高度外国人材と創出する日本企業のイノベーティブな未来ひたむきな採用活動で優秀人材獲得へ
インド高度人材の活躍事例(3)

2024年6月26日

世界的に注目が集まるインド人エンジニアを獲得するには、どのような採用アプローチを取ればよいのだろうか。

医療機器部品や航空機部品などの精密切削加工を手掛ける金子製作所(埼玉県さいたま市、注)では、既に2人の高度外国人材(ベトナム、スリランカ出身)を雇用。2025年には、3人のインド高度人材が入社する予定だ。その採用に当たっては、現地で開催されたジョブフェアに参加。その際には、1回の出展で100件以上の応募を受けている。インド人材からこれほどの熱視線を浴びる同社に、採用アプローチの留意点などについて聞いた(取締役副社長の秋山朋子氏と経営企画部の桜舞子氏に、2024年4月8日取材)。


左から2人目が取締役副社長の秋山朋子氏、4人目が経営企画部の桜舞子氏(金子製作所提供)

他社事例を積極的に情報収集

質問:
金子製作所の事業内容は。
答え:
1956年に創業し、内視鏡用先端部品や人工心肺装置部品といった医療機器部品や、ジェットエンジンなど航空機部品の精密切削加工を行っている。
現在では、総従業員数120人のうち、ベトナムとスリランカ出身の計2人の高度人材が働いている。加えて2025年には、3人のインド人エンジニアの入社が決まっている。
質問:
高度外国人材採用のきっかけは。
答え:
日本国内での労働人口減少を背景に、国外から人材を採用しなければならないという危機感があった。そこで新型コロナウイルス禍の中、2021年にジェトロの高度外国人材のオンライン合同説明会に参加し、2人の高度外国人材を採用した。
インド人材を採用したいと考え始めたのは、愛知県の高砂電気工業の事例(2024年3月19日付地域・分析レポート参照)を耳にしたことがきっかけだ。タイミングよく、インドで開催されるジョブフェアに応募できたこともあり、すぐさま高砂電気工業未来創造カンパニーの平谷治之代表取締役社長にアドバイスを請うため、愛知県へ赴いた。そこで、実際に活躍されているインド人エンジニアの姿を目の当たりにし、インド高度人材の可能性を実感、採用活動を本格化させた。
質問:
満を持して参加したジョブフェアはどうだったか。
答え:
初めてブース出展したのは、インド南部のチェンナイ市で開催されたジョブフェアだった。高砂電気工業で活躍するインド人材(前述)も、同市の名門アンナ大学の卒業生だった。そうしたことから、同校の卒業生をメインターゲットに採用活動を進めた。このブース出展では、計100件以上の履歴書応募を受けた。「日本で就職したい」という意欲の高いインド人材が多かったのが印象的だ。時間も限られていたため、1人5分という制限時間のもとで面接を行い、アンナ大学とその系列大学から合計3人の採用に成功した。

ジョブフェアでの会社説明(金子製作所提供)
質問:
採用に至った人材の特徴は。
答え:
南インドの人々は、北インドの人々などと比べて素朴で、日本人の気質に合う性格を持つ人が多いと聞く。そのことを知り、当初デリー開催のジョブフェアに出展予定だったが、急遽(きょ)チェンナイ開催への出展に変更した。精密切削加工に従事するには「辛抱強く努力する素質」が必要と考えているため、素直で優秀な人材を採用した。
なお、新規採用3人のうち2人はもともと友人関係にあった。異国の地でキャリアをスタートするには、心理的ハードルが大きいはず。2人同時に採用したのは、それを下げるための工夫だ。

採用・受け入れに向け「とことん」取り組む姿勢を

質問:
インド人エンジニアの入社に向け、社内でどのように受け入れ態勢を構築する予定か。
答え:
これまでにも、高度外国人材の採用実績はあった。しかし、日本語が全く話せない人材を採用するのは、今回が初。現場では日本人生産技術者とコミュニケーションを取る頻度も高いことから、言語面で不安が残っていた。そのため、日本語にたけた外国人材の雇用も併せて予定しており、インド人エンジニアと日本人社員のコミュニケーションボンディング促進の役割を担ってもらおうと考えている。
また、異国で過ごす上では、衣食住について不安を抱く可能性が高い。そのため、住居などのサポートは会社が一手に引き受けることにしている。他方、給与水準や家賃補助など福利厚生については、特段の高水準には設定はしていない。日本人社員と同等程度で受け入れる予定だ。
質問:
日本企業がインド人材を積極採用していくに当たっては、どのような姿勢が重要か。
答え:
人材採用をテーマに日本の行政機関が主催するセミナーに登壇する機会があった。寄せられた質問で多かったのは、「そこまでしなければいけないのか」と採用にかかる手間を惜しむ声だった。
しかし世界的に人材獲得競争が激化する中、企業や採用担当者が自分たちの足を動かし、汗をかきながら情報を取りにいかない限り、優秀な人材を獲得は不可能だ。「聞かない」「知らない」ではなく、能動的かつ積極的に採用活動に「とことん」取り組む姿勢が多くの日本企業に求められていると思う。
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
深津 佑野(ふかつ ゆうの)
2022年、ジェトロ入構。海外調査部海外調査企画課を経て、2023年8月から現職。

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