高度外国人材と創出する日本企業のイノベーティブな未来外国人エンジニアの活躍
京都府・ルティリアの取り組み(後編)
2024年9月27日
前編では、AIスタートアップのルティリアの人事担当である松軒希氏に同社の外国人採用のきっかけや定着に向けた工夫について話を聞いた(本特集「京都府・ルティリアの取り組み(前編)高度人材獲得・活躍の工夫」参照)。後編では、同社で活躍するエンジニアのオウィット・ロジャー・アロ氏(ケニア出身)、ヤスミン・アワド氏(イタリア出身)にルティリアでの業務内容ややりがいについて聞いた(インタビュー実施日:2024年6月19日)。
- 質問:
- これまでの経歴と現在の業務内容は。
- 答え:
- (アロ氏)ナイロビ大学を卒業後、ケニア国内企業での数年間の勤務を経て、国際協力機構(JICA)のABEイニシアティブ(注1)で来日した。名古屋工業大学で工学の修士課程を修了し、2023年8月にルティリアに入社した。現在は、生成人工知能(AI)関連の開発業務に従事している。
- (アワド氏)ミラノ工科大学と同志社大学院とのダブルディグリープログラムに参加し、最後の2年間を京都で過ごし情報工学の修士号を取得。ジェトロが2023年12月に実施した「Jetro Global Career Connect」(英語でのオンライン合同企業説明会)に参加した際に、ルティリアを知り応募した。内定後、2024年1月からは同社でアルバイトとして勤務し、同5月に、正社員として正式に入社した。現在は、自然言語処理(NLP、注2)に特化したAIソリューションの開発業務に従事している。
- 質問:
- なぜ日本へ留学し、ルティリアヘの入社を決めたのか。
- 答え:
- (アロ氏)母国ケニアで、幼いころから日本製のコンピュータや電化製品が身近にあった。日本製品に興味を持ったことがきっかけで日本に留学した。留学中に日本での就労が自分の成長につながるのではないかと感じ、大学院修了後も日本での就職を希望した。自身の専門分野であるコンピュータ工学やAI関連の企業を探していたところ、インターネット検索で同社を見つけた。ケニアでもスタートアップでの勤務経験があり、将来的に自分で起業することも視野に入れていたこともあり、スタートアップ企業である同社に魅力を感じ、入社を決めた。
- (アワド氏)高校生のころに日本のポップカルチャーに触れ、いつか日本に行きたいと思い、日本語も独学で勉強していた。日本の大学とのダブルディグリープログラムを知り、日本に留学することを選択した。日本に住んでみて、街がきれいなことや、時間通りに物事が進むことに住みやすさを感じた。大学院修了後も引き続き日本で働きたいと思っており、自分の専門性を生かせる分野で企業を探した。就職活動を行う中で、同社のグローバルで活気のある雰囲気が気に入った。また、リモートワークやフレックス勤務などの柔軟な働き方ができることや、服装や頭髪などの規定が特になく、自由に働ける点も良いと思った。
- 質問:
- 実際の勤務スタイルは。
- 答え:
- (アロ氏)最低でも3人のチームで活動し、プロジェクトの節目では、メンバーで集まってブレーンストーミングをしてアイデアを出し合っている。チームワークと個人での作業の両方がある。
- (アワド氏)ルティリア入社前は、日本企業は長時間労働でストレスフルなイメージも少しあった。ルティリアでは業務量も適切で、ルールが厳しすぎることもなく、自由にのびのびと働くことができている。
- 質問:
- 自身のキャリアで重視している点は何か。
- 答え:
- (アロ氏)自分で責任と裁量を持って仕事をすることを重視している。自分からどんどん意見を出し、より良いプロダクトを作っていきたい。AI業界は技術革新のスピードがとても速く、常に学び続けることが重要だと思っている。自身が開発したプロダクトが顧客の業務改善につながり感謝された時や、社会的に役に立ったと実感できた時に、モチベーションが高まるのを感じる。
- (アワド氏)柔軟な働き方ができ、自分が学びたい分野の業務ができるかどうかを重視している。スピード感が重要なAI業界では、常に最新情報を自ら取りに行く姿勢が求められている。そのため、一般的な集合型の研修よりも、実際のプロジェクトを通じて学ぶルティリアのスタイルの方が自分に合っていると思う。
- 質問:
- 社内外でのコミュニケーションはどうか。
- 答え:
- (アロ氏) 英語と日本語の両方を使って会話している。日本語が分からない時は、バイリンガルの上司が訳してくれるので問題なく業務ができている。社外とのコミュニケーションでも、言語は障害にはなっていない。日本語は日常会話レベルであるが、顧客を訪問し、客先のエンジニアと直接話すこともある。良いプロダクトを作り、顧客に満足いただける結果を出していれば、顧客側も「このプロダクトを開発したエンジニアとぜひ話がしたい」と好意的に迎えてくれる。
- 質問:
- 京都での暮らしはどうか。
- 答え:
- (アロ氏)地元の方もすごく気さくで、鴨川や近くの山に行くのが楽しい。友達もたくさんできた。
- (アワド氏)自然が好きなので、田植えや家のDIYの手伝いをするなど充実した時間を過ごしている。京都の街中で、「火の用心」と言って拍子木の音が聞こえるのだが、自分もいつか経験してみたい。
- 質問:
- 円安の影響で、海外から見た日本で働く魅力が下がっているという意見もあるが、どう思うか。
- 答え:
- (アロ氏)私たち自身は、日本に暮らしていることもあり、円安自体の影響はあまり感じていない。AI業界についていえば、日本政府も積極的な投資を行っており、研究開発における規制も少ないので、エンジニアにとって非常に良い環境だと思う。また、政府のみならず、多くの日本企業がAIの導入に積極的であるので、実際の導入事例を通じて生きたスキルを学ぶのに最適だと思う。
- 質問:
- 今後の目標は。
- 答え:
- (アロ氏)AIスキルを磨いていき、将来的には母国ケニアの発展に貢献できる事業を行いたい。
- (アワド氏)まだ入社して間もないので、もっと経験を積み、学び続けたい。将来の計画は今後考えていきたい。
今回インタビューを行った2人からは取材時に、「学び続けたい」という言葉が何度も出てきた。技術革新のスピードの速いAI業界において、顧客と相対しながら自らの技術も磨くことのできる同社でのやりがいは大きいようだ。同社のエンジニアは半分以上が外国人材であり、常に成長意欲を持って学び続ける2人のような外国人材の存在は、同社の成長の一翼を担っていることは間違いないだろう。また、前編の松軒氏のインタビューにもあるように、英語で就労可能、リモートワークやフレックス制度を整備するなど、外国人にとっても働きやすい環境を整えることは、優秀な外国人材を引き付ける重要な要素になりそうだ。
- 注1:
- ABEイニシアティブとは、アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(African Business Education Initiative for Youth)の略称。アフリカの産業人材育成と、日本とアフリカをつなぐ人材育成を目的として、アフリカの若者を日本に招き、日本の大学での修士号取得と日本企業などでのインターンシップの機会を提供する。2014年より受入れを開始した。詳細は、アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ (JICA)参照。
- 注2:
- 自然言語処理(NLP)とは、人間が普段コミュニケーションに用いる言葉(自然言語)をコンピュータで処理・分析する技術のこと。Natural Language Processing(NLP)ともいわれる。
京都府・ルティリアの取り組み
- 高度人材獲得・活躍の工夫
- 外国人エンジニアの活躍
- 執筆者紹介
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ジェトロ知的資産部高度外国人材課
斉藤 美沙季(さいとう みさき) - 2018年、ジェトロ入構。対日投資部地域連携課、ジェトロ岩手を経て、2022年10月から現職。