高度外国人材と創出する日本企業のイノベーティブな未来大家族主義で外国人材に多様な活躍の場を提供
福岡県・アスカコーポレーション

2025年1月23日

アスカコーポレーション外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(本社:福岡県直方市)は、半導体ウエハーの最終工程であるめっき処理で50年以上の実績を持つ専業メーカーだ。従業員130人のうち、5人の高度外国人材が在籍し、めっき処理設備のシステム開発で活躍している。高度外国人材が活躍する背景に、同社のどのような取り組みがあるのか。アスカコーポレーション創夢部(注1)の大串理絵部長、安永真徳係長に加え、タイ出身の創夢部システム課に所属するブアコム・パトムポーン氏(以下、アート氏)、タヌーソン・ウィチュダー氏(以下、ビー氏)、パンヤーカム・ナッシャー氏(以下、タンクワ氏)へのインタビューを行った(取材日:2024年11月1日)。


左からアート氏、ビー氏、タンクワ氏(ジェトロ撮影)

アスカコーポレーション、外国人材採用の沿革

同社が所在する福岡県直方市は、製造業が盛んな北九州市に隣接する。当初は地元の工業高校から理系人材を採用していたが、国内の人口減少によるめっき処理のオペレーター人材の不足に対して課題を感じていたこともあり、2013年から外国人技能実習生を受け入れ始めた。高度外国人材採用のきっかけは、2021年の北九州市からの紹介だった。

外国人材採用の実績により、受け入れノウハウも蓄積され、同時に、地元の工業高校からの採用に限界を感じ、2023年度から、ジェトロの外国人材活躍支援パッケージ支援(注2)に申し込む運びとなった。現在は従業員130人のうち、特定技能(注3)が1人、高度外国人材が5人(注4)在籍している。そのうち、埼玉大学の大学院を卒業したパキスタン出身の高度外国人材は、ジェトロが主催する、高度外国人材と企業採用担当者をつなぐオンライン合同説明会で出会い、採用につながった。2024年も同オンライン合同企業説明会に参加。約20人からのエントリーがあり、現在、選考中だ。同社は通勤手当、住宅手当、家族手当、健康診断手当などの福利厚生も手厚く、手当の支給を通じて外国籍社員の日本での暮らしをサポートしている。

社員の声を吸い上げ、迅速に業務体系に反映する大家族主義

北九州市からの依頼を受けたことをきっかけに、2022年、タイのパンヤピワット経営大学(PIM)から、同社として初めてとなるインターンシップ生を3人受け入れた。PIMは、タイ最大の民間企業グループであるチャロン・ポカパン(CP)グループ傘下のCP ALLが経営する、同国最大級の企業系大学だ。北九州市は、市内製造業やIT企業などへの高度外国人材獲得支援や、タイでのビジネス展開支援を目的として、2018年からPIMから地域企業への長期インターンシップ受け入れを支援している(資料「タイ・パンヤピワット経営大学と連携した長期インターンシップ事業PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(646KB)」参照)(注5)。

アスカコーポレーションのインターンシップの受け入れ時は新型コロナ禍だったため、3人は日本に入国できず、学生と企業のマッチングのための面談からインターンシップまで、すべてオンラインで実施した。インターンシップ生は3カ月間、日本語で半導体やめっき工程などを網羅的に学び、学習成果報告をおこなった(表参照)。修了試験で優れた結果を残し、同社での継続的な就業への意向を示したため、そのまま採用する流れになった。

表:オンラインインターンシップの概要

  • 期間:2022年2月1日~4月28日
  • 頻度:毎週月曜、火曜、木曜、金曜の午前10時00分~10時30分(30分/回)、計47回
  • プログラム:
    課題  内容 
    (1)めっき・半導体の基礎  自己紹介、会社紹介 
    めっきの基礎、製品用途 
    無電解ニッケルめっき、亜鉛めっき 
    パワー半導体 
    単位 
    (1)のテストおよびフォロー 
    (2)めっき工程  薬品、液管理、分析作業 
    ライン工程 
    ウエハーの加工、金属加工 
    めっき前処理 
    業務効率化の方法とコツ 
    結晶 
    (2)のテストおよびフォロー 
    (3)まとめ  修了テスト 
    成果発表プレゼンテーション 
    タイのめっき加工の市場動向についてのレポート提出 

    出所:アスカコーポレーション提供資料からジェトロ作成

同社は、家族のことを思うように社員を思う「大家族主義」を掲げ、その理念が浸透している。外国籍社員を含む全社員に対して、メンター制度や定期的な面談を取り入れており、外国籍社員に対する週2~3日の日本語教育を行っている。メンター制度の取り組みにより、離職率が大きく減少したという。タイ出身の高度外国人材3人の採用決定後は、ジェトロのサポートも受けながら、受け入れ体制を整備した(図参照)。特に、在留資格申請やビザ申請の前段階におこなう、在日タイ大使館での認証取得についてジェトロに事前に教えてもらったことで、ビザの取得がスムーズに進んだという。住宅の契約や直方市の日本語教室探しなど、環境・生活面を含めて、同社が多角的にサポートしている。

図:高度外国人材受け入れ準備の流れとジェトロの支援
2022年5月、ジェトロのコーディネータによる支援開始。雇用理由書など必要書類作成。在東京タイ王国大使館での認証後、出入国在留管理局に在留資格申請。在タイ日本大使館にビザ申請と居住地の確保後、2022年10月に入国し、同年11月に入社。

出所:アスカコーポレーション提供資料からジェトロ作成

3人のタイ出身の高度外国人材は、入社直後はめっき加工のオペレーション業務を担っていた。しかし、大串部長は定期的な面談の中で、担当業務で日々の会話が少ないため、日本語能力が上達せず、彼らがコミュニケーションに課題を感じていることを知った。そこで、ちょうど人員を募集しており、日常的にコミュニケーションをとりながら業務を行う、現在のシステム開発業務を担当する部署にすぐに配属を変更した。日本人の社員が手取り足取り、仕事について日本語で丁寧に教えているため、外国籍社員の日本語能力が一気に上達したという。社員の日々の悩みや課題に柔軟に対応する同社の体制は、外国籍社員の心理的安全性の確保につながっている。


創夢部システム課の様子(ジェトロ撮影)

様々な方面で外国籍社員の活躍を期待

AI(人工知能)やビッグデータの活用で半導体需要が高まるなか、同社もインダストリー4.0(第4次産業革命)を見据えたデジタルトランスフォーメーション(DX)や生産性の向上が求められ、2025年にめっき加工処理の自動機を導入する予定だ。しかし、都市部ではない地方の製造工場でのIT人材不足は深刻化しており、新規の採用や育成は困難な状況だった。そこで、タイ人社員3人がシステム開発部門に異動し、めっき加工処理の自動化に使用する装置のプログラミングに関わる新規プロジェクトを担当している。3人とも、大学では自動車工学を専攻していたため、プログラミングは未経験だった。しかし、業務を習得する速度が非常に早く、高度なプログラミングにも意欲的に挑戦している。例えば、タンクワ氏は1カ月弱でめっきの膜厚測定のデータの転記を自動化するシステムを構築した。彼女らの活躍は、周りの日本人社員の刺激にもつながっているという。

また大串部長は、複雑な半導体のめっき技術を顧客に英語で説明できる社員がいないため、3人にはシステム開発の業務だけではなく、ゆくゆくは海外の顧客に販売する際の営業も担ってほしいと考えている。また、「新しい外国籍社員が入社したときに指導役として後輩を育成できるようになる循環ができるのが理想」と大串部長は語る。高度外国人材への期待は高く、今後も優秀な外国人材を積極的に採用し、将来的には社内のリーダー格に昇格してほしいと考えている。大串部長は「高度外国人材に会社に残ってほしいという気持ちはありながらも、本人たちの人生計画があるので、日本に縛ることはできない。会社のためにというよりも、自分たちの成長のために仕事に取り組んでほしい」と語る。社員の意思を尊重する「大家族主義」が浸透しており、その働きやすい環境が外国籍社員の定着につながっているのだろう。

高い向上心を持つ外国籍社員

今回、同社で働く、2022年に入社したタイ出身の高度外国人材3人にもインタビューした。3人とも、北九州市のインターンシッププログラムを通して同社に入社した。採用が決まってからのサポートについても、「ビザが発行されるまで、毎週オンラインミーティングを実施してくれた。入社して1年間は毎月メンターとの面談があり、仕事のみならずプライベートの悩みも相談でき、サポートが手厚いと感じた」とビー氏は語った。また、3人とも現在の仕事やキャリアアップに対して前向きな姿勢を示していた。システム開発業務のプログラミングの仕事は楽しく、もっと経験を積みたい、と意欲を見せる。3人は日本人の感覚にはない視点で、業務改善にあたることも期待されている。

同社が掲げる「大家族主義」。創夢部の大串部長や、実際に働いている外国籍社員へのインタビューを通じて、受け入れ体制や社内環境など様々な面に同社の大切にする思いが浸透しており、外国籍社員に多様な活躍の場を提供していることを感じた。


注1:
総務部の当て字。
注2:
ジェトロ高度外国人材課が行う、採用戦略から育成定着までを支援するパッケージ事業
注3:
日本で就労するための在留資格は大きく分けて、技能実習生、特定技能1号、技術・人文知識・国際業務の3種類が存在する。その中でも、ジェトロが支援しているのは高度外国人材(技術・人文知識・国際業務)である。
注4:
タイ国籍3人、マレーシア国籍1人、パキスタン国籍1人。
注5:
北九州市によると、2023年度までの6年間に17社の地域企業に計39人のインターンシップ生が受け入れられ、そのうち28人(2024年就職予定の5人を除く)が就職した(2024年4月時点)。
執筆者紹介
ジェトロ知的資産部高度外国人材課
吉武 果実(よしたけ かじつ)
2024年、ジェトロ入構。高度外国人材課で主に海外プロモーション事業を担当。
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
馬場 安里紗(ばば ありさ)
2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課/途上国ビジネス開発課、ビジネス展開・人材支援部新興国ビジネス開発課、海外調査部中東アフリカ課、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2024年10月から現職。

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