高度外国人材と創出する日本企業のイノベーティブな未来経営企画室長として後輩社員の目標に(大阪・中央電機計器製作所)

2025年6月10日

中央電機計器製作所外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(本社:大阪府大阪市)は、創業90年以上の歴史を有する、計測・制御システムを手掛けるメーカーだ。ハードウェアとソフトウェアの両面で対応できること、機械装置の一貫した開発・設計・製作ができることが強み。打ち抜き加工品全般、刃型、フィルムなどの寸法を自動測定する装置、工場装置の遠隔監視・制御システムや、AI(人工知能)画像認識技術を使った外観検査システム、航空機の着陸脚の落下試験機など、多岐にわたる製品を提供する。同社が高度外国人材を採用し始めた当初、高度外国人材は輸出・海外進出事業を担当する想定であったが、現在では海外事業のみならず、幅広い業務に従事している。人材定着の取り組みや今後の計画について、畑野淳一代表取締役に聞いた。また、2009年入社の中国出身の田彬経営企画室長兼総務部課長に、同社に入社した経緯、高度外国人材の採用や社内での活躍、取り組みについて話を聞いた(インタビュー日:2025年1月7日)。

高度外国人材の業務は海外事業に限らず、適性に合わせて

先代社長で現会長の畑野吉雄氏の「国籍などにかかわらず多様な人材を雇用する」方針の下、同社では15年以上前から高度外国人材が活躍してきた。現在は、7人の高度外国人材が勤務している。経営企画室長を務める田氏は中国出身。そのほか、ミャンマーや香港出身の社員もいる。理系専攻の人材や、ものづくりに興味がある人材を採用している。高度外国人材の採用は、新卒者を対象に開始した。当初は、中国市場の開拓や中国で生産をする上で現地企業とスムーズに意思疎通を行える外国人材が必要だった。しかし、田氏をはじめとする優秀な外国人材が幅広い分野で活躍する中、社員の個々の適性、能力、意欲に合わせて人材を雇用し、各部署へ配置していくかたちに徐々に変化していった。50人規模の同社では、現在では外国籍社員の比率は1割に上る。日本人社員と区別はなく、おのおのの適性に合わせて仕事をする。

田氏は、同社に就職したきっかけとして、合同企業説明会で出会った同社の印象を指摘した。合同企業説明会の会場にはたくさんの企業がブースを構えており、多くの学生はまず大企業のブースを訪れた。しかし、「畑野会長(当時社長)の人を引き付ける明るい人柄もあり、中央電機計器製作所のブースには、次から次へと参加者が集まってきた」という。同社のブースを訪れる100人以上の学生に対し、「畑野会長が真摯(しんし)に向き合い、丁寧に話をしていたのが印象的であった」と同社との出会いを語る。畑野会長の「多様性と社員との対話を大切にする」従来からの方針が、現在の高度外国人材の定着と活躍につながった。

管理職として後輩社員が目指す存在になる

田氏は、同社の中国ビジネスで自分の力を発揮したいと思い、同社に入社した。同社では海外業務だけでなく、経営企画や総務などを経験し、管理部門の業務にも適性があることに気付いた。現在では担当業務の9割近くは、海外に関係のない仕事である。一方で、外国人材の採用に関しては、現在でも海外出身だということが役立っているという。合同企業説明会などで高度外国人材を採用する際、管理職として活躍する田氏が自身の経験も踏まえて対応することができる。外国人材が実際に管理職として活躍しているというロールモデルを、新たに採用する人材に対して示すことができることは、高度外国人材の採用にも貢献している。

畑野社長によれば、田氏が現在担当する業務は「日本人でも扱うのが難しいテーマ」だという。具体的には、万博バーチャル大阪ヘルスケアパビリオン出展関連、補助金申請業務、BCP(災害時の事業継続計画)の策定、内閣府の「国土強靭化貢献団体」認証(レジリエンス認証)などが該当する。複雑な書類や制度が絡む業務を田氏が経営企画室長として取り仕切る。田氏のこのような姿を見て、高度外国人材を含む後輩社員も、自身の強みを伸ばす当社でのキャリアパスを具体的にイメージすることができる。


左から畑野社長、経営企画室長の田氏、同部署の峯氏(ジェトロ撮影)

元社員がタイで起業し、現地市場を開拓

営業担当として働いたタイ籍社員は、数年前に退職したが、バンコクで起業し、同社代理店として協業している。同社は、バンコクでビジネスを始めて長いが、なかなか現地の商習慣になじめず、タイ人のコミュニティに入っていけないという課題を抱えていた。現在では、元社員が立ち上げた企業が、同社製品の販売、設置、メンテナンスを行う正規代理店となった。同代理店の従業員は同社で研修を受け、検査員資格を得ている。当初は同社の既存製品を中心に販売する予定で起業し、積極的に現地展開を進めていたが、タイの現地企業との商談を通じて、現地ニーズに応じた機能提案も行うようになった。さらに最近では、他社製品の二次代理店としての展開も視野に入れ、事業の幅を広げている。このように、元社員は日本での営業経験を生かし、タイで同社製品の販売に貢献している。社員としてタイ事業を担うというかたちではなかったが、元々、畑野社長が望んでいたことが実現したという。高度外国人材の採用にあたっては、キャリアの考え方の違いなどから「早期に退職してしまうのではないか」と心配する声をよく耳にする。しかし、商品を十分に理解し、意欲や行動力がある人材であれば、本事例のように出身国での協業という結果につながることもある。

部署横断の委員会で社員のアイディアをかたちにする

同社では、社内のコミュニケーションが従来から活発に行われている。複数の委員会が存在し、所属部署に関係なくそれぞれのテーマについて検討する。委員会は基本的に1年単位で活動を実施し、例年4月に委員長を含むメンバーが変わる。1つの委員会につき、様々な部門から性別・国籍・年齢問わず約4~6人のメンバーが選出され、そのメンバーで協力して運営を行う。たとえば、2024年度の広報委員会では、香港出身の社員が委員長を務めた。委員会の活動などを通じて、自分の担当部署の業務だけでなく、関心や適性のある複数の企画に携わることができることが外国人材にも喜ばれているという。こうした活動を通じて「フレッシュなアイディアをそれぞれの業務に生かす風土がある」と畑野社長は語る。例えば、委員会の企画により外国語の講座を開設した。週1回の英会話講座では、英語が堪能なミャンマー出身の社員が講師を務め、海外出張時に使えるフレーズを学ぶ。外国籍社員が入社する前は、日本人社員の海外出張に対する抵抗感が強かった、と畑野社長は感じていた。しかし、日々、外国籍社員と接することや外国語教室などで、タイ、ベトナム、中国などへの出張に対する抵抗感が少なくなった。「外国人材を受け入れるまではそれぞれの国に一方的なイメージを持っていた。実際に外国人材に会うことでイメージが変わる。アジアの中の日本なのだという位置づけでビジネスを考えることができる」と、畑野社長は社内の変化を形容する。

「社員のモチベーション向上につながる評価」を行う新しい人事評価制度を導入

同社では、姿勢や工夫などの定性的な評価だけでなく、数値化できる定量的な評価のバランスを考慮した新たな人事評価制度を導入した。目標設定時から評価時期までの間、定期的に上司と部下が一対一のミーティングを重ねながら合意形成を行い、部下の成長を促すとともに、意欲を引き出す仕組みとなっている。小規模で風通しの良い職場だからこそ、評価にメリハリを持たせ、明確な基準に基づく評価と対話を重視した運用を徹底している。今後さらに、ジョブディスクリプションを整備した上で人材を募集する取り組みを進めている。採用時のミスマッチを防ぎ、また社員にとっても自分のキャリアプランを立てやすくする狙いがある。こうした取り組みにより、外国人材を含む社員一人ひとりが適切に評価され、モチベーションの向上にもつながっている。

このように、同社では高度外国人材が会社の経営を担う管理職として活躍し、それが新たな外国人材の採用につながっている。高度外国人材は、個々の適性を十分に考慮された業務を行い、公正に評価されている。長い歴史を持つ同社は、現在、高度外国人材とともに社内体制を常に改善・刷新していくことで、国内外でのビジネスで良い循環を生みだしている。

執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
板谷 幸歩(いただに ゆきほ)
民間企業などを経て、2023年4月ジェトロ入構。

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