高度外国人材と創出する日本企業のイノベーティブな未来人材不足対応から成長の担い手へ、高度外国人材と地方
島根の事例からみる(6)

2026年9月7日

「島根の事例からみる」連載で、島根県における高度外国人材の活用事例4社を通じて確認されたのは、企業が当初は人材不足への対応として高度外国人材を採用していた一方、その専門性や国際性を生かす中で、新たな事業展開や組織変革につなげていたという点だ。本稿ではまとめとして、これまでの分析と事例から浮かび上がった特徴や課題を整理する。

出発点としての人材不足

4つの事例からあらためて確認されたのは、島根県においては、人材不足、とりわけ特定の専門性を持つ人材や特定の役割を担える人材の不足をきっかけとして、外国人材が求められるケースが多いという点だ。中でも、エンジニア、設計や施工管理といった技術職の採用難が顕在化している。日本人の大卒レベルの人材の確保が、企業規模を問わず困難になる中、高度外国人材の採用に活路を見いだす動きもみられる。また、林産業(連載3本目「出雲に新風、インド人女性社員の挑戦」参照)やしまね有機ファーム(連載5本目「中山間地域から有機産品を世界へ」参照)の事例に代表されるように、海外展開・海外進出に向け、語学力や国際対応力を有する人材の必要性が高まっており、その役割を高度外国人材に求めるケースも少数ながら徐々に見られ始めている。このように、高度外国人材が持つ専門性をうまく取り込みながら会社の成長につなげる動きが出ている。

「人材起点」で事業を広げる活用モデル、問われる構想力

一方で、高度外国人材が活躍している企業においては、採用時に期待していた特定の役割や従来の職務定義にとらわれず、その能力を生かそうとする姿勢がみられる。経営者が「獲得した外国人材の能力、経験、バックグラウンドをいかにして最大限生かすか」という視点を持ち、採用後の役割を柔軟に設計している点も特徴的だ(もちろん、法令順守の観点で、本人の学歴・職歴などにより裏付けられる専門性と職務内容との関連性を維持し、在留資格に応じた活動範囲を逸脱しないことが重要だ)。むしろ、「人材起点」で役割を再構築し、結果として新たな事業展開を生み出しているといえる。

その最たる例が、山陰設備工業(連載2本目「空調設備会社、人材起点でのベトナム進出」参照)による海外進出だ。インタビューで明らかになったとおり、ベトナム進出については、高度外国人材というよりも技能実習生の帰国後の活躍の場を確保することが進出検討のきっかけとなっている。一方、同社は今後、ベトナム以外の国・地域への進出も視野に入れている。もっとも、次の進出先をあらかじめ明確に定めているわけではない。専門性や経営マインドといった国籍以外の観点を軸に採用活動を行い、その中で機会があれば、人材のバックグラウンドを生かして出身国・地域へのビジネス展開を担ってもらうというスタンスだ。

林産業の事例も興味深い。当初は「フィリピン進出に向けた人材獲得」という動機があった一方で、結果として採用したインド人材の人脈や当事者としての発信力を生かすべく、会社として新たに「さらなるインド人材の獲得」という目標を設定し、その実現に向けた業務を同人に担ってもらっている。

すなわち、単に採用によって不足していた役割を埋めるのではなく、採用した人材をいかに生かすかという視点から新たな役割を創り出すことが、高度外国人材の活躍を促す要因の一つであることがうかがえる。

地方ならではの人材マッチングのポイント

2027年4月より育成就労制度(注1)が開始される。新制度では、分野ごとに定められている1~2年の転籍制限期間を経過し、技能や日本語能力など一定の要件を満たした場合、本人の意向による転籍が可能になる。これを受け、外国人材の地方から都市部への流出リスクが取り沙汰されることが多い。日本経済新聞(注2)の分析によると、技能実習から特定技能へ移行する際の他地域への流出率を都道府県ごとに比較すると、島根県は2番目に高い55.6%となっている。このような報道などを背景に、島根県においては、「外国人材=定着しない」というイメージを持ち、外国人材全般の採用に関して消極的な経営者の声も聞かれた。

しかし、前述の流出率の分析対象は主として技能実習・特定技能人材であり、高度外国人材の動向を直接示したものではない。一方、高度外国人材については、「外国人材は定着しない」という見方が必ずしも当てはまるとはいえないことが、今回取り上げた事例などからうかがえる。

賃金面や娯楽環境の多さ、同郷者の多さなどの観点では、島根のような地方は都市部と比較して劣位にあるが、日本人と同様に、全ての外国人材がこれらの条件を重視するわけではない。高度外国人材であっても母国の家族に仕送りなどをしている事例はある一方で、今回の事例やヒアリングでは、必ずしも賃金だけを重視するのではなく、職務内容、成長環境、生活環境、ワークライフバランスなどを含めて総合的に判断しているケースが多くみられた。中には豊かな自然や人とのつながり、治安の良さといった地方ならではの環境に魅力を感じる例もある。また、他国と比較して、地方であってもインフラのレベルが高いことを評価する声が聞かれることも多い。地方の企業においては、まずは先入観をなくし、地方での暮らし・仕事に魅力を感じてもらえる人材を採用段階で見極めることが重要といえる。

地域コミュニティーとの接続が定着を左右する

ここまで、高度外国人材の活力を生かす上で、個々の企業が持つべき考え方を中心に見てきたが、企業だけの努力には限界があることもまた事実だ。そこで必要となるのが、地域全体で外国人材を受け入れる環境づくりという観点だ。前述したような地方の環境に魅力を感じてもらえる人材であっても、地域の中で孤立してしまえば、心理的安全性は高まらず、定着にはつながらない。高度外国人材の定着を促す上では、外国人材を一住民としてとらえ、地域コミュニティーと適切に接続することが重要となる。特に、外国人居住者密度の低い地方では、地域の日本人コミュニティーと接続づくりも重要だ。山陰設備工業によるベトナム人社員の地域の清掃活動への参加の取り組みは、地域の日本人住民と同社のベトナム人材との距離を縮めた好事例だ。

さらに、行政も参画している先進的な取り組みとして、出雲市と東京外国語大学の連携事例を紹介する。両者は2024年12月に、文化、教育、国際交流、地域活性化などの分野において相互に協力・連携を行うべく包括的連携協定を締結した。この協定の下、高い外国語運用能力と異文化理解力を持つ同大学の若手研究者が出雲市の現場に入り、地域の声に耳を傾けながら、日本人住民と外国人住民の協創を進める活動を行っている。例えば、担い手不足の問題を抱える地域の祭りに、外国にルーツを持つ住民らが関わる機会を創出する取り組みは象徴的な取り組みの一つだ。この取り組みの火付け役の1人であり、同地で東欧のIT人材の紹介事業を行うピープルクラウド(People Cloud、本社:島根県出雲市)の牧野寛氏は「外国人と日本人の距離を縮め、本当の意味での多文化共生社会を作っていくためには、実プロジェクトとして一緒に何かを作り上げる経験をすることが一番の近道だ。これができれば、日本の地方社会は、都市部と比較しても、外国人住民を受け入れるポテンシャルは十分にある」と語る。始まったばかりのこの取り組みが、今後出雲においてどのような展開をみせるのか。また、出雲での実証モデルが他地域にどのように波及していくのか。今後の展開に期待したい。


山陰地域で開催されたハッカソン「Hack Yakumo」(2025年8月6日付ビジネス短信参照)にて、日本人と外国人の
エンジニアが共同作業をする様子。こうしたイベントも協創機会を生み出す取り組みの1つ(ジェトロ撮影)

地域インフラとしての日本語教育

最後に、高度外国人材の地方における定着を目指す上で、最も重要な要素の1つである日本語教育の在り方について考える。日本語能力は、日々の業務遂行のみならず、資格取得や地域コミュニティーへの接続にも直結する要素であり、高度外国人材の活躍を支える基盤ともいえる。序章(連載1本目「データで読み解く高度外国人材の雇用状況」参照)でも見たように、島根県のような地方では、技人国の人材の中には、元留学生のみでなく、海外の大学を卒業して日本で就職しているケースも相対的に多くみられる傾向にあるため、来日前に一定程度の日本語教育を受けていたとしても、採用時点では日本語能力に不安があるケースも多い。これまで見てきた事例においても、会社側で日本語研修のプログラムを用意したり、各外国人社員が自助努力でOJTやアプリ学習などを通じて日本語力の向上に取り組んだりしているものの、まだ課題が山積している状況だ。

そこで必要となるのが、日本語学習を「企業努力」や「外国人材自身の努力」に任せるのみならず、「地域インフラ」として日本語教育の環境を整備することだ。具体的には、日本語教育施設の充実、企業横断型の日本語教育体制の構築、既存の大学・日本語学校との連携、日本語教育への公的助成など、多層的な支援が必要となる。

島根県においても、しまね国際センターが企業向けに日本語研修のプログラムを提供するなど精力的に活動しているが、増え続ける需要に対応するため、さらなる環境整備が求められる。 ここまで見てきたように、島根のような地方において高度外国人材の活躍を進める上では、活用設計を含めた企業による努力に加え、地域コミュニティーとの接続や地域インフラとしての日本語教育環境の整備も進めていく必要がある。また、そのためには行政も重要な役割を担う。このテーマを扱う上では、雇用、多文化共生、産業振興といったさまざまな要素が複雑に絡み合うが、行政においてはそれらを担当するセクションが別々になっていることが通例だ。今後は、これらのセクションが横断的に連携しながら課題に取り組むことが求められる。

そして、高度外国人材を、地域企業の成長と地域社会の発展の双方を支える存在と位置付け、企業と行政が一体となって取り組みを進めていくことが、今後の持続的な発展を左右するだろう。


注1:
育成就労制度とは、外国人材を日本で受け入れ、3年間の就労を通じて育成し、将来的に特定技能1号への移行を目指す制度。人材育成と人材確保の両方を目的としている。従来の技能実習よりも転籍(職場変更)が認められやすくなり、一定の条件を満たせば本人意向による転籍が可能となる。本人意向による転籍には、転籍制限期間の経過に加え、技能・日本語能力や転籍先機関などに関する要件がある。 本文に戻る
注2:
日本経済新聞「技能実習後 大都市へ流出」(2026年4月19日付)。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ企画部企画課
薄木 裕也(うすき ゆうや)
2020年、ジェトロ入構。市場開拓・展示事業部海外市場開拓課、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)を経て、2023年から約3年間ジェトロ島根で勤務。2026年7月から現職。

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