高度外国人材と創出する日本企業のイノベーティブな未来独自制度で挑戦やキャリアアップを後押し(東京都・オンデーズ)
2025年4月21日
株式会社オンデーズ(本社:東京都品川区)は、メガネ・サングラスの製造販売を手掛ける大手メガネチェーンだ。設立は1989年に遡る。
2008年に、田中修治氏(現取締役会長)が代表取締役社長に就任。この時期は経営難で、社長を先頭に再建を進めた。現時点では、国内に271店舗、海外12カ国・地域(シンガポール、香港、台湾、オーストラリア、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、インドネシア、カンボジア、インド、アラブ首長国連邦)で240店舗を展開している。
同社人事部で高度外国人材採用を担当する陳秋霞(ちんしゅうか)氏に、話を聞いた(取材日:2025年1月22日)。陳氏自身、高度外国人材だ。中国出身で、日本留学を経て入社した。



- 質問:
- 高度外国人材採用のきっかけは。
- 答え:
- 2013年ごろから、代表取締役社長だった田中氏の提案により、高度外国人材の本格的な採用に取り組み始めた。シンガポール進出が決まり、海外との接点が多くなった時期で、外国人材採用に目が向いた。また、ちょうど国内店舗でもインバウンド需要が高まり、多言語対応可能な外国人材を求めていた。
- その後、入社した外国人材の働きぶりを見ると、店舗運営や社内IT事業など様々な場面で活躍している。このことから、募集の範囲を店舗販売職に限らず、IT、国内営業、経営企画、海外事業などに拡大して外国人材の採用を進めている。
- 質問:
- 現在の高度外国人材の雇用状況は。
- 答え:
- 1,200人の従業員のうち、1割程度が高度外国人材になっている。その出身国・地域は、中国、台湾、韓国、ベトナム、タイ、ネパール、モンゴル、イタリア、フランス、スイス、ロシア、チュニジアで、多様なバックグラウンドを持っている。近年に限ると、200人程度の新入社員のうち、20~30人程度が外国人だ。
- 質問:
- 高度外国人材の採用方法は。
- 答え:
-
外国人雇用サービスセンター
(注1)とのネットワークを作り、同センター主催の面接会などで採用している。そのほか、大学や国ごとの留学生コミュニティーにアプローチすることもある。外国人材は、相互のつながりが強いためだ。
- 採用を始めた当初は、大学内のどの部署に留学生採用の窓口があるのかを見つけるだけでも大変だった。しかし、一度採用実績ができると、その後の採用活動がしやすくなった。また、当社について採用した外国人材が自身のSNSで自主的に、当社について発信することで、その友人や後輩などの応募につながることもある。
- 2024年からはジェトロの伴走型支援事業を利用。合同企業説明会にも参加している。
- 質問:
- 高度外国人材に対する社内サポートは。
- 答え:
- 在留資格取得をサポートするほか、住居の手配時に会社が保証人になるなど、外国人材ならではのニーズを押さえた支援を心がけている。
- 外国人材に特化した制度ではないが、能力次第でキャリアアップをかなえられる「立候補制度」や、社内仮想通貨「STAPA」、キャリアカウンセラーとの面談など、会社へのエンゲージメント(注2)向上に向け、独自に取り組んでいる(表参照)。
取り組み | 内容 | 外国人材への効果や実績 |
---|---|---|
立候補制度 |
社内人事の完全透明化を目指して2010年に設立した。 立候補者は、希望ポストに対して自分がどう貢献できるかを発表する。投票により経営層が認めると、そのポストに異動・昇進できる。 |
社員を公平に扱い、能力次第でキャリアアップをかなえられるため、モチベーションアップにつながる。 実際、本制度を通じて、これまで10~15人程度の外国人材が店長に昇格した。また、複数店舗を管理するスーパーバイザー(全国で合計7人程度)にも、外国人材2人が昇格済み。 |
社内仮想通貨「STAPA」 |
無遅刻・無欠勤や在職期間によって定期的にポイント付与。社内で他の人の仕事を手伝った際などにも付与する。 貯まったポイントは、社長との会食、家電・家具、有給休暇などに交換可能。 |
ポイント獲得に向け、モチベーションが高まり仕事に取り組むことができる。 たまったポイントを休暇に交換し、母国へ帰る際の長期休暇などに使用することもできる。 |
社内キャリアカウンセラー | 自身の悩みを専門のキャリアカウンセラーに相談できる。 | 自身の強みを生かしたキャリア形成について相談可能。必要に応じて、英語や中国語でも対応。 |
出所:インタビューを基にジェトロ作成
- 質問:
- どのように業務内容を設定しているか。
- 答え:
- 店舗での販売職には、等級ごとにジョブディスクリプション(注3)を細かく設定している。次の等級に上がるために必要なスキルが明確になり、社員のやる気向上につながっている。
- 本社での業務などについては、会社の方向性や業績などを反映してジョブディスクリプションを都度修正しながら進めている。
- 質問:
- 今後の高度外国人材の採用や定着に関する課題は何か。
- 答え:
- 現在、自己評価と管理職の評価のずれをどう埋めるかが課題になっている。そうしたずれを埋められず、キャリアアップがかなわなかったため退職に至るケースがある。フィードバック方法などの改善を図っていきたい。
- 当社はN1(注4)相当程度の日本語力と人柄を基準に採用している。日本語レベルが高い人材の採用は、年々難しくなってきた。そのため、選考時点では日本語レベルの基準を下げ、内定後または入社後に当社が求める日本語レベルまで引き上げる社内研修を導入することも検討している。
- 質問:
- 高度外国人材が社内に与えた変化は。
- 答え:
- 外国人材の活躍ぶりは、ほかの日本人社員の刺激になっている。例えば、ある日本人社員は淡々と業務をするタイプで、それほど昇進に意欲的ではなかった。しかし、同じ店舗に勤務する中国出身の同僚から刺激を受け、自ら立候補制度を利用。その結果、店長、そしてスーパーバイザーまで昇進した。
- また、増加するインバウンドの対応に、外国人材の提案が役立つケースが多い。例えば、これまで使っていた店舗スタッフの名札について、「漢字表記では分かりにくい。ひらがな表記に変更し、対応可能な言語を国旗で示してはどうか」という提案が外国人材からあり、同提案を採用した。ほかにも、店舗のPOPデザインや多言語表記について外国人材の提案をもとに作成した事例がある。
- 質問:
- 社内の外国人材に期待することは。
- 答え:
- ダイバーシティの観点から、外国人材ならではの視点でぜひ会社に新しい提案をどんどんしてもらいたい。また、日本人同様にキャリアアップすること、将来的には管理職になることを目指してもらいたい。
海外からの直接採用を自ら提案し、実施
陳氏自身も、高度外国人材だ。日本語学校への留学を機に来日。日本の大学を卒業後、別の民間企業を経てオンデーズに入社した。日本では努力すれば必ず報われると感じ、働きたいと考えたと話す。友人の紹介で2014年に経験者採用で入社し、販売職を3カ月程度担当した。その後、外国人採用をさらに強化したいという当時の社長の意向で、日本での就活を経験した社員として声が掛かり、人事部に異動した。
- 質問:
- 入社後に感じた会社の印象は。
- 答え:
- 社長との距離が近いと感じる。自分から提案することができ、提案の根拠や会社にとってのメリットが経営層に伝わると、受け入れてもらえる環境だ。裁量が大きく、やりがいを感じている。
- 質問:
- 具体的に自身で提案して進めた業務の例は。
- 答え:
- 「外国人材採用を増やす」という使命を受け、人数や採用要件・手法などを全て自分で考え、実行した。
- また、国内留学生だけの採用では限界があると感じ、自分から経営層に海外現地から直接採用することを提案。2015年から、海外での採用活動を開始した。現在は、中国、韓国、台湾、ベトナムから直接採用している。
- 質問:
- 自身のキャリアパスを踏まえ、目下どのような課題に取り組んでいるのか。
- 答え:
- 当社では、インド親会社(注5)とのやりとりを円滑化していく必要が生じている。同業務に対応する人材確保の目的もあり、新たなチャレンジとして、財務や経営企画など複数部門で経験者採用をスタートした。これまで経験してきた新卒採用とは、手法や求めるスキルが異なる。うまく軌道に乗せていきたい。
- 注1:
- 外国人雇用サービスセンターは、厚労省管轄の団体。日本での就労を希望する外国人留学生や専門的・技術的分野の外国人労働者を対象に、就職などを支援する。いわば高度外国人に特化したハローワーク。東京、名古屋、大阪、福岡に拠点がある。
- 注2:
- 企業と従業員の間の関係性の強さ。
- 注3:
- 職務内容や、必要なスキルを定めた書面。
- 注4:
- 日本語能力試験1級。最高の水準で、ネイティブレベル。
- 注5:
-
同社は2022年6月、レンズカート(インド最大のアイウェア企業)と経営統合を発表した(同社プレスリリース参照
)。

- 執筆者紹介
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ジェトロ知的資産部高度外国人材課
斉藤 美沙季(さいとう みさき) - 2018年、ジェトロ入構。対日投資部地域連携課、ジェトロ岩手を経て、2023年10月から現職。