経済安全保障で変わるビジネスAIエコシステム
サウジアラビアのAI・データセンター産業(1)
2026年10月13日
人工知能(AI)は、生成AIの急速な普及を背景に、各国の産業政策や投資戦略における重要テーマの1つとなっている。中東地域でも各国がAI戦略を策定し、国家の競争力強化に向けた取り組みを進めている(2024年8月5日付地域・分析レポート参照)。
こうした中、サウジアラビアにおいても国家改革戦略「サウジ・ビジョン2030」の下、AIおよびデータセンター産業を経済多角化の重点分野として位置付けている。また、2026年を「AIの年(Year of AI)」と指定するなど、AI分野への取り組みを強化している。
本連載では、サウジアラビアにおけるAI・データセンター産業の動向を取り上げる。前編となる本稿では、ビジョン2030の下で形成が進むAIエコシステムについて、政策機関や主要プレイヤーの動向を中心に概説する。後編では、同年8月末から9月にかけてリヤドで開催された大規模テクノロジー展示会「LEAP 2026」の様子を紹介する。
「サウジ・ビジョン2030」の下で進むAI産業の育成
サウジアラビアでは、ビジョン2030の下、石油依存型経済からイノベーション主導型デジタル経済への転換が進められている。その中で、AIは経済競争力の強化や経済多角化を支える重要な技術として位置付けられている。サウジデータ・AI庁(SDAIA)によると、ビジョン2030の96の目標のうち66が、データまたはAIに直接または間接的に関連している。
こうした方針の下、サウジアラビアはAIの研究開発や導入促進に加え、それを支えるデータセンターやデータ基盤の整備にも取り組んでいる。サウジアラビア国営通信(SPA)
は2026年8月12日、世界銀行の「世界開発報告書2026
」において、サウジアラビアが民間AI投資で世界上位10カ国の1つに入ったと報じた。
また、同報告書は、AIの発展にはデータセンターや通信網などのデジタルインフラ、データ、人材、制度などから成るエコシステムの形成が重要であると指摘している。SPAによると、サウジアラビアは税制優遇措置や経済特区を活用してデータセンター投資を誘致し、人材、スタートアップ、エネルギー、インフラを組み合わせたAIエコシステムの形成を進めている。
さらに、サウジアラビアは安定したエネルギー供給や広大な土地、欧州・アジア・アフリカを結ぶ地理的優位性を強みとして、AIやデータセンター分野への投資誘致を進めている。米国のオラクルやグーグルクラウド、中国のアリババクラウドなどの大手クラウド事業者もサウジアラビアでサービスを展開しており、中東地域におけるAI・データセンターの拠点として存在感を高めつつある。
こうした取り組みは、デジタルインフラや人材の面でも成果として表れている(表1参照)。
| 分野 | 指標 | 内容 |
|---|---|---|
| データセンター | 容量 | 68メガワット(MW・2021年)→467MW(2026年第1四半期) |
| 通信環境 | 4G・5G人口カバー率(注) | 99%(2025年末) |
| 平均インターネット速度 | 216Mbps | |
| 人材 | 技術系人材数 | 42万6,000人 |
| ICT分野女性比率 | 35% | |
| デジタル経済 | GDP寄与率 | 16% |
| ICT市場規模 | 1,990億リヤル(2025年)(約8兆5,570億円、1リヤル=約43円) |
注:通信サービスの提供が可能な範囲を示す指標。100%に近づくほど、より多くの人口が通信サービスにアクセスできる。
出所:SPAを基にジェトロ作成
また、前述の世銀報告書はサウジアラビアをAI人材の流入先としても高く評価しており、2025年にはAI人材の純流入数(リンクトイン会員1万人当たり)がルクセンブルクやオーストラリア、スイスなどと並ぶ高水準であった。 AI分野の研究者やイノベーターを引き付ける市場としての存在感も高まっているという。
さらに、政府によるデータ活用基盤の整備も進む。SDAIAが運営するデータ連携基盤は60を超える政府機関のデータを接続しており、各機関がデータを保有したまま連携できる仕組みとなっている。
このようにサウジアラビアでは、AI関連投資の拡大に加え、人材、データ、デジタルインフラを含むエコシステム形成が進められている。
AI・データセンター政策を支える政府機関
こうした取り組みを推進する上で、サウジアラビアでは複数の政府機関が役割を分担している。主な機関として、通信情報技術省(MCIT)、SDAIA、通信・宇宙技術委員会(CST)が挙げられる(表2参照)。
| 機関 | 主な役割 | AI・データセンターとの関係 |
|---|---|---|
|
通信情報技術省 (MCIT) |
|
デジタルインフラ整備の主管官庁。AI、クラウド、データセンター分野の産業振興を担う。 |
|
サウジデータ・AI庁 (SDAIA) |
|
|
|
通信・宇宙技術委員会 (CST) |
通信、クラウド、デジタル技術分野の監督、規制 | 通信事業者やクラウドサービス、データセンター事業者に関する制度整備を担当。 |
出所:MCIT、SDAIA、CSTを基にジェトロ作成
MCITは、AIやクラウド、データセンターを含むデジタル産業の育成や投資誘致を担っている。2021年には、2030年までにデータセンターおよび再生可能エネルギー分野へ180億ドル超の投資誘致とデータセンター容量1,300MW超の確保を目指す計画を発表しており、サウジアラビアを地域のデジタルハブとして発展させる方針を示している。
一方、SDAIAはデータAI国家戦略(NSDAI)(注1)の推進主体として、データガバナンスやAI活用、人材育成を主導している。2021年には個人情報保護法(PDPL)を公布し、2023年には改正を実施したほか、国家AIセンター(NCAI)、国家データ管理局(NDMO)、国家情報センター(NIC)を通じてAI・データ関連政策を推進している。
また、CSTは通信、クラウド、データセンター分野の規制・監督を担う。データセンター市場の成長を受けて、2024年に「データセンターサービス規制(Data Center Services Regulations)」を施行した。同規制ではデータセンター事業者に対し、登録や接続性、セキュリティー、運用管理などに関する要件を定めており、投資環境の整備と市場の健全な発展を後押ししている。
このように、サウジアラビアではMCITが産業政策や投資促進、SDAIAがAI・データ戦略、CSTが通信・クラウド・データセンター分野の制度整備をそれぞれ担っている。
AIエコシステムの形成を担う主要プレイヤー
政府主導でAIやデジタルインフラに関する制度整備が進む一方、近年はAI開発やデータセンター投資を担う企業やプロジェクトの存在感も高まっている。中でも、サウジアラビア政府系ファンドの公共投資基金(PIF)傘下のヒューメイン(HUMAIN)、通信大手STC傘下のcenter3、未来都市NEOMとデータセンター開発・運営会社データボルト(Data Volt)による大型プロジェクトは、サウジアラビアのAI・データセンター産業の発展を支える主要な企業・プロジェクトとして注目されている(表3参照)。
| 企業・プロジェクト | 概要 |
|---|---|
| ヒューメイン(HUMAIN) | PIF傘下のAI関連企業。高度なAI技術やインフラの開発・運営を通じて、デジタル経済における新たな機会創出を目指す。 |
| center3 | 通信大手STCグループ傘下。データセンターや海底ケーブル、接続サービスなどのデジタルインフラ事業を展開。 |
| NEOM × データボルト | 未来都市NEOMとデータセンター開発・運営会社データボルトによる大型インフラプロジェクト。 |
出所:HUMAIN、Center3、NEOM、Data Volt、SPAを基にジェトロ作成
HUMAINは、サウジアラビアのAI戦略を実装面から支える中核的な企業だ。AIモデルやAIサービスの開発に加え、それらを支えるデータセンターなどのAI基盤の整備にも取り組んでいる。高度なAI技術およびインフラの開発・運営を通じてデジタル経済の発展を目指している。米国のエヌビディア(NVIDIA)、マイクロソフト、AMD、クアルコム(Qualcomm)、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)、グーグルクラウド、Groqなど世界の主要テクノロジー企業との提携を進め、中でもNVIDIAとの戦略的パートナーシップは象徴的な取り組みであり、同社の最先端GPUを活用したAIファクトリーの整備計画を進めている。さらに、SDAIAと連携し、アラビア語大規模言語モデル「ALLaM」の開発にも取り組んでいる。
一方、center3はAIやクラウドサービスを支える商用データセンター基盤の整備を進めている。同社はAIやクラウド需要の拡大を見据え、データセンター事業を急速に拡大している。既に30億ドルを投資しているほか、2025年8月には2030年までにさらに100億ドルを投じる計画を発表した。中間目標として2027年までに300MWの設備容量確保を目指しており、最終的には2030年までにデータセンター容量を1,000MWへ拡大する計画である。サウジアラビアやバーレーンなどで高密度・ハイパースケーラー(注2)対応のデータセンター開発を進めており、AIやクラウドサービス向けの基盤整備を加速している。
また、NEOMとデータボルトが進める産業都市オキサゴン(OXAGON)でのプロジェクトは、大規模AIデータセンターの整備を通じて同国のAI・データセンター戦略を支える大型案件の1つだ。両者は2025年2月、OXAGONにおいて地域初となるネットゼロのAIデータセンター(AI Factory)の開発で合意した。第1段階として50億ドルが投資され、2028年までの稼働が予定されている。2026年8月には、HUMAINとDataVoltが同プロジェクトの建設開始を発表した。
同プロジェクトの総電力容量は1,500MW規模とされており、生成AIの普及に伴い増加する計算需要への対応を見据えている。NEOMによると、OXAGONは紅海沿岸に位置し、海底ケーブルによる通信接続に加え、再生可能エネルギーやグリーン水素の活用が可能であることから、大規模なAIデータセンターの立地先として適しているという。
このように、サウジアラビアではAIモデルの開発や活用だけでなく、それを支えるデータセンターやデジタルインフラへの投資も並行して進められており、政策立案や制度整備と合わせて、AI技術とデジタルインフラを一体的に育成している。
AI・データセンターハブを目指すサウジアラビア
サウジアラビアでは、人材、データ、デジタルインフラを一体的に整備し、AI・データセンターハブとしての地位確立を目指している。
後編では、2026年8月末からリヤドで開催された展示会「LEAP 2026」を通じて企業や投資の動向を紹介する。
- 注1:
-
石油依存脱却を目指し、AI分野で先駆的な立場を築くことを目標とした国家戦略(サウジアラビア政府資料参照
(414KB))。6つの目標と5つの優先分野を設定している。 - 注2:
-
大規模なクラウドコンピューティングサービスなどを提供するため、膨大な計算資源やインフラを保有する事業者。アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)、マイクロソフト、グーグルなどが該当する。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・リヤド事務所
加藤 皓人(かとう あきと) - 2021年新卒でみずほ銀行に入行。2024年経験者採用でジェトロ入構。調査部中東アフリカ課(中東地域の調査・情報提供を担当)を経て、2026年7月から現職。








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