商法301条を積極的に利用する意向を示した。IEEPA関税の無効判決後に実施された1974年通商法122条に基づく輸入課徴金の賦課は原則150日間に限定されているため(2026年2月24日記事参照)、その期間内に新たな301条調査を開始するとみられている。

3.では、商務省による1962年通商拡大法232条に基づく調査と(2026年1月16日記事参照)、国務省による「重要鉱物閣僚会合」(2026年2月5日記事参照)後にUSTRが各国と交渉した「重要鉱物貿易協定(ATCM)」を例に挙げ、「政府全体のアプローチを通じた重要サプライチェーンの確保に向け、強力な措置を講じている良い例」とした(注4)。

4.では、メキシコ、カナダとの貿易赤字をあらためて指摘したほか、非市場経済国からの投資拡大、過剰生産能力、原産地規則の強化などに対応する必要性を挙げた。その上で、課題が解決された場合にのみUSMCA延長を勧告する、とこれまでの立場をあらためて示した(注5)。

5.では、「中国との継続的な貿易を期待している」として、相互主義と均衡に基づく貿易を確保するため、中国に「引き続き関与していく」姿勢を示した。また、2025年10月の米中合意の内容を中国が順守するよう監視するとも記載した(注6)。

6.では、WTOで「米国の貿易に対する障壁削減のための取り組みを継続する」として、引き続きWTOに参加していく姿勢を示した。米国は一時WTOへの資金拠出を停止していた。一方で、第14回閣僚会議(MC14)ではWTOの原則の1つである最恵国待遇(MFN)の再評価を要請すると記載した(注7)。

(注1)USTRは1974年通商法に基づき、貿易協定に関する取り組みや政策方針について、毎年3月1日までに連邦議会に報告を行う。USTRの発表は3月1日だが、報告書は2月中に作成されている。前年の報告書は2025年3月4日記事参照

(注2)報告書では、アルゼンチン(2026年2月9日記事参照)、バングラデシュ(2026年2月12日記事参照)、カンボジア、マレーシア(2025年10月28日記事参照)、エルサルバドル(2026年1月30日記事参照)、グアテマラ(2026年2月3日記事参照)、インドネシア(2026年2月24日記事参照)、台湾(2026年2月25日記事参照)とARTを締結し、エクアドル、スイス・リヒテンシュタイン(2025年11月18日記事参照)、EU(2025年9月25日記事参照)、インド(2026年2月10日記事参照)、日本(2025年9月16日記事参照)、北マケドニア(2026年2月16日記事参照)、韓国(2025年12月9日記事参照)、タイ、ベトナムと枠組み合意を発表したと記載している。

(注3)司法省は、貿易詐欺に対する執行を強化する意向を示している(2026年2月26日記事参照)。

(注4)USTRは現在、重要鉱物の最低価格や市場価格を確立するための価格調整メカニズムの確立を目指している(2026年3月2日記事参照)。

(注5)2026年7月のUSMCA見直し時に3カ国での合意は難しく、何も決まらない不安定な状態が続くとみられている。USMCA見直しに関するこれまでの経緯と見通しについては、2026年2月20日付地域・分析レポート参照

(注6)米中合意によって、一時的に双方の通商措置の適用が停止されているが、米中関係は今後、緊張と緩和を繰り返すと指摘されている。トランプ政権の対中政策の見通しは、2025年12月9日付地域・分析レポート参照

(注7)MFN原則を見直す必要性は、米国で党派を超えて共有されている。詳しくは、2025年9月10日付地域・分析レポート参照

(赤平大寿)

(米国)

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