高度外国人材と創出する日本企業のイノベーティブな未来高度人材獲得・活躍の工夫
京都府・ルティリアの取り組み(前編)

2024年9月26日

RUTILEA(ルティリア、本社:京都府京都市)は、「AIを簡単に。」をミッションに、全ての業務プロセスに人工知能(AI)が導入された社会の実現を目指すスタートアップ企業である。正社員49人のうち、エンジニアの半数が外国人だ。20代で活躍する社員・アルバイトも多く、若さがあふれる職場だ。

2018年創業の同社は、2024年8月までにシリーズDラウンドでのエクイティファイナンスおよびデットファイナンス(注1)に向けた手続きを完了し、まさに事業拡大段階にある。外国人材や若者が活躍するAIスタートアップの成長の秘訣(ひけつ)を、人事担当の松軒希氏、エンジニアのオウィット・ロジャー・アロ氏(ケニア出身)、ヤスミン・アワド氏(イタリア出身)に聞いた(インタビュー実施日:2024年6月19日)。前編となる本レポートでは、松軒氏のインタビューを紹介する。後編では、同社でエンジニアとして活躍するアロ氏とアワド氏のインタビューを紹介する。


左からアワド氏、松軒氏、アロ氏(ジェトロ撮影)
質問:
ルティリアの事業内容は。
答え:
私たちは、自社のGPUクラウド(注2)を活用し、最先端のAIモデルの研究開発を進めることで、お客様に最適なAIソリューションを提供している。『AIを簡単に。』をミッションに、「すべての業務プロセスにAIが導入された社会の実現を目指す」というビジョンのもと、これまで製造業をはじめ、多岐にわたる業界へAIソリューションを提供してきた。また、2024年9月には福島県にGPUデータセンターも設置し、AI開発プラットフォームとGPUクラウドの提供を通じて、最適なAIモデルの選定から、開発環境の提供・運用まで、包括的にサポートするサービスも持っている。
質問:
外国人材の採用を始めた理由は。
答え:
社長の矢野貴文自身も、大学の研究室では外国人留学生が多くいる環境で研究しており、外国人材採用への抵抗感は全くなかった。当初から国籍に関係なく、優秀な人材を採用するというスタンスであった。創業時は、企業規模がまだ小さいこともあり、知人の紹介で細々と採用活動をしていた。2022年ごろから事業が軌道に乗り始め、外国人材も含め本格的な採用活動を開始した。外国人材の採用では、ジェトロの外国人材活躍支援パッケージを利用し、合同企業説明会などのイベントに参加している。世界的にAI人材の需要が高まっており、各国の企業で取り合いになっている。ルティリアでは、リモートワークやフレックス勤務制度などを整備し、エンジニアは英語で全ての選考プロセスが完了できるようにするなど、世界中から優秀な人材を引き付けるための柔軟な体制づくりに努めている。
質問:
ルティリアの従業員の構成は。
答え:
2024年6月時点で、正社員のうち、外国人材の割合は約38%を占める。エンジニアに限ると、同割合が約54%と半数を超えるなど、多くの外国人材が活躍している。また、学生を中心としたアルバイトも含めると、従業員全体の約半数が20代となっている。
質問:
採用する人材の要件は。
答え:
AI業界は、日々技術が進歩していくので、自ら進んで学び続ける意欲がある人が向いている。集合型の研修は設けていないので、「1から会社に教えてもらいたい」というスタンスの人は合わない。現在働いている従業員は、入社前から何らかのAIに関連した専門性を身に付けている人が多い。まだ成長途上のスタートアップのため、人手が足りない時などに、自分の専門外の分野の業務に対しても積極的に取り組んでくれる人が向いている。エンジニア採用においては、英語で就労可能なので日本語要件は設定しておらず、希望者には採用プロセスを全て英語で実施している。一方で、技術力を測るテストは行っており、国籍に関係なく能力で採否を判断している。
質問:
外国人材の定着のためにどのような工夫をしているのか。
答え:
社内コミュニケーションには、チームコミュニケーションツールの「Slack」を活用し、日英併記で発信するようにしている。仕事だけでなく、おすすめのレストランなど業務に関係ない話題も投稿でき、会話が生まれるきっかけ作りにしている。エンジニアは、業務外でもAIを使って何かできた際にも(例:「AIにピアノを弾かせてみた」)、Slackで成果を共有している。プロジェクトを超えて皆で教え、学び合う雰囲気が生まれている。また、リモートワークやフレックス勤務制度は外国人材、日本人関係なく利用できる勤務体制として導入している。リモートワークを活用しながら、年末年始などの長期休暇の際に母国に帰る外国人材もいる。また、フレックス勤務制度では、コアタイムを11時~14時とし、都合に合わせて働く時間を調整できる。

Slackでは日・英併記で投稿している(ルティリア提供)
質問:
外国人材の採用により、社内外で生まれた変化はあるか。
答え:
日本人同士のコミュニケーションではあうんの呼吸で伝わることもあり、詳細を省略してしまうことがあった。しかし、外国人材がいることで、どう説明すれば意味が伝わるかを一人ひとりが考えるようになった。その結果、社内全体でコミュニケーションが円滑に進むようになった。また、外国人材からも、積極的に企画提案やプロジェクト管理にチャレンジしたいという申し出があるなど、トライ&エラーで物事を前に進めていく姿勢は、他の社員に良い刺激を与えている。 社外からの評価では、 「優秀なエンジニアを世界中から採用できているアクティブな会社」というイメージを持ってもらえている。
質問:
今後も外国人材の採用を続けるか。
答え:
引き続き、外国人材の採用を毎年行っていきたい。特にエンジニアは転職率が高く、人の入れ替わりはおのずと多くなる。副業も許可しており、自分で起業しながら働いている人もいる。こうした柔軟な雇用環境をアピールすることも優秀な人材を引き付ける上で重要だと考えている。

注1:
エクイティファイナンスとは、企業が新株発行を通じて事業のために資金を調達すること。対して、デットファイナンスとは、金融機関からの借入や社債の発行などを通じて資金調達を行うこと。
注2:
GPUクラウドとは、インターネットを通じてGPU(Graphics Processing Unitの略。膨大な計算処理を行う画像処理装置)を提供する仕組みのこと。

京都府・ルティリアの取り組み

  1. 高度人材獲得・活躍の工夫
  2. 外国人エンジニアの活躍
執筆者紹介
ジェトロ知的資産部高度外国人材課
斉藤 美沙季(さいとう みさき)
2018年、ジェトロ入構。対日投資部地域連携課、ジェトロ岩手を経て、2022年10月から現職。