高度外国人材と創出する日本企業のイノベーティブな未来多彩な高度外国人材とAIカメラの未来を切り開く(北海道・AWL)
2024年12月11日
AWL(アウル)(本社:北海道札幌市・東京都千代田区)は、小売店舗の課題解決、付加価値創出を実現するためのAI(人工知能)カメラソリューションを開発、提供しているスタートアップ企業だ。AWLの強みは、小売店舗に設置される既存の防犯カメラなどを利用して、AIによる来店者の分析や購買分析、欠品アラートなどの機能を低価格で提供できることだ。北海道のドラッグストアチェーン「サツドラ
」との提携により、実店舗での実証実験を繰り返し行っている。全社員約60人のうち、半分が外国籍のメンバー。約20カ国から集まる多国籍なメンバーで、その多くが開発を担うエンジニア人材だ。既に高度外国人材が幹部としても活躍し、高度外国人材のアイディアから、新たなサービスの開発につながった経験も持つ。これまでの取り組みや今後の展望について土田美那最高人事責任者兼上席執行役員に、同社での働き方についてイザル・アルミザン・ワホノ・プロダクト・マネージャーに話を聞いた(インタビュー日:2024年10月17日)。

インターンシップを活用し、社風にマッチする人材に出会う
「地方において差し迫る人材不足を感じた。思ったような人材を確保できない。これが、当社が高度外国人材を採用する最初のきっかけとなった」と土田氏は振り返る。海外在住経験のある土田氏は、米国におけるIT分野でのインド人材の活躍を想起し、特に確保が困難なエンジニア職における高度外国人材の採用を提案した。そして、国際協力機構(JICA)が運営する「イノベーティブ・アジア」(表参照)というプログラムで、海外からのインターン生を受け入れることを始めた。同プログラムに着目した理由は、「AWLが採用を希望する情報系の学科で学ぶ留学生を受け入れることができるから」だという。その後、同プログラムを通じた学生の受け入れを続けつつ、2018年夏からは自社でも高度外国人材を中心とした夏季インターンシップを開始した。インターンシップでは、社風にマッチする人材と出会うことを目的とする。2024年には、経済産業省が主催する「グローバルサウス IT / AIエンジニアインターンシップ事業」の学生も受け入れている。
IT系に強みを持つインド人材の採用を見据え、北海道大学の教授による紹介で2020年からインド工科大学ボンベイ校と共同研究を開始。新型コロナ禍においては、ビルやエレベーターにおいて混雑を避けるためにAIカメラを活用する共同研究も行った。共同研究をきっかけに、同大学の卒業生を複数人採用、現在も勤務している。
2022年には、ジェトロの「高度人材活躍推進コーディネーターによる伴走型支援サービス」にも登録。インド南部のハイデラバードでインド工科大学ハイデラバード校とジェトロが共催した就職説明会「Japan Career Day (ジャパン・キャリア・デー)」にも登壇した(2024年9月3日付ビジネス短信参照)。
制度 | 内容 | 企業への主な支援 |
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JICAイノベーティブアジア (JICAウェブサイト参照) ![]() |
対象分野は、イノベーション環境への貢献が期待される「情報技術、IT、人工知能等の科学技術分野及び工学分野」と、これに関連する分野(理系分野)であり、学部卒業見込みの者または既卒者に対し、修士課程や博士課程への進学機会を提供している。また、本事業は民間人材、産業人材の育成を狙いとしているため、日本でのインターンシップを必須とする。使用言語は英語。 | 留学生に対する日当・給与・謝金は不要。留学生は、JICAによる奨学金を受領。 |
グローバルサウス IT / AIエンジニアインターンシップ事業 (経済産業省ウェブサイト参照) ![]() |
グローバルサウス IT / AIエンジニアインターンシップ事業は日本企業のIT人材獲得先の多様化や事業競争力向上を目的とした「海外IT人材発掘プログラム」。グローバルサウス諸国のIT・AI関連分野を学ぶ学生を対象としたコーディング・コンテスト、日本企業でのインターンシップを通じて海外IT人材の発掘、及び受け入れの拡大を推進する。 | インターンシップ実施時、インターンシップ候補者の招聘(しょうへい)書類を発行するとともに、対象者の宿泊、往復航空券、海外旅行保険などの手配および必要な経費の支出を事務局が支援。 |
ジェトロ高度人材活躍推進コーディネーターによる伴走型支援サービス (ジェトロウェブサイト参照) |
初めて高度外国人材の採用を目指す企業から、高度外国人材にもっと活躍してもらいたいと考えている企業まで、企業のニーズや目的に合わせて高度外国人材活躍推進コーディネーターが的確できめ細かいアドバイス供与や有益なイベント参加支援、高度外国人材にかかわる様々な情報の提供を行う。 | コーディネーターによる伴奏型支援。行政書士や弁護士、キャリアコンサルタントなどの専門家によるコンサルテーションサービスの利用。合同企業説明会、企業交流会への参加。 |
出所:各機関ウェブサイト(リンク先)
高度外国人材がひらめいた新たなサービス
「高度外国人材はAWLの文化になっている」と土田氏は言う。高度外国人材のアイディアが、社会の要望に応える新たなサービスとして実現した例もある。例えば、新型コロナ禍で新たに開発したのが、AIカメラを使用してマスクの着用有無や、人と人の距離、混雑状況を測るサービスだ。AIカメラ解析サービスは、これまで集客・販売促進を主な目的として活用されているものだったが、感染症対策に使用できるのではないか、というアイディアを高度外国人材が提案した。その提案を受け入れ、社内でハッカソン(注)を実施。自社の技術を応用し、新型コロナ流行対策という当時のニーズに応えることができた。「新型コロナ感染症の拡大により、社内の雰囲気が悲観的になっていた中、外国籍のメンバーたちは自分たちの技術で感染症の拡大を食い止め、不安を解消するために何ができるかを前向きに考え、挑戦した。これにより、AIカメラによる混雑回避やマスクの有無の分析が、新型コロナ対策ソリューションとして注目された。その後、このソリューションはリテールメディアのコア技術となり、今では当社が全国展開する主力事業に発展した」と土田氏は振り返る。高度外国人材と働く中で、こういうことは日常的に起こるという。例えばインド工科大学は、グループワークが多い教育スタイルで、卒業生のメンバーはディスカッションなどに積極的で、社内全体にポジティブで生産的な雰囲気を生み出してくれるという。
インターナショナルな環境で自分の力を発揮して働く高度外国人材
今回、インドネシア・ジャカルタ出身の社員であるイザル氏に同社での働き方について話を聞いた。イザル氏は、前述のJICAのイノベーティブアジアプログラムを通じ、日本で修士号を取得し、6カ月の同社のインターンシップを経て入社した1人だ。イザル氏は同社で働くことの魅力として、(1)勤務時間の柔軟性、(2)インターナショナルな環境、(3)一緒に働くメンバーが魅力的であること、を挙げる。AWLに入社した時は、アシスタントマネージャーとして同社製品を活用したプロジェクトの運営を担当していたが、今はプロジェクト・マネージャーとして活躍する。顧客が使用する製品の設計に関わることを誇りに思い、社内で評価され、チームを任されることに充実感を感じている。また、インターナショナルな環境で自身の力を発揮して働くことにも満足感を感じている。

AWLの強みは高度外国人材の働きがいにもなっている
高度外国人材の正社員の採用を初めて9年目。マネージャーへの登用も行っている。同社の強みは、「低価格でソリューションを提供しつつ、日本のお客様が店舗でAIカメラを使用する際にAIのカスタマイズ、メンテナンスが日本で一貫してできるということ」だという。高度外国人材にとっても、実際に店舗で実証し、自身が手を動かして設計に携わったプログラムやデバイスのカスタマイズ、メンテナンスまで関われるという環境は、他社にあまりなく、魅力的だ。

研究開発強化のため、2018年12月にベトナム・ハノイに100%子会社となる研究開発拠点を設立。海外拠点メンバーも、自国での技術実証や新たなプロジェクトへの意欲が高い。
人材不足というピンチを高度外国人材とともに働くことでチャンスに変え、日本人を含めたグローバルな社員のアイディアで企業として自社の魅力を高める。同社は高度外国人材とつくるチームで、店舗の未来を切り開くAIカメラソリューションを提供していく。
- 注:
- ハッカソンとは、主にIT業界などで使われる用語。ソフトウェア開発者やプログラマーなどが集まり、短期間で集中的に特定のテーマの開発(ITの場合はアプリケーションやシステムの開発)を行うこと。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部国際経済課
板谷 幸歩(いただに ゆきほ) - 民間企業などを経て、2023年4月ジェトロ入構。